第百五十二幕 会場散策・各種の試合
「やるではないか。見事な勝利であったぞ。ティーナ殿」
「流石は私が見込んだだけはある」
「いつ見込んだのだ?」
「レモンさん! ユピテルさん!」
一回戦を終えた私はレモンさんとユピテルさんに迎えられた。
いつもはボルカちゃん達だから新鮮な感じ。だけど迎えてくれる人が居るのは嬉しいね!
「これでティーナ殿は次へ行けるな。まあ、総当たりみたいなものだから勝っても負けても試合自体には何回か参加する事になるのだが、名目上の一回戦突破はほぼ当確だろう」
「一人で三者を倒したからな。人間の国への総合ポイントも一気に増えた。我らも負けてられないな」
「そうだな。ルミエル・セイブ・アステリア以来の人間の国優勝へ貢献しようではないか」
レモンさんとユピテルさんの試合はまだみたい。だけどスゴくやる気になっている。今回はチームメイトみたいなものだもんね。この二人が味方なんてとても頼もしいよ!
「そうだ。ティーナ殿。良ければ少し会場を見て回らぬか?」
「会場を?」
「うむ。代表決定戦の時から思っていたが、主はあまり屋台などに寄っておらぬのでな」
「アハハ……試合前は緊張しちゃって……」
そして時間はまだ余っている。なので私達は会場内を少し散策する事にした。
考えてみたら折角の大きな場所なのに基本的にステージ付近で留まって出店とか堪能してなかったもんね。緊張でそんな余裕が無かったからだけど。
なのでこの機会に会場を見て回る。
「糖分と魔力の補給のお店とかあるんだ」
「人気店だぞ。と言うか、ティーナ殿はその辺を如何様にしていた?」
「寮から持ってきた物で済ませてたよ」
「持参か。それも良いが、此処で摂る物も一風変わって良いぞ。しかと栄養管理士などが調合した物を使っているからな」
最初に来たのは一見普通のお店だけど、魔力の補給とかを専門に扱っている所。
よくあるスティックバーみたいな物だね。私が愛用しているのと殆ど同じかな。栄養ドリンクとスティックバーでの魔力補給、糖分補給、疲労回復が定石。
特に欲しい物は無いし、込み合っているので別の場所に移動する。
「なにここ……」
「キッズルームだな。子連れのお客も多いが、まだ年端も行かぬ年齢だと試合を観戦しているだけでは退屈なのだろう」
「キッズルームにしては大きなテーマパークみたい……」
私達がここで遊ぶ訳じゃないけど、こう言った施設もちゃんと用意されてるんだって。
ボールプールとか積み木とか色々なおもちゃに絵本とかが置かれており、子供達は楽しそうに遊んでいた。お菓子や飲み物も完備してる。
会場の魔道具と繋がっているからここで子供達のお世話をしている役員さんや保護者さん達も試合観戦をする事が出来るみたい。
会場の大きな盛り上がりだと驚いて泣いちゃう子も出てきそうだし、必要な場所だね。
「……と言うか普通に遊園地もある……」
「代表戦規模になると様々な施設が充実しているからな。それ以外の日も別途で解放しているが」
キッズルームとは違い、本当のテーマパークもそこにはあった。
連結魔道具からなるジェットコースターや魔力で回る観覧車。その他のアトラクションなどお馴染みの物が全て揃っている。そう言えばこういうテーマパークでボルカちゃん達と遊んだりは無かったね~。まだ中等部の一年生だからあまり遠出できないのも理由の一つだけど、大分慣れたからいつか遊んでみたいや。
「図書館……。あ、ウラノちゃんが来てる」
「あら、ティーナさんにレモンさんとユピテルさん」
「おお、ウラノ殿か」
「本魔法の者だな。試合は見ていないのか」
「此処からでも見えるし、今の試合は別に知り合いが出てる訳でもないからね」
「アハハ……ウラノちゃんはダイバースにそこまで執着してないもんね」
「そう言う事」
大きな図書館に来、ウラノちゃんと会った。
此処で本を借りながら個室でダイバースの試合を見る事が可能な場所。本好きのウラノちゃんにはピッタリだね。
「ウラノちゃんも一緒に行かない?」
「まだ読んでない本もあるから。こう言う機会じゃないとこの場所に入れないから止めとくわ」
「相変わらずだね~」
一応この会場自体が大きな施設という事になっており、本来はスゴくお高いんだって。
私やルーチェちゃんならお小遣いで通えるくらいだけど、場所も遠いから納得の理由。
ウラノちゃんとはここで別れて合間合間に挟まる試合映像を見ながらフロアを回る。
「マッサージ施設に温泉。心身休めるのに適正な場所だね~」
「しかも選手は無料。試合前に寄っている者達もチラホラ居るぞ」
「我もたまに利用させて貰っている」
健康ランドみたいな場所もこの会場にはあった。
体を解したり試合前にリラックスしたり、用途は見た通り。私はまだそんなに疲れていないけど、常連チームとか選手は結構蓄積してたりするのかな。
本当に色々な施設があるんだね~。
「これで全体の一割未満くらいか。そろそろ私の試合が始まる。私の案内はこれくらいだな」
「まだ一割未満なの!?」
色々見て回ったけど、まだそんなものだった。
確かにこの会場の広さ、一つの島がそのまま舞台になってるから転移の魔道具で移動しながら見て回ってるとは言え、そうなっちゃうよね……。
あくまで選手に良さそうな場所を紹介したに過ぎない現状。他にもお土産屋さんとかレストランとか別会場とか色々あるって事なんだね。
レモンさんの試合が始まるなら私も特等席で観戦しよっかな。
「ユピテルさんは?」
「我はレモンの次よ。頃合いだ。会場の方に戻るとしよう」
「うん」
「それでは会場へ向かうか」
飲み物を購入して会場全体に設置された転移の魔道具で舞台の方へ戻る。私とユピテルさんは選手用観戦席に座り、レモンさんはステージに降り立つのだった。
そして紹介がされ、会場は更に沸き立つ。
*****
《──さあ! 紹介致しました人間の国は“神妖百鬼学園”のルーナ=アマラール・麗衛門選手!! 魔族の国“夜桜明刀学園”のザラム選手!! 幻獣の国“エルフォシア”のレナー選手!! 魔物の国“鬼ヶ島”のオーガことオガ選手ゥゥゥ!!!》
──レモンさんの試合も、白熱したものになる。
選ばれたステージは街。選手はレモンさんに魔族の国のザラムさん。“エルフォシア”はルミエル先輩達が代表戦で戦ったチームだね。選手はエルフ……じゃなくてダークエルフのレナーさん。そして“鬼ヶ島”のオーガ、オガさん。と、持っている武器からして全員が肉弾戦を得意とするタイプの人達みたい。
司会者さんの話はまだ続くので、試合前の選手達は雑談をしていた。こんなちょっとした音声も拾われるんだ。私、変な発言とかしてないよね……?
「久しいな。ザラム。オガよ。剣の腕は鈍っていないか?」
「当たり前ェだ。そちらこそ、さっきティーナ・ロスト・ルミナスやジュピター・ユピテルと親しそうに遊んでいて鈍ったンじゃねェか?」
「そんな訳なかろう。と言うか、私の動向を探っていたのか……フッ、好きにでもなったか?」
「悪ィが男勝りなお前は対象外。お淑やかな大和撫子タイプが俺の好みだ」
『オレ、オマエ達、倒ス』
「ハッハッハ。相変わらずだな。オガよ。魔物の国デビューは上手くいったのか?」
『いや、そうでもねえな』
「最初から普通に話せ!」
どうやらレモンさんとザラムさん、オガさんは知り合いみたい。
試合開始前に司会者さんが言っていたんだけど、人間の国でも“日の下”は昔から魔族の国と親交があるらしく、ザラムさんの“夜桜明刀学園”とは交流会もよくやってるんだって。
確かに言われてみれば名前の響きとか何となく似ている気がする。
オガさんとは会話の内容からして“ヒノモト”から引っ越したのかな。
「………」
そして、少し離れた場所でレナーさんがボーッと三人の様子を見ている。
なんだろう……なんか親近感が湧く。入りづらい雰囲気の時ってあるよね。
「そこのダークエルフ。主も来ると良い。見たところ剣士みたいなものだからな。私達と話が合う筈だ」
「いや、剣は剣でもレイピアだから君達の武器とは違うような……」
『それを言えばオレは金棒だ』
「とは言えもう既に試合前だけどな」
そんなレナーさんはレモンさんに誘われ、その輪の中に入る。ちょっとした雑談が行われていた。
なんてコミュニケーション能力……私にはあんなにしれっと誘えないよ……。
《さあ! それでは皆様!! 早速始めて行きましょう!!!》
馴染み始めたところで試合が開始する。
軽く最後に話、レモンさん達は街ステージへ。
転移の魔道具で移動し、魔道具のモニターにはその様子が映し出された。
四人の姿がそこにあり、転移と同時に試合はスター──
「……」
「……」
「……ぇ……?」
始まった瞬間、選手達は全員が一斉に駆け出した。
転移地点は完全ランダム。にも関わらずみんなどこに誰が居るのか分かっているような素振りで進んでいく。
既に気配の探知は完璧みたい。私は植物を張り巡らせてティナを先行させなきゃ分からないのに……。
物の数分で互いに迫り、レモンさんとザラムさんが合流。出会うや否や、刹那に両者木刀を抜き、バシーン! と心地好い音が響き渡る。
映像越しでこの快音。二人は弾かれ、街路樹と塀を足掛かりとし、踏み込んで距離を詰め寄った。
「オラァ!」
「フッ……」
今一度振り下ろし、快音と共に押し合いが発生。次の瞬間にザラムさんは別の木刀を抜いて薙ぎ払った。それをレモンさんは足で受け、飛ばされる勢いのまま距離を置く。
ザラムさんは二刀流だったんだ。同じ剣士でもやっぱりそれぞれのスタイルが違うって事を改めて理解する。
一方で、オガさんとレナーさんも鉢合わせており、ダークエルフ特有の撓る身体能力と共にバネのように模擬刀のレイピアを突き出す。
あろう事かオガさんは正面から受け、物ともせず金棒を振り下ろした。
コンクリートの大地が割れ、煉瓦の塀や建物がその衝撃で一部崩れる。
ウラノちゃんの本魔法でオーガは何度か見ているけど、あくまで魔法が作り出した物だから本物の凄まじさがよく分かるね。
「硬い体だ」
『鍛えているからな! と、オレ、鍛エテル』
「何故わざわざ聞き難い方に言い直す!」
レナーさんは距離を置き、魔力からなる矢を放って牽制。それをオガさんは金棒で振り回して防ぎ、巨体が一気に距離を詰め寄る。
レナーさんは持ち前の身体能力でヒラリと躱し、建物から建物へと跳び移りながら矢を射り、オガさんは乗った建物を片っ端から破壊していた。
一方では技と技。一方では柔と剛の鬩ぎ合い。肉弾戦同士の戦闘でも、参考になる事は色々ある。
ダイバース新人戦、代表戦個人の部。相変わらずどの試合もレベルがかなり高いや。




