第百七十幕 謎解きトレジャー
ウラノちゃんの持つ魔導書が自動的にパラパラと開き、エメちゃんはレイピアに魔力を込める。
互いに魔力の気配が強まり、それは一気に解放された。
「物語──“兵隊”」
『『『…………』』』
「はあ!」
ウラノちゃんが兵隊さん達を沢山出し、それらを魔力の込められたレイピアで斬り伏せる。……で、合ってるよね? レイピアって“斬る”より“突く”が主体な気がするけど、エメちゃんは結構普通の刃物のように扱っているもんね。
兵隊さん達は銃を撃ったりこちらもレイピアで攻撃したりするけど、エメちゃんは軽やか且つ鮮やかに打ち倒し、一瞬にしてウラノちゃんの眼前へ迫る。
そんな主人を護るよう、本の鳥達が囲って防御。それごと斬り伏せ、本の群れの中にウラノちゃんの姿は無かった。
「本の位置──“下”」
「……!」
エメちゃんの足元から大きな本が生え、彼女の体を突き上げる。
たまに使っていた魔法の呪文を更に短縮して簡略化したんだ。ウラノちゃんも成長してるね!
舞い上がったエメちゃんの体へ本の鳥達が突進するように迫り、勢いよく衝突。けれど彼女はレイピアで本を突き刺し、それを支えとして空中に跳躍。本の鳥達を足場として踏み越えてウラノちゃんの前へ。
「撃って」
『『『………』』』
「……! まだ兵士が残ってた……!」
タンッ! タタン! と潜んでいた兵士達による一斉射撃。魔力の弾丸で本物よりは劣っているけど、当たったら痛いよね。
その射撃を諸に受けて空中で怯み、ウラノちゃんは魔導書を開く。
「本の位置──“上”」
「……っ。“雷纏”!」
「あら……」
上から巨大な本が落ち、雷魔法を解禁したエメちゃんはそのまま体に纏い、瞬きと共に加速して回避。同時にウラノちゃんを斬り付け、頬に掠り傷が作られた。
「雷の速度そのままかしら。けど、自分でもコントロール出来てないみたい」
「はい……まだまだ絶賛練習中です……!」
勢いそのままレイピアが大樹を貫き、一糸乱れない貫通痕が作り出されていた。
スゴい速度と威力……コントロールが難しいのはそうだねとしか言い様がない。
後輩達も戦闘の手を止め、二人の戦いに釘付けだった。
「こ、これが二年生の実力……」
「たった一年でこれだけの差が……」
「いや、流石にこの二人は元々の実力の問題だと思う……」
「だが、凄まじいのには違いない……!」
確かに二人の実力はスゴい。しかもこれでお互いに手加減している状態。練習試合だからね。
だけど全国レベルを目の当たりにしてる私から見てもかなりの上澄みに居るのは間違いないと思う。剣速や威力の上昇幅から見ても血の滲むような努力の痕跡は見受けられるもん。
後輩達はこれを前にして意気消沈しなきゃ良いけど……。
「フッ、面白い……! 先輩達のようになる。一年もあればそれも可能かもしれない……!」
「去年の試合のデータよりも遥かに高いと見受けられる実力の向上……」
「ウチらにそれが出来ない道理は無いっしょ!」
「分かりやすい目標が目の前にあるもんね!」
私の考えはまた杞憂に終わった。ふふ、杞憂に終わって良かった。
意気消沈や自信喪失するどころか、かえって奮い立つ両チームの後輩達。私達の後輩はみんな、思ったより根性あるのかも!
魔法と魔術の撃ち合い。応酬は更に激化する。
一応本来の目的は謎解きトレジャーについてなんだけど、そんな事は頭が抜け落ちているんじゃないかと思う鬩ぎ合い。
いや、意外とそうじゃないかも。
「“防水瀑布”……!」
「守ってばかりでは勝てないぞ!」
ディーネちゃんが自分に守護壁を張り、向こうの攻撃を防御する。
その間に水魔法からなるロープで集めた物を少しずつ回収していく。
ウラノちゃんとエメちゃんの戦闘によって激化していくステージの中、逃げ回っているようで冷静に立ち回り、攻略への糸口を見つけようとする精神。内気な所があるけど大事なこと。引っ込み思案だからこそやるべき事を判断しているんだ。
私もそんなに社交的な性格じゃないけど、困ったらとにかく魔力をひたすらに放つだけだから冷静な分析力は身に付けないとね。
「“細かく分かれた”……“赤、青、緑。光に反射して輝く八つの物”……ここにそんな色の代物は無くて宝石じゃないならこれは……」
石ころ、アクセサリー、ガラスの破片。
取り敢えずそれらを並べていくディーネちゃん。エメちゃんとウラノちゃんも彼女の行動には気付いているみたい。
思えば頭脳明晰なエルフのハーフ。そして学年一の秀才。私もなんとなく解けてるし、この二人なら謎はとっくに明かしてるよね。
今回は後輩達にダイバースのなんたるかを自分自身で学ばせるのが目的。だから戦闘は止めないし、必要以上のアドバイスもしない。
この二人、中々にスパルタなんだね。
「あれ……このガラスの破片……。……! 八つってもしかしてこの……! ……!?」
謎の真相に迫った瞬間、地面から水が伸び、ディーネちゃんを急襲。集めた物が周囲に飛び散る。
「一見すれば全体への防御……けど、よく見たら地面にまでは到達していない! 下方への防御が疎かだったな!」
「お宝が……!」
「……! いつの間にあれを……! そうか。同じ方法で仲間達から集めてたんだ……! 疎かではなく、敢えて空けていたんだ!」
そう、ディーネちゃんは敢えて大きな隙間を空けていた。一応向こうからは見えない所にあったんだけど、“回収”ではなく“攻撃”として相手が似たやり方を遂行した事で気付かれちゃったみたい。
ディーネちゃんは飛び散った物に手を翳し、向こうも触手のような水で舞った物をかき集める。
結果、大半の物は向こうに。エメちゃんの手には割れたガラスの破片だけが吸い込まれていた。……え? 吸い込まれていた?
比喩や例えじゃない。文字通り、読んで字の如く、破片はディーネちゃんの手に吸い込まれた。
前の停止や今回のこれ。一体彼女の力は……? 超能力とかの類いじゃないのは確か。ちゃんと魔力の気配は感じるけど、どこに魔力が干渉しているのかが分からない。
「粘着性の水か風魔術による吸い込みか……だが、ほとんどの物はこちらの手中に収めた! 残りの物も回収してやろう!」
「残り一欠片はあの中に……! も、貰います!」
「こっちが奪うのだ!」
水が伸び、ディーネちゃんは片手を薙ぎ払う。それによって水は逸れ、全く関係ない方向へと衝突して弾け飛んだ。
相手はややたじろぐ。
「魔力か何かで逸らされたか……!」
「そんなところです……!」
魔術の一つではあると思うから、強ち間違っていないみたい。
気を取られていた瞬間、ディーネちゃんが回り込ませていた水で破片を奪い去る。
「狙いはこれか……! けど、そんな破片で何が……!?」
「これから祭壇に掲げますので……失礼します!」
「……!? か、体が……動かない……! まるで空間その物に固定されたような……!」
空間に固定? ……! もしかしてディーネちゃんの水魔術以外の力って、空間魔法の一種なんじゃ……!?
ルミエル先輩の戦った相手の中にも空間その物を破壊する魔術の使い手が居た。空間魔法・魔術の何れかを使えてもおかしくない。
少なくとも植物魔法よりは稀少な使い手が居たなんて……!
これはあくまで推測。だけどほぼ確信になった。
「──“空間掌握・弾”!」
「……!?」
空間により、相手の体は吹き飛ばされた。
間違いない。空間魔術。それもかなり高レベルなその力……!
空間に干渉して弾き飛ばし、距離を置かせる。今度は足元に魔力を込めていた。
「“水圧加速”!」
水を勢いよく放出し、祭壇のある場所を探す。
ここが森ステージである以上、祭壇がありそうな所は限られている。
わざわざ祭壇を作ってまで、隠す必要は無いもんね。あるとしたら開けた広い場所の中心部!
「見つけた……!」
「させるかァーッ!」
「ひっ!?」
そんなディーネちゃんの後を見様見真似で加速して追い付く向こう。
見ただけで、執念だけでここまでやれるなんて……。エメちゃんの所の後輩達もみんな優秀みたいだね。
相手の手には破片以外の全ての物が。手当たり次第集めて来たんだ。この短時間で……!
二人は水魔導なのにヒートアップし、ウラノちゃんとエメちゃんがお互いに攻撃を放った瞬間に勝敗が決する。
「これで……!」
「終わりだ!」
ドン! と同じタイミングで自分達の持っていた物を置く。それにより、今回の練習試合の勝者が突如として現れた紙に書かれていた。
【勝者“魔専アステリア女学院”。見事に今回のお題、“鏡”を祭壇に掲げました】
「か、鏡!?」
「どういう事ですの!?」
転移の魔道具で戻ってくるや否や、相手の選手とベルちゃんが同じような反応を示す。
詰め寄られたディーネちゃんはたじたじに。
「ご、ごめん……私もたまたま破片を集めたら一枚の鏡になるって気付いただけで……なんでかまでは分からないの……」
「赤、青、緑……鏡がですか!?」
ベルちゃんの疑問は尽きない。
そう、確かにルールには“赤、青、緑。光に反射して輝く物”としか書かれていない。
それにつき、やっぱり答えを早い段階で知っていたウラノちゃんが説明する。
「簡単な事よ。赤、青、緑。それは“三原色”だもの」
「三原色……? それって確か……赤、青“黄色”ではありませんでしたっけ……」
「三原色は三原色でも、光の三原色よ。ちゃんとヒントもあるでしょう? “光に反射して輝く物”ってね。こう言う文章はそのままヒントに繋がり、偽る事はない。ちょっと言い方を変えて謎っぽくしてるだけ。つまり、この文章は盗賊に盗まれた鏡を取り返してくださいって事。道中で落とすか何かして割ってしまった的なストーリーがあるのかもね」
盗まれた物とだけであり、宝石やアクセサリーと言った物の名前はヒントや示唆にすらない。最初から鏡についてだけ話していたんだね。
祭壇は多分お城か何かに見立てた物。細かく分かれ散り散りに。は、割れて粉々になったという事。
ヒントの文章に書かれているのは真実だけなんだ。
「そんな単純な……」
「貴女達中等部一年生でも解ける問題だもの。単純が一番だわ」
「まんまとしてやられた感じー!」
納得し、矛盾点もない。何の問題も無いんだけど、謎を解けなかった事への悔しさからかほんのちょっぴりと荒む後輩達。
ディーネちゃんはそんな感じでもないけどね~。
何はともあれ、エメちゃん達との練習試合。それも私達“魔専アステリア女学院”が勝利を収めた。
しかも今回はちゃんと後輩の子が自分の力で! めでたい事だよ!
二回目の練習試合も終了。残る試合はあと少しだね!




