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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第百五十四幕 圧倒的な実力者

「ハッハッハ! そう落ち込むなティーナ・ロスト・ルミナスにルーナ=アマラール・麗衛門よ! 次の試合は我が出るのだぞ? 一瞬にして終わらせてくれよう!」


「ユピテルさん」

「フッ、頼りにしているぞ。ユピテル殿」


 意気消沈している私達に話しかけてきたユピテルさん。

 次の試合は彼女。最強と自負するだけあってその実力はお墨付き。敵だと厄介だけど、味方だと頼りになる存在だから期待してる。……って、私がそんな上から言える立場じゃないよね。

 数分の休憩が挟まり、レモンさんは止血と栄養補給。私とレモンさんは選手用の特別観客席からその様子を眺める。


《さあ! お待たせしましたァ!! まだまだ大会は白熱していきます!! 全ての試合が決勝戦相当!! 次なる試合はァ──》


 司会者さんの挨拶が済み、今回の選手達の紹介が終わる。ユピテルさん達はステージへ。

 今回は山河ステージ。結構地形とか変わっているからその辺も攻略の鍵だね。

 転移を終え、試合がスタートした。

 それと同時に、ユピテルさんは天上へ手を掲げる。


「ハッハッハ! 友人達の試合、我は感銘を受けた! 故に此処につどいし他国の民達よ! 貴様らは我が一撃でほふってくれよう!!」


「……!」

『『……!』』


 魔族の人、幻獣さんに魔物さん。別々の場所に配置された選手達がそんなユピテルさんの声を聞く。

 雷の力で自分自身の音声を広く伝え、届くようにしているみたい。

 だけどそんな挑発染みた事しちゃったら一気に狙われるんじゃ……。

 ユピテルさんは言葉を続ける。


「我の居場所は天! たった今、天上へ舞い上がり貴様らに見易いようサービスしている!! さあ! 愚かなる子羊達よ! みなで挑んで来るが良い! 来なければ数秒後に貴様らが倒れる事となる!!」


「チッ、舐めやがって。やってやらァ!」

『ジュピター・ユピテル。自信家とは聞いていたがこれ程までとは呆れたな。無謀としか言えぬぞ』

『行ってやろう。そして吠え面掻かせちゃる……!!』


 ユピテルさんの言葉に反応を示した選手達は真っ直ぐ雷の力で浮遊するユピテルさんへと駆け出す。

 その速度は凄まじく、一瞬にして数百メートル地点まで到達していた。

 本当に大丈夫なのかな……。

 ユピテルさんはフッと笑う。


「誘いに乗り、狙い易い位置に来てくれて感謝する。元よりこのステージの何処に居ようが逃げ場は無いのだが、我の力を目の当たりにさせてやろうと思ってな!!」


「減らず口を叩けるのも今のうちだ! ジュピター・ユピテル!!」

『その自信、へし折ってくれよう!』

『カタを付けちゃる!!』


 魔族、幻獣、魔物さん達が一気に跳躍。三者が魔力や力を込める中、ユピテルさんの手には魔力とはまた違う力が込められていた。


「──顕現、“雷霆ケラウノス”!」

「『『…………!?』』」


 現れたのは、雷の形をした槍……ううん。違う。雷その物が槍の形をしているんだ……。

 ユピテルさんは狙いを定め、そのいかづちを降下させた。

 刹那に瞬き、映像が白く染まる。つまりステージ全体が一瞬で包まれたという事。

 その瞬間、ステージから遠く離れた場所にある筈のこの会場にまでゴロゴロ! という雷音が轟き、ガッシャアアアン!! と大きな振動と共に全体が揺れた。


「……!」


 次に映像が切り替わり、映し出されたのは──ユピテルさんを中心に伏せる三者。気付いた時には転移の魔道具でステージ上から消え去っていた。

 会場にはユピテルさんが戻り、夢から覚めたかのような静寂が辺りを包み込む。ハッとし、司会者さんは慌てて言葉を紡いだ。


《し、勝者! ジュピター・ユピテルゥゥゥ!!!? 何が起こったのでしょうかァァァ!!!? 一瞬だけ映像が途切れ、映し出された時にはユピテル選手の勝利が確定していましたァァァッ!!!》


「「「……ど、どわあああああああァァァッッッ!!!!!!」」」

「「「……う、うおおおおおおおおォォォッッッ!!!!!!」」」

『『『……グ、グギャアアアアアアァァァッッッ!!!!!!』』』

『『『……キ、キュオオオオォォォンンンッッッ!!!!!!』』』


 司会者さんの言葉で夢見心地から現実へと引き戻されたお客さん達の声が響き渡る。

 その声はどこか困惑しており、盛り上がりとは別の感情もあるものだった。

 く言う私もそんな感じ。本当に一瞬の出来事。それだけで強敵揃いの代表戦を意図も容易く突破しちゃった。

 会場に戻ったユピテルさんは私の元に来る。


「フッ、つい張り切ってしまった。我の最強足る所以ゆえんを此処で魅せる事になるとはな」

「スゴいよユピテルさん! でも、あんな力があったのに私達相手の時はなんで使わなかったの? 使うに値しないとか……」

「そうではない。強大な力にはリスクが付き物でな。あれを使うとしばらく我自身の雷がコントロールし難くなるんだ。数日程」

「え゛……それって……」

「ああ。今大会、我は万全では挑めぬ!」


 グッとサムズアップし、なぜか誇らしげに笑いかけるユピテルさん……って!


「そ、そそそ、それってマズイんじゃ……!?」

「うむ。そうだな。しかし案ずるな。我程の実力者であればそのレベルのハンデがあってようやく他の者達が大会を楽しめるというもの」

「自信家なのは良いけど……いや、あまり良くないかもしれないけど……と、とにかくまだ一回戦だよ……!?」

「ハッハッハ! それもまた一興だろう!」


 私は念の為周りには聞こえないように話すけど、ユピテルさんは全く気にしている様子もなかった。

 本当にどうするんだろう……そんなリスクがあるのにテンション上がったからって理由で使うなんて……。

 そりゃあ威力は数十キロ以上の広さのあるステージが一瞬で更地になるくらいに強大なものだったけど……。


「まあなるようになるだろう。我程ではないにせよ、皆優秀なのだからな!」

「やれやれ……阿呆なのか主は……」

「今回ばかりはレモンさんに同意だよ……」


 本人は全く気にしていない様子だけど、ユピテルさんと言う大きな戦力が弱体化しちゃうのはちょっと大変かも。

 お陰で魔物の国を追い越した。でもこれからどうなっちゃうんだろう……。

 そんな感じで話しているうちに次の試合になる。一回戦の第二試合って言ったところかな。


「あ、シュティルさん」

「次はシュティル殿の試合か」

「本日二度目だな」


 そう、何度か言うように代表戦は総当たりだから一度戦った人達の試合を見る事もあるの。

 だから総称的な呼び方が“名目上の一回戦”。最終的にはポイントの高い選手同士で戦う事になるけど、シュティルさんはその最有力候補の一人だね。間違いなく。


《さあ! 魔物の国“神魔物エマテュポヌス”のシュティル・ローゼ選手!! 続きまして人間の国──》


 選手紹介は簡略化されてる。シュティルさんの番がまた巡って来たって事は一巡したって事だもんね。

 選手達は会場へ立ち、そのまま転移の魔道具でステージへ。

 モニターに映し出されたステージは広い草原だった。高い樹や建物も特に無く、戦いやすそうな雰囲気の所。

 それぞれの姿が映され、各々(おのおの)は行動を開始する。


「……」


 シュティルさんはコウモリのような翼を広げて空へ飛び立ち、高速で移動して上空から探る。

 そう言えばヴァンパイアって日光に弱いけど、シュティルさんは別にそんな素振りは見せないよね。極薄くだけど魔族の血が混ざっている事に関係してるのかな? それとも外と会場やステージは仕様が違うとか。

 そんな事を考えていたらシュティルさんは相手を見つけ、その場所へ降り立つ。


「さて、人間の国の者達にリードされた手前、最初から本気で相手をして貰う」

「舐められたものだ。ティーナ・ロスト・ルミナスやジュピター・ユピテルが目立っているが、中等部一年の新参者には負けるつもりはない!」

「人間時間で一年しか違わなかろう。私からしたら差も無いに等しい」


 人間の国の選手みたいだから応援するならこの人なんだろうけど、


「アンデッドは火に弱いのが定石! 食らえ! “フレイムウェーブ”!」

「それは旧世代の知識だ」

「……!」


 その間もなくやられちゃった……。

 放った轟炎を念力のような力で弾かれ、周りに焔が散る。瞬間的に踏み込んで加速し、その人の眼前で手を広げる。そのてのひらから風を放出させて意識を奪った。

 風……なのかな。ただ吹き抜けただけで意識を失うまで行く筈が無いし、何かしらの力が作用していたのかも。

 その人は転移し、シュティルさんはまた翼を広げて草原を飛び行く。

 このステージは遮蔽が少ないから彼女のテリトリーみたいだね。


『ガァ!』

「オラァ!」


 一方でせめぎ合う幻獣さんと魔族さん。魔力と諸々がぶつかり合って衝撃波を散らし、草原を更地へと変えた。

 相変わらず一挙一動が地形を変えるもの。山河は破壊出来ないくらいだけど、やっぱり代表戦のレベルは高い。

 そんな二者の元にシュティルさんが降り立った。気配を読まなくてもこの規模で破壊されてたら分かっちゃうね。

 両者は優雅にゆっくりと降り立つシュティルさんに気付き、自分の相手ごと纏めて吹き飛ばす為に力を込め、


「ゆっくりと降り、猶予を与えてやったと言うのに反応が遅いな。それでも貴様らは国の代表か?」

「『…………!』」


 言い終わる頃には力を放出し終えており、全員を倒した後だった。

 試合が始まってすぐにこの有り様。攻略速度で言えば選手を近くに集めた分ユピテルさんの方が早かったけど、自分で相手を探してこの早さ。明らかに頭一つ抜けた存在だ。

 これからそんなシュティルさんと戦う可能性があるんだよね……。今から気が滅入るよ……。

 倒れた人達は転移。結果、シュティルさんが一気に大量ポイントを獲得して魔物の国はまた人間の国に追い付いた。

 ユピテルさんの無茶、それもあって魔物の国とは横並びで並走中だけどまだまだ先は長いよね……。


「私達も負けてられないな。ティーナ殿」

「うん……! もっと頑張ってポイントを取らなきゃ……!」

「私も最初の試合では不本意な結果となってしまった。次は大量ポイントを得るぞ」


 シュティルさんの戦いを見た私は少し圧されたけど、レモンさんはやる気満々。私もやらなきゃいけないよね……! とグッと手を握った。

 そこへユピテルさんも入ってくる。


「オイオイ、主ら。我には言及せぬのか?」

「いや……流石に満身創痍で勝ち残れる程代表戦は甘くないでしょ……」

「それもそうだな。うむ、では我も我なりに何とかしようぞ」

「が、頑張って……! ファイト!」


 多分本来の半分くらいの力になっちゃったのかな。威力に範囲とか自分自身の反応速度とかそう言った物は著しく低下中と思われる。

 でも雷の強みは、生物なら触れるだけで再起不能まで持って行ける可能性があるという事。なので今現在の状態であるユピテルさんも立派な戦力……だと思う。


 そんなこんなで他の試合を観戦しつつ、初日は過ぎていく。私達は好成績を収める事に成功した。

 二日目、三日目と三日目の決勝戦まで残れるかは分からないけどやれるだけやろう!

 私は改めて気合いを入れるのだった。


───

──


《さあさあさあさあ!! “多様の(ダイバース・)戦術による(タクティクス・)対抗戦(ゲーム)”!! 新人個人戦の代表戦、二日目の部となります!! 早速行われる試合は此方こちらァァァ!!! 人間の国“魔専アステリア女学院”ティーナ・ロスト・ルミナス選手!! 魔族の国“レイル街立暗黒学園”主将ダク選手!! 幻獣の国“神獣ドラニカルズ”黒龍のジルニトラことニトラ選手!! そしてェ!! “神魔物エマテュポヌス”のシュティル・ローゼ選手ゥゥゥ!! なお! この第一試合は現時点の各国で最高いポイントを所持している方々と二番目、三番目に所持している方々の試合!! この試合の結果で明日への決勝戦に続く事となりまァす!!! しかァし!! ポイント最上位者達の織り成すこの試合は事実上の決勝戦と言っても過言ではありません!!! 特例により、早くもこの選手達の試合が執り行われる事となりましたァァァッッ!!!》


「「「どわあああああああァァァッッッ!!!!!!」」」

「「「うおおおおおおおおォォォッッッ!!!!!!」」」

『『『グギャアアアアアアァァァッッッ!!!!!!』』』

『『『キュオオオオォォォンンンッッッ!!!!!!』』』


「……そ、そんな……」

「思ったより早い出会いだったな。ティーナ・ロスト・ルミナスよ」


 な、なんと。二日目の第一試合がこの時点でポイント上位者達のものとなってしまった。

 普通なら決勝戦まで当たる確率は低いんだけど……今回は特例だとか。

 ポイント一位、二位、三位と三位の試合だから、この時点でその国の決勝まで残る人が決まるとの事。

 簡単に言えば選別。なるべく一位の人を決勝まで行かせる為の試合って事かな。ルミエル先輩達もそんな感じだったもんね。もちろん、過去にはどんでん返しがあって三位の人が決勝まで残ったりした事も珍しくない。


 とんでもない事になっちゃった……。それにシュティルさん以外の対戦相手も私が昨日戦ったリテさんのチーム“レイル街立暗黒学園”の主将。ルミエル先輩が代表戦の決勝で戦った“神獣ドラニカルズ”出身選手とか……トップ3だけあって全員が上澄みも上澄みの集大成。

 私達の織り成す新人戦ダイバース代表戦。個人の部。二日目の第一試合からとんでもない事になりそう……。


「良い試合にしようではないか」

「こちらこそ……!」


 でもやるしかないね! ポイント一位はシュティルさんとして、私は人間の国で三位。頑張るぞォ! オオーッ!

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