第百五十幕 ダイバース新人戦・代表戦・個人の部
──“ダイバース新人戦・代表戦・個人の部”。
《さぁて! 昨日までの団体戦は如何でしたかァ━━ッ!? 一進一退の攻防! 一歩も譲らぬ激しく白熱した試合でしたァァァ━━ッ!!!》
「「「どわあああああああァァァッッッ!!!!!!」」」
「「「うおおおおおおおおォォォッッッ!!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァッッッ!!!!!!』』』
『『『キュオオオオォォォンンンッッッ!!!!!!』』』
司会者さんの言葉に相変わらずの大きな反応を示す観客達。
団体戦の間ずっとこのテンションを保っていてもまだまだ大きくなるなんて、お客さん達の熱意も凄まじいよ……。
《分かりますよォ! 皆さんのお気持ち!! 熱りが冷めやらぬ状態と言ったところでしょう!!! しかァし!! 新人戦の本番はこれから!! 一番の注目すべきところは新人戦のみに与えられた特権!! 個人戦だァァァ━━ッ!!!》
「「「どわあああああああァァァァァッッッ!!!!!!」」」
「「「うおおおおおおおおォォォォォッッッ!!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァァァッッッ!!!!!!』』』
『『『キュオオオオォォォォォンンンッッッ!!!!!!』』』
より一層大きな歓声が舞い上がる。
本当に興奮が収まらないでハイテンション。単純に数が多いのもあるけど、それにしてもスゴい……試合前なのに圧倒されちゃうよ。と言うかもうされてるかも……。
だけどこのまま勝ち残れば更なる歓声も出てくるもんね。やらなきゃいけない!
今回の対戦相手は魔族・幻獣・魔物の他種族。代表戦は純粋な戦闘が増えるって言うし、多分それは個人戦にも該当すると思う。
人が相手の時と比べて戦い方も弱点も変わってくる筈。素の身体能力で言えば人間が最下位。課題は山積みだよぉ~。
ゲーム上の、作られたモンスターとは何度か戦っているけど、加減を間違えたりしたら大惨事になる可能性もある。私も相手も。だから気を付けないと……ダメだ……余計な事ばかり考えちゃう。
【アタシを信じろ!】
「……!」
そんな思考へ、ボルカちゃんの言葉が過る。
うん、そうだよね。始まったものは仕方無い。ここまで勝ち残れたのは私自身の実力。今までの応用をすれば他の種族が相手でも問題無く立ち回れる筈。
昨日までの団体戦で動きや戦い方は色々見てきたもん。私の実力を信じなきゃ!
《それでは! 早速やって参りましょう! 第一試合、人間の国──》
考え事をしているうちに試合が始まる。
ゲーム内容は四つの国から代表の一人や一匹が舞台に上がって行うバトルロワイアル形式。数的には個人戦っぽくないけど、あくまで個々が行う1vs1vs1vs1の試合だから個人戦表記なんだって。
私の順番は少し後。ギリギリまで他の人達の動きを見て学習しなくちゃ! 色んな策を張り巡らせていくよ!
ダイバース新人戦・代表戦個人の部。それがついにスタートした。
───
──
─
《さぁて! 何れも白熱した大決戦でしたが、まだまだ試合は続きます!! なんてったって一回戦ですからね!! 次なる試合は、あのルミエル・セイブ・アステリアの出身校、“魔専アステリア女学院”から来ました!! ルミエル選手以来の人間の国優勝に貢献する事となるか!? ティーナ・ロスト・ルミナスゥゥゥッ!!!》
「「「どわあああああああァァァッッッ!!!!!!」」」
「「「うおおおおおおおおォォォッッッ!!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァッッッ!!!!!!』』』
『『『キュオオオオォォォンンンッッッ!!!!!!』』』
最初に紹介されたのは私。周りからの大歓声が全身を覆い尽くすような感覚。実際四方八方から聞こえてるから間違ってないんだけどね~。
でもやっぱり枕詞にはルミエル先輩の存在が示唆される。まだまだ先輩の影に隠れちゃってる分、私。ティーナ・ロスト・ルミナスの存在を知らしめなくちゃ!
《無論当然当たり前! ティーナ選手だけではありませんよォ!! 対するは魔物の国“混合魔獣連盟”! キマイラ選手ゥゥゥッ!! 尚! 此処ではマイラを名乗っております!!》
「「「どわあああああああァァァッッッ!!!!!!」」」
「「「うおおおおおおおおォォォッッッ!!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァッッッ!!!!!!』』』
『『『キュオオオオォォォンンンッッッ!!!!!!』』』
キマイラのマイラさん。見た目がもうThe魔物って感じ。ちょっと怖い。……でも色々な実験で生まれちゃった悲しいモンスターなのかな……。
(──む? なぜか憐れむような目がティーナ・ロスト・ルミナスから……しかも人形達も居てより多くの目を向けられているような感覚に陥る……魂はあの子の一つしか感じられないのだがな。━━やっぱ俺達の見た目が怖いんじゃねえのかー? ──かもしれぬな。獅子の頭に蛇の尾。見たところあの子は世をよく知らぬようだ。━━異形の者は畏怖の対象か。しかしある意味魔物としては正しい在り方だ。魔物冥利に尽きるね! ──お前は相変わらずだな)
うっ、ちょっと見過ぎたかな。ライオンさんの頭と蛇さんの目がジッとこっち見てる。
最初に見てたのは私だし、失礼だったね。
《まだまだ紹介行きますよぉ!! 次いで魔族の国“レイル街立暗黒学園”!!》
(暗黒学園って……あ、でも私達の学校も人名そのままだ)
《リテ選手ゥゥゥッ!!!》
「「「どわあああああああァァァッッッ!!!!!!」」」
「「「うおおおおおおおおォォォッッッ!!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァッッッ!!!!!!』』』
『『『キュオオオオォォォンンンッッッ!!!!!!』』』
水色の髪の毛の女の子が笑顔でお客さん達に手を振り返す。こんな中全然緊張しないなんてスゴい……。と言うか私以外スゴい人や方達だらけ……。
大歓声が響き渡り、司会者さんは更に続ける。
《そして幻獣の国は“ウィンディーズ”! グリフォン選手ゥゥゥッ!!! 此処ではリフォンを名乗っております!!》
『………』
リフォンさん。スゴく堂々とした佇まい。グリフォンって誇り高い幻獣だよね。本で読んだ事ある。
有名な存在……の子孫かな。年齢は全員合うようになってるから。この凛々しい見た目で同年代なんだ……。
《それでは! 一回戦、第三試合!! スタァァァトォォォッ!!!》
回線の合図と共に私達は今回のステージへ転移。
ブワッと吹き抜ける風が私の髪を揺らした。
*****
「ここが今回のステージ……」
眼前に広がる光景は、険しい谷が連なる山岳地帯。高所の私に風が吹き抜ける。……うーん、山って言うよりは崖って感じかな。
分かりやすく言えば岩山。あ、山だ。
取り敢えず足場は悪いしちょっと転んだら怪我しそうだしで慎重に行かなきゃならない場所だね。
(多分私の気配は掴まれてると思うし、足場的な意味でも相手にと言う意味でもゆっくり行こう。うん、そうしよう)
そう考え、ママとティナを連れて物陰に隠れながら進む。
あれ、でも……。
(ポイント制だからなるべく見つけた方が良いんじゃ……)
今回は最後まで残るのが目的じゃない。勝ち進めば必然的にそうなると思うけど、最後まで残ってもポイントが少なければ意味がない。
例えば四人中、自分と相手が最後の二人まで残った場合、自分が一人倒しただけじゃ事前に二人倒したその人が勝者という事になり、こちらの敗北になってしまう。
だから積極的に探していかなきゃいけないんだ。
「やるしかないね……!」
呟くように言い、ティナに魔力を込める。こんな岩場じゃ植物を生やした方が目立っちゃうから、何とかここで身を潜めなきゃ。
個人戦では感覚共有による索敵もあまり意味を成さない。これが1vs1ならまだしも、他のプレイヤー達が居るから一ヶ所に集中出来ないの。
向こうも条件は同じだけど、魔力とか気配を探る術には長けていると思うから私だけがちょっと不安。
「……あ、そうだ。岩場じゃ無くなれば良いんだ」
そして、一つの事を思い付く。
ここが岩場ステージであり、環境に溶け込まず目立っちゃう植物魔法が使えないのなら、目立たせなければ良いだけ。
一度ティナとの感覚を遮断し、ママに魔力を込め直す、次の瞬間、私の場所から見下ろした下方にママの糸を伸ばし、地面へ到達させた。
「“樹海生成”……!」
ここから下に数十メートルは離れた場所から森を形成。これなら私の位置も特定され難い。森が魔力を纏っているから魔力による探知も無効化。
後はマイラさんやリフォンさんの野生の勘的な物や嗅覚がどこまで及ぶか。
私は植物に乗って場所を変え、改めてティナへと魔力を込めて一気に飛ばし、相手を探す。
森が広がっていくのと同時にティナも進み、感覚を共有する。
すると早速近場に人影が。
「……この魔力、ログでは何度か見たけど、スゴい子だね~」
水色髪の彼女はリテさん。真っ直ぐこっちに向かっていた事からするに、私の気配か魔力からか場所を探り当てたみたい。
移動していて良かった~。
でも逃げ回るだけじゃダメだよね。上手く彼女に奇襲を仕掛けよう。
当然、ちゃんとティナは別の場所で待機。マイラさんとリフォンさんの動向を探らせる。
私は植物を操って移動。場所で言えばもう一段階上に行けるっぽいのでそこにし、リテさんの姿を遠目ながら視界に収める。
彼女は植物が生えた位置から一つ上の場所におり、ちゃんと囮や陽動の線を考慮したいたみたい。念の為一段上に移動したのは正解だったね。
極限まで魔力を弱めて気配を消し、軽く深呼吸。高所から落ちても植物があるから大丈夫。飛び降り、魔力を込める。
「“フォレストスピア”!」
「……!」
気付かれる事無く降下し、リテさんはギリギリで躱す。少しは当たったみたい。呪文を言ったのは落ちた後だから、空気の流れとかで見つかっちゃったのかな。
でも、奇襲は成功した。手傷は与えたから!
「いきなり仕掛けてくるなんて……上の方に居たんだ。安全圏から観察すべきだったかな」
「た、倒させて貰います!」
「その言葉、そのまま君に返したげる!」
「……!」
片手に……魔力? 不思議な力を込め、近くの岩を操り私の方へと放り投げた。
特有のあの感じが無い。という事は魔力じゃないね。多分念動力とかかな……!
「やあ!」
「周りの植物も自由自在。当たり前だよね。君の力だもん」
「植物が……!」
取り囲んだ植物を嗾け、それは刃物のような物に切断されたみたいに分かれた。
何だろう。念動力とかなら捻り斬る感じになるけど、そうじゃない。
団体戦にも出てなかったから情報は持ってなかった……! 今度からは過去のダイバースのログにも目を通すようにしよう。タネが分からないなら、分かるまで攻撃あるのみ!
「“フォレストゴーレム”+“フォレストビースト”! &“ナチュラルコントロール”!」
「自立型のゴーレムに獣に周りの植物。こりゃ予想以上に大変だねぇ。しかも、常に魔力が漏れてる訳じゃなくて使用の際に爆発的に大きくなるから無意識下で魔力の消費を抑えてる」
「え!? そうだったんですか!?」
「無意識だからそりゃ第三者視点じゃないと分からないよねぇ~」
そうだったんだ。私って魔力を使う時だけ使えたんだ。……なんか変な言い回し。必要な時だけ、必要な量を放出できる……うーん、適切な言葉が思い浮かばないや。
取り敢えず実感は湧かないけど、それは良い事。逆に考え過ぎたら出力に乱れが生じちゃうかもしれないし、今は流れに身を委ねる!
「みんな! やっちゃって!」
『『『………』』』
『『『………』』』
「こりゃ手強い」
仕掛けた瞬間、ビースト達は突然の発火現象で焼失。ゴーレムの巨腕が振り下ろされ、リテさんは片手を翳すだけで吹き飛ばした。
あれは念動力。サイコキネシスとかの類い……じゃあ燃やしたのはパイロキネシス、斬ったのはエアロキネシス辺りかな。
それらの能力を考え、リテさんの戦闘スタイルが何となく分かった。
「リテさんって……“超能力者”ですね!」
「お、正解ー。ってか、私の過去ログとか見てないのー? そんなんで良く代表戦まで勝ち上がってきたよ。ま、この凄まじい魔力出力があればそれも納得だけどね」
「す、すみません……」
「打たれ弱っ!? そのメンタルも鍛えなきゃ代表戦では勝ち残れないよ~?」
「そ、そうですよね……」
優しい人……なのかな。それとも揶揄ってるだけ?
どちらにしても彼女の言ってる事は正しい。ログを見返して対策を練ったり、メンタルの弱さを見せて隙を与えたりするのは言語道断。
ちゃんとしよう!
「それじゃあ……ちゃんと貴女を倒します……!」
「うひゃあ……こりゃ、化け物だわ」
魔力を込め、高さ三〇メートル程のゴーレムを生成する。
またゴーレムだけど、ルミエル先輩のアドバイスは遂行するつもり。あくまでこのゴーレムは囮。それで倒せたらラッキー程度に留めておく。
私のダイバース代表戦。ついに試合が始まった。




