第百五十七幕 重圧
「はぁ……はぁ……」
「……なんだか随分と体調が悪いみたいだが、俺の攻撃が原因か? 一応仕留めるつもりで仕掛けてるからな。無理せず意識を失うと良い。その方が面倒じゃねえ」
「お、お構い無く……!」
体調は悪いけど、まだ戦える。大丈夫、大丈夫。私は何の問題も無い。
ママに魔力を込め、更に植物を生成させた。
『大丈夫? ティーナ』
「うん。ママ。なんでもないよ」
「……? おい、ティーナ・ロスト・ルミナス。お前……」
『フフ、なら良かったわ。早いところ倒しちゃいましょう』
「そうだね!」
やっぱりママの言葉は励みになる。モヤモヤが一気に晴れた気分。ふふ、爽快だなぁ。
─
──
───
「ねぇ……あの子……」
「うん……何を一人で話してるんだろう……」
「あ、ヤベーな。ティーナのやつ……」
「そうね。またあの状態……」
「大変ですわ。この大きな大会……中継は世界中。あの状態は精神面に大きく影響してしまいます」
モニターを見、アタシ達もティーナの様子の変化に気付く。
おそらく母親に関する事柄。あの状態を晒し続けるとなるとティーナが可哀想だ。知れ渡る事で救われる部分もあるかもしれないけど、助ける気なんて無く、他人に同情する自分に酔っているような輩が関わりを持とうとしてくるかもしれない。
今此処に居るアタシ達にはどうする事も出来ないな。荒療治よりゆっくりと精神的に治したいところだけど、せめてあの独り言をこれ以上は聞かれないようにしておきたい。
─
──
───
「……成る程な。人形を……んでもって会場への音声伝達はあれ……言ー事は……」
「……?」
次の瞬間、ダクさんが近くの瓦礫をリフティングの要領で蹴り上げ、別方向に吹き飛ばした。
なんだろう。ゴーレムで攻撃したから狙いが定まらなくなったのかな。それなら好都合!
「一気に仕掛けるよ!」
「んでもって……はぁ、面倒だな。大声はあんま得意じゃねえんだ」
次の瞬間に踏み込み、床を大きく踏み砕く。一呼吸し、私達の方に視線を向けた。
「ウォラァァァァッッッ!!!」
「……!?」
さっきまでそんな素振りは見せなかったのに、唐突に気合いを入れて叫び声を上げる。
ほ、本当になんなの……?
「ママ……あの人怖い……」
『そうねぇ』
一気に迫り、私の横を通り抜ける。
狙いは私じゃない……?
「ダリャアアアアアアァァァッ!!!」
『…………』
ズガァン! と大きな音を立て、フォレストゴーレムの巨体を蹴り飛ばした。
轟音と共に倒れ、ダクさんには隙が生まれる。理由は分からないけど、今がチャンスかな。
植物を生やし、鞭のように振るって打ち付ける。ダクさんの体は吹き飛んだ。
(これで精神的な疾患は少し収まったか……訳ありみてェだが、この一撃以外手加減する理由はねェよな)
何かを考えている様子。よく分からないけど、なんだろう。まるで小さい子供を見ているような表情。
私はそんなに幼くないのに。失礼しちゃうなぁ~。
「“夜薙樹”」
「物騒な柳の木だ」
無数の植物を天上から叩き付けるけど、駆け抜けるように避けていくダクさん。
空を切った樹はクレーターを造り、粉塵を巻き上げるけどダメージはない。時折当たるけどそれは腕力で防いでいた。
攻撃を当てるのも一苦労。また隙を作らなきゃならないかな。あの人なら壁伝いでも私の方に来そうだもんね。それは阻止しなきゃ。
「……。……ふふふ……」
「……あ?」
でも、なんだろう。今はなんだか高揚感に包まれている感じがする。ゾーンってやつかな。覚醒した可能性もあるかも。だってもう全部が気にならない。
今の私なら何でも出来そう。この世界を掌握! なんてね。ふふふ~。
「もっともっともっと出して……もっともっともっと攻撃すれば勝てるかも!」
「……!」
最大級の魔力を込めてみる。次の瞬間にお城の一角が砕かれるように崩れ、シュティルさんとニトラさんが飛び出してきた。
あの人達で戦っていたんだ。ちゃんと消耗させる事は出来ていたんだね。それに好都合。今ならまとめてみんなを倒せるかもしれないから!
「……! なんだこの魔力は……」
『凄まじい気迫……私達の一族にもこれ程の力を持つ子なんてそうそう居ないよ……!』
驚いているっぽいかな。でもそんな事はもう関係無い。今のこの高揚感。全てがどうでもいいと思えるこの感覚。その全てをここに発散する。
──嗚呼、なんて気持ち良いんだろう。素敵な素敵なこの世界。
「──“森の支配者”」
魔力が全体に広がり、無数の木々が生えて集う。
それらは一つに纏まり、その一つを複数形成した。圧倒的質量と圧倒的物量。それらを両立させた上で更に上乗せ。
よって、
『『『…………』』』
50~60メートル程のゴーレムを生み出す。大きさはさっきの倍くらい!
数で言えば十数体。お城の外は全て私達が支配したと言っても過言じゃない状態にあるからね! ここから更に一気に仕掛けるよ!
「やって!」
『『『…………』』』
「数十メートルの巨腕が複数……!」
『これはマズイ……!』
「一つ二つなら防げるが……」
一斉に拳を振り下ろし、轟音と共に大きな振動を引き起こす。落ちた先にはクレーターが形成されており、ステージの地盤が沈んだ。
まだまだそれだけじゃない。植物のスゴいところはどんな更地でも生える可能性があるというところ。拳の先から蔦が伸び、シュティルさん達を包み込んだ。
「個人戦だが……標的をティーナ・ロスト・ルミナスに変えるしかないか」
「一人をフクロにするやり方は気に食わねェが、そうも言ってられねェか」
『まさか代表戦で参加者達が協力せざるを得ない状況に持ち込まれるなんて……彼女、強すぎ……!』
全員がこっちを見てる。消耗させる作戦は最終的に失敗かなぁ。
でも良いや。たった二人と一匹。数も質量も私達が優位。今ならまとめて倒せそうだもんね!
「“ファイアビーム”!」
『『『…………』』』
「口から火が……!」
「植物魔法なのに燃えねェのかよ……!」
『そう言う種類の植物を用いてるんだろうね!』
ゴーレムの口からボルカちゃんの炎を放射。熱線は前方に飛び、その軌跡を大きく発火させた。
森や城下町が燃え盛り、大火事となる。炎って見てると心が落ち着くよね~。
「そーれ!」
「……!」
更にゴーレムの巨腕を振り回し、お城の尖塔を崩してその瓦礫を二人と一匹へ落とす。
瓦礫の雨は降り注ぎ、ズズーン! と辺りに土煙を散らした。
1.4~1.6mくらいの人に3~4mくらいの黒龍。標的が小さいから足元を大量の植物で覆い尽くして逃げ場を塞ぎ、広範囲に質量と熱で攻め立てる。文字通り隙間無くね!
「終わらせるよー!」
「と言うか、なんなんだ。このハイテンション」
「ちと訳ありなんだろうな。あんま追及しない方が良さそうだ」
『それじゃ、あまりそれについて話さない方が良いかもね。今は轟音で掻き消されてるけど、精神的な傷を負っている子相手でも構わず、自分が得する為だけに質問責めにするような無粋な輩も居るからね』
巨腕だけじゃなく、巨足でも踏みつける。
そのまま足払いをして巻き上げ、無数の植物を雨のように降り注がせる。
ゴーレム達の足元は既に視界が見えない状態。その土煙を晴らす為に巨大な葉っぱの団扇を作り、仰いで吹き飛ばす。姿が見えた瞬間に熱線を撃ち込み、正面を焼き払う。遠方の山が熔解してマグマみたいに流れてきた。
「やった! ついに山河破壊クラスに達した! また一歩ルミエル先輩に追い付いたかな!」
「……精神的な部分か。思い当たる節は? 観客席に聞こえない範囲で頼む」
「人形魔法への指摘から変だったな。ママと言っていた。それにこの無駄な破壊。勝手にルミエル・セイブ・アステリアを継ぐ者と謳われた事へのプレッシャーで押し潰されそうになったんだろうな」
『何それ……あの子、殆ど無関係。ただ可哀想なだけじゃん……』
何を話しているのかは分からないけど、分かる必要が無い気もする。
そもそもこの高さじゃ声が聞こえないもんね。構わず仕掛ける。このステージを完全に崩壊させる勢いで、ただひたすら仕掛け続けなきゃ!
私の存在意義なんてそれくらいだもん。人間の国の久し振りの優勝も掛かってる。私が要……! 私がやらなきゃ!
「んで、止める宛は? 俺ァただひたすら殴る蹴るするしか出来ねェぞ」
『私も基本的な魔法くらいかな。上級魔法は使えてるけど……使えてますけどね』
「私はまあ天候操作と圧縮。規模だけなら負けず劣らずだと思いたいがな」
二人と一匹が固まっているのは好都合。全ての狙いを向け、同時に仕掛けた。
でもまた避ける。もう、一筋縄じゃいかないね。
「まだまだやらなきゃね。ママ」
『ええ、そうね。ティーナ』
「決まりだ。ポイントを取れねェのは癪だが、勝利を優先して精神崩壊して行く様を見る方が胸糞悪ィ」
「やれやれ……大会どころじゃないな」
『そうでした。今一応ダイバースの代表戦でしたね』
破壊の限りを尽くす。それが一番手っ取り早くクリアする方法。
ママはここに居る。ルミエル先輩の後継者って言われてるならそれに従う。圧倒的な力を見せつける。何も間違ってないよね。人間の国の優勝は大事だもん。
私達の織り成す戦闘。一気に終局へと持ち込む。終わらせてみせる……!




