第百六十八幕 よくある一日
──“平日”。
「それでは、朝のホームルームはここまで。次の授業は移動教室なので準備を忘れないようにしましょう。……特にボルカ・フレムさん」
(名指し……まあ当たり前だよね)
「ZZZ……ZZZ……」
最近はダイバース続きだった気がするけど、学生の本分は学業。ちゃんと授業も受けるよー。
と言っても、元々毎日真面目に受けていたんだけどね~。
朝のホームルームが終わったので移動教室に向かう。
──“一限目・魔導科学”。
「ではこの成分に魔力を込め、別の物質へと変換させてください」
「はあ……!」
ビーカーに入った液体に魔力を放ち、化学反応が起きて内容物が変化。
これはいつも使っているエレメントの応用にも近いね。他の科学物質と合わせる事で得意分野以外の属性に変化させる事が出来る。
それをまた別の物へと変化させ、最初の物質とは全く違う何かが作られた。……なんだろう。これ。
──“二限目・語学”。
「この作者はどう思ったか答えよ」
「はい。この方が伝えたかった事は──」
音読し、作者さんの心情について答える。
どんな想いでそれを書き、どんな感性で伝えたかったのか。それについての問題。
「単純に締め切りヤベーだと思いまーす」
「ボルカさん。真面目に答えてください。テストの時は確りと答えているのに……」
ボルカちゃんはちょっと現実的な意見。確かに本当はそう考えてたかもしれないけど、やっぱりそこは授業らしくね~。
──“三限目・数学”。
「それではテスト、開始」
「「「………」」」
今日の数学はまとめの小テスト。数学はテストの割合が少し高いのかもねぇ。
他は単純な暗記がほとんどだけど、計算の数字は毎回違うから公式を覚えるだけじゃ好成績は収められないもんね。
単純に考えれば数字の桁が違うだけって事になっちゃうんだけど。
──“四限目・世界史”
「久々だなぁ。お前らー。っても、毎週世界史と歴史の授業では会っている訳だが、取り敢えずやるぞー」
世界史の授業は去年の担任の先生が担当。なのでちょっと気楽に受けられるかも。
そして授業開始。お腹が空く時間ではあるけどまだそんなに眠くはなく、みんなも集中して受けていた。
──“お昼休憩”。
そして午前中の授業が終わり、昼食の時間となる。生徒達は食堂に向かったり購買部に向かったり、持参したお弁当を広げたり各々で行動に移る。
私達も、私、ボルカちゃん、ルーチェちゃんにウラノちゃんのいつもの四人で山の方へと向かった。
「今更だけれど、態々山に登る必要性があるのかしら? 体力と時間の無駄なような気がするけど」
「いやいや、体力作りは何事に置いても重要だろー? 実際ほぼ毎日登ってるお陰で体力は付いたしなー!」
「それはそうなんだけどね。けどそれくらいは部活動で良いと思うのだけど」
「まーまー、細かい事は気にすんな! 既に習慣だしなー!」
「答えになってないわよ。はあ……」
流すように誤魔化し、昼食へ。体力向上には確かに繋がってるから無駄にはなってないよね、きっと。
そんな感じで今日のご飯を食べる。ここは私達以外で来る人が居ないからのんびり過ごせるね。それは大きな利点かも。
「おかずとか分けようぜー!」
「そんな子供みたいな事……」
「少し前まで初等部だっただろー!」
「だけどそんなのに乗り気なのは貴女くら──」
受け皿を用意していた私を見たウラノちゃんは口を噤む。
私だけじゃなく、ルーチェちゃんもノリノリでお弁当の蓋を用意していた。
「……分かったわよ。でも購買部のサンドイッチで代わり映えしないわよ?」
「「「全然オッケー!」」」
「揃いも揃って子供ね……」
呆れ半分のウラノちゃんともおかずを交換していく。
私も購買部で買ったサンドイッチだけど、種類が違うからお得だね!
サンドイッチは四等分にし、お弁当はお弁当で。その他の物もそれに合った分け方をしてお昼の時間が過ぎていく。
──“五限目・魔導実技”。
「“ファイアボール”!」
「“防壁樹林”!」
五時間目の魔導実技ではペアを組んで魔法や魔術の撃ち合いが行われる。中等部二年生ともなると派生についてもそれなりにやってるよ!
小手調べにボルカちゃんが放ったのは初級魔法だけど、部活動で鍛えられているからドンドン威力の上昇が見受けられるね。
体力と同じように鍛えればそれに適応して増え、技術力と同じように使い込めばより洗練されて威力も高まる。
そのうちルミエル先輩みたいに初級魔法で上級魔法相当の力になる事もあるかも! あ、そう言えばママの植物魔法は初級とか中級とか上級の概念が無いね。今更だけど。
この時間も過ぎていく。
──“六限目・魔導薬学”。
「ではこの薬品に基礎エレメントの何れかを調合してみてください。属性によって色が変わり、効能にも様々な変化が出るでしょう」
「植物魔法なら……えい!」
薬品の中に魔力の葉っぱを入れ、ボンッと小さく爆発。
それによって薬品の色が変化し、緑色の液体が生み出された。魔導科学と似た感じの授業だけど、こっちは医学薬学が中心だからちょっと違う。
何はともあれ、作り出した液体。毒魔法とかじゃなきゃ触れたり舐めたりしても問題無いと言うので私は味見してみる。
「……うーん、青臭くて苦い……ただ葉っぱを溶かしたみたいな感じ……」
「フフ、ティーナさん。それはどちらかと言えば塗り薬ですね。植物魔法ならば、薬草となる物や花などを使った方が良いと思いますよ」
「そうですね。それじゃあ簡易的な薬草で……ポーション!」
「お見事です」
パチパチパチと拍手してくれる先生。
個人的に一番集中している授業がこの魔導薬学かも。
様々な薬を作れればそれだけ多くの人を助けられるからね。なんでそんな思考に至ったのかは自分でもよく分からないけど、とにかく実践あるのみ!
「更に熱を加えてみてはどうでしょう?」
「そうですね。種類によっては怪我や病気だけではなく、寒さとか暑さとか、そう言った問題から守れる薬が出来るかもしれません」
「そう言う事です」
軽く炎魔法を使い、ポーションを熱する。それに別の植物を加えたりして手を付け、少し後。
「あ……」
ボンッ! と今度は少し大きな爆発が起こった。薬品は黒焦げになる。
ありゃりゃ、これは失敗。単純に火力が強過ぎて焦がしちゃったみたい。
「この植物はよく燃える種類ですので、本当に少量を扱うべきでしたね。具体的に言えば粉末状にして一摘まみくらいです」
「なるほど……!」
失敗は取り返しの付く範囲なら成功に繋がる。なので私は何度でもリトライ。
先生は他の生徒達の方に行き、私も集中する。そんなうちに授業が終わっちゃった。
──“七限目・音楽”。
「音には様々な効果があります。心を落ち着けたり、逆に燃え上がらせたり。大会の応援なども正にそう。ただ聴くだけではなく、力となるのです」
「音楽は力に……!」
「一日の最後にやる音楽の授業は確かに力に変わるなー……ZZZ……」
「睡眠力は求めていません。起きなさい。ボルカ・フレムさん」
今日の授業の最後は音楽。常に流れており、疲れた体が癒されるような感覚に陥るよ……。
ボルカちゃんみたいに眠そうな人達は増え、私も気を抜いたら寝ちゃいそう。我慢我慢。
──“部活動”。
「そんじゃ、また基礎の基礎からだ。いつもみたいに森を一周して山を登っての体力作り。それから魔力の特訓だー!」
「「はい!」」
「「はい!」」
さっきまでグースカ寝ていたとは思えない様。やっぱり真面目モードのボルカちゃんはカッコいいね~。
勿論私達も外周と登山での体力作りは忘れず行う。もう慣れたもので、魔力で身体能力を強化するから二十分くらいでそれは終えられる。
その後は単純な魔力の扱い方とか、派生とかの練習。
「それじゃ、仕掛けるから防いでね~」
「「………っ」」
「「………っ」」
反射神経とかも鍛える為、威力を弱めて速度を高めた植物魔法での特訓。でも痛い事には変わりないから後輩達は集中して執り行う。
鞭のように振り抜かれた植物に対し、咄嗟の魔力放出で防御。最初は正面。続けるに連れて隙を突いたり工夫を加えたりもする。当然自分自身の魔力上昇も課題の一つだね。
そんな感じで部活動も夕方まで続き、頃合いを見て終わる。もうすっかり日も暮れちゃった。お月様がこんばんはしてるよ。
「それじゃあお疲れ様みんな!」
「お……お疲れ様でした……」
「お疲れですわ……」
「お疲れ様……」
「おつ~……」
ダイバース部に入ってまだ数週間。なので体力が追い付かず、ゼェゼェハァハァと息を切らす。
アハハ……私達も最初はあんな感じだったなぁ。今ではすっかり慣れちゃって。我ながら頑張ったと思うよ~。
──“夕食”。
「いっただきまーす!」
「いただきます!」
「いただきますわ!」
「いただきます」
部活終わりから一時間くらい。夕飯を食べる時間となり、今日は私達四人全員が揃って召し上がる。
この一時間で出されていた課題の方もほとんど終わらせたから、後は範囲外の予習と復習くらいだね。このルーティンもすっかり板に付いたと思う。
──“お風呂”。
「はあ……今日も一日お疲れ様~」
「お疲れ~」
そして夕飯から少し経ち、胃を休めた所でお風呂タイム。今日の疲れを文字通り洗い流していく。
やっぱり一日の終わりにはお風呂だよねぇ~。
「……あ、ティーナ先輩にボルカ先輩」
「やっほー! 先輩ー!」
「お二人も入っていましたか」
「あら、ルーチェ先輩はいらっしゃらないのですね」
「あ、ディーネちゃんにサラちゃんにリゼちゃんにベルちゃん!」
「おーっす。後輩達ー!」
するとそこに後輩達四人もやって来た。
何気にこの子達と入るのは初めてだねぇ。
まだ慣れてないから部活動の疲れとかで早めに入ったり遅くなったり、私達とは時間が被らなかったから。
四人も体を洗って湯船に浸かる。
「はぁ……気持ちいい……」
「癒されんね~」
「うむ、やはり悪くない」
「ですわ~」
トプーン……とゆっくり力無く入る四人。本当にお疲れみたいだね。私も去年までは以下略。
こんな感じでみんなと入るのも良いね~。
するとサラちゃんが興味深そうに私達を見ていた。
「それにしても、やっぱり中等部二年生となると成長するんですねぇ。ティーナ先輩なんかボルカ先輩の一回りくらい差がありますよ」
「オイオーイ。ドコを見てそれを言ったー? アタシはまだまだ成長期だ。つまり、これから大きくなる!」
「そ、そんなに見られるとちょっと恥ずかしい……」
どことは言わないけど、関心を持っているね……。確かに最近下着や服のサイズも合わなくなってきたし、選ぶのも大変だけど。
だけど痛みとかはそんなに無いから、ちょっとずつ大きくなってる感じかな~。
成長痛ってもの? 体調不良とかは無いけどね~。
「みんなー。ダイバース部二年生の先輩達は一番と二番をティーナ先輩とルーチェ先輩で争っている感じだけど、ウチらの中だと誰が一番抜きん出ると思うー?」
「さ、さあ……」
「そんな事知る必要もないだろう」
「系統で言えば土属性の方は大きくなる傾向にあるので、無論、私ですわね!」
そして私達そっちのけで雑談を始めた。
私達以外の周りの人達も自分の体を一瞬見て何かを考えていたりしたけど、見て見ぬふりしておこうかな。
そんな感じでお風呂タイムも終わり。歯磨きなども終える。
──“自室”。
「ふう、予習はこれくらい。もう休もっかな」
『ふふ、お疲れ様。ティーナ』
『お疲れー』
「ありがとー。ママ、ティナ。だけど最近はこんな感じで寝る前にしか話せてないね~」
『それだけ私生活が充実してるのよ。良い傾向だわ』
『そうそうー』
寝る前にママ達と少しのお話。一時期なんか変な感じになったけど、最近は気分が良いからそんな事はない。
でも就寝前と言うのもあり、あまり長い時間は話せなくなっている。本当に一言二言で終わっちゃう。
「ごめんね……今日もおやすみの時間だ……」
『ええ、おやすみ。ティーナ』
『おやすみー』
そこで意識が遠退き、突然シャットアウトしたかのように二人の言葉がピタッと止まる。
本当に何なんだろうね。まるでそこに二人が居ないみたい……そんな事はないのに。
不思議だなぁと思いつつ、これ以上考えたくは無いので私は眠りに付く。
今日も楽しかった……毎日、毎日こんな日が続くと良いんだけどな……。みんなとずっと一緒に過ごせて……みんなと……。そんな日がずっと……永遠に……。




