表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
16/451

第十六幕 戦略的撤退

「行くぜェ!」

「……っ」


 バロンさんは踏み込み、足元の地面を盛り上げる。

 そのまま駆け出し、私の方へと突進してきた。……って、私の方……!?

 ボルカちゃんの方に行かれても困るけど、この威圧感でされるのは少し怖い……。


「来ないで~!」

「また植物魔法か。才能に溢れた子だ」


 地面から大木を生やし、バロンさんの拳を受け止める。それは即座に砕かれたけど、私に直撃はしなかった。

 そのまま近くの木にツタを伸ばして距離を置く。


「木の枝に狙いを定めて着地出来るスキルも持ち合わせているか。何で無名なのか分からねェくらいだ!」


「わわわ……!」


 私の立った木に回し蹴りが打ち込まれ、粉砕される。木は音を立てて倒れた。

 手だけじゃなくて足もこの威力。足って手の三倍の威力なんだっけ。そりゃこんな破壊力になるよね。

 倒木した樹からなんとか隣の樹に跳び移り、そこから更に蔦を伸ばして距離を置く。

 私の戦い方を思えば近距離より中、遠距離型。そもそも例え近距離型だとしてもバロンさんと正面から立ち合いたくない……!


「距離を置けば大丈夫と思うか?」

「……え?」


 頬に何かが掠り、背後の木が倒れる。

 ツーっと血が流れ、恐る恐る何が撃ち込まれたのかを確認した。


「石……ころ……?」


 木目に埋まっているのは小さな石ころ。え? つまり石ころを指で弾いただけで銃弾みたいな破壊力になったって事……?

 ……え?


「怖い……」

『怖いわね』


 あの人怖い……。“闘王”の異名に恥じない実力者。

 ……というか、改めてあの人の蹴りを受けて戦線に復帰出来たボルカちゃんもスゴい……。


「次はオレのターンだな!」

「ずっとアナタのターンです……」


 そんな事を考えているとバロンさんが跳躍して私達の前にやって来た。人ってこんなに飛べるっけ……。

 私は逃げるように飛び降り、ママに魔力を込めて乗っている木を成長させる。


「……! 樹木に魔力供給からなる急成長を促したのか。自分の魔法から創るだけじゃなく、既にある自然物に生命を付与するとは驚きだ」


 成長した枝がバロンさんに絡み付き、その動きを抑制する。

 あの豪腕ならすぐに解かれそうだけど、少しでも足止め出来るなら上々だよね。


「ボルカちゃん!」

「ああ、ティーナ!」


 ボルカちゃんを呼び、着地して森の奥へ。

 今の状態こそ特訓した想定通りの事態。相手が圧倒的強者だった時の対策は練って来た。

 と言うか、ルミエル先輩にそうするよう言われてきた。だからバロンさんの相手は私達が務める算段。

 その為の大変な特訓だったもんね……。


───

──


【──もうダメ……】

【やった! ルミエル先輩! メリア先輩を捕まえましたよ!】

【フフ、よくやったわ】

【ひどいですよ部長~!】


 逃げ回っていたメリア先輩を捕まえ、私はルミエル先輩に報告する。

 先輩は微笑んで返し、更に続けた。


【それじゃ、次は貴女達が逃げる番よ】

【私達がですか?】

【アタシはまだ何もしてないけど逃げるんですか?】

【ええ。明日の相手は中々強いから逃げる特訓もしておかなきゃ】

【敵から背を向けるのはアタシの性に合わないなぁ】

【合う合わないじゃなくて、それが戦略に繋がるのよ】

【【戦略に?】】


 私達の声がハモる。

 ルミエル先輩はニッコリと笑って返した。


【ええそうよ。そこが戦場なら逃げるのは許されない事が多いけど、限られたフィールド内での逃走はただの撤退だけじゃなくて次なる戦略に以降させる為の手段になるの。自分の実力に自信がある子は正面から来る事が多いし、貴女達は二人居るからより緻密ちみつな戦術を立てられるわ】


【えーと……よく分からないですけど、取り敢えずやってみます】

【まあ、特訓らしいしな~】


【フフ、貴女達にはとてつもない才能があるけど、その才能が育ち切る前では貴女達より経験を多く積んだ強敵がきっと現れる。本当に強い相手だと戦ってすぐに気付くから、その時は今日の特訓を思い出しなさい】


【【はーい】】


──

───


 ──それから私達は部活終わりまで強敵から逃げる為の特訓を重ねた。

 それはもうキツくて、逃げるのってこんなに大変で怖いんだって思ったよ……。昨日の事だから昨日の事のように覚えてる……あれ?

 とにかく、こんなに早く成果を出す時が来るなんて、ルミエル先輩は全てを見越していたのかな? そうだとしたらやっぱりスゴい人だ。


「それじゃボルカちゃん!」

「よし。手筈通り!」


 そこで私とボルカちゃんは二手に分かれる。

 私は更に森の奥へ。ボルカちゃんは立ち止まり、バロンさんの足止めを。


「ハッ、急に背を向けたと思ったら。テメェが囮になってあの女を逃がす算段か!」

「ま、そんなところかな。センパイ。相手してくれよ」

「生意気な後輩だ。良いだろう。まずはテメェからぶっ潰す!」


 すぐに追い付いたバロンさんが大地を踏み砕く勢いで加速し、ボルカちゃんとの距離を詰めた。

 ボルカちゃんは片手に魔力を込め、火炎を放出して焼き払う。

 両手でその中を突破したバロンさんは構わず突っ切り、その拳をボルカちゃんの腹部に打ち付けた。


「だらァ!」

「……ッ!」


 勢いよく吹き飛ばされ、バキバキと周りの木を倒壊させる。

 相変わらずスゴい破壊力……。ボルカちゃんを吹き飛ばしたバロンさんは私の前に現れる。


「足止めにもならなかったな。ワンパンだった。さて、次はテメェの番だぜ。珍しい人形使い」


「……っ」


 凄まじい威圧感で正面に立たれるとやっぱり怖い。攻撃もスゴく痛そうだし、今すぐこの場から逃げ去りたい気分。

 けどそんな訳にはいかない。私にはママが居てくれるもんね!


「ママ!」

『ええ、ティーナ』


「何がママだ! 甘えたいならさっさと負けて帰れば良いだろ!」


 踏み込み、一瞬で眼前に。回し蹴りが側面から打ち付けられ、私の体は吹き飛ばされた。

 痛い……けど、耐えられる! 吹き飛ばされるのも想定内……!


「勢いそのまま……!」

「……! ツタのネット……? いつの間にこんな物編み込んでやがった」


 私の現在地は周りに蔦からなる網で囲んでいた。地面に叩き付けられたらどうしようもないけど、今までのやり方からして正面か横方向に吹き飛ばしてくるのは知ってたから……!

 だから私はネットに包まれた。威力はそのまま利用出来る!


「そーれ!」

「……!? 足元に……竹!?」


 竹の成長速度と繁殖力はかなり高い。図書室から借りた植物図鑑にそう書かれていた。

 だから地面にはタケノコを仕込み、私の魔力で成長を促進。大量の竹が同時に伸び、バロンさんの体を自由の効かない空に舞い上げる。

 そして弾かれるように戻ってきた私は……!


「やあー!」

「植物の壁……! そして大木か……!」


 私の正面には強固な植物の壁を。全方位からは成長速度を高めた木々で挟み込む。

 バロンさんはなんとか空中で動ける範囲で両手を広げ、魔力を込めて押し潰された。

 私は着地し、木々に目を向ける。


「ハッ、逃げると見せ掛けて色々準備をしていた訳か。だが、オレの体を完全に潰すまではいかなかったようだな!」


「そうみたいですね……」


 なんて硬い筋肉。それでいて柔軟性もある。本当に完璧に近い肉体……。

 これで私の万策は尽きた。


「経験の浅い中等部にしてはよく頑張ったが、終わりだァ!」

「……!」


 魔力が込められた拳が私の眼前に迫る。

 次は──


「“ファイアランス”!」

「……!?」


 ──私“達”の番。

 吹き飛ばされ、植物のネットを伝ってバロンさんの背後に回り込んでいたボルカちゃんが遠方から炎の槍を射出。その体を貫いた。


「テメ……なんで……!」


「無事かって? 元々アタシが飛ばされ、その硬い体に熱い炎で仕掛ける算段だったのさセンパイ! 一回で粉々になっちゃったけど、ティーナが用意してくれた木の鎧で直撃は避けた! 超痛かったけど!」


「ハッ、全部計算済みってか!」


 奇襲は成功。だけどそれだけじゃ倒れない。

 バロンさんの頑丈な肉体に物理的な攻撃は通じないからこそボルカちゃんの熱が必要不可欠。さて、次の作戦を練らなきゃね。


「だが一回切りの作戦。二度は通じねェぞ!」

「……木の枝?」

「あ、私の竹」


 近くの竹を引き抜き、グルグルと振り回す。

 長さは五メートルくらいでかなり大きいけど、バロンさんは難なく持ち上げられていた。

 それによって巻き起こる風圧は凄まじい。


「オレは剣術から槍術。色々と使えるんだ。その辺に落ちている木の枝やこの竹も、オレの魔力で強化すれば建物くらい簡単に粉砕出来る得物となる。第二ラウンド開幕だ……!」


「……っ」


 どうやら色々な武器の扱いにも慣れてるみたい。流石に凶器は使わないけど、バロンさんの魔力強化からなる物なら遜色無いね……。


「二人まとめて相手にしてやる。行くぞ!」

「「……!」」


 大きく回し、竹が辺りを薙ぎ払う。

 それによって近隣の木々は倒木し、バロンさんを中心に半径十メートルは拓けた場所になった。

 五メートルくらいの竹でこの範囲をメチャクチャにするなんて……スゴい力……。

 踏み込み、私の方へと縦に振り下ろす。


「ママ!」

『“プラントウォール”!』


 その竹は植物の壁で防ぎ、隙間からバロンさんの場所を把握。側面からはボルカちゃんが仕掛けていた。


「そーら!」

「……! 杖? テメェ、魔術師じゃなかったのか」

「両刀使いだよ。ダブルミーニングでな!」

「そうかよ!」


 杖を持ち出し、バロンさんの体を弾く。

 そのまま魔術方面で炎の剣を作り出し、魔力強化された竹と打ち合う。

 本来なら植物。竹は特に火に弱いけど、あれ程の強化が施されているもんね。問題無く戦えるみたい。

 けどやっぱりボルカちゃんもスゴい。魔法と魔術だけじゃなくて剣術も扱えるんだ……って、見惚れている場合じゃないよね!


「えい!」

「相変わらずの馬鹿げた質量だ……!」


 周囲の切れた大木を再成長させ、お辞儀するようにバロンさんへ降り注ぐ。

 それらも薙ぎ払われ、そのたびに再生して押し掛ける。埒が明かないと判断したのか飛び退き、木の上にてボルカちゃんと応戦する。


「厄介だな。オレァさっさと終わらせてルミエルと戦うんだ!」

「アタシ達は眼中にないってか!」

「そうじゃねェ。こっちも色々とあんのさ!」


 竹を一閃。全てを薙ぎ払い、ボルカちゃんは私の近くに着地する。蔦ネットも破れちゃったね。

 今もなお成長を続ける植物の上でバロンさんは言葉を続けた。


「こちらの戦いはすぐに終わらせる。決着と行こうじゃねェか!」

「負けません!」

「アタシも負ける気はないよ!」


 足元の植物を切り裂き、改めて私達の前へ。

 怖い人だけど、私とボルカちゃんなら行ける気がするよ……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ