第百五十五幕 トップ3達の戦い
──ステージ“霧の城”。
今回選ばれたステージはその名が示す通り白い霧に包まれたお城。
そのお城はとても大きく、お堀があり、そこに大きな石造りの橋が架かっていた。
聳え立つ二つの塔に挟まれた城門は木造。お城自体は煉瓦造りであり、大きさ以外はよく見る物って感じ。屋根の色は……というより天辺に掛けては霧が濃くてよく見えないや。
一応近場には森とか城下町とかが薄っすらと見えるけど、メインで戦う事になるのはお城になりそうかな。
私的には植物魔法を広く使える外の方が良いけど、他の人達もそれを把握している筈だから阻止しようとするよね。
取り敢えず迅速に行動しなきゃ。気配や魔力から位置はすぐにバレちゃうからね。
私の転移地点は大橋の辺りでお城の中にはすぐに入れるようになっていたので一先ず入る。
「さて、これからどうしよっか……」
小さな声で呟く。この音声も会場に伝わっちゃってるんだよね。代表戦だからこそより細かい音も拾うだけで、今まではあまり関係無かったからちょっとした発言するのも緊張しちゃう。
平常心。平常心。独り言やママ達と話すんじゃなく、内心で考えよう。
(まずは他の人達の動向を考えなきゃ。私はまだ気配や魔力を追う術に乏しいから。……シュティルさんは気配を辿りながら移動している筈。ダクさんも同上、黒龍であるジルニトラのニトラさんも探し方自体は同じかな。うーん、何も分からない)
考えてみた結果、何も得られなかった。
全員が探してる。出会う。バトル! ……的な事くらいしか思い付かないよぉ。
一番目立つこのお城には私以外にも誰か来ているかもしれないし、それを考えた上で行動を起こしてみよっかな。何よりティナを先行させて標的を見つけなきゃ。
でもそうなると無防備になっちゃうからどこか隠れられる場所で……。
「あ、そっか」
一つ思い付いた。
ここはお城だもんね。身を隠す場所なんか沢山ある。そこから更に安全な場所も、この大きさのお城なら絶対にある筈。
その場所を探す途中で相手と出会えたらそれもまた良し。会えなくても全体的な位置を把握出来るようになるから悪い事にはならない。
なので私はそこへ向かうのだった。
───
──
─
──“地下牢”。
「ホントにあった……」
私が来た場所は、地下の牢屋。四方は地面の壁に囲まれているから穴を掘り進めなきゃ到達出来ないので石壁より安全。
本来は石造りの牢屋も頑丈だけど、代表戦に出てくるような人達は積み木を崩すみたいに簡単に壊しちゃうもんねきっと。
無機質でちょっと怖いけど地下牢の奥へと行き、念の為に私の周りにだけ感知と防御用の植物を張り巡らせる。そのまま地下牢からティナを出し、視覚と聴覚を共有して飛ばした。
これで動きがあればすぐにでも分かる!
(……! お城の中に人影が……)
すると早速選手の影が見えた。
ブロンドヘアーに紅い目。あれはシュティルさん。
今回は積極的に相手を探している感じじゃないね。優雅な足取りで歩いている。
まるで無警戒だけど、多分仕掛けようものならすぐにでも対処されちゃうよね。
ティナの魔力や気配はルミエル先輩でも気付きにくい程に小さい。だから遠目で見てるだけならバレる事は無いと思うけど、このまま動向を探り続けても始まらないよね。
そうなるといきなりシュティルさんと戦う事に……何れは当たる相手だけど、せめて一人くらいは倒して最低限の貢献をしてからやりたかった。
(でも、やるしかないんだよね……!)
覚悟を決める。でも私一人だけじゃない。ここに要るのは全員が敵同士だもんね。
戦略を練るのはあまり得意じゃないけど、私なりの拙い作戦でも立ち回らないと……!
ティナとの感覚共有はそのまま、ママに魔力を込めた。
「……! 魔力の気配が地下の方から……誰かが居る……いや、来る……!」
瞬間、シュティルさんの足元が割れ、無数のゴーレムが飛び出した。
当然これは私達の植物魔法! 発動する直前に居場所は特定されちゃうけど、そのリスクを背負ってでも仕掛ける価値はある。
渡り廊下をゴーレム達が囲み、一斉に攻撃。シュティルさんは飛び退くように避けて複数体を破壊した。
そして彼女の攻撃の瞬間が私のチャンスになる!
『…………!』
「壁から……! 地面のは陽動だったか……!」
ドゴォン! と壁を壊してゴーレムが飛び出し、巨腕でシュティルさんの体を殴り飛ばす。
ヴァンパイアだからガードの必要も無く吹き飛び、城壁が崩れて瓦礫が落下。轟音と共に粉塵を巻き上げる。
そう、これこそが狙い。このステージはお城を中心に広がってるし、こんなに派手な土煙を遠方から見たらそこで誰かが戦っているのは明らかだもんね!
ついでに私の居場所が地下だからそのまま外へ植物を張り巡らせる事も可能。地面から太い根を生やし、空中のシュティルさんへと嗾ける!
「囮で誘きだし、攻撃で外へ。そのまま追撃か。流石はルミエル・セイブ・アステリアの後輩。即席で段階を組み立てている」
「避けられた……!」
コウモリのような翼を広げ、絡み取られるよりも前に脱出。
やっぱり直接的な攻撃は効果が薄いけど、動きを止める方向なのは当たってそう。
仮にそれを出来た場合に何をすれば良いのか分からないけど、道筋はそこから組み立てていく!
「おかしいな。狙いがやけに正確……魔力の気配から位置は地下。私の気配を読んでいるのか、それとも……」
……! もうティナの存在に気付き始めてる……!?
流石の洞察力。結構散らして仕掛けていたつもりだったけど、すぐにバレちゃいそう。
でも仕掛け続けていなきゃシュティルさんが私の方に来ちゃうからそうなったらやられる可能性が一気に高まる。仕掛け続けて1vs1vs1の状況を作り出すのが理想。
「確かティーナ・ロスト・ルミナスの魔法は人形魔法。今までの試合傾向を見る限り……成る程な。何処かで私を見ている人形がある筈。普通に考えれば城内だが……この猛攻を抜けて小さき人形を探すのは面倒だ」
割と口に出して考えるタイプの人みたい。考えている最中にも植物を仕掛け続ける。だけど一向に当たる気がしない。元々スゴく速いのに更に精密な動き。自分で動いているから当たり前だけど。
それにしても当たらない。掠りもしないなんて。
(やり方を変えなきゃならないかな。ルミエル先輩にもその辺注意されたもんね)
今行っているのは単純な植物による連撃。他の選手を呼ぶのも目的の一つだからね。
だけど全く弱らせられていないのは問題。少しは消耗させなきゃならないよ。
やり方は大きく変えず、相手の動きを私がコントロールする感じに……!
「……動きが変わったな」
単調だった攻撃からの変化だからすぐに気付いたみたいだけど、狙いまではまだ分かっていない筈。
右方向に無数の植物を向け、一ヶ所だけ空けて仕掛ける。そう、リテさんのテレポート対策にした攻撃と同じ! 一応分かりにくいような隙間を空けてるから見え見えじゃないと思うけど、シュティルさんもダイバースの過去ログは見返したりしてるみたいだから通じるかは分からない。
「何か狙いがあるとして……誘われてるな」
回避を止め、迎撃態勢に入る。無数の植物を片手に込めた風の力で吹き飛ばした。
避けた時に何かを仕掛けられるなら攻撃で防ぐ。理に適っているやり方だけど、私は一撃が入るのを確信した。
「……! 上から……!」
城内に張り巡らせた植物が回り込み、シュティルさんの頭上から叩き落とす。
そう、攻撃の瞬間は極僅かな隙が生まれる。そこを狙って仕掛けたの。昨日の試合で見せたやり方だとすぐに見切られちゃうから新たな試みだよ!
そのまま地面へと衝突して粉塵が舞い上がり、そこから更に植物を突き出して空中に打ち上げ、畳み掛けるように無数の植物で押し潰す。
その衝撃で粉塵は晴れ、シュティルさんは下方へ落下した。
どうだろう……。
「やれやれ……こうも巧みに操られては回避も防御もままならぬな。ダメージは無くなったが、一瞬でも意識が遠退いたら直後に復活してもリタイアだ」
傷口が見る見るうちに癒え、パンパンと埃だけを払うシュティルさん。
これがヴァンパイアの再生力。意識さえあれば、ううん。例え意識がなくても肉片さえあれば再生する能力。
独り言から分かったけど、再生持ちの場合は一瞬でも意識を奪えれば転移の魔道具が判断してリタイア扱いになるみたい。
それは大きな情報だけど、今の攻撃で意識も失わないならどうすれば良いんだろう。
(……でも、私が仕込んだ種は芽吹いたかも……!)
「──シュティル・ローゼか」
『そうなると相手はティーナ・ロスト・ルミナスみたいですね』
「おやおや……北側と南側から、まだ誰とも会ってなかった一人と一匹が合流か。……いや、私も別にティーナ・ロスト・ルミナスと会った訳ではないか」
魔族のダクさん。ジルニトラのニトラさんがやって来た。
それぞれ別の場所に居たらしく、これで全員が初邂逅。即座に全員が臨戦態勢に入り、各々の力が込められた。
『まずはこの植物を焼き払いますか。──カッ!』
ニトラさんが火炎を放ち、木々を焼却。ジルニトラは様々な魔法を扱える黒龍。これくらいは簡単に出来るんだね。
でも私がここに居る限り、植物は芽生え続ける!
「キリがないな……」
一方のダクさんは気だるそうに拳を打ち付け、根本から樹を破壊していた。
どうやら身体能力強化の魔力を中心的に扱っている人みたい……って、私、改めて本当に過去の試合全然見返していないや……。前にちゃんとしようって考えたばかりなのに。反省しなくちゃ。
それぞれの力で植物は消されていくけど、まだまだ余裕はある。するとシュティルさんは天に手を翳し、文字通り暗雲が立ち込める。これはヴァンパイアの天候を操る力。何をするつもりなんだろう。十中八九植物の除去関連だろうけど。
「一人だけ高み……いや、低みの見物はナンセンスだろう。その顔を見せるが良い」
「……!」
瞬間、天候が手中に収まり、地面に凝縮した嵐を打ち付けステージギミックである筈の霧も含めて一気に周りを吹き飛ばした。
的確に私の居る位置を狙い、天から日の光が差し込んでくる。太陽に照らされ透き通った金髪は試合中なのに思わずキレイと見惚れる程のもの。
って、そんな場合じゃない。幾層もの岩盤を嵐が突き抜けて私の姿が露になる。もう逃げ場は無く、上を取られるとマズイから一気に樹を伸ばしてお城の周辺を陥没させた。
「見つかっちゃった……!」
「もう最初から見つけていたが、凄まじい魔力だ。この大きさの城。その周りを沈めるとは」
「鍛えられていますから!」
感覚共有は遮断し、ティナをこっそり私の所に戻す。
こうなったら全力で行くしかないよね。全員を集めたのは何を隠そう私だもん。
今までの戦いで要領は掴めた。それを使う!
「“フォレストゴーレム”&“フォレストドラゴン”!」
『ブオオオォォォォッッ!!!』
『ガギャアアアァァァッ!!!』
「巨躯のゴーレムに龍……厄介だな」
ゴーレムとドラゴンの同時顕現。
それ自体は既にやってるけど、同時に動かして戦うのは初の試み。代表戦規模になるとアドリブの応酬が勝利の鍵になる!
「面倒だな……」
『恐るべき力です。ティーナ・ロスト・ルミナス。一体だけで代表戦参加選手の役割を担える存在を同時に生み出すとは……』
みんなが空を見上げ、ゴーレムとドラゴンに着目する。
二体はそれぞれ三十メートル前後。それでもこのお城の大きさには敵わないからホントに大っきい。
取り敢えず、私としての現状の最大戦力は作り出した。
「やっちゃって!」
『『──』』
「火……成る程な。やはり炎魔法も使えるのか」
ゴーレムとドラゴンにボルカちゃんの炎を使い、口からシュティルさん達を狙って発射。
三者は躱し、正面にある森は焼き払われ城下町は大火事になった……って、誰もいないステージだから良かったけどダイバース以外じゃ絶対使えない魔法だよねこれ……。
「一撃で数キロを焼き払ったか。本当に強き者だ。ティーナ・ロスト・ルミナス」
「そんなに強くありません。だって代表戦まで残れたのは新人戦が初ですから! 一応レギュラーだったのに!」
「言い換えれば代表戦にさえ残れば人間の国にてトップ3に入れるという事ではないか。相手が悪かっただけであろう。今もな」
「今はまだ、負けてない!」
相手が悪かった。それはそうだね。レモンさん達はスゴく強かった。
でも植物魔法は代表戦のルールにはピッタリで、今はレモンさんよりもポイントが高い。まあ次の試合で抜かされる可能性はあるだけど、取り敢えず現時点では!
このまま順調に行けるかは分からない代表戦。そもそも相手も各国のトップ3だから本当に誰が勝てるか不明な状態。
そこで抜け出てこそ、ルミエル先輩に近付けるというもの!
「やります。勝ちます!」
「フッ……面白い」
「二人だけで盛り上がってるが……一応俺も居っから。ダリィけど」
『やれやれ。全員が強者。これは頑張らなきゃね……ではなく、頑張らないとなりませんね』
私の一撃にも全く引く気配を見せない三者。それも当たり前だよね。まだ大きな火炎放射で燃えやすい材質の物を燃やしただけ。城下町の方もレンガの建物は残ってるし、これくらいの威力なら代表戦メンバーは殆どが出せると思う。
レモンさんみたいに、とても強いけど広範囲を見せびらかすように消し去る戦い方をしない人も居るからね。
レモンさんの場合は広範囲に余力が漏れる半端者じゃなくて一点突破型だからベクトルが違う。まあ、広範囲を消し去る系は余波全てが最上級魔法相当のルミエル先輩が居たり、結局はその人次第かも。
えーと、なんの話だっけ。あ、そうそう。そんな半端者の模範者みたいな私も頑張ってみるって感じ!




