第百六十七幕 反省会・食事会
「勝てたは良いけど、結局全滅しちゃったなー」
「うぅ……面目無い」
「マジ油断してた……超反省……」
「惜しかったですわ……」
「残念……」
一つ目の練習試合が終わり、今回の反省会が開かれた。
試合自体には勝てたけど、結局残りの相手はボルカちゃんがなんとかしたから、そこまで鍛練にはならなかったかな。全国レベルを知る事が出来たのは良いんだけどねぇ。
練習試合は毎週の休日に行われる。次の相手はエメちゃん達だね。
「まあ、勝てないのは百も承知で選んだ道だろう。練習試合と言うのはそう言うものだ。敢えて格上に挑む事で自分達の到達点を見定めたり、戦い方から参考になるものを得るのが大筋。一つの指標を決めるのもまた一興。自分なりに考えて行こうぜ!」
「「「「はい!」」」」
初めて四人の返答が一致した。ボルカちゃんもすっかり部長っぽくなっちゃって……と、誰目線なのか分からない感想が浮かぶ。
何もそれは後輩達だけじゃないよね。私達にも言える事。この道に終わりなんてないのだから。
練習試合が終わり、私達はレモンさん達と別れる。
「それじゃ、今日はありがとうな。レモン。練習試合を受けてくれて。参考になったと思うぜ!」
「フッ、此方こそ。得られた物は多かった。ボルカ殿と戦えたうちの後輩達も確かな経験を積めた」
最後にボルカちゃんとレモンさんが握手を交わす。
他校との交流が増えると楽しい。明確に友達と言えるのは各校一人だけだけど、お互いに高め合うこの関係は続けていきたいね。
レモンさん達は転移の魔道具で日の下に帰り、後輩達は私達の方へとやって来た。
「それでさ、先輩! 折角練習試合を終えたんですから、この後どこか寄りませんかー!」
「何処か? カフェとかそんな感じか?」
「はい! やれる範疇で頑張ったので、ご褒美に何か奢ってくださーい!」
「現金なやつだな~。いいぞー。初陣記念とでもしておくか!」
「わーい!」
甘え上手な子だねぇ。サラちゃん。
けどみんなとは元々親睦を深める為にも何かしたかったところだし、丁度良いね。
私達は大通りの方へ赴き、手頃なお店に入って新入生達の歓迎会を改めて開く。
今回は貸し切りじゃないから、あまり騒ぎ過ぎないようにしないとね。一応全員が入る個室は空いてたからそこにしたよー!
「コンパクトな場所ですわね~」
「あら、ルーチェ先輩もそうお思いでして? サラが急遽な申し出をしてごめんなさい」
「構いませんわ。豪勢な所は大会の後などに借りますので」
「フフ、流石ですね。よく分かってらっしゃる」
「そちらこそ。流石はノーム家のご令嬢ですわ」
「シルヴィア家のご令嬢には及びません事よ」
「フフフ……」
「ホホホ……」
な、なんか二人のご令嬢が怪しげな雰囲気で普通の会話してる……。
けどルーチェちゃんの“シルヴィア家”とベルちゃんの“ノーム家”には繋がりがあるんだねぇ。どっちも名家だからおかしくないけど。
なんなら私のパパの仕事とも多少は関与したりありそう。
「ホラホラ! 強炭酸のイッキ飲みだァーッ!」
「弾けるそれを一度も口を離さずに……! やりますね。ボルカ先輩!」
「ハッハ! サラもやるじゃないか! 見込みがあるぞー!」
一方でボルカちゃんとサラちゃんの二人は、火の系統同士気が合うらしく、アルコールが入ってる訳じゃない強炭酸の飲み物を一気に飲み干していた。
何してるんだろう……。あ、そこにメリア先輩も加わって三人で飲んでる。……楽しそうなら良いのかな?
「成る程。それで出力が変わるんですか」
「ええ。けれどどうしても個人差は生まれちゃうから、あくまで応用として考えた方が良いわよ。魔力出力の一辺倒で活躍出来るのは極僅か。参考に、ルミエル先輩やティーナさん、そして暫定だけれどディーネさん並みの魔力量は必要になると思うわ」
「確かにそうですね。今の私ではディーネや先輩方に私は遠く及びません」
そしてウラノちゃんとリゼちゃんは真面目に話し合ってる。風魔法はウラノちゃんの専門外だと思うけど、本魔法から力の使い方は知ってるからこんな感じでアドバイスも出来るんだ。
流石の器用万能だねぇ。ウラノちゃん。
それから──
「……」
ディーネちゃんは隅っこの方で一人でジュースを飲んでいた。
ボルカちゃん達が誘ったりするけど丁重に断り、また隅で過ごす。まあ私も強炭酸のイッキ飲みは断るね。うん。
だけどどこの輪にも入ろうとしないし、人付き合いが苦手なのかな? でも一年生同士の関係性は悪くないし寧ろ良好だから、単純に一人が好きってだけの可能性もある。
なんとなく放って置けないし、他のみんなはそれぞれ後輩達に構ってあげてるから私も先輩として話してみようかな。
「ディーネちゃん。隣、良いかな?」
「あ、ティーナ先輩。はい。良いですよ」
「ありがとねー」
許可を得て隣に座る。
さて、どんな事を話せば良いんだろう。特に何も考えずに座っちゃったからそれについてはよく分からない状態にある。
取り敢えずはこのダイバース部について聞いてみるのが無難かな?
「どう? ディーネちゃん。練習はキツイし練習試合も沢山入れちゃったけど……この部活動楽しめてる?」
「はい……。色々と不安はありましたけど、先輩達は優しいし……私よりもレベルの高い相手がいっぱい居て……もっと頑張りたい……! って気持ちになりました」
「そうなんだ。楽しめてるなら良かったよー。まだまだ手強い人も沢山居るもんねぇ」
どうやら私の不安は杞憂に終わったみたい。あまり表には出さないけど、ちゃんとディーネちゃんなりに楽しいって思ってくれてるみたい。それなら良かった。
それじゃあ世間話くらいにシフトチェンジしようかな。
「休日とか何してるのー?」
「いきなり話の方向がプライベート面に踏み込んできましたね……。特に何もしてませんよ。本を読んだり、一人で過ごせそうな場所に行ったり色々です」
「あ、外出とかはちゃんとしてるんだ……って言い方は失礼だね。じゃあ日の光とかも浴びてるんだ……って言い方は変だなぁ」
「ふふ、基本的に室内で過ごすのには変わりませんけどね。そして言葉がタジタジですよ。ティーナ先輩」
「アハハ……後輩への接し方がまだちょっとよく分からなくてねぇ。考えてみたら年下と交流する機会あんまりなかったから」
「そうだったんですか。そうなると……文脈と声色から考えて……初等部からの学生ではなく、そもそも学校に行ってなかったとかでしょうか?」
「おお、スゴく鋭いね。正解正解。大正解! 本当にその通りで、基本的には家で家庭教師の先生から教えて貰っていて、中等部から“魔専アステリア女学院”に通ったんだ~。だから初めての学校もここだね」
「家庭教師の教育だけでこの学院に……魔法だけではなく頭脳面の才能も高いんですね!」
「ふふ、そう言って貰えると嬉しいなぁ。こう見えて学年三位の持ち主だよ! ウラノちゃんやボルカちゃん、ルーチェちゃんに色々教えて貰ったお陰かな。友達の存在は本当に助かってるの!」
「良いですね。そう言うご友人も。私の友達のサラちゃんにリゼちゃん、ベルちゃんもこんな私に良くしてくれてるんです。この学院には初等部から通っていますけど、こんな感じで元々一人で居るのも好きなので友達は増えず……そんな所に話し掛けてくれたんですよ」
「そうなんだぁ。ふふ、同じだね。私もボルカちゃんが友達に立候補してくれたんだ。最初は私がホームルームの時に寝ているボルカちゃんにイタズラしたのが切っ掛けだけど」
「イタズラ……そもそも会話の内容からして朝の出来事……なのに寝ていると。先輩達って両方とも不思議な出会いですね……」
「そうかな?」
「そうですよ」
気付けば世間話に花が咲き、周りのみんなに負けないくらい盛り上がっていた。
ふふ、これで少しは溶け込めたかな? ちょっとだけ境遇に近い所があるから気が合うのかも。私の一方的な決め付けかもしれないから心の内に留めて置くけどね~。
「何か他にも注文しよっか。ダイバースの後って魔法を使うからお腹空くでしょ? お昼もあまり食べてなかったし!」
「そうですね。それじゃあ軽く摘まめる物でも。あまり食さずとも終えたばかりではありますし」
「それかいっその事夕食もここにするとか」
「まだ五、六時間くらいありますよ……それにお昼を終えたばかりと今言いましたのに……」
「ふふ、それじゃあデザート兼おやつタイムだ!」
「じゃ、じゃあスイーツ系を……」
「良いよー!」
色々とお菓子類を頼む。あまり食べ過ぎるのは良くないけど、糖分補給も必要だもんね!
だから不可抗力、不可抗力。私は今回参加してないから運動もしてないしお昼も食べたけど、ちょっとくらいなら大丈夫……な筈。
注文の品は運ばれ、ディーネちゃんも含めてみんなで楽しく過ごす。
他のお客さん達の事もあるのでちょっと短めに一時間くらいで解散となり、後は自由行動という事にする。
そもそも今日は元々休日で、午前中に練習試合があっただけだもんね。元々常識の範囲内なら自由行動だったよ。
「これからどうするー?」
「お腹はいっぱいだから……ちょっと買い物とかでもしようかなー。折角街の方に来たから。特に欲しい物は無いから見るだけになるけどね~」
「そっか。そんじゃ、アタシも付き合うよ。丁度良い食後の運動だ」
「分かった!」
私とボルカちゃんは軽いショッピングに。ウラノちゃんは図書館の方へ向かい、それの後をリゼちゃんが追う。意気投合したルーチェちゃんとベルちゃんでちょっとしたお出掛け。
ディーネちゃん、サラちゃんは二人でショッピングに行くみたい。
みんなちゃんと休日の過ごし方をしているね。
何はともあれ、今日と言う休日。練習試合後の一日はのんびりと過ごすのだった。




