第百七十一幕 魔専アステリア女学院の七不思議
──“後日”。
「なあティーナ。次の休日連休だろ? 何処か行かねー?」
「どこかってどこ?」
「それを今から話し合うんだよ」
練習試合が終わり、二、三日経過した現在。割と頻繁に行っている会話がされた。
週末はみんなと過ごすか自分の時間を大切にするかの二択。今回は連休というのもあり、ボルカちゃんは遊びに行く気満々だった。
「あら、何を話していますの?」
「知ってる癖に。態々話し掛けるのね」
「何事に置いても出方を窺うというのは大事ですことよ!」
「気が引ける関係でもないでしょうに」
するとそこにルーチェちゃんとウラノちゃんも話し掛けてきた。
どうやら話し掛けるタイミングを見計らっていたとか。普通に入ってきて良いのにねー。
そんなこんなで二人も話し合いに参加。今日は部活動が休みだからのんびりとお話出来るね。
「ま、連休っても長期って程じゃないから遠出はしないけど、近所に遊びに行くくらいで良さそうだ」
「そうだねぇ。近くのお店で買い物したり、公園とかに散歩するのも良さそう」
「運動なら毎日してるじゃありませんの」
「と言うか、別にみんなで行動する必要なんて無いんじゃないかしら」
「「えー、せっかくの休みなのに~」」
「……分かったわよ……」
ウラノちゃんの参加も決定! 何だかんだで付き合ってくれるのが彼女!
「そんじゃ、一先ず流れに身を任せてみるとするか! テキトーにブラブラしてのんびり過ごす休日にしよう!」
「それなら寮で本を読んでいたいのだけれど……」
「いやいやビブリー。外に出て自然に触れてみるのも大事なことだろー?」
「自然になら部活動でしょっちゅう触れてるわよ……はぁ。やれやれね」
その上で到達した結論、それは成り行きに身を任せると言うもの。
実際問題、高頻度で遊んでるから計画を立てて行くと言うのもちょっとマンネリを感じていたところ。なのでいっその事、何も計画せずに遊んだらどうなるかの検証をする事にした。
元々同じ寮で過ごしてるし、みんなと一緒に居るのが好きだから入念な計画を立てる必要も無いんだよねぇ~。
「じゃ、また明日だな。特に考えず過ごすっても、集合時間くらいは決めとくか」
「そうだね。ボルカちゃん!」
「では朝食の後の──」
「それなら大凡──」
集合時間だけを決め、私達は鞄を持って教室の外に出る。
すっかり人も居なくなった頃合い、夕方の放課後ってなんか不思議な感覚がするよね。外からは帰る途中の生徒達の声が聞こえる。でもそれも遠い。
窓から差し込む夕焼けが渡り廊下を柑子色に染め上げ、さながら私達の通り道を照らしているよう。
四人の足音だけが響き、物寂しい感覚に陥らせる。
でも別に寂しくはない。普通にお話しながら進んでいるからね。そこでふとボルカちゃんは思い付いたかのように話す。
「そう言や、知ってるか? レモン達の通う“神妖百鬼天照学園”じゃ“七不思議”って呼ばれる不可解な現象があるんだとさ」
「ななふしぎ?」
「七つの不思議という事ですの?」
「ああ、それならヒノモトで借りた本で読んだ事があるわね。七つの不思議な現象が存在して、それを全て暴いた者には災いが降り掛かるの」
「「災い!?」」
な、なんか物騒な話だね。
七つの不思議があって、それを暴いたら災いに苛まれる。
あくまでレモンさん達の学校の事だけど、放課後の雰囲気も相まってなんかゾワッてする……。
ボルカちゃんは概要を話した。
「流石のビブリー。詳しいな。そうだ。それが七不思議。なんで七つなのか、その意味は色々言われているけど諸説あり。そこで提案なんだけど、もしかしたらこの“魔専アステリア女学院”にも“七不思議”があるんじゃないかって思ったんだ!」
「そ、それってつまり……」
「ふっふっふ。どうだ? 探してみないか? アタシ達で“魔専アステリア女学院”の“七不思議”を!」
「や、やっぱり……」
ボルカちゃんが好奇心で考えそうな事。確かにこの学院にも不思議な事の一つや二つくらいはありそうだけど、わざわざそれをする理由って……あ、多分普通に「面白そう!」くらいの感覚だねこれ。
「へえ。良いじゃない。そんな現象があっても誰かが魔導を使っているようにしか思えないけど、七不思議について調べるのは面白そうね」
「ウ、ウラノちゃん!?」
意外にも乗り気なウラノちゃん。
でも知的好奇心の追求の意味もある読書。それを好んでいる彼女からすれば「調べたい!」ってなるのは必然だった。
「七不思議……ふふ、悪くない響きですわ。もし本当にあるのなら、このシルヴィア家のご令嬢であらせられる私が暴いてご覧に入れて見せましょう!」
「ルーチェちゃんも……なんとなく分かってたけど……」
この三人はみんな知りたがりであり、ボルカちゃんとルーチェちゃんは暇潰しくらいの感覚で捉えているみたい。
これは私も断れない雰囲気。ちょっと怖いけど、仕方無いかな……。
「それじゃ、学院内の散策開始ー! あ、一応もう放課後で校内は誰もいなくなるから残ってる教師には見つからないようになー……」
気合いを入れ、今の状況に気付いて小声で話す。
普通に校則違反だよね……あ、でも文化祭の時は門限越えても居て良かったっけ。まあ状況は違うんだけど。
それに忘れ物を取りに戻る人は居たりするし、事情次第では残って良いのかな……でも今の事情はただ単に好奇心。
ダメだ。自分達の行為を正当化する為に言い訳を考えてみるけど全部常識に打ち消される。当たり前か。
なのにウラノちゃんも乗るのはホントに意外だよ……。
「大丈夫よ。私もつい読書に夢中になって門限以上居座った事もあるし警備の人や残っていた先生に見つかった事が何度かあるけど、何も問題無かったわ」
「そ、そうなんだ……」
多分ボルカちゃんの言葉に返したんだろうけど、私の疑問を払拭する言葉だった。
それが許されてるのはウラノちゃんが成績優秀者だからだよね。でもそうなると、私達四人は学年の上位勢だからまだ許され易いかも……と言うかそうであってくれないと困る。
な、何はともあれ、私達は人の気配が無くなった校内を進み行く。そもそもどこに出掛けるかの話の時点で下校時間はとっくにオーバーしてたね。
「それで、どこへ行きますの? どこが一番不思議な現象が起こりやすいとかありますでしょうか?」
「レモンに聞いた話じゃ、教室、トイレ、音楽室、科学室、魔導室、図工室、校庭、食堂、運動場、渡り廊下に踊り場に魔導実技ルームetc.とまあ各種教室から校内中の至る所らしいぜ」
「それって不思議の数も七つどころじゃないよね……」
「元々七不思議になる話自体が沢山あるものね。その中で自分の通っている学校の物を知ると災いが訪れるってだけよ」
七不思議とは言うけど、校内の構造が違うのは当たり前であり、場所や地域によってそう言われる物の類いは色々あるらしい。
だから今回は“魔専アステリア女学院”の七不思議を見つけるって事だね。
そんな事を話、まずは近くのトイレから探してみる。教室にはずっと居たけど何も無かったもんね~。
あと時間指定とかもあり、ただ探すだけでも大変だとか。
そんなこんなでその場所へ。
──“女子トイレ”。
「一見すれば変わらない場所だな」
「多分何度見ても変わらないと思うよ。何年とか経たなきゃ」
いつも使っている場所。誰もいないし、個室に鍵も掛かってない。
窓の外からは帰宅途中の生徒達が見えるけど、寮が隣にあるから当たり前だよね~。
「此処でする行為は何回かに分けて水を流したり、鏡の前で鏡を持ち出して合わせ鏡をするとか。あと時間が指定されてるのもあるな。その時間帯は──」
「なるほど……だけど時間指定はムリだねぇ。もう今の時間はそれを過ぎてるもん。だから校舎には誰もいないし。やれるのは水を流すのと合わせ鏡くらいかな」
「トイレの位置指定もあったりするのよ。多分これを広めた人は、場所や時間の指定で何かしらの儀式と思わせる事で信憑性を高めていたのね」
「そうなんだー」
細かい手順が多いのは、そうする事で一つの儀式と思わせる為。
何千年も前の魔導師は魔法や魔術を使うのに詠唱をしていたと言うし、それの一貫なのかな。
今は単語による呪文だけが残って魔法や魔術もドンドン簡略化されてるね。
無詠唱でも撃てるけど、魔導自体がイメージからなる物で、口に出す事で鮮明に浮かんで威力が増すのは立証されてるから威力を上げる必要の無い人以外は呪文を言ってるよ。
話を戻そっか。とにかく確かめてみる為、指定場所で水を流したり手鏡で合わせ鏡をしてみたりしたけど……結果的には何も起こらなかった。
「うーん、次だ。次!」
「ここから近いのは科学室ですわね」
特に得られた物は無く、気を取り直して科学室の方へ赴く。
科学とか医療を兼任する場所であり、薬学から回復魔法や魔術の授業もそこで行われるの。
私達は科学室へ入った。
──“科学室”。
ここにある七不思議は、人体模型や魔族・幻獣・魔物の模型が動き出すと言うもの。
でもそれについての答えは既に出ているような気がするよね。スライムとかと同じ原理で、流れてる魔力の気配が無機物に宿り、さながら意思を持つかのように動き出すという事。これを広めた人はたまたまそれを見ただけなんじゃないかな。
「静かで雰囲気はありますわね」
「だなー。けど雰囲気以外は何もないぜ」
薄暗い夕焼けと静かな気配から雰囲気はあるけど、特に何かが起こっている訳じゃない感じ。
当たり前だよね~。魔力が無機物に宿ってスライムとかになると言ったけど、それはそれで危険だから各校ではそうならないようにちゃんと管理されてるもん。
という事で科学室にも何も異常は無かった。
次の近場へ向かう。
──“魔導室”。
「ここにある噂は?」
「今はほとんど使われてない此処だけど、その代わり“魔導実技ルーム”で使う人形や小道具が保管されているんだ。それが動き出す……とまあ科学室と似た感じだ。科学室と違うのは場所が場所だから人形が魔導を使ってくるって事だなー」
次に入ったのは魔導室。だけど最近は使われていないらしく、物置となっているとの事。
それでそんな噂が立っているという事は、割と最近に出来た七不思議なのかな? ヒノモトでは他の地域に比べて魔導は発達しておらず、妖術や仙術、呪術などが主流だから別の場所で生まれた説なのか元々の発祥は別の術だったのか。それは分からない。
取り敢えず現時点で何も起こってないね。
「此処もハズレかぁ~。ま、当たりがあったらそれはそれで問題な気もするけどな」
「アハハ……そうだね」
魔導室にも何も無く、物置内を一通り見てみたけど変化も無かった。
なので私達は次の場所へ──
「「………!」」
「「………!」」
すると、~♪ ~♪とどこからともなく心地好い音楽が聞こえてきた。
校内で音楽が聞こえる場所と言えば一つだけ。私達四人は顔を見合わせる。
「もしかして一つ目の七不思議……!」
「ああ。あるかもな!」
「急にドキドキしてきましたわ……!」
「必ず理由はあると思うけど、確認してみない事には始まらないわね」
そこに行く事は確定。誰も居ない筈の校内で響く音楽。不可思議な現象なら良……くはないけど、もし人が居たとして不審者の可能性があるから確かめてみなくちゃならないよね。
もちろん、危険があるなら私達は手を出さず寮や先生方へ連絡するけど。
休日の予定決めから成り行きで始まった“魔専アステリア女学院”七不思議調査。何かは起こった。




