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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第百四十八幕 先輩の卒業式

 メモリアルダイバースが終わり、森に戻った私達は部室へと来ていた。

 卒業式で先輩達はもう“魔専アステリア女学院”を去ってしまう。だから最後に寄ってみたいんだって。


「そう言えば、私達が敗れてしまった以上もう手に入れられないけれど、勝っていたら勝利報酬はなんだったのかしら? 表記は“???”だったけれど」


「あー、それはですね。実は勝っても負けてもパーティー会場で騒いじゃおう! って考えていました。先輩達に合いそうな物が思い浮かばず、既に送別会で色々としてしまったので。だったらこのパーティー会場で盛り上がれたら良いなぁって思ってました」


「あらそうだったの。ごめんなさいね。会場を壊してしまって」


「いえいえ! 私達もその攻撃はしてましたし、責任問題で言えばダイバースのステージにした私達の方ですよ!」

「だなー。フフ、アタシ達の凄まじい成長を考慮してなかったアタシ達が悪い……って訳だ!」

むしろ誇らしいですわ! 広いステージを消し去る程の成長を遂げたのですから!」

「誇らしいとかはさておき、原因が私達にあるのはそうね」


 会場の件について謝るルミエル先輩だけど、何も悪くないからその必要も無いんだけどね~。

 そんな感じで今回は済む。普段と変わらないような会話もしつつ部室の中へ。入ると同時にクラッカーが鳴り響いた。


「ルミエル先輩!」

「卒業少し前ですけどぉ~」

「お疲れ様でした!」


「あらあら、メリアにリタルにレヴィアじゃない。気配でも気付かなかったわ。ふふ、これこそ本当のサプライズね!」

「フッ、鍛え抜いたな。戦闘モードでの気配なら掴めたが、平常時では分からない程だ」


 待ち構えていたのは気配を消して待機していた先輩達三人。

 ルミエル先輩とイェラ先輩は驚いてくれた。

 私達よりも長く一緒に居るもんね。そんな先輩の成長も喜んでくれてるみたい!


「ふふ、それじゃあ私からも一言。“魔専アステリア女学院”は更に素晴らしいチームになるわ。今年入ってくる後輩達にもその素晴らしさを伝え、永遠のチームにしてね♪」


「「はい!」」

「は~い~」

「「「はい!」」」

「ええ」


「一丁前に部長らしい事をしているな」


「部長だもの。あ、なんなら私を広告塔に使っても良いわよ。新入生が少なかったのは私を前に畏れ多いって子も居たと思うけど、私が居なくなった後はそう言うのも和らぐもの。他のチームは新入生が多いし、貴女達の誰かが怪我でもしたら人数不足で試合をする事になったり、プレイヤーは多い方がメリットもあるわ♪」


 ルミエル先輩の言葉に続き、新入生の事も加味する。

 厳しさと近寄り難さで新入生が少なかったなら、卒業したら増えるかもしれないって考えていた。

 ルミエル先輩の世界的人気自体は凄まじいから驚く程入ってくる可能性は確かにあるよね~。

 あ、そうなると私も先輩になるのかぁ。


「今日はありがとうね。卒業前に“魔専アステリア女学院”で良い思い出が作れたわ♪」

「ああ。今後の学院を頼むぞ。後輩達」


「「はい!」」

「は~い~」

「「「はい!」」」

「ええ」


 ルミエル先輩とイェラ先輩も満足してくれたみたい。

 その言葉にまた同じ返事をし、残りの時間を楽しむ。

 いよいよ明日、ルミエル先輩達が卒業を迎える。



*****



 ──“卒業式・当日”。


「卒業証書、授与。卒業生の皆様は順番に前へとお越し下さい」


 先生の言葉で先輩達が前から順に立ち上がり、壇上へと向かう。

 それぞれ名前を呼ばれて卒業証書を受けとるんだけど、姓が“アステリア”であるルミエル先輩は一番最初になる。


「ルミエル・セイブ・アステリア」

「はい」


 先輩の名前が呼ばれ、壇上へ。卒業証書を受け取り、美しい動作で戻る。

 呼ばれる順番が最初だからこそこの動きが後続へのお手本にもなってるね~。動きは変わらないんだけど、ルミエル先輩のはなんというかキレイとかスゴイって感じがする。

 他の先輩達も順に受け取り、先生の話がされる。それも終わり、またもやルミエル先輩の名前が呼ばれた。


「卒業生代表の言葉、ルミエル・セイブ・アステリア。前へ」

「はい」


 答辞を述べる為に壇上に上がり、私達後輩の方を見やる。

 手には何も持っておらず、既に答辞を暗記しているのが窺えられた。流石だね。

 ルミエル先輩は音声伝達の魔道具越しに口を開く。


《季節が巡り、花が咲き誇り暖かくなった今日この頃。私達高等部三年生は“魔専アステリア女学院”を巣立ちます。これから始まる新生活に不安と希望を抱きながらも、心には大きな期待を抱いております。そう、去年の後輩達もそうであったように──》


 ルミエル先輩の言葉を聞き、私の脳裏には入学当初の事、ルミエル先輩と出会った時の事が浮かんでいた。


【お見事ね。まんまとしてやられたわ】


 思えば最初はダイバースの体験でかくれんぼをした事が原点。ここからまさか代表戦にまで行くレベルになっちゃうなんて我ながら驚きだよ。

 その後にダイバースに入らないって誘われたんだよね。

 食堂でも先輩達とはお話しした。


【ふふ、大変ではあるけれど、とても楽しんでいるわ。貴女達もこの学院を是非とも楽しんで頂戴♪】


 お陰で今はスゴく楽しめてる。初めての友達であるボルカちゃんが大きな要因だけど、ルミエル先輩の助けもあったよね。

 特訓したり、ゲームをしたり。


【さて、始めましょうか。明日行われるゲームのルールに合った練習が必要ね】


【後輩達が見ているもの。余裕があるアピールしたいのが先輩としての考えなのよ。カッコいい先輩で居たいの♪】


 バロンさんとのゲームでは、私とボルカちゃんでバロンさんを倒せたけど、残りは全部ルミエル先輩が一人でやったよね~。

 迷宮脱出ゲームの時も……。


【私と遊んでくれますか? 先輩ー!】

【ええ、そうね。何して遊びましょうか?】

【後輩を守るのは先輩の役目だからな】

【それじゃあ、お人形さんごっこ!】

【分かったわ♪】


 ……なんだろう。何か迷惑を描けちゃったかのような記憶も蘇る。全部のやり取りは思い出せないけど……。

 とても悪い事をしてしまったような、そんな記憶。

 ううん。覚えていない悪い記憶もあるけど……今考えるのはそう言う事じゃないよね。切り替えなきゃ。

 先日のメモリアルダイバースも含め、様々な記憶が走馬灯のように流れていく。この一年間で色々あったんだね。

 たった一年の思い出。だけど涙が自然と溢れる。


《だから皆々様方。どうか後輩達に道を誤らぬように指導してあげて下さい。そして後輩達は先輩の助けになってあげて下さい。ここから先に待っているのは平坦な道ばかりではありませんから。険しい道を如何にして楽しく歩けるか、それが人生に置ける大事なものと私は思います。私達が卒業しても、後輩達はこの学院生活をもっと楽しめると思います》


 一礼して壇上から降り、自分の席へ。

 惜しみ無い拍手がされ、校長先生から言葉が紡がれる。


「それでは、卒業生。在校生の皆様。ご起立願います」


 先生達と私達は立ち上がり、全員が立ち上がったのを確認した校長先生は綴った。


「“魔専アステリア女学院”。校歌、斉唱」


 それと同時に、リズミカルな音楽が流れる。


『“魔専アステリア女学院・校歌”


母なる自然に 囲まれし我が学舎


受け継がるるはアステリの 歴史と共に紡がれる 英傑達のその軌跡


清廉可憐な乙女達 いざ世界へ花開け


嗚呼 魔導専攻アステリア女学院』


 “魔専アステリア女学院”の校歌は、周りにある豊かな自然と学院名の元となった英雄を唄う詩。

 魔導専攻アステリア女学院と言うのは旧名で、魔導……つまり魔法や魔術を扱えない人達も増えたから廃止になったとか。

 だからもう校歌くらいでしか使われてないの。

 その点だと受け継がれるのは“アステリア”じゃなくて“アステリ”なんだよね。略称にしては一文字減らしただけだし、多分私達の知らない歴史があるんだろうね。


「それでは、卒業生──」


 校歌が終わり、卒業式も閉幕へ。

 これが終われば、ルミエル先輩達は本当にこの学院から居なくなる。

 会おうと思えば会う事は出来るんだろうけど、やっぱり寂しい。

 校長先生。そして理事長やその他関係者の話も終わり、卒業生達はこの場を離れる。

 これでもう、本当に終了。明日からルミエル先輩達は“魔専アステリア女学院”には居なくなる。寮からも出ていっちゃうんだよね……。当たり前だけど、その当たり前が中々受け入れられない……。


 ……。お別れは当たり前で……その当たり前が受け入れられない……。当たり前が……。

 なぜかこの言葉が頭の中で反復する。そしてなぜかチラリとママとティナの方を見た。……深く考えない方が良いのかな……。でも……。なぜ……。

 思考にモヤが掛かった時、外の方から何やら騒がしい声が。


「ルミエル・セイブ・アステリアの卒業式が今日行われましたよね!?」

「進路先は何処へ!?」

「将来的には如何様な職業に!?」

「やはりダイバースのプロ選手ですか!?」


「コイツら……保護者や関係者に紛れて……!」

「こりゃ大変だ……」


 ちょっとした問題発生みたい。有名人も大変だね~と他人事みたいに考えちゃうけど、私もちょっとだけ有名になったからその苦労は少し分かってる。

 あまり良くない事だけど頭のモヤが掻き消された。

 けど、折角の卒業式。こんな雰囲気になっちゃうと台無し。


「面倒な者達が来た。私達も教室の方へと戻るぞ。やれやれ……こう言った場にすら食い付いてくるとは失礼な輩だ」

「先生の重力魔法でぶっ飛ばしたら良いんじゃないスかー?」

「そうしてやりたいが、それは不正魔導使用罪になる。ちょっとした移動とかスポーツでなら問題無いが、ああ言うのには使えない」

「じゃあアタシ達に使ったのはなんスかー!?」

「授業の一環みたいなものだ。該当はしない。当然、やり過ぎは良くないがな」


 先生の先導の元、私達は教室へと戻る。こんな騒動には慣れてる雰囲気もあるし、本当に一流学校って大変なんだね。

 何はともあれ、これで終了。しんみりした雰囲気は壊されちゃったけど、賑やかなのもらしいと言えばらしい……のかな。

 そんな記者の人達は押し返され、学院を追い出される。これもまた当たり前。

 ルミエル先輩の卒業式は一応無事終わりを迎えるのだった。

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