第百四十七幕 戦闘終了
「その為にもまずは……!」
「成長する為に……!」
「四方八方からの連撃。悪くないわよ♪」
この試合で次の段階に進んで見せる。その為、普段はあまり行わないような魔力の大量消費。
魔力は使えば使う程に量が増える。あ、後々はって話ね。
本で読んだんだけど、人が過酷な環境に居続けるとその環境に適応するように、魔力も使い続ければその分が補われてより強力な物になるんだって。
だから今までの私のやり方自体は別に間違っていた訳じゃないって事。でも無茶のし過ぎは体に毒だから程々にレベルを上げていくのが良いとか。
魔導が生まれて数千年。魔力の研究が進んでいるからこそ色々な発展方法が確率されてるんだね。先人さん達は偉大だよ。
「“樹々繋木”!」
「その名の通り、数珠繋ぎのように連なっているわね」
「サポート致しますわ!」
無数の木々でルミエル先輩を攻め立て、あらゆる方向から光球で攻め立てる。
先輩はその全てをオートガードではなく、一つ一つ魔力で消し去っていく。これもまたルミエル先輩なりの特訓なんだろうね。
けど、それなら体育祭の時よりはダメージも与えられる!
「まだまだ!」
「ですわァ!」
「ふふ、良い連続攻撃ね」
うねる大樹が仕掛け、光球の花火が辺りに散る。
自然と光に追われる先輩は華麗に躱し、少数の魔力を撃ち込んだ。
「小手調べだけでこの威力だもんね……!」
「これでまだまだ手加減されてるなんて!」
「ふふ、楽しみましょう」
魔力は植物の壁で防御。抉られるように粉砕し、そこから再び植物を生やして嗾ける。
無数の木々と光が迫り、全てが魔力に破壊された。
「同じ事の繰り返しになるわよ。そして何度も言うようにパーティーなのでしょう? 楽しまなくちゃ♪」
『『『…………』』』
「お人形やぬいぐるみを操って……!」
「人形魔法使いでなくとも、魔力を超能力のように使えば可能ですわ……!」
「何度かしているもんね……!」
『『『…………』』』
ルミエル先輩が魔力で操るお人形さんには植物で作り出した動物達が相手取る。
ゴーレムはあまり使わず、想像力を養う為にもそう言った種類を作ったよ!
「ぬいぐるみと動物達のパレード。パーティーらしくなったわね♪」
「クラッカー……!」
パァン! と先輩が引き寄せた食べ物じゃない方のクラッカーが炸裂。
熱気と衝撃が私達の体を押し出し、柔らかいケーキの中に突っ込んだ。
甘い。これは本物のケーキだね。私達が入っちゃったから後でちゃんと自分達で処理するよ。
けどお陰でクッションになって影響は少ない。顔を上げると眼前には大きな魔力の怪物が。
「“モンスター”……召喚魔法や召喚魔術でなくとも魔力から作れるのよ♪」
「ケーキが食べられちゃった……」
「無機物は魔力に変換するから、よりパワーアップするわ♪」
魔術だけで他の特異魔法や特異魔術を再現するルミエル先輩。この器用さも本当にスゴい。
でも自分自身で仕掛けた方が強いからあまり使わないのかな。今回はパーティーだから私達以外の部分でも盛り上げようって魂胆なのかも。
うぅ、負けてられないよ!
「だったら……“マジカルパレード”!」
「更に賑やかね♪」
植物で更なる動物達を創造。圧倒的な質量で仕掛ける。
取り敢えず攻撃あるのみ。それが切っ掛けでもう一つ上の段階に行けるかもしれない!
「その考えも悪くないわ。だけれど、そう簡単にやられちゃったら先輩の風上にも置けないの。私にも面目があるんだもの」
「……! 全てが一瞬で……!」
「想定内とは言え、堪えますわね……」
マジカルパレードで何かを仕掛けるよりも前に消滅させられちゃった。
次の瞬間には私達の前へルミエル先輩がおり、両手には魔力が込められていた。
「ちょっと痛いわよ」
「「……ッ!」」
魔力が突き抜け、肺から鉄味混じりの空気が漏れた。力が抜けてピアノの上に落ち、鍵盤が鳴る。
まだ意識は残ってる……フラつきながらも立ち上がり、植物を張って移動。たった一撃、ただ魔力を放たれただけでこれって……相変わらずとんでもない先輩。
「一撃を集中したからこの威力……一撃を……。……!」
そうだ。魔力の込め方。私は代表決定戦で知ったんだった。
それを使えば或いは……!
「無闇に放つんじゃなく……魔力を一点に込める形で……! より、洗練させて! ──“樹木槍”!」
「あら……これは……」
ルミエル先輩は片手を前に出し、オートガードの膜を作動。爆発的に力が増し、初めて一人で先輩の膜を突き破った。
先輩は身を翻して避け、掠り傷が頬に付く。この瞬間、私は初めて自分の成長を実感する。今までも感覚はあったけど、ここまでハッキリ現れる事は無かったかも……。
だって相手はあの、世界最強のルミエル・セイブ・アステリア先輩だもん!
「……ふふ、掠り傷……まさか中等部の一年生に付けられちゃうなんて。もう一月後には二年生だけれど、本当に力を上げたわね♪」
「スゴいですわ。ティーナさん!」
「一点に魔力を込める。代表決定戦で学んだ事なんだー。ルーチェちゃんにもきっと出来るよ!」
「フフ、では……光魔法にこれを付与してみましょうか」
「良いわね。戦いの中で更に成長している」
魔力を込め、ルミエル先輩に構える。今の一撃で何となく感覚を掴めたかも。この一点集中型の魔法を大きな範囲に纏えたら……もっと強くなるかもしれない……! そしてそのエネルギーを更に込めれば……!
この感覚を保ったままの勢いで決着まで持って行ってみせる!
*****
「よっと!」
「“バードストライク”」
「やってる事は変わらないな。だが、体のキレが良くなっている」
炎剣を振り抜き、ビブリーの本と共にイェラ先輩へ突撃。
基礎を鍛える段階。大分魔力を込めずに動くやり方に慣れたぜ!
剣は木刀で防がれ、滑るように回り込む。そのまま弾き、一気に貫く。けど防がれた。
得物同士の戦い方はレモン戦で少しは学習した。やっぱアタシは才能の塊だな。気を抜かずに努力も怠らないようにすっか! だってアタシ自身の敗北数は多いし!
「そらっ!」
「フム……私の動きを学習している。更にヒノモトの友人と戦ったのもあって力を付けたか。剣戟が様になっているぞ。やはり天才だな。ボルカ・フレム」
「強くなったのはアタシだけじゃねえぜ!」
「やれやれ……無茶振りするわね。物語──“龍”」
『ガギャア!』
アタシがイェラ先輩を相手取っているうちにビブリーは龍を召喚。魔力がパワーアップした特別仕様!
龍は先輩に突撃し、木刀でガード。そこへ斬り込み、その体を弾き飛ばす。て、弾いてる時点でまた防がれてんなー。
「フッ、連携も様になってきた。ではそろそろ力を込めるか」
「「……!」」
刹那、イェラ先輩の動きが全く見えず、アタシ達は木刀で殴り飛ばされていた。
そろそろ力を込める……言ー事は今まで軽く素振りとかそう言うのをしている感覚だったって訳ね……!
吹き飛ばされたアタシ達はくす玉を割り、巨大ビンを砕き、風船をパパパァン! と勢いよく割る。
巨大ソファーにぶつかってようやく勢いを殺す事が出来たけど……こりゃヤベーな。この一撃で意識が飛びそうだ。てか一瞬暗転した。
「向こうもまだまだ本気じゃなかったって訳か……」
「その様ね……辛うじて龍も消えずに済んだけど……もう限界が近いわ」
「そんじゃその限界を越えるとすっか。ピークが過ぎれば楽になる!」
「根性論は時代遅れどころじゃないわ。非効率の塊。イタズラに体を壊すだけでデメリットしかない」
「論理的に話すなよー。それに、魔力は使えば使う程成長するんだぜ!」
「それは適切な量を適切な時間使用した場合。体力作りとかと同じで、余程魔力総量に自信が無ければ成長は見込めないわ」
相変わらず頭が固いビブリー。その場の勢いで何とかするアタシとは正反対だ。
けど、その論理的思考は頼りになる。的確なサポートしてくれるから肉弾戦でイェラ先輩と戦えてるんだしな。
一先ず今は、限界を越えるのはアタシだけにしておくか。
「体も大分慣れたんで、そろそろ魔力を解禁しますよ!」
「良かろう。だが、定期的に基礎を鍛える事は怠るなよ」
「分かってますって。本当に最強な先輩達が居る時点で、アタシがどんな覚醒しようと努力を怠る訳にはいきませんから!」
全身から炎を放出し、爆発的な速度で加速。一瞬にして距離を詰め寄り、炎剣を薙ぎ払って掠り傷を与えた。
っしゃあ! まず一撃! さっきまでは全部防がれてたけど、急加速による緩急の差で食らったみたいだ。
一見暴走していたり正面突破だったりしても、その段階を計算して仕掛けるのが文武両道のアタシって訳。
「傷を付けられたか。面白い。それでこそ戦り甲斐がある!」
「「……ッ!」」
踏み込み、向こうも加速。手始めにアタシを吹き飛ばし、次にビブリーが龍ごと弾かれた。
っぱ強ェ。でも、だからこそ面白い。ハハ、そろそろ決着にするか!!
*****
「これで終わらせます……!」
「やりますわよ!」
「ふふ、ええ。良いわ。決着を付けましょうか」
「終わらせてやりますぜ! 先輩!」
「全く……もうボロボロなんだけど」
「良いぞ。私も丁度そう考えていた事だ」
ルミエル先輩の元へ踏み込み、一気に魔力を込める。成長した直後だけど、今ならやれるかもしれない。名前もまだ決めていない魔法……!
先輩も威力を込め、私達は放出した。
「はあ!」
「やあ!」
「……ふふ」
「そらァ!」
「“龍火”」
「来い……!」
パーティー会場を埋め尽くす程の植物が纏まり、並大抵の山よりも巨大な物となる。ルーチェちゃんの光魔法が付与され、更なる威力上昇。その全てを縮小させて一身に受け取り、一点集中。
そんな私を前に、ルミエル先輩は迎撃態勢に入っていた。
超絶長い炎剣を振り下ろし、ビブリーが龍の炎で更に巨大化。青白く燃え盛る。
イェラ先輩は依然として木刀を片手に迎え撃つ。
トドメの大技その直前、私達は最後に先輩達へ言葉を発した。
「「「「先輩! 今までお世話になりました!」」」」
「「──……!」」
私達の魔法が先輩の元へと迸り、互いに互いの力が相■される。
両陣営の魔導は掻き消され、何もなくなったパーティー会場に私達と先輩二人。ルールの書かれた紙がポンッと消え去った。
《時間切れにより、勝者・主催者陣営》
「え?」
「あら」
「あーッ!?」
「……やってしまったな」
そ、そうだった! 今回のゲームは時間制限あり。先輩達との決着が付く前に終わっちゃったよー!?
私は慌ててボルカちゃん達の方へ向かう。
「ボ、ボボボ、ボルカちゃーん!」
「そうだったなぁ……時間制だった……」
「ふふ、負けてしまったわね。私達♪」
「すっかり制限時間の事を忘れていたが……主催者が忘れていたんじゃ仕方無いな」
パーティーステージから私達は部室付近の森に戻る。これでゲームは終了だけど、なんか不完全燃焼……。
私達とルミエル先輩、イェラ先輩によるメモリアルダイバース。それは時間切れにより、私達が勝っちゃった……。ゲーム自体は最後以外全敗だったのに……。
何はともあれ、泣いても笑ってもこれで先輩達との最後のダイバースが終わりを迎える。
だけど、とても楽しかったよ!




