第百五十三幕 力と力のぶつかり合い
「はっ!」
「ダラァ!」
レモンさんの木刀が振るわれ、ザラムさんが迎撃してまた快音が響き渡る。
片方で押さえ、もう片方で薙ぎ払い、レモンさんはまた距離を置かされた。
木刀も長さは様々。本来なら二刀流だと片方は短い刀になったりするけど、魔族特有の身体能力があるからどちらも長い。対するレモンさんは一本のみであり、傍から見たらそちらが不利なように思える状態にあった。
だけど余裕のある面持ち。交流会とかで戦っているなら慣れてるよねきっと。
「オラァ!」
「力任せな一振りよ」
「ガードも何もかも、力で破壊すれば全ては無礙となる。生まれ持った腕力と魔力を硬さと重さに集中すりゃ俺に敵は居なくなる!」
「それもまた一つの流儀。否定はせぬさ」
ザラムさんは技じゃなくて力側の人だったんだ……。一応訂正しておこう。
魔族の特徴は高い身体能力に魔力。ザラムさんはそれを木刀、つまり剣の強化に当てて押し切る戦法を取るみたい。
レモンさんは男勝りな性格で、女性にしては力も強いけど、魔力による身体能力の強化もあまり無い。そう言う意味でも力押しされると大変かもね。
「言ー事で、親しき仲にも礼儀あり。手加減せずぶっ潰す!」
「そうしてくれるとありがたい。種族や性別の壁なんぞ無いと言うのが私の持論だからな」
「ハッ、その意見には同意だ!」
二本の木刀を振り下ろし、レモンさんの立っていた塀を粉砕してそのまま石の地面を割る。
レモンさんは撓やかな動きで躱し、建物から建物へ跳び移って翻弄。■角から木刀を差し込んだ。
「相変わらずの速度だ」
「主も相変わらずやるが……イェラ殿に比べたらまだまだだな」
「イェラ・ミールか。それと比べたらそりゃそうだろ。魔族も魔物も幻獣も、全て含めて剣士じゃ一位だ。ま、何れは越える予定だがな!」
「イェラ殿を越えると言うのは私も同じだ」
ザラムさんは木刀の一突きを紙一重で躱し、カウンターのように打ち込む。
それを受け止め、イェラ先輩についての会話をする。
やっぱり人間でも魔族でもイェラ先輩は偉大な対象なんだ。私の事じゃないけどちょっと嬉しい。
それだけ交わし、再び鬩ぎ合いが織り成される。
オガさんとレナーさんの試合も続行中。
『ウオオオォォォォッ!!!』
「ただ真っ直ぐ攻めてくるだけで厄介だな」
矢や魔法を放ち、その全てを金棒一つで防ぐオガさんはスゴいね。
と言うかザラムさんにオガさんに、レモンさんの知り合いって全員力こそ全てって感じの性格だね……。レモンさん自身も基本的に力押しだから似た性格の人が集まるね。
「性に合わないが、遠距離からチマチマ攻めるか」
『フッ、距離を置いた所でやり方はある』
そう言い、石畳を割る。その衝撃で瓦礫が舞い上がり、金棒で瓦礫を打ってレナーさんの立つ建物を粉砕した。
大きさは石ころより少し大きいくらいだけど、それでこの威力って……。一体どれ程の力で打ってるの……?
「結局力押しではないか!」
『妨害は出来るだろう! おっと。オレ、妨害、出来ル』
「もうその話し方も面倒臭い!」
キャラを作ってる様子のオガさん。
魔物の国に移ったって言ってたからその為かな? でもそんな必要は無さそうに思える。
だってその魔物の国の人達には──
『やれェ! オーガァーッ!』
『魔物の国の底力を見せてやれェ!』
『魔物の国随一の腕力の持ち主ィィィ!』
スゴく人気だもん。
ここに居る人達は選手だけど、魔物の国での名前も広がってるみたいだし、キャラを作る必要は無さそうに見えるよね。
本人も無理してる感じはないから、本当にそうあろうとしているだけなのかな。
「やれやれ……本当にやれやれだ。“影の樹”!」
『魔法か……!』
「ただの魔法ではない。植物魔法だ。まあもう既に、人間の国には範囲や威力では上位互換とも言えるような存在が居るから私は技術方面を鍛え上げているがな」
黒い植物を放ち、オガさんの体に打ち込まれる。けれど受けながらもそれらを金棒で消し去った。
エルフ族は自然と共にある種族。それはダークエルフも同じ。だからレナーさんも植物魔法を使えるみたい。
威力や範囲は私が勝ってるけど、単純な強度はおそらくレナーさんが上。魔力を何重にも覆って上げてるんだ。参考になるなぁ。
でもそれを一薙ぎで破壊するオガさんの力は底知れないね……。
「これも無意味……ならば……」
『奥の手でも使ってくるか。だが、魔物の国のポイントが欲しい今、普段ならさせてやるが今回は保留だ!』
「……! この巨体にこの速度……!」
魔力を込めたその瞬間、オガさんの速度が上昇し、一瞬にしてレナーさんとの距離を詰めた。
魔法を放つ暇すら与えぬ速さにたじろぎ、その間に横殴り。レナーさんは吹き飛び、建物に追突して光となって転移した。
スゴい強さ……。これで魔物の国にポイントが入る。今は人間の国と魔物の国で一位を争っている状態にあり、その後から魔族の国と幻獣の国が追っている感じ。
どのチームも負けられない勝負。オガさんは直ぐ様レモンさん達の方へと向かった。
そんなレモンさん達サイドも変わらず白熱している。
「オラァ!」
「フッ……!」
──と言うより、既に終盤へ向かっていると言える状況にあった。
住宅街だった場所は既に廃墟みたいな風貌になり果てており、ザラムさんが今一度木刀を叩き付けて瓦礫が巻き上がる。
身を翻してそれを躱したレモンさんは回り込み、木刀で打ち抜いてその体を吹き飛ばす。
ザラムさんは建物や瓦礫を突き抜けて粉塵を巻き上げ、遠方から魔力を飛ばして牽制。木刀に魔力を纏ってそれを飛ばしたみたい。
本物の剣だったら斬撃が飛んでたのかな。どちらにしてもスゴい技術。力押しを主体としているけど、やっぱり上澄みなんだ。
その一撃を避けたレモンさんはそのまま一直線に駆け寄り、ザラムさんの鳩尾を打ち抜いた。
「カハッ……」
「これで終わりだ」
「互いにな……!」
「……!」
急所に手痛い一撃を受けても気合いと根性で堪え、レモンさんの側頭部を殴り付ける。
レモンさんは頭から血が流れ、二人の体は弾き飛ばされるように瓦礫の中へ吹き飛んだ。
しかし即座に起き上がり、レモンさんは頭を抑え、ザラムさんはフラフラながらも力を込め、大地を踏み蹴って距離を詰める。
『ウオオオォォォォッ!!!』
「……! フッ、来たか。オガよ」
「……問題無ァし!!」
そこへ割り込むようにオガさんも参戦。
既に力を込めてある木刀と金棒がぶつかり合って衝撃波を散らし、周りの瓦礫を吹き飛ばした。
それによって一つの影が光となって転移。残った二つの影が切り返し、二人の得物が衝突して弾く。
土煙の中から現れたのは──レモンさんとオガさん。
『がァ!』
「貴様の相手は……慣れている!」
『……!』
弾かれた金棒が振り下ろされ、レモンさんは紙一重で躱してその上に乗り、回し蹴りを顔に打ち付ける。
鍛えているレモンさんの蹴りとは言え、あの強靭な肉体じゃ大したダメージにはなっていない筈。でも怯みを見せ、揺らいだ所に木刀で追撃。三、四メートルはありそうな巨体を吹き飛ばした。
「見たところ大分弱っているな。また効いてないアピールをしながら正面から受け続けたろ」
『オレ、攻撃、効イテナイ!』
「嘘を吐け」
そうだったんだ……でも普通に考えればそうだよね。代表戦に残っているような存在の攻撃を受けてノーダメージという事は無い筈。
じゃあオガさんが早めにレナーさんと決着を付けたのは食らい続けたらマズイと判断したからなんだ……。
確かにトドメ前、ちょっと言い訳にも聞こえるそれっぽい理論を話してたね。
「嘘吐きは地獄で閻魔様に舌を抜かれるぞ」
『寧ろオレは閻魔大王に仕える側だろう。この見た目』
「じゃあ尚更嘘を吐くでない」
『嘘じゃない!』
「これでもか!」
金棒が振り回され、風魔法と言われても信じてしまいそうな程の風圧が散る。
その遠心力からなる重い一撃がレモンさんに迫り、彼女は身を屈めて回避。全体のバネを利用して立ち上がる勢いそのまま木刀でオガさんの顎をかち上げた。
『……ッ!』
「脳へ直に衝撃が及んだろう。私は硬く、力のある者はしかるべき手段で切り崩していく」
『やられるかァ!』
「これで終わりだ」
ザラムさんの時も、鳩尾を狙って呼吸不全にしてから仕掛けていた。
レモンさんは、単純な身体能力が通じない相手には急所を狙う事でジワジワと削っていたんだ。
思えばさっきの回し蹴り。それも顔を狙っていたし、蓄積させて一気に倒す戦法を取っていたみたい。
金棒が振り下ろされてオガさんの体は武器に持っていかれる。フラつきを見せた辺りでレモンさんは力を込めた。
「はあ!」
『……ッ!』
狙いは顔。重い一撃が当たり、オガさんの体は揺らぐ。少し経てズズーンと倒れ伏せた。
それと同時に転移。よって勝敗が決する。
《勝者、ルーナ=アマラール・麗衛門選手ゥゥゥ!!!》
「「「どわあああああああァァァッッッ!!!!!!」」」
「「「うおおおおおおおおォォォッッッ!!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァッッッ!!!!!!』』』
『『『キュオオオオォォォンンンッッッ!!!!!!』』』
レモンさんの勝利。会場に戻り、軽く手を振って挨拶。そのまま後にして私達の元へ。
これで人間の国が更にリード! ……って思ったけど、なぜだか優れない表情のレモンさん。その答えは司会者さんの言葉と共に明らかになる。
《しかァし!! 討伐数、人間の国が1! 魔物の国が2となり、魔物の国が一歩リードしましたァァァ!!!》
「やはりな……」
「……ぇ……」
倒した数……魔物の国がリードしちゃったみたい……。
レモンさんは始めから分かっていたようであり、肩を落とした。
「ザラムは早めに意識を失ったのだが、それは金棒によって巻き上がった瓦礫との衝突が一つの要因なんだ。それによって眩み、私がトドメを刺す直前に金棒で打たれて気絶。とまあそんな感じだ」
「そんな……レモンさんが勝てた試合だったのに」
「勝負は時の運。運も実力のうち。もっと早めにケリを付けられなかった私の実力不足が敗因だ。致し方無い」
ストイックな人。でもだからこそ名門である“神妖百鬼学園”の大将を任されているんだね。
人間の国vs魔物の国vs魔族の国vs幻獣の国のダイバース新人代表戦。それは魔物の国が一歩リード。
だけどまだ名目上の一回戦だから挽回のチャンスはあるね。それは魔族の国と幻獣の国にも言える事だから頑張らなきゃ!




