第百六十三幕 新しい学年
「イエーイ! 同じクラスだねぇ!」
「うん! またよろしくね!」
「うえーん! 別々のクラスー!」
「泣く程の事か……!?」
──長期休暇も終わり、私は進級して中等部の二年生となった。校内のみんなも同じクラスになれた事を喜んでいる人や、なれなかった事を悲しんでいる人がチラホラ。私もまたみんなと同じクラスになれたら良いなぁ。
そろそろ後輩達も入ってくるし、新境地でも頑張らないと! あれ? でも元々“魔専アステリア女学院”に居るから、それは新境地とか新天地には当てはまらないのかな?
あ、でも二年生になったって考えればある意味新境地かも! 今までと大きく変わる筈だから!
そんな事を思いながら新しい二年生の教室へと足を運んだ。
「あら、おはようですわ! ティーナさん! また同じクラスになれましたわね!」
「あ、ルーチェちゃん! やった! 一緒のクラスなんだね!」
「それに、ボルカさんやウラノさんも同じクラスなんですわ!」
「ホント!? 嬉しいー!」
“魔専アステリア女学院”では、学年ごとにクラスが変わっていく。
成績上位者とかそんな感じで分けられて、学年で一位のウラノちゃん、二位のボルカちゃん、三位の私と四位のルーチェちゃんで見事にみんな一緒のクラスになれたみたい!
またみんなと過ごせるのは嬉しいなぁ~。
「また同じクラスで良かったよ~。ウラノちゃーん!」
「そう。それは良かったわね」
相変わらずそっけないウラノちゃんだけど、“魔専アステリア女学院”としての日常に戻った実感が湧くなぁ。
三学期の長期休暇は精々二週間くらいで定期的に遊んだりしていたけど、教室で会うとなるとまた別の感じがするの。
そのまま席に向かい、近くのボルカちゃんにも挨拶する。
「おはよう。ボルカちゃん!」
「──フッ、“おはよう”。そうだった。此方の世界線ではそう言うのだったな。あの出来事……アタシには永遠に感じたあの出来事が此処では一夜の出来事だったという訳だ」
「……え?」
何か様子がおかしいボルカちゃん。出来事って三回も言った。
彼女は膝を立てて窓際に寄り掛かっており、顎に手の背を当てて遠くを眺め、黄昏ている。
どうしたんだろうと思っていたら、彼女は言葉を続けた。
「ティーナ。アタシは思ったんだ……そう、アタシは神に愛されし特別な存在だったんじゃないかとな……」
何言ってるんだろう。
ボルカちゃんは確かに特別で神様に愛されてるって言ったらそうかもしれないけど、何か雰囲気が違う。
ルーチェちゃんは呆れ顔で説明した。
「ウラノさん曰く、人は特定の年齢で自分は他者と違う特別な存在って思い込む事があり、それが全面的に出る時期があるみたいですの」
「そうなんだ……。まあでも確かにボルカちゃんは特別だもんねぇ」
「貴女はまた別の意味で大変ですわね……。何をさも当たり前みたいに仰っているんですの」
「……?」
何だろう。何か変な事言ったかな?
私は思ったままの事を言ってるだけなんだけど、ルーチェちゃんはまた呆れたように頭を抱えた。
変なの~。
「フッ、ティーナはよく分かっている。そう、アタシは特別だったんだ。元よりアタシは……!? ぐわあああ!?」
「え!? どうしたの!? ボルカちゃん!?」
「だ、大丈夫だ……昨日左腕に封印した“善の破壊者”が暴れ出してな……。もう取り抑えた」
「メフィスト!? ボルカちゃん、悪魔召喚したの!?」
いつの間にそんな事をしていたんだろう。魔族の国は悪魔と交流があって知り合いが居るとも聞くけど、ボルカちゃんの交友関係の幅広さを思えば有り得ない線じゃない。
でも封印したって事は争いになっちゃったって事!?
「だ、大丈夫だったの!?」
「ああ。それによる名誉の負傷という訳だ」
「怪我したの!? 傷口は見えないけど……」
「今しがた片腕が疼いただろう? メフィストが暴れているのでな。内部的な負傷だ」
「成る程……それじゃ、魔術を使う時体内から力が漏洩しちゃうんじゃ……」
「案ずるな。アタシの魔力なら抑え込める」
「スゴいやボルカちゃん!」
「ティーナさん少し素直過ぎですわ……。そんなティーナさんによる、通常のそう言う時期の方なら慌てふためきそうな純粋な疑問にも、頭の回るボルカさんはアドリブで答えているからボロを出さない……ある意味良いコンビですわね」
言動は不明だけど、やっぱりボルカちゃんはスゴいんだねぇ。
そんな事を話しているうちに中等部二年生の担当となる先生がやって来た。
「それでは席に着いてください。今日はこの後始業式となりますよ」
その言葉を聞いて私を含めたクラスメイト達は席に着き、先生は話す。
「既に去年までの授業で会ってますね。名前の方も既に存じ上げている筈。私は──」
中等部ではお馴染みの先生なのでそのまま自己紹介を軽く終える。
今回の先生は丁寧な感じ。去年の先生も好きだったけどね~。ちゃんと教師によって変えているのか、クラスメイトのみんなは揶揄わず大人しくしていた。
これは別に優劣を付けてるとかじゃなくて、親しみやすさの裏返し……みたいなものかな? 取り敢えず変な意味はないよ! それに、歴史とかの時間は変わらず去年と同じ先生が担当だもんね。
何はともあれ、先生の話は一区切り付く。そして今日は始業式。一年生達の入学式はもう終わったみたいだから私達の番だね。
私達はそこへ向かう。
*****
「──で、あるからして。新たに初等部からの後輩達も加わり、在校生の皆様はより一層学業にも部活動にも精進し──」
新学期になっても変わらない長さのスピーチを聞き、始業式を終える。
今日は部活動も無いけど、明日からは新入生をスカウトしたりしなきゃならないから色々と作戦は立てておくよ!
始業式後、私達は部室に集まった。
「それじゃ、明日について色々と話そっか。メリア先輩はどんな事を考えていますか?」
「フフン、それは勿論、歓迎ダイバースだよ! ティーナちゃんみたいにダイバースを知らない子。初めてやる子が居てもおかしくないからね! まずは何より体験させてから考えなきゃ!」
「成る程。確かに私達も最初は“かくれんぼ”という簡単なルールでのゲームからダイバースに入りましたもんね。それじゃあ……“歓迎ダイバース”……と。よし。書き終えた。次は二年生ながら中等部の部長になったボルカちゃん! 何かアイデアはない?」
「フム、そうだな……迷える子羊達を入信させるに辺り、やはり生け贄を──」
「こう言う時くらいは真面目にしてくださいまし!」
「何を言っている。アタシは元々真面目だ」
「何処がですの!?」
出た案を部室のボードにメモしていくけど、なんかカッコいい座り方をしているボルカちゃんの様子は相変わらず変。
ルーチェちゃんがツッコミを入れ、ウラノちゃんがため息を吐いて耳打ちした。
「ボルカさん。特別な力と言うのは、何の変哲もない人が使ってこそ“すげえ!”とか“なんだアイツは!?”とかみたいに一目を置かれるのよ。ティーナさんみたいにね」
「……!」
「……?」
何を話してるんだろう。耳打ちだからよく分からないけど、“スゴい”的な言葉は聞こえた気がする。
更に言葉を続けた。
「そしてそれを指摘されても“何かやっちゃいました?”みたいに意に介さず、力をひけらかさず平然としてこそ強者感が出てくるわ。多分」
「そうか……一見力が無さそうな人程スゴい能力のギャップがある……! そんじゃ、その時まで少し前のアタシで居るとしよう!」
「ス、スゴいですわ。ウラノさん。ボルカさんを手玉に取っておられる……!」
「えーと……取り敢えず話はまとまったのかな?」
本当によく分からないけど、一件落着?
何はともあれ新入生達の加入を促進させる話し合いは続き、ある程度のアイデアも出揃った。そこから上手く組み合わせたりして作戦を練る。
後はその通りに事を起こし、この地に足を踏み入れる子達を迎えるだけ……! 気合い入れなきゃ……!
……あれ? けど初等部から通っている子達がほとんどだから、もしかして“魔専アステリア女学院”については私よりも詳しいんじゃ……。そんな、先輩っぽく振る舞えるかなどの不安は多々ある。
「よーし、それじゃあ解散! 練習とかしたいなら構わないよー!」
「そんじゃ、少しやってくか。ティーナ」
「あ、いつものボルカちゃんになった! うん! やってこ!」
「フッフッフ……選ばれしアタシはまだ全力を出す時じゃないの……さ!」
「また雰囲気変わった……ま、いっか。数日程度だけどこの部室を使うのも久々だねー」
「そうだなー」
そんな不安はさっさと取り払っちゃおう。私もここで一年間やって来たんだ。少なくとも中等部については去年まで初等部だった子達より詳しい……ハズ! そう思い込みたい!
新しく始まった“魔専アステリア女学院”、中等部二年生の活動。この環境でも頑張ってくぞー! おー!
私の中の世界がどう変わるのか、私は期待を胸に心を踊らせてこの新生活に臨むのだった。




