第百五十六幕 激しい争い
「一斉放射!」
『『──』』
魔力を集中させて威力を上昇させる力。それにボルカちゃんの炎を掛け合わせ、高速の光線を放つ。
シュティルさん達はまた避け、一足先にシュティルさんが眼前へと迫る。咄嗟にゴーレムの巨腕でガードを固めた。
「そんな装甲で足りるのか?」
「……!」
力を込め、巨腕に衝撃波をぶつける。それによって片腕は大破した。
たった一撃で……。やっぱりもうちょっと強固にしなきゃかな。あー、でも全体を硬くすると動かし難くなっちゃうから、ガードの瞬間にだけ一瞬硬くするとか……うーん……難易度が高い。
「ハッ!」
「……っ」
再び掌を翳し、周りの植物で覆って防ぐ。
今までの戦闘を見る限り近付かれたらそれで終わり。何かしらの力が作用して意識が飛んじゃうみたいだから。
あまり距離は詰め寄られないように警戒しつつ、上手くダクさんかニトラさんの方へ誘導したいところだけど、フォレストゴーレムとフォレストドラゴンの影響で私が目立っちゃってるから私vs他のみんなみたいな構図になってるかも……。
「やって!」
『『…………』』
取り敢えず攻撃あるのみ! フォレストゴーレムが巨腕を薙ぎ払って崩し、フォレストドラゴンが尾を払って風圧で吹き飛ばす。
その間に私はお城の中へ。外だとどうしても狙われちゃうからね。内部でもあまり変わらないとは思うけど、少なくとも全員の標的にされる可能性は低くなる。既に地下に居る時点で下準備はしていたから戦力の問題も無いよ。
「今のうちに……!」
取り敢えずこのお城は広い。建物その物を破壊されたら意味が無いけど、多分そんな真似はしないと思う。
だってこれはあくまでダイバースの試合。お客さんを楽しませるのも目的だから。……ふふ、ルミエル先輩の受け売り。
「……仕方無い。乗ってやるとしよう」
『待ちなさい!』
「えぇ……これ追い掛ける方向かよ……面倒だな……」
『『──!』』
私の後を追って他の人達もお城の中へ。
その瞬間にゴーレムとドラゴンが攻撃を仕掛けたけど、多分誰にも当たらなかったよね。転移の光は見えなかったし、なんの影響も無いくらい。
そんな事を考えながらお城の中を駆け抜け、テキトーな部屋に入る。
「ここは……」
その部屋は図書館。私、何かと図書館に縁があるような……。ウラノちゃんと戦った時も図書館だったし。
まあでも植物の本とか、最近は医療の本とかよく読んでるもんね。
植物の本は魔法に生かす為。医療の本は前に行った雑貨屋で薬品に興味が出たのと、薬草があれば植物魔法での応用の幅が広がるから。ダイバースをやってて思うけど、応急処置とか結構大事そうだもんね。
そんな感じで最近は何かと本を読んだりしてるから今回もその縁って事にしておこうかな。……って、また話が逸れてた。とにかく隠れないと。
(一応外にはゴーレムや動物達を配置しているから大丈夫かな。この部屋の前だけじゃなくてお城中に。誰かは来るだろうからそこで急襲する……!)
私の背後は本棚。当然窓や壁と言った侵入口からは離れてる。壁も壊されちゃうからね。
すると渡り廊下で戦闘音が響き渡った。ゴーレム達か、他の選手が戦っているのか。どちらに転んでも消耗はする筈。
「……!」
そう思っていた瞬間、図書館の扉が破壊され、仕掛けたゴーレムが吹き飛ばされるように入ってきた。
誰かにやられた証拠。その犯人は誰か。
「……あ? 人の気配を感じんな。まあ一足先に入ってきた存在を思えばそれが誰かは明白だが……取り敢えず炙り出すか」
「……!」
片手にゴーレムを持ち、振り回して本棚を一気に倒す。
やって来たのはダクさん。身体能力の高さはお墨付き。誰から? 多分全員から。
武器を持っている様子は無く、徒手空拳。素手で戦うタイプの人なんだ。
魔族だから元々の身体能力は高いけど、それを更に鍛え上げてトップ3相当に到達したんだ。
魔法や魔術が使えない訳じゃないと思うけど、近接戦が主体になるのかな。
「居たか」
「……!? 速っ……」
私を認識した途端に床を踏み砕いて加速し、一瞬にして眼前へ。そのまま拳が掲げられ、
「……あら」
「……え?」
勢いよく床を踏みつけて傾き、私に拳は当たらなかった。
そりゃこんな力で走ったらこうなるよね……ここが図書館で良かった。
──と、風圧だけで薙ぎ倒された本棚の列を見て思う。
「ゴクリ……」
「あー、脆いな。この床。けど、力抜けば何とかなるか」
「……!」
刹那に放たれた回し蹴り。それを植物の壁で防ぎ、その壁ごと背後へ飛ばされる。
柔らかい草をクッションにして勢いを弱め、顔を上げたらまた眼前に拳が迫っていた。
何とか転がるように避け、無数の植物を生やして距離を置かせる。
ダクさん相手だと距離の有利なんてあってないようなもの。一歩で踏み越えて来ちゃうんだもん。
それでも近付かれたらマズイから距離を保ちながら仕掛けないと。
「やるなぁ。ギリギリではあるけど、ちゃんと見切って躱してる。追撃にも抜かりなし……面倒な相手を引いちまったか」
「そ、それならどこかに移動してくれたら私としても助かりますけど……」
「それはムリだろ。一応勝つ事が目的。早いうちに厄介なティーナ・ロスト・ルミナスを倒しておかなきゃ遠退く一方だ」
「そうですか……残念です」
「ああ。しゃあない」
足元から植物を生やし、瞬間的に回し蹴りで全てを切断。
探知にも色々種類はあるけど、ダクさんは魔力の気配を中心的に追ってるのかな……ううん。最初は私の気配を追ってたから、戦闘中は魔力の探知って事だ。
だったらそれを利用して翻弄するのみ。
「“マジカルパレード”!」
『『『…………』』』
「大量の軍勢。勢力を増やすのもお手の物か。一気に数では不利になったが、この狭い図書館じゃ限られんだろ」
植物から様々な動物達を作り出し、ダクさんへ一気に嗾ける。
これはあくまで囮や陽動。本命は催眠効果のある植物! 前に使ったのと同じ在り方。
パレードに気を取られていたら夢見心地になるって事!
「よっと」
「……!」
そして、軽く仰ぐだけで動物達は消し去り、そのまま本命の植物も吹き飛ばされた。
このレベル……って事。そうだよね。一挙一動であの威力。トラップを仕掛けるよりも前に余波で消え去っちゃうや。
「呆気に取られてっと、意識失うぜ」
「……ッ!」
次の瞬間には近くにおり、腹部を殴打された。
それによって胃液が逆流し、酸の味が喉元に迫る。空気も漏れ、思わず吐きかけてしまった。
でも他の人達が見ている前でそんな行為は恥……醜態を晒すのはちょっと避けたいかな……ルミエル先輩の後継者って思われちゃってるし……。
なので内部から植物で防ぐ。気付いた時、側頭部には爪先が来ていた。
「……ッ!」
「俺は基本的に男女平等だ……っても、魔導が主流のこの世界じゃ、人間同士では身体の性能差とかあまりないか」
男女の身体性能を懸念する人は居るけど、ダクさんの言うように身体能力を使う人の少ない人間の国。イェラ先輩とかレモンさん、バロンさんが特例って感じ。あ、ボルカちゃんも身体能力で戦うけど、そう言う問題じゃない。総合的な比率の話だね。
取り敢えず、体つきの影響がそんなに大きくないこの世界じゃ、そう言うルール内なら批判される事もないって訳。なのに態々告げたダクさんは一応気を使ってくれたみたい。
そんな事を考える私の側頭部は蹴りを受けてクラクラ。でも植物でなんとかガードは間に合ったからダメージは抑えられた。まだ意識を失う範疇じゃない。
「今度は……私の番……!」
「まだ意識があるか。孅い存在をボコるのは趣味じゃねえんだがな」
「私はそこまでか弱くありません……! 多分」
「人形魔法に目覚めた時点で、結構色々と抱えてると思うけどな」
「……ぇ……?」
人形魔法を使えるとか弱い。……それってどういう事……? そもそもこれはママとティナだから人形じゃないし、傍から見たら人形だからそう思われるだけで。
また、頭にモヤが。非常に不愉快な感覚。ダクさんに対してではなく、ママ達を指摘されると頭が痛くなる。
集中しなきゃ……集中。そうしなきゃ勝てる試合も勝てなくなる。
ここは一気に倒す方針で……。
「どうした。急に黙り込んで。間合いだぞ?」
「……しまっ……!」
余計な要らない思考をしていたせいで重い一撃が入った。
応急処置として即座にダメージを和らげるけど、追撃は止まない。咄嗟に全身を植物で覆ってまたなんとか直撃だけは避けた。
でもあの強さ……一度始めたら手が付けられない……!
「……! 外……」
気付いたら空を見上げており、風を肌に感じた。
少し遅れてガシャーン! という窓ガラスの割れた音が響き渡り、私は外に追いやられたんだって事が分かる。
でも外ならゴーレム達が残っている。破片ごとその手に乗り、間髪入れずゴーレムはお城の図書室へ向けて巨腕を打ち込んだ。
「そーれ……!」
『……』
「外にやったのは間違いか」
「……っ」
ドゴォン! と窓ガラスだけじゃなく壁が砕けて粉塵が覆う。
ダクさんは無事な様子だけど、まさかフォレストゴーレムの巨腕を受け止めるなんて。
また私の意識が少し遠退く。やっぱりダメージは大きかったみたい……。
ダメ……ちょっと目眩が……でも、それだけじゃない嫌な感覚……。
こんな状態じゃ集中出来ない。もっとちゃんとしなきゃ……!
「まだ……まだ……!」
「……なんか様子が変だな」
フラつきながらも立ち上がり、ちょっと疲れちゃったかな。少し早く呼吸する。
他の人達を呼び寄せたのは私自身。私が最初に脱落する訳にはいかないよ。
私達によるダイバースの試合。まだ終わる気配はないけど……ちょっと体調不良かも……。




