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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
161/457

第百六十一幕 ダイバース・新人代表戦・終幕

「ううむ、負けてしまったな」

「惜しかったね。レモンさん」

「フッ、これ程の僅差。大健闘ではないか」


 試合の後、私とユピテルさんは控え室に行き、残念そうに肩を落としているレモンさんを励ます。

 接戦であり、本当に僅かな差の勝敗。悔しい気持ちはよく分かるよ。

 だけど人間の国の代表として、胸を張って行動しなきゃね! って、二回戦で調子を崩して負けちゃった私が言えた事じゃないけど。


「仕方無い。総合ポイントの発表自体はまだ。一抹の希望だけを抱き、閉会式に臨むとするか」

「そうだね。拮抗していたからまだ結果は分からないかも!」

「我からは何も言わずに置こう。何故ならば一回戦の第一試合以降活躍しておらぬからな!」

「自信満々に言うでない」

「アハハ……」


 結果発表はまだ。元々僅差だったから不安だけど、一応可能性は残しておく。

 控え室を出、選手一同は会場に並ぶ。すぐに司会者さんから結果の発表があった。


《それでは早速!! “多様の(ダイバース・)戦術による(タクティクス・)対抗戦(ゲーム)”!! 新人代表戦!! 個人の部!! 順位発表をしてしまいましょう!!》


「「「どわあああああああァァァッッッ!!!!!!」」」

「「「うおおおおおおおおぉぉぉッッッ!!!!!!」」」

『『『グギャアアアアアアァァァッッッ!!!!!!』』』

『『『キュオオオオォォォンンンッッッ!!!!!!』』』


 いきなり来るんだ……! 会場の盛り上がりは更に大きくなり、相反するように選手達には緊張が走る。

 周りの歓声が聞こえなくなったんじゃないかと思う程の静寂。高まる緊張感。次第にお客さん達も静かになり、司会者さんから結果が告げられた。


《なんと!! 今回の三位は同率です!! 引き延ばしても仕方無いので申しましょう!! 魔族の国と幻獣の国が同率で三位となりましたァァァッ!!!》


「「「どわあああああああァァァッッッ!!!!!!」」」

「「「うおおおおおおおおぉぉぉッッッ…………!!!」」」

『『『グギャアアアアアアァァァッッッ!!!!!!』』』

『『『キュオオオオォォォンンンッッッ…………!!!』』』


 今大会、三位は同率となり魔族の国と幻獣の国が入賞した。

 魔族のお客さんと幻獣のお客さんからは落胆の声。実質最下位とも言えるもんね。その気持ちは分かる。

 けど三位が同率という事は、次に決まるのは人間の国か魔物の国。どちらかの優勝。

 その答えは今告げられる。


《“多様の(ダイバース・)戦術による(タクティクス・)対抗戦(ゲーム)”!! 栄えある優勝は──一位!! 魔物の国となりましたァァァッ!!!》


「「「どわあああああああァァァッッッ…………!!!」」」

「「「うおおおおおおおおぉぉぉッッッ!!!!!!」」」

『『『グギャアアアアアアァァァッッッ!!!!!!』』』

『『『キュオオオオォォォンンンッッッ!!!!!!』』』


 ──魔物の国となった。

 二位を最初に発表しちゃうと目玉の一位も分かっちゃうもんね。だから一位からの発表。

 人間の国は残念ながら二位。準優勝って事だね……うーん、残念。


《今年は新一年生の躍動もあり、人間の国は惜しくも準優勝でしたが去年の三位から上がる事に成功しました! これは来年が更に期待出来そうです!! えー、それでは優勝した魔物の国へインタビューを──》


 こうして発表と閉会式が終わりを迎える。

 結果としては残念だけど、順位自体は上がったらしい。来年にまたリベンジって事だね……!

 よし、頑張ろう!



*****



「……」


 ──余韻が残るダイバース代表戦の会場。夕焼けが全体をオレンジに染め、その景色が更に拍車を掛ける。

 選手達もそれに浸る人が多く、閉会式後もしばらく何人か残っていた。


「ティーナ。惜しかったなぁ~」

「けれど上々でしたわ!」

「どんまい。それとお疲れ様」

「頑張ったぞ~! 私の後輩!」

「よくやったな」

「頑張りましたねぇ~」


「ボルカちゃん。ルーチェちゃんにウラノちゃん。メリア先輩、レヴィア先輩にリタル先輩まで」


 余韻に浸っていると、観客席に居たボルカちゃん達がやって来た。

 最後まで応援してくれてたけど、早々に負けちゃった私は決勝戦には出ていなかったからちょっと悪いなぁって感じたり。

 だけどみんなの顔を見るとなんだか安心する。それと同時に、大会が終わっちゃったんだな~って寂しさも少々。


「お、ボルカ・フレム殿らだな」

「まだ会場に残っていたか。フッ、我も人に言えんがな」


「オッス~。レモンにユピテル~」


 続くようにやって来たレモンさんとユピテルさん。同じ学校のチームメイトが居ないから、現地解散したのかな。

 更に少し遠くにはエメちゃんの姿もあった。近寄り難いって感じの様子。掛ける言葉が見つからないとかかな?


「おーい! エメちゃんも来なよ~」

「は、はい!」


 だから私が呼んだ。

 待っててくれたのに遠くから見てるだけなんて寂しいもんね。

 私も自分自身に思い当たる節はあるからエメちゃんとは気が合う……って勝手に思ってる。

 何はともあれ、いつものメンバーっぽくなったレモンさんとエメちゃんにユピテルさんも加わり、私達は和気藹々と過ごす。


「それで、これからどうするんだー? 基本的には自分らの国に帰る事になると思うけどさー」

「私達ももう長期休暇にも入るからねぇ。“魔専アステリア女学院”は明日が終業式だから今日は結構のんびり過ごせるね!」

「そうか。私達“日の下(ヒノモト)”はもう既に終えているぞ」

「そうなのか。我らもそろそろだ」

「わ、私達もそれくらいです!」


 ボルカちゃんの言葉を筆頭に、これからについて話し合う。

 私達とユピテルさんとエメちゃんはそろそろ終業式。レモンさん達は既に終えているんだって。

 そんな感じで結構時間には余裕がある。そこで、ルーチェちゃんが挙手して自信満々に言葉を発した。


「ふふん! そんな事もあろうかと、わたくしがまた打ち上げのパーティー会場を用意しておきましたわ! 今回はなんとこの会場付近! 転移の魔道具も近くにあり、皆様が十分楽しんだ後でも帰れます事よ!」


「「「おおおー」」」


 ボルカちゃん、レモンさん、ユピテルさんから声が上がる。

 流石のルーチェちゃん。お祝い事とかに抜かりは無い、恐るべしその執念……!

 なんてね。お陰でみんなと楽しめるからスゴく感謝してるよ!


「ではそのご厚意を受け、準優勝記念に行くとしよう。定員は何人までだ?」

「フッフッフ……レモンさん。私をあなど事勿ことなかれ……ですわ!」

「いや別に侮っていないが……」


 レモンさんに訊ねられ、得意気に笑うルーチェちゃん。

 バッ! と手を翳した。


「レストランのあるホテル一つを丸々貸し切りにしましたの! 故に、定員はその最大数まで可能ですわーっ!」

「おお……しかし、それでは他の客人に迷惑が掛からないか?」

「安心して下さいまし! 大会も終わり、近隣からは大会時より人も減りますわ! なのでその想定人数を把握し、決して迷惑にならないよう配慮した上で完璧に仕立て上げておりますの!」

「フム……よく分からないが、大丈夫という事だな」


 他のお客さん達には迷惑にならない範疇での貸し切り。何人や何匹かは残るとして、その数を熟知した上でそうしたらしい。

 流石のルーチェちゃん。さっきから流石としか返す言葉が見つからない。


「では、観戦に来てくれていた“神妖百鬼学園”の者達も呼ぶとしよう。出口で待たせてあるから丁度良い。態々(わざわざ)応援してくれた者達だ。ルーチェ殿の配慮であって私の力ではないが、こう言う形でも誠意を示しておきたい」


「そう堅苦しくせずともよろしくてよ! 私が好きでやっているのですから!」


「では我の学院の者達も呼ぶとしよう」

「わ、私のチーム仲間も……」


「どうぞどうぞ! まだまだ余裕がありますわ!」


 そんな感じでチームメイトとか応援してくれた学校全体の人達を呼んで大きなパーティーをする事になった。

 世界大会だもんねぇ。そりゃ学校を挙げて応援するよー。

 でも四校くらいの人数なら余裕で収まる範囲。全員と言う訳でもないからね。あくまで友人とか先輩達のクラスメイトとかその程度。

 何はともあれ、そうと決まれば私達はその場所へ向かう事に──


「ふふ、お疲れ様。貴女達」

「……!」


 すると、一つの声が掛かる。

 耳馴染みのある声。その人は先日卒業した、


「ルミエル先輩にイェラ先輩!」

「来ちゃった♡」

「用事を切り上げて迅速にな。本当ならば初日から応援してやりたかったが、それは叶わなんだ」

「もう、イェラったら。事細かく説明し過ぎよ」

「来た理由と来れなかった理由は簡潔に述べた方が良いだろう」


 先輩達二人。

 そう言えば観客席には居なかったけど、まだまだ忙しい筈なのにわざわざ来てくれたんだ。

 面倒見の良い優しい先輩だね!

 すると、会場の方はちょっとした騒ぎになっていた。


『お、おい。あれ!』

「ルミエル・セイブ・アステリアとイェラ・ミール……!?」

「本物……!?」

「なんであの有名人が……!?」

『なんでってそりゃあ、“魔専アステリア女学院”の卒業生だからだろう』

『観客席に居たのか……!?』

「もしそうなら見過ごしてしまった……!」

「わあ~すごーい!」

「サイン貰っちゃおっかなー!」


 アハハ……ルミエル先輩達の人気は相変わらずだ。本当にスゴい有名人だもんね。多分知名度で言えば世界一位。

 私みたいに一歩も敷地内から外に出ない人でも映像伝達の魔道具から知る事が出来るし、特にそう言うのを見る事もなくて知らなかった私の方が珍しいくらいの超超超有名人。

 撤収準備を整えていた魔道具使用者も慌てて映像伝達や音声伝達の魔道具を取り出し、ルミエル先輩を映した。


《な、なんと皆さん! あのルミエル・セイブ・アステリアが少し遅れ、ダイバース新人代表戦の会場に来てくれましたァァァッ!!!》


 司会者さんも乗り気。本当にスゴい影響力……。

 大会終わりの余韻はすっかり消え去り、慌てて会場に戻ってくる人達の姿もチラホラ。


「オイ、一瞬で囲まれてしまったぞ」

「そうねぇ。せっかく私達もパーティーに参加しようと思ったのだけれど……ふふ、貴女達は先に行ってて。軽くインタビューを受けたら行くから」


「は、はい。頑張って下さい!」


「ええ。可愛い後輩達と過ごす為、サクッと終わらせちゃうわよ♪」


 数日くらいだけど、久し振りにルミエル先輩と過ごせると思った矢先の出来事。でも流石に手慣れており、軽く流すように当たり障りの無い言葉でインタビューを受けていく。

 レモンさん達のチームメイトさんとかもルミエル先輩と一緒に行きたいって人が現れ、一先ず今行ける人選でルーチェちゃんの予約したホテルに向かうのだった。



*****



「それでは、カンパーイ! 因みに酒などではありません事よ!」


「「「イエーイ!」」」


 な、なんだろうこのノリ。私はあまり得意じゃない感じ。

 でもみんな盛り上がってるから取り敢えずグラスだけ掲げ、後は席について食事を摂る事にした。

 同じくこのノリが合わないエメちゃんや、軽く音頭だけ取ったボルカちゃん達も近くに集まる。


「すげー盛り上がってんな~」

「アハハ……大所帯だもんねぇ」

「私はちょっと落ち着かないかもしれません……」


 飲み物を含み、食事を摂りながら会話の方も進める。

 私達のマナーはなってないけど、パーティーとか宴とかはこんな感じだもんね。ある程度は慣れちゃった。ノリには付いて行けないけどねぇ。


「それにしても、惜しい試合だったな~」

「本当にそうだね~。順位表を見たけど、レモンさんがシュティルさんを倒し切れなくても、私達があと何人かを倒せていれば優勝出来たんだよ~」

「それは本当に惜しいですね」


 今日の事を振り返る。

 なーんか私の調子が崩れちゃって結果が振るわなかった感じ。

 あそこでああしていれば、あの場面でこうしていれば。思い返しても直すべき点が多くてやっちゃったな~って気分。

 そこにまた声が掛かる。


「問題無かろう。このユピテル殿なんぞ一回戦のして力を込める必要も無い試合で全力を使い、後は疲弊していたのだからな」

「それについては反省するが、テンションが上がったのだから致し方無い」

「開き直るでない」

「ま、お陰で私達魔物の国が優勝出来たがな」

「アハハ……って、シュティルさん!?」

「よっ。お邪魔しているぞ」

「なぜ貴女が……」

「レモンに誘われたのだ。折角だからとな。折角ならと乗ったまで」

「私も居ますよー! 大会ではあまり目立たなかったけど!」


 いつの間にかレモンさんはシュティルさんを誘っていたみたい。そしてエキドナのキドナさんも居る。

 人数は多い方が楽しいけど、あまりにも自然過ぎて驚いちゃった。


「ま、これからも大会に出場する機会があればよく当たる事にもなろう。その時は手加減せぬぞ。もっと剥がれ難いクリームを使う」


「フッ、なればそれを剥がすのみ。私達はまだ中等部の一年。今年で二年か。序章も序章の発展途上に過ぎぬからな。その時が楽しみだ」


「私としても楽しみにしておこう。代表戦が高難易度なのは理解していたが、まさかこれ程までの実力者が居るとはな」


 えーと、共に高め合うライバル関係って感じかな?

 いいね。憧れちゃう。そんな存在。

 シュティルさんは私の方を見た。


「今度はその力を完璧に身に付けた君とも戦いたいところだ。ティーナ・ロスト・ルミナス殿」


「アハハ……お手柔らかに頼みます」


 なぜか私もライバル認定されちゃった。

 シュティルさんとの試合は後半の方が朧気おぼろがだけど、私がなんかスゴい力を使ったのかな?

 ふふ、もしそうならちょっと嬉しいかも。何の取り柄も無いって思ってたから、周りから認められるのは楽しい♪


「──ふぅ、やっと撒いたわね」

「やれやれ。丁寧に対応してるからだぞ」


「あ、ルミエル先輩にイェラ先輩」

「あの者達が……ルミエル・セイブ・アステリアにイェラ・ミールか……何度も見た事はあるが、こんなに近くでは初めてだ」


 話しているとルミエル先輩達がインタビュアーさん達を撒いてやって来た。

 パーティー会場はより一層盛り上がり、シュティルさんは二人を見定める。


「フッ、いずれは一手ご教授願いたいものだ。人類最強の二人……学年が合わず、そう言う機会には恵まれなんだ」

「フッ、私は早いうちにティーナ殿らと知り合っていたからな。お陰で体験出来た」

「羨ましいやつだ。私の血族は何度か合っているのだがな」

「シュティル殿の血族か」

「ああ」


 やっぱり強い人は強い人に惹かれるのかな? そう言うものなのかも。それにシュティルさんの家族はルミエル先輩達とも面識があるとか。人の縁って不思議だねぇ。

 何はともあれ、先輩達も合流した所でパーティーは更に盛り上がっていく。だけどこの日々もそろそろ終わり。ルミエル先輩達は進学しちゃうもんね。

 だったらと、せめてこの機会だけは楽しむ事とする。


 ダイバース。新人代表戦。個人の部。それは知り合いがまた増え、無事に終了する。

 明日からの長期休暇も満喫しちゃおーっと! お休みが終わったらいよいよ新学期! 二年生だね!

 私の初代表戦は、これにて終わりを迎えるのだった。

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