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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第百五十八幕 暴走・決着

 巨躯のゴーレムが暴れ回り、シュティルさん達を狙う。

 それで思ったけど、速度が少し足りないみたい。みんな速くて避けられちゃう事が多い。それを補う為にも広範囲に仕掛けているけど、まだ倒せそうにない。

 もうちょっと手法を変えた方が良いのかな。これじゃキリが無いもんね。


「あ、そっか。閉じ込めれば良いんだ! “ローズプリズン”!」

「……棘の牢。私は問題無く通り抜けられるが、他の者達は大変かもしれぬな」


 お城の一定範囲をトゲで囲った。

 通ろうとすれば体は傷付き、ダメージを負う。炎で燃やしても風で斬っても無駄。ちゃんと相応の強度にしてあるからね。

 ここを突破するのに強めの力を使うとしても、少しは時間が必要だろうから周りのゴーレムで倒せる。

 そして更に追加!


「“フォレストアニマルズ”!」

『『『…………』』』


 植物魔法から作り出した沢山の動物達。この空間に解き放ち、細かい所を探って仕掛ける。

 万全の布陣が完成したね。ドラゴンも空を飛んでるから、ゴーレムよりも高い位置に移動されても問題無し。

 後はひたすらに攻め続けるのみ!


「さあ、みんな! やっちゃって!」

『『『…………』』』

『『『…………』』』

『………』


 四方八方を全員で攻撃。薙ぎ払い、焼き払い、打ち砕く。既にお城も形を崩しちゃった。

 だけど大丈夫。ちゃんとお客さん達が楽しめるようにバランスよく攻め立てるから!


「面倒だ。一向に近付けそうにねェな」

『別ルールのゲームになっていますね』

「取り敢えずは破壊しながら行くしかあるまい」


 ダクさんが殴る蹴るの暴行で打ち砕き、ニトラさんが火炎を放って棘ごと焼き尽くす。シュティルさんが念動力のような力で吹き飛ばした。

 粘るねぇ。やっぱり攻撃の仕方が悪いのかな。確かに一つ一つがあの人達より脆かったら簡単に防がれちゃうもんね。

 だからそれを補う質量と物量で攻めているんだけど、あまり意味が無いみたい。速度と強度。それは課題だなぁ。

 一応まだ次々と仕掛けているけど、その全ては破壊されて私達の方へ近付いてくる。早急に止めなきゃね。


「それでは手筈通り」

「囮って役割は気に入らないけどな」

『仕方無い事ですよ』


 いつの間にか二人と一匹は仲良くなってる。なんか羨ましい。だから引き裂いちゃおうか!


「葉っぱか……!」

「切れ味は抜群だろうな」

『私の鱗にも傷付けそう』


 鋭利な葉。今までも何度か使っていたけど、なんか覚醒したっぽい私は大きな物を使用して切り裂く。

 斬られた側から空気には真空が生まれ、真っ直ぐに向かっていく。スゴいや! これが覚醒なんだね! ゾーンかな? ランナーズハイ……は違うよね。


「暴走に近い状態で歯止めが効かなくなってるな。疲れを感じ難くなってしまっている。膨大な魔力量でそうは見えぬが、あのまま無茶をすると本人の体が壊れるぞ」


「それも止める為にやんだろうが。人間年齢に換算すりゃ俺はティーナ・ロスト・ルミナスやシュティル・ローゼ。テメェらの一つ上。先輩風吹かせなきゃな」


『それなら私も同じですよ!』


 葉の刃を避け、ダクさんとニトラさんが私の方へ迫る。

 分担して戦おうって魂胆かな。そうであってもやる事は変わらないんだけどね。

 ゴーレムの巨腕を伸ばし、一人と一匹を狙う。無論、シュティルさんも例外じゃない。


「まずは道を切り開くところからだ」

『分かってる!』


 巨腕を前に、なんとダクさんは自身の腕力で弾き飛ばし、一体のゴーレムが傾く。

 透かさず無数の蔦や樹をもちいてけしかけるけどそれはニトラさんの火炎で焼き尽くされ、今度はゴーレムその物を殴り飛ばして打ち倒した。

 スゴい腕力。魔族の中でもかなり上澄みなんじゃないかな。


 だけどまだまだ数は居る。ダクさんはニトラさんに乗って空中を移動し、追い迫る植物をかわしながら直進。空には暗雲が立ち込める。風と雨脚が強まり、雷鳴轟く。シュティルさんも何かを仕掛けようとしているのかな。

 でもそれも関係無い。私は私のやれる事をやるだけ。ただひたすらに。


「やって」

『『『…………』』』

「『……!』」


 熱線を放ち、撃ち落とせないか試みる。ついでに空にも放って雲の一部一部を蒸発させてある程度弱らせられないかの実験。

 結構消えてるね。青空が垣間見えた。ふふ、丁度良いや。


「まずはゴーレムを止めっぞ!」

『命令しないで! 一応本来は敵同士!』


 ダクさんが飛び降り、伸び来る蔦の上を駆け抜け植物を砕き防いでゴーレムの眼前へ。腕力でまた殴り飛ばしてお城に倒れ、機能が停止する。

 魔力を込めた拳。中枢が破壊されちゃったのかな。まあいいや。まだ数は残ってる。


『──カッ!』

「……!」


 次の瞬間、ニトラさんが火炎を吐きつけた。

 周りには魔法陣を形成しており、更なる炎と風で大きく強化して周りのゴーレム達も焼き尽くされる。

 スゴい範囲。ダクさんの腕力にニトラさんの魔法。流石は代表戦のここまで残る選手。


 ──でも、それで私が負ける理由にはならない。


「“樹縛”」

「『……!』」


 全方位から伸ばし、その体を拘束。雁字搦がんじがらめにして身動きは取らせない。

 これでポイントゲットかな。


「“焦熱樹”」

「『……ッ!』」


 蔦ごとゴーレムの熱線で焼き払い、一気に燃やす。

 それによって一つが光となって転移した。まだ一つ……そう思った瞬間に拘束がかれる。

 あちゃ~。炎の熱で緩んじゃったか~。

 脱出したのは、


「はぁ……はぁ……マジで面倒……!」

「ダクさんだ」


 身体能力による戦闘を主体にしているから頑丈みたいだね。でも既に満身創痍。ダメージ自体は多分一番多く受けている筈だから。

 ニトラさんは黒龍として鱗とか魔力の強度はある筈だけど、防御力が魔力依存なら結構力を使ってたもんね。思ったより消耗していたのかも。考えてみたらシュティルさんと戦ってたし。

 ……あ、そう言えばシュティルさんだけど──


「──準備は万端だ」

「……!」


 耳元で囁くような声がした。少し気持ちよくゾワゾワと分からない感じで体が震え上がり、隣を見るとそこには霧となった彼女の姿が。

 ヴァンパイアの特性。霧や影、小動物になって小さいところに潜り込む物。自宅とかなら許可を得なきゃダメだけど、ここは誰の家でもない。

 即座に植物を伸ばしてその体を捕らえる。次の瞬間にはみずから腕を切り離して脱出していた。

 ……ぇ……腕を……。


「……っ!?」


 足元に落ちる、生々しい腕。血が緩やかに流れており、それはすぐに消え去った。

 見ればシュティルさんの腕は再生しており、何事も無かった様子。けど……。


「……ぁ……あ……ああああ!!!」

「……! 何かしらのトラウマでもあるのか? それとも今トラウマになったか……」


 生気の無い、青白い腕。それは動く事無く、ずっと止まったまま。

 私の脳裏に巡る、ノイズに塗れた嫌な思い出。だらんと垂れた腕、昨日までは動いていた、もう永遠に……動かない■■の手。


「やだあああああぁぁぁぁぁっっっ!!!」

「……!? な、なんだこの魔力は……!?」


 私の周りを植物が囲み、慰めてくれる。

 暖かい炎が優しく包容。■■が……そんな訳無い……そんな……■■がそんな事……!!


「……!」

「くっ……!」


 シュティルさんとダクさんはその場を脱出。私の感情に呼応し、世界中の植物がステージに集まってくる。

 嗚呼、そうだ。私は一人じゃないんだね。■■やみんなが……みんなが居るんだ……!


「森が……山が……!」

「待て……この様子……遠く離れた場所にも影が見えるぞ……!」


 そうだ。世界中全てを植物で包み込めば良いんだ。人間も魔族も幻獣も魔物も、建物も星も何もかも。

 もう誰とも……離れ離れにはなりたくない……なってない……。


「シュティル・ローゼ! 技は!?」

「もう完成した! 後は彼女の動きを止めれば──」

「元を言えば俺が人形について指摘したのが始まり。自分テメェの尻拭いは自分テメェでやってやらァ……!」


「……誰? 邪魔なんだけど?」


 植物を荒々しく破壊し、私の領域に踏み込んでくる不届き者。あれ、今……口悪くなっちゃった……そんな事微塵も思ってないのに。

 ボルカちゃん達やルミエル先輩達の時はこんな風に感じなかった……他の人が入ってくるのは……嫌。


「だらァ!」

「……ッ!」


 周りの植物を引き千切って私の体へ巻き付ける。頭上には雲が一つに纏まっていた。

 ……なに……あれ……?


「これで終わりだ!」


 シュティルさんの手に収まり、私の方へ投げ付けられる。それが目の前で破裂した。


「台風のエネルギーは街一つを破壊出来る爆弾があるとしたらその数千から数万倍……! 流石に弱めているが、食らったら一堪りも無いだろう」


「「…………──」」


 次の瞬間、形容出来ない程の衝撃波が伝わり、私の意識が遠退いた。

 でも最後に見た、植物が覆っている光景。やっぱり優しい……消え去る意識の中、司会者さんの声が響いた。


《し……勝者、シュティル・ローゼ選手ゥ!! ゥゥゥ……》


 歓声は聞こえない。ステージだから? ううん。何かがあってそれどころじゃないんだ。私達の魔法が消えた気配もある。

 私達の織り成す戦闘。それは私の敗北で決着が付くのだった。

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