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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第百六十二幕 お花見

 ──“三学期の長期休暇”。


 休暇に入ってから数日が経過した頃合い、今日私達はレモンさんの国“日下(ヒノモト)”に来ていた。

 その理由は単純に、“お花見”というヒノモトの文化を体験させてくれるんだって。

 今の季節が一番の見頃らしく、とても人気で海外からの来客もあり、スゴく混み合うとか。

 もう既に人通りが増えている状態。元々ここは大通りだから変でもないけど、装いや荷物からお花見に行こうとしている人達なのが分かった。


「おーい! ティーナ殿ら!」

「あ、レモンさん!」


 レモンさんが私達のお出迎えをしてくれた。

 地の利に詳しい人が案内をしてくれるのは助かるねぇ~。

 そして待っていたのはレモンさんだけじゃない。


「エメちゃん! ユピテルさん! シュティルさんも! 来てくれたんだ!」

「は、はい。一足先にお邪魔してます」

「祭り事に赴かぬ訳にはいかないからな!」

「私は試合中に誘われたんだが、此処まで大人数とは思わなんだ」


 エメちゃん達三人も誘われていたみたい。

 ふふ、嬉しいサプライズだなぁ。

 因みに私達は私とボルカちゃん、ウラノちゃんにルーチェちゃんのいつもの面々。

 全員が今月から中等部の二年生になる同い年。あ、でもシュティルさんはあくまでヴァンパイアの年齢を人間に換算した場合のものだね。進級順は一年につき一つ上がるって感じで同じみたいだけど。

 何はともあれ、私達はお花見の会場に向かう事にする。


「混み具合はどんな感じが想定されるの?」

「そうだな。まあ、現時点でもう満杯だろう。人気の無い場所が一つだけ空いているか空いていないかくらいだ」

「そのレベルなの!? 一応まだ早朝と言える時間帯なんだけど……ボルカちゃんも眠気眼だし……」

「おいおーい……アタシゃ問題ねえぜ~」


 今日のボルカちゃんはまだ寝起きだから静かな感じ。ご飯とかを食べる事もお花見の一環らしく、あまり食べずに来ちゃったけど、予想より遥かに大変みたい。

 逆にご飯は食べて力を付けてた方が良かったのかな……。


「まあ、毎年こんなものだ。今の時間帯なら先程述べた場所は空いてる可能性も多少は存在する。それを祈るばかりだな」

「そうなんだ……」


 来たばかりで思うのもあれだけど、幸先が不安定過ぎる現状。一応の希望だけは抱き、そのスポットへと赴いてみる。


「こ、これは……」

「予想以上だな~……」


「桜綺麗~!」「人の方が多くないか……?」「こりゃ花見でねくて人見だべな」「良い席取れたァーッ!」「へへ……深夜から陣取ってて良かったぜ……お陰で桜が見放題だ……」「っしゃあ! 徹夜三日目!」「たーまやー」「それは違うだろ~」


 赴いてみたけど、本当に人の数がスゴかった。それはボルカちゃんの眠気も思わず吹き飛ぶ程。

 見渡す限り人、ヒト、ひと。桃色の花弁が綺麗に咲き誇り、辺りの光景は美しいと胸を張って言える物だけど、この景色に集中出来ないや。


「この時期のヒノモトではこれが平常運転だ。だがやはり既に満員だったな。さて、どうする?」

「どうすると言われても……ここまで来たのならお花見したいよね」

「だよな~。レモンなら穴場スポットとか知ってるんじゃないか?」

「フム……まあ、まだ露店の少ない場所なれば可能性はなくもない。希望は薄いが、行ってみるか」


 そして屋台から大分離れた場所にやって来る。結果、相も変わらず一杯一杯だった。


「「「カンパーイ!」」」


「つ、次だ次!」


 更に進み、もう少し離れた場所。桜も少し遠くなっちゃうけど、ここなら……。


「「「イエーイ!」」」


「またいっぱい……」

「次に行くぞ!」


 どこもかしこもいっぱい満杯盛りだくさん。空いてる気配すらなく、場所を探すだけで時間が過ぎていってしまう。

 これはこれで、みんなと一緒に見て回れるから私は楽しいけど、そろそろ場所を見つけたいよね。


「うーむ、こうなったらほんのちょっとだけ……枝一本分くらいの桜が見える場所に行くか、城などに侵入して楽しむか」

「後者は犯罪だよ……。前者も前者で味気無いし……」

「そうだよなぁ。いっその事ヒノモトを探索でもするかぁ?」

「そうですわねぇ。わたくしとしては別に構いませんが」

「私も。ヒノモトの古き良き町並みは何度見ても良い」


「まあ、我としてもこの国に来るのは初。それもまた悪くない」

「わ、私も構いませんよ!」

「そうだな。確かにそれも良い。花を見て食事を楽しむも、友人達と町を見て楽しむも大きな差はあるまい」


 私達とユピテルさん、エメちゃん、シュティルさんは別に構わないという方向で話が進む。

 レモンさんは複雑な表情をしつつ、言葉を発した。


「ウム、そうか……。四季はヒノモトの誇るべき点。そのうちの一つを満喫させてやれぬのはツラいが、致し方無いか」

「アハハ……そんな大袈裟な。今後疎遠(そえん)になる訳でもないし、来年以降も行けるよきっと」

「そう言ってくれると助かる」


 何はともあれ、お花見は保留。私達はヒノモトの町を観光する事にした。

 お団子を食べたりカブキ……? って言う演劇を楽しんだり、前みたいにお城を見たり。ついでに桜の花も遠目だけど見えたよ! とてもキレイだった!


 そんな感じでヒノモトの町を満喫し、お昼頃。蕎麦って言う麺類を食べたり、お茶を飲んだりして一息吐く。健康的な感がして美味しいね~。


「これがKIMONOとやらか……なんか動き辛いな」

「シュティル殿は普段から薄着だからな」

「フッ、我も中々に似合うだろう」


 それからまた町へ繰り出す。着物を試着してみたり、ヒノモト特有の物品を見たり午後の時間も楽しめた。

 すっかり時間が経ち、日が落ちてきた頃合い、私達は人通りの少ない場所に来ていた。


「あれ? ここ、どこだろう?」

「分からないなー。町を見渡せる良い場所だけど」

「ああ、此処は“忘れ去られた丘”だ」

「「忘れ去られた丘?」」


 この場所、“忘れ去られた丘”。

 一応名前のある場所みたいだけど、その名前からして名所とかじゃないみたいだよね。

 私とボルカちゃんの言葉にレモンさんは言葉を返す。


「ああ。いつからあるかは分からないが、遥か昔から存在している丘だ。ま、地形と言うものはそうそう変わらぬ。いつからそう呼ばれているのかも分からないという意味合いでの名かもな」


 町全体を見渡せる、緑や花に囲まれたキレイな丘。なのに誰も近付かず、忘れ去られたと言う名が付けられた場所。

 なんだろう。よく分からないけど、不思議な感覚。心が落ち着く感じがする。

 風が髪を撫で、周りを見渡しているとふと足元の石碑? っぽい物に気付いた。


「なんだろう。これ……文字は掠れて読めないや。大きいのと小さいの……」

「大きいと言っても両手で抱えられるサイズだなー。何かを祀ってるのか?」

「不思議な石碑ですわね」

「この感じ……お墓……の一種じゃないかしら?」


 お墓。この大きい石碑と小さい石碑がそうなのかな。

 ウラノちゃんの知識から割り出された答えがそれなら間違いないかも。

 でもこんなこじんまりとした所にお墓なんて……不思議。


「フム……では埋葬されているのか。もし本当にそうならこの石の古さからして何千年も経過しているんじゃないか?」

「そうね。あくまで目測だけど、三千年から五千年は経過してるかも」

「そんなに……」


 シュティルさんとウラノちゃんが話す。

 三〇〇〇年から五〇〇〇年前のお墓。英雄達の時代よりも遥かに昔。

 それが風化しないでここまで残ってるのはスゴいかも……。お墓参りされた形跡も手入れされた感じも無いもんね。


「掘って中に骨でもあれば分かるが、それでは罰当たりだな。しかし何もせずに立ち去るのも悪い。ちと掃除をしてやろうか」

「あ、それいいかも! ずっと一人……二人かな? しか居ないもんね。二人なら寂しさも少ないけど、やっぱりちょっと可哀想」

「フッ、死者に対してあまり同情するものではないぞ。取り憑かれてしまうからな」

「そ、そうなの!?」


 取り憑かれる云々はともかく、折角来たんだから数千年振りのお掃除をしてみる。

 エメちゃんにユピテルさんにシュティルさんも納得してくれた。と言っても周りの雑草を抜いたり、お花を添えたりさっき買ったお団子を添えるくらいしか出来ないけどね~。


「それ! “洗浄草”!」

「水魔法を多めに使った植物魔法か。長い年月を経て崩れ易くなってるかもしれぬから気を付けるのだぞ」

「うん!」


 濡らした葉っぱで石碑を拭く。ボルカちゃんが軽く熱で乾かし、周りの雑草も処理。

 既に台座から崩れていたからそれも直したけど、誰かが簡易的に造ったみたいな感じ。理由があってちゃんと弔えなかったのかな?

 でもバッチリピカピカにしたよ! 範囲は狭かったからそんなに時間も掛からずお墓? 掃除を終える事が出来た。

 後はお団子とお花を添える。手を合わせ、一仕事終えた私達は伸びをした。


「さて、そろそろ戻るとするか。まだ人は多いと思うが、川沿いの夜桜なれば歩きながらでも見れよう」

「ふふ、楽しみ~」


 今から町に戻れば丁度夜桜が見える時間帯になるみたい。

 そうと決まれば善は急げ。私達はお墓を後に町の方へ──


「……あれ?」

「ん? これは……」


 ──戻ろうとした時、私達の上から桃色の何かが降ってきた。

 頭に付いたそれを取り、確かめてみる。って、これ……。


「桜の……花弁はなびら?」

「だよなぁ? 一体何処から……」


 そして私達は頭上を見上げた。


「こ、これって……」

「デッケー桜……!」

「嘘!? さっきまで何もありませんでしたわよ!?」

「一体どういう原理で……蜃気楼の一種かしら?」


「うわ~……スゴくキレイです……!」

「ああ、そうだな。長い事このヒノモトに居るが、これ程までに立派な桜は初めてだ……!」

「美しい……」

「そうだな……」


 ──そこにあったのは、大きな大きな桜の樹。

 石碑のあった後ろの樹が桜となっており、沢山のお花を咲かせて風が吹き、桜が吹雪く。

 夕日に照らされて少し薄い花弁は透き通り、とてもキレイな光景が作り出されていた。

 私達はしばらく時間も忘れて見惚れてしまい、ハッとする。


「……ふふ、ここの主さん。私達にお礼してくれたのかな♪」

「かもな。ティーナの優しさが物理法則も越えちまったぜ!」

「とてもキレイですわ……」

「ちょっと魔力の気配を感じるかも……原理はあると思うけど……今は良いかな。綺麗だもの」


 もしも持ち主が居るのなら、その人の感謝として受け取っておこう。お礼にこんな綺麗な桜を見せてくれたんだもん。受け取らない方が失礼だよ。


「これで華々しく中等部の二年生デビュー出来んな!」

「うん。そうだね。ボルカちゃん!」


 もう私達は中等部の新入生じゃない。後輩を持つ事になる先輩の立場。

 こんなにキレイな桜が見送ってくれるなら、今後の生活も安心出来るかも。根拠は無いけど、この景色が自信に繋がる。


 私達、中等部一年生最後の旅行。肝心のお花見は叶わなかったけど、最後の最後でとても大きなサプライズがあった。

 これならきっと私達はやって行けるね。


 “魔専アステリア女学院”に入学して早一年。私は今受け取った希望を胸に、この桜を眺める。

 お友達に先輩に後輩に部活動。学業。これからもきっと様々な出会いがあると、そんな確信が私の中にある。

 私の新しい生活は、まだ始まったばかりなのだから。


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