第百六十九幕 練習試合・その2
──“一週間後”。
また次の休日がやって来た。
今日も練習試合。そろそろ新学期になってから三週間くらい。ディーネちゃん達も中等部に大分慣れてきたんじゃないかな。
そんな今日の対戦相手はエメちゃん達。向こうも勿論新入生の腕試しが目的だよ!
「今日はよろしくね! エメちゃん!」
「はい! よろしくお願いします! ティーナさん!」
エメちゃんと数週間振りに会い、お互いにハグをする。
後輩達はエメちゃんの事を興味深そうに眺めていた。
「エルフのツンツン耳……」
「エルフとのハーフでしたっけ」
「大きいですわね……」
「あの……えーと……後輩達ぃ……」
「ちょっとみんな……そんなに触ったらエメさんに迷惑じゃ……」
「アハハ……人気者だね。エメちゃん」
眺めるだけじゃなく、エルフ特有の耳をサワサワしている後輩達。
確かに初見だと触りたくなっちゃうよねぇ。その気持ちは分かるよー。
とにかく、今回も私は出番じゃない。今回出るのは後輩達四人とウラノちゃん。
「相手は私よ。よろしくね。エメさん」
「は、はい。よろしくです。ウラノさん!」
ウラノちゃんとエメちゃんも挨拶を交わし、お互いに転移の魔道具でステージへ。
今回は森ステージ。と言うか、私達が予約出来る場所がよくある所だけなんだけどねぇ。
何はともあれウラノちゃん達vsエメちゃん達。試合がスタートする。
─
──
───
「さて、今回のルールは“謎解きトレジャー”よ。出会ったら戦闘しても良いし経験にもなるけど、あくまでもクリア条件は謎を解き、それに関連した物を持って来る事。その事は頭に入れておいて頂戴」
「「はい!」」
「ですわ!」
「はい……!」
今回行われるゲームは謎解きトレジャー。でも中等部一年生向けのものであり、そんなに難しい問題じゃないよ。
その内容はこれ。
【──お姫様が大事にしていた光輝く物が盗賊によって持ち出されてしまいました。それは細かく分かれ、森の中に散り散りに。赤、青、緑。光に反射して輝く物は八つ。八つの物を集め、祭壇に掲げよ】
「……ですって。さて、貴女達の考えはどうかしら? それに身を任せましょう」
「ふふん、簡単じゃないですの! 赤、青、緑に輝く物なんか宝石くらいしかありませんわ!」
「つまりその八つの宝石を見つけ出して祭壇とやらに飾れば良いのか。トレジャー主体で謎解き要素はそんなに無さそうだな」
「祭壇はどこにある感じー?」
「このステージが森って事を考えると……中心部に隠されてるとか高台とかかな?」
内容から何を見つければ良いのか推測し、五人は行動を開始する。
一方でエメちゃん達も謎の真相へと迫ろうとしていた。
「その観点からすると……成る程! これを集めれば良いんですね!」
「どうですか!? エメ先輩!」
「ふふ、みんなの考えに委ねるよ。今回はそう言う練習試合だからね」
彼女達も何を集めるか決め、行動を開始する。
戦闘はあくまでオマケ程度の今回のルール。だけど早い者勝ちではあるから迅速に動いていく。
ウラノちゃん達のモニターに視線を移す。
「それで質問を掘り返すけど、答えが宝石だとしてそれはどこにあると思う?」
「文書には“細かく分かれ、森の中に散り散りに。”……とありますね。単純に森を隈無く探せば見つかると思います」
「それに加え、“光輝く”というヒントも記されてます。“光”。おそらく日当たりが良かったり、木漏れ日の射し込む場所辺りかと」
謎解きである以上、ヒントは文章の中から探し出さなくてはならない。今ある情報からして洞窟や暗すぎる所は無いと考えていた。そもそも文章にも“森の中に”……ってあるもんね。
けど、成る程ねぇ。もう既にウラノちゃんは答えに辿り着いているみたい。それを知った上で、後輩達がどこまでやれるかの試練って感じかな。彼女なりの鍛え方だね。
「ふふ、場所は合ってるかもしれないわね。そこに行くとしましょうか」
「「はい!」」
「ですわ!」
「場所……は……?」
ディーネちゃんの疑問は掻き消され、サラちゃん達はウラノちゃんと一緒に森の中へ向かう。
なるべく光の当たる場所を探り、草花を掻き分ける。
「うーん、ありませんわ。それに、ダミーでしょうか。キラキラ光る物が他にも色々落ちてますの」
「そうねー。てか、誰がこれを用意したんだろう。そもそもルールも提案者が居ないと成立しないよね。なのに提示されている……超ミステリーじゃない!?」
「言われてみればそうだな……強豪校とは言え、たかだか練習試合に運営が動くとも思えんし……」
「変なところに勘が働くわね。私達の学院とエメさん達の学校の先生達が考えたのよ。練習試合は基本的にそんな感じ」
「そうだったんですか……」
そうだったんだ。
だから練習試合とかでもちゃんとしたルールがあるんだね。確かに個人に任せると自分達に有利なルールになり兼ねないし、公平を期する為にも大事かも。ルミエル先輩は自分達で用意してたけどね~。
そんな雑談をしながら探し、見つかるのはガラス片や指輪、キラキラ輝く石ころ等々。ゴミのポイ捨てとかじゃなく、先生達が用意した物だから一ヶ所に纏まっていて後片付けは楽チン仕様。
とにかく、紛らわしい物も沢山あった。
「輝く石ころは宝石みたいですけど、赤、青、緑ではありませんわね」
「指輪は……違うな。宝石は嵌め込まれているがその色味は無い」
「ガラス片も特に変哲はないねー。ガラス片ってか鏡の欠片? ウチらが映ってるし」
「他の物も真珠? とかネックレスとかイヤリングにブレスレット……と言うか明らかに先生達の持ち物みたいなのがたくさん……」
近くの根本を隈無く探して見つかる物はガラクタや、大事な物なんだろうけど答えとは違う代物。
輝く石ころ以外は先生達の私物みたいだけど、その輝く石ころに指定された色は無い。
「取り敢えず、別に汚れてないし一通り集めておこっか。どれかは当たりの可能性もあるしさ!」
「そうだね。きっと役に立つかも」
「手当たり次第という事ですわね。ふふ、良いでしょう」
「ああ。どの道当ても無い。賛成だ」
取り敢えず、どれかは当たるかもしれないと言う考えの元で集める事にしたみたい。
私も答えを知らなかったらそうしちゃうなぁ。だってミスリードがスゴいから、全部の可能性があるもん。
近場の物を集め、少し離れてその場所にあった物もかき集める。
全部が光っているから目立って見つけやすいみたい。モニター越しでも結構ハッキリ分かるもんね。
森全体を探し回ってある程度の数が集まった頃合い、一つの大きな樹の下でその時は訪れた。
「……! 貴女方は……!」
「エメさん達……!」
「“魔専アステリア女学院”……!」
「……考える事は同じか……!」
エメちゃん達のチームとの鉢合わせ。
彼女達も別地点で似たルートを通ったらしく、何人かは光る物を纏めて持っていた。
そしてお互いに別々の道を通って同じ場所に到達したという事は──
「「残りの物は向こうが持っている……!」」
考えが一致し、即座に行動開始。
両者は魔力を込め、相手に向き直った。次の瞬間にはお互いに魔法・魔術が放たれる。
「丁度退屈してたんだー! ゲームのルールとは言え、探して集めるだけなんて億劫だもんねー! 謎解き部分もあんま分からないし!」
「それは好都合。私達も似たような事を考えていた。その集めた宝物。貰い受ける……!」
サラちゃんの炎と向こうの炎が衝突して大きく燃え広がる。
森の中だから引火しないか心配だけど、多分大丈夫かな。
「“暴風形砲”!」
「“ウィンドスピア”!」
「“土壌世美”!」
「“グランドスピア”!」
他の子達の衝突で消され、炎に燃え移る猶予が無いから。
サラちゃん、リゼちゃん、ベルちゃんは既に行動を開始している。だけどディーネちゃんはまだ動かない。
「他の者達が戦っているんだ。君も逃げずに戦いなよ! “ウォータースピア”!」
「……っ」
水の槍が放たれてそれを転がるように避け、相手の攻撃から逃れる。
……これは……多分そうだ。ディーネちゃんは優しい。その性格に似付かず身に付いた強大な力。それのコントロールは難しく、相手を必要以上に傷付けてしまうかもしれない不安から扱えないんだ。
私もそんな経験は……あれ、どうだっけ? 考えてみたら戦った人達の大半がスゴい人達だったから遠慮無く植物魔法を使えたかも……。
それに力の調整はボルカちゃんやルミエル先輩達が教えてくれたし、そんなに苦労しなかったんだ。
私とは別ベクトルで大変なんだ……。これは私も反省。力の使い方をちゃんと学ばなきゃ。まずは基礎の基礎であるそこからやらなきゃいけなかったんだ……!
「怖じ気付いたか! 容赦はしないぞ! “ウォーターバレット”!」
「……!」
ダダダダダッ! と無数の水弾が撃ち込まれ、ディーネちゃんは大樹の後ろに隠れてやり過ごす。
まだまだ課題は山積みだね。
「後輩達は始めたわね。エメさん」
「そうですね。それじゃ、私達も始めましょうか。ウラノさんと一対一で戦ってみたかったんです……!」
「あら、無かったかしら? 覚えてないけれど……貴女が手強いのは知っている。手加減はあまりしないわよ」
「少しはしてくれるんですね……!」
「練習試合の範疇ではね」
「同意件です」
そしてウラノちゃんとエメちゃん。今回のチームリーダー同士の戦闘も行われる。
謎解きトレジャーゲーム。どうなるんだろう……!




