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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
159/457

第百五十九 新人代表戦・決勝

 ──控え室。


「……!」


 目が覚めたら私は控え室に居た。

 えーと……あ、そっか。負けちゃったんだ。二回戦敗退かぁ。

 一応総当たり的な感じだからまだ試合は行うけど、なんかドッと疲れた。魔力にはまだ余力があるし、大した傷も負ってないんだけどね。

 結局倒せたのはニトラさんだけ。うーん、でも記憶が飛び飛び。変な感覚……。

 すると控え室の扉に手を掛ける音が。ゆっくりと開き、レモンさんとユピテルさんが入ってきた。


「目覚めたか。ティーナ殿」

「起きたのなら何よりだ」

「うん……けど負けちゃった。ごめん」

「謝る事は無かろうて。此奴こやつなんぞ、既に魔力が切れ切れで足手纏いなのだからな」

「少々トゲのある言い方だな。それについてはしかと、我のテンションが上がったと言うれっきとした理由があろうて」

「より問題ではないか!」

「ふふ……」


 レモンさんとユピテルさんのやり取りを見て少し和む。心のモヤモヤがちょっと晴れたかな。

 ついでに聞いてみる。


「どれくらい気を失ってたのかな? 私。会場の方もなんか異質な雰囲気感じたけど……司会者さんの勝者発表の時」


 記憶を失う直前だから本当にうっすらとしか覚えてないけど、会場の雰囲気がおかしかった気がする。

 それについて訊ね、レモンさんは答えてくれた。


「ああ、それだが、何処からかともなく植物が現れてな。ちょっとしたパニックになったのだ」

「植物が!? ……そ、それって私のかな……」

「どうであろうか。確かに人為的な力はあったが、ティーナ殿の力かと問われたら言い淀む。何故なら会場からステージは転移の魔道具で移動出来る分、かなりの遠方にあるからな」

「そうだよね。私にそんな力なんてないし……」

「いや、真偽は不明だ。ティーナ殿の魔力なればあり得る可能性でもあろう。もしそうならその魔力を鍛え上げれば敵無しになれるぞ」

「そ、そうかな……」


 会場ではプチパニックになっていたみたい。だから変な感じがしたんだ。

 突如として植物が現れた。それは偶然にも私達が植物魔法を使ったタイミング。記憶が曖昧でよく覚えてないけど、何かした可能性はあるのかも。でも分からないものは仕方無いよね。


「取り敢えずどうだ? もう戻れるか?」

「うん。ちょっと変な感じだけど大丈夫だと思う」

「そうか。あまり無理はするなよ」

「君も人間の国の主力だからな」

「ティーナ殿まで戦力外になっては話にならぬからな」

「まるで我が戦力外みたいな言い分だな。失敬なやつよ。見てよ、次の試合ではこの状態でも活躍して見せよう」

「私も現時点ではティーナ殿とユピテル殿よりポイントも低い。点を取らなければな」

「アハハ……二人とも頑張って」


 人間の国のポイントで言えば一番がユピテルさん、二番が私、三番がレモンさん。

 あ、でもさっきニトラさんを倒したからポイントはユピテルさんと並んだかも。昨日の試合ではユピテルさんが半減している状態でもポイントを取っていたもんね。

 ここからは更に激しい試合になると思うから頑張らなきゃね。

 一先ず会場に戻り、次の試合を観戦してみるのだった。



*****



「ありゃりゃ……本当に植物まみれ」

「そうだろう? 仮にこれがティーナ殿の力なれば凄まじい事が出来ると思わないか?」

「私のならね~」


 会場は現在、植物の処理の為に職員さん達が対応していた。

 自然の物もいくつかあるけど、魔力から作られた物もチラホラ。複雑に混ざり合って強化された植物って感じ。ますます私達の植物魔法にそっくり。……と言うか、本当にそうなんじゃ……。

 何はともあれ、手練れだからサクッと片付けられて試合開始となる。

 だけど……。


「うむ……大変だな」

『ぐわあ!』

『一回戦の気迫が無くなっているぞ!』

『貰った!』


 弱体化してるユピテルさんは思ったように力を振るえず、結果として一試合に一人倒すのが関の山。弱っていてこれだから十分スゴいんだけどね。

 次の試合のレモンさんは万全の状態であり、破竹の勢いで踏破していく。


「フッ……」

「これがヒノモトの侍か……!」

『隙ありィ!』

『させるか!』


 木刀を振るい、確実にポイントを稼ぐレモンさん。一試合平均2ポイントで、人間の国の順位を押し上げていく。

 そして私もまだ万全には程遠いけど、やれる範囲でやっていく。


「えい!」

「先程の迫力は無いな」

『だが、精神的には安定しているように思える』

『しかし代表戦の平均と言う感じで脅威的ではないぞ!』


 植物魔法をもちいて拘束や炎魔法との合わせ技で倒していく。

 一人か二人を倒せる感じであり、貢献度で言えば中くらい。

 そんな調子で二日目も終わり、残りの試合にも差し掛かる。

 そしてついに最終日。残念ながら私とユピテルさんは決勝戦まで残る事が出来ず、その試合にはレモンさんとシュティルさん。そして魔族の国の最上位者と幻獣の国の一位が戦う事となった。


「頑張れー!」

「我の分まで戦って来るが良い」

「ユピテル殿の場合は半ば自業自得だがな。しかしまあ、人間の国のポイントは魔物の国と大差無い。魔族の国と幻獣の国もして離れていないのを思うに、この試合で勝ったチームが順当な優勝と言えるだろう」


《それでは!! 選手の皆さんは次の舞台となるステージへ──》


 決勝戦、開始。

 レモンさんはステージへと赴き、モニターにはその光景が映し出される。

 今回のステージは草原と森と言ったシンプルな物。見晴らしの良い草原から薄暗く、隠れるのに持ってこいな森。一部には建物もあり、シンプルだからこそ戦略の幅は広いと言えるものだった。


「「…………」」

『「…………」』


 始まるや否や、選手達は開始地点から一斉にスタートを切る。

 モニターには選手達の現在地と全体を示すマップがあり、居場所は確認出来る。みんなはそれぞれ近い選手の元に向かっているね。


「……主は幻獣の国のルダだったか」

『ルーナ=アマラール・麗衛門だな』


 レモンさんは幻獣の国の代表とバッティング。相手はガルーダのルダさん。

 伝承では負け知らずの強い神様なんだけど、その血筋なのかな? そしたらスゴい存在が相手って事になっちゃう。漏れなく全員スゴいんだけどね~。


『いざ尋常に勝負!』

「受けて立つ!」


 レモンさんとルダさんの戦闘が開始。木刀と爪がぶつかり合って衝撃波を散らし、草原が土原となった。

 流石に伝承程の力は無いと思うけど、強敵なのには代わり無い。

 一方でシュティルさんと魔族の国の主力も戦闘が始まっていた。


「“無数の剣アダド・ラー・ニハイィ・セイフ”!」

「剣魔術……珍しい力を使うな」


 魔族の国の人は剣魔術の使い手。魔法や魔術で斬撃を作り出す人は居たけど、剣その物を生み出して一気に仕掛ける人は居なかったかも。

 生み出された無数の刃はシュティルさんへ向かい、彼女は特に動かず全て受ける。傷口はたちまち塞がるもんね。銀の刃とかじゃなきゃ効果は薄いのかも。


「ヴァンパイア相手にはこっちだったか。“銀の剣(フィッダ・セイフ)”!」

「それはマズイな」


 そして当然、代表戦にまで残ったような存在はそれを扱う事が出来る。

 剣魔術は土魔術の派生だから、鉱物とかの付与はそんなに難しくないんだって。無敵に思えるような存在が相手でもそれについての対策は既にしているような面々が行う代表戦。改めてレベルの高さがうかがえるね。

 霞となって銀の剣を避け、眼前へ迫って手を翳す。一瞬にして複数の剣を生み出し、衝撃波を防御した。


「中々の反応速度だ」

「まァな」


 ヴァンパイアと剣魔術。今のところどっちが勝つかは分からない状態にあった。

 そしてまた視線を移し、レモンさん達が移るモニターの方へ。こっちも激戦だ。


「はっ!」

『フッ、甘い甘い!』


 木刀を振るい、紙一重でかわしそのままの勢いで眼前に迫って蹴り抜く。

 レモンさんもそれを避け、回転を加えて薙ぎ払った。

 両者には一定の距離が空き、刹那に踏み込んで距離を詰める。

 両方とも近接による近距離戦闘。見応えがあるね。


『はあ!』

「ふっ!」


 木刀と爪がぶつかって弾き、足のバネをもちいて加速。急接近。レモンさんの体を蹴り飛ばした。

 レモンさんは草原を抉りながら後退り、一瞬にしてルダさんが前方へ。


『貰った!』

「いや、前に戦ったイェラ殿に比べれば容易い……!」

『……!』


 追撃の拳に対し、木刀を当てて逸らす。そのまま回り込み、後頭部を打ち抜いて逆に吹き飛ばし返した。

 着弾と同時に粉塵が舞い上がり、その中から鋭い羽が飛んで来る。


「遠距離にも対応しているな。そしてこれは──」

『はっ!』

「あくまで囮や陽動の役割を担うもの」


 羽を避け、飛び掛かったルダさんの蹴りを受け止める。ルダさんは一瞬だけ飛んで離れ、急降下と同時に衝突。レモンさんは当たる前に飛び退いて避け、足元にはクレーターのような穴が造り出された。

 即座に体勢を立て直し、また眼前へ迫る。レモンさんは木刀を振るって迎え撃ち、また衝撃波が散った。


「一撃一撃が重いな」

『お互いにな』


 拮抗してせめぎ合い、押し合いが発生。互いに引いた方に攻撃が届いてやられちゃうような状態。

 それにつきレモンさんは、


「……」

『……!』


 自ら身を引いた。

 これじゃ自分にダメージがいっちゃう筈だけど、次の瞬間にはレモンさんの狙いが明らかになる。


『これは……先程私の攻撃で造られた穴……!』

「ああ。そうさ。そしてこれで……!」


 隣にあったクレーター。

 そこは周りより低くなっているので倒れ込む事で蹴りをかわし、そのまま転がり木刀を支えとして立ち上がる。それと同時に蹴りを放ってルダさんの体勢を崩し、力強く木刀が振り下ろされた。


「終わりだ」

『……ッ!』


 的確に急所を狙い、激突。ルダさんの意識が消え去る。

 それにより、光となって控え室に転移した。


「さて、次の相手は……」


 レモンさんは呟くように見定める。そう、ここでの決着が付いたなら次の相手は──


「これで終わりだ」

「……ッ!」

「やれやれ……銀によって受けたこの火傷は再生しないな」


 シュティルさん。

 魔族の人とは決着が付いており、銀の剣魔術によってそれなりのダメージを負っていた。

 レモンさんもシュティルさんも傷の度合いは同じくらい。

 ダイバース新人代表戦、個人の部は最終局面へと差し掛かるのだった。

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