第百四十六幕 基礎
「パーティーは楽しいわね♪」
「……っ」
風船が破裂し、またもや暴風が吹き荒れる。
これはルミエル先輩が少量の風魔術を付与する事で威力を底上げしてるんだ。
台風みたいな勢いで吹き抜け、気付いた時目の前には先輩の姿があった。
「えい♪」
「……っ」
単なる魔力放出を受け、咄嗟に取った木々による防御行動。その植物ごと私の体はパーティー会場を吹き飛んだ。
でも結果的には距離を取るのに成功。さっき言われた事を遂行しようかな。
植物魔法で生み出せるゴーレム以外の戦士。強そうな生物と言えば、やっぱりドラゴン!
「“光球連射”!」
「連弾とは何が違うのかしら?」
「速度と着弾後に爆発するかしないかです!」
「成る程ねぇ~。それなら光線にしてより速度を高めるのがオススメよ」
「なるほど! 分かりましたわ!」
ルミエル先輩はルーチェちゃんが相手取ってくれている。なので植物を生み出す余裕はあり。
魔力を込め、ゴーレムを作り出した時みたいにドラゴンの姿を想像する。
あれ、でも俗に言うワイバーンタイプのドラゴンって絵本でくらいしか見た事が無いよね……ウラノちゃんが呼び出す細長い龍を参考にしよっかな。
「“フォレストドラゴン”!」
『……グオオオォォォォッ!!』
「スゴいですわ! ティーナさん……!」
「ふふ、一先ずは近いところにある存在をトレースしてみたのね」
「おー、すげぇなティーナのやつ」
「そうね。私の本魔法が形無しだわ」
「そう悲観する事も無いだろう。同じ属性なら上位互換下位互換もあるが、別種の魔法なら別の良さがあるもんだ」
植物だから風が体を通り抜ける音しか出ないけど、ちょっと調整して鳴き声っぽくしてみた。
ルーチェちゃんとルミエル先輩からは概ね好評。ボルカちゃん達もこっちを見てくれてその表情から好感触みたい!
「やっちゃって!」
『ガギャア!』
と言っても植物だからやれる事は限られる。後から火に強い植物とボルカちゃんを合わせて火炎を出せるようにしたり、様々な気管から水とか風を起こせるように試してみよーっと。
今はあくまでガワだけの存在。単純な質量の攻撃!
『ガア!』
「まだ属性の付与は試さないみたいね。根本的な部分はゴーレムとあまり変わらない……でも切っ掛けが出来て何よりだわ」
木龍の突進はルミエル先輩の魔力によって弾くように防がれた。
瞬時に別の魔力が放たれ、木龍は容易く崩壊してしまった。
やっぱり即席じゃすぐにやられちゃうか。上手い事しなくちゃいけないね。
でもその一瞬の隙があれば、成長したルーチェちゃんなら……!
「“光線連射”!」
「早速アドバイスを取り入れたわね。二人とも、上出来だわ♪」
光魔法からなる光線を放ち、ルミエル先輩へと仕掛ける。
私の龍も上出来って言われる範疇にあったんだ。嬉しい! けど、更にその上を目指そう!
「“樹針山”!」
「前に使った文字通りの意味の針葉樹の強化版かしら」
樹を伝い、鋭利な山を先輩の足元から作り出す。
空中に浮かんでいても山の高さはそれなり。攻撃は届くと思うけど、
「まあ、これくらいならオートガードに頼っても良いわね」
「そうなりますよね……」
魔力の膜を貼り、鋭利な木々を踏み砕いて歩み進める。
今まではこのオートガードは使っていなかったけど、ルミエル先輩自身が何かしらの枷にしているみたい。一種の縛りかな?
使い過ぎると破られた時の対処が大変とかかな。何にしても私達じゃ破り切れない……!
イェラ先輩を相手取るボルカちゃん達も苦戦してるみたいだもんね……。
「そら!」
「“バードストライク”」
「重い一撃と数による撹乱。悪くない戦法だが、私相手には少々稚拙だぞ」
「防がれながら面と向かって言われると中々効きますね……!」
ボルカちゃんが炎剣を振り下ろし、ウラノちゃんが無数の本のからなる鳥で攻撃。その全てを木刀でいなして消し去り、ボルカちゃんの体は刺突で吹き飛ばした。
向こうでも咄嗟のガードが間に合ったみたいだけど、直接受けなくてもあのダメージ……。それが魔力付与無しって、イェラ先輩は一体どんな筋力を持ってるんだろう。
「まだまだ体の使い方がなっていないな。魔力による身体能力強化に頼り過ぎだ。何事に置いても結果を生み出すのは基礎だぞ。ルミだって基礎から育て上げているだろう?」
「っても、魔族やエルフに幻獣・魔物じゃないんですから。人類が生身でやれる事なんて限られてますよ。そもそもそのルミエル先輩も魔族の血縁じゃないですか」
「私は紛う事無い純粋な人間だ。最終的にはルミに阻まれてしまうが、他の種族には勝利している」
「結局のところ最強にはもう一押しで届かないけれど、確かにそうッスね。ルミエル先輩以外で一番強いのはって聞かれたらイェラ先輩が挙がる筈ですもの」
「だろうな。しかし、ルミは最強だが、私的には血筋はあまり関係無いと思うな。全部アイツの努力の賜物だからだ。ルミだから最強であり、基礎を鍛えれば私並みになれるという事だ」
「眉唾や妄言どころの話じゃないッスけど、仮にアタシがイェラ先輩並みになれたら、先輩より魔力があるアタシはより強く……それこそルミエル先輩並み……いや、それ以上になれる可能性もありますね……!」
「何事に置いても可能性は0じゃないが、あまり自信過剰にはなるなよ?」
「アタシを否定はしてないッスね」
「言っただろう。可能性は0じゃない」
瞬間的にボルカちゃんが炎による超加速で迫り、炎剣を振るってイェラ先輩が木刀で受け止める。その余波で周囲に衝撃が走った。
けど動きが少し変わった。魔力による身体能力の強化を解除したんだ。
「早速実行に移すか。君はどうする。ウラノ」
「私は別に最強を望んでいる訳ではないので、やれる範囲でのサポートを優先します」
パラパラと魔導書を開き、ボルカちゃんのサポートに回るウラノちゃん。
彼女はそう言う感じだもんね。多様の力が一つの魔導書に収束しているから頂点も狙えるんだけど、性格的に上を目指す感じでもないもんね。私もそうだけど。
取り敢えず、私とルーチェちゃんもボルカちゃんとウラノちゃんも先輩二人相手には攻めあぐねている。体育祭の時点でも私とボルカちゃん、ミナモさんが束で掛かってルミエル先輩に負けちゃうくらいだったけど、勝負が成立している今はちょっと成長を感じる。
例えば──
「少し力を出すわよ。“大魔弾”」
「耐え切ります……!」
前までなら守りが簡単に壊されちゃっていたであろう攻撃も植物魔法で逸らすように受け流せていた。
完全に守り切る事は出来ないけど、食らわなくなっただけ大進歩!
「さて、このケーキは本物かしら?」
「……!」
防いだ事によって視界が悪くなった瞬間にパーティー会場のケーキが魔力に引かれて飛ばされる。
これはケーキ型のオブジェクトで本物じゃないけど、だからこそぶつかったら痛い! なのでまた植物による壁を貼り、
「本物ではないようね」
「……!」
■角に回り込んだルミエル先輩によって吹き飛ばされた。
そのまま壁を貫き、目の前にはオブジェクトが……!
「危ないですわ!」
「あ、ありがとう! ルーチェちゃん!」
「どういたしまして!」
光球が放たれ、オブジェクトは消滅。
またルーチェちゃんに助けられちゃった。私も頑張らなきゃね!
「へえ。光球一発であの勢いの物質を……ふふ、ちゃんと頑張ってるわね♪」
「「……!?」」
次の瞬間に魔力の衝撃波が撃ち込まれ、私達は再び吹き飛ばされる。
ボルカちゃん達の近くからも引き離されちゃった。分断させたのかな。
「それじゃあ次は……属性を付与しましょうか。“ファイア”」
「……!? “多重樹木壁”!」
「“シャイニングウォール”!」
基礎の単純な炎魔術が放たれ、私とルーチェちゃんは自身の出せる防御魔法で防ぐ。
直撃は避けたけど熱気だけでとても凄まじくて周りの物も熔解しちゃった……。あれ受けてたら私達……。
ゴクリと生唾を飲み込む。ルミエル先輩の事だから多分防ぐ事は前提で仕掛けたんだろうね……。
「パーティー会場を燃やしちゃうのは可哀想ね。“ウォーター”」
「ルーチェちゃん!」
「分かっておりますわ!」
次いで水魔術が放たれ、火の海が本物の海へと変わる。
私達はまたガードを固めた……けど、私が植物魔法で壁を貼った事によって大きな水溜まりになり、息が続かない。
「あらあら。これでは戦いにくいけれど……貴女達なら私みたいに行動出来る筈よ」
「……!」
そう言えば、ルミエル先輩はなぜかこの状況でも普通に会話をしている。
そしてうっすらと気配が分かった。魔力で体を覆って呼吸を確保しているんだ。
と言うか……前の切っ掛けから魔力の気配を読み取る感覚が上がっている気がする……ダイバースで色々と戦ってるから鋭くなったのかも。
「……! ……!」
「……?」
「……! ……!」
「……!」
私はルーチェちゃんに何とかジェスチャーで伝え、お互いに魔力を体に覆った。
でも水を上から覆っただけのこの状態じゃ相変わらず呼吸は不可能。なので植物をお互いの魔力の中に差し込ませる。
「……! 樹が水を吸ってますわ……」
「そう! 根っ子が水を吸う授業は初等部でやる事! それの応用だよ!」
「それにしてもこの一瞬でこんなに吸うのは……」
「それは……魔力による強化……かな?」
「ふふ、そうですわね」
「それで良いのよ。今後、ダイバースでは仮想水中じゃない本物の水中ステージで戦う機会もあるかもしれない。危険があれば辞退させられるけれど、覚えておいて損はないわ。海水浴もより楽しめるようになるもの♪」
「ですよね!」
どんなステージがあるかは分からない。大多数は全員に配慮して見た目以外地上と変わらない環境で戦う事になるけど、当然見た目通りのステージもある。
だから魔力による基礎は覚えておいた方が良いんだね。
「……」
考えてみれば、イェラ先輩は肉体の基礎を。ルミエル先輩は魔力の基礎を教えてくれている。今回のダイバース。私達から先輩達へのサプライズだったのに、いつの間にか普段の練習みたいになっちゃってる。
このままじゃダメかも。いつまでも先輩達におんぶ抱っこで自立出来なかったら、今後の試合で勝てなくなる……!
「ルーチェちゃん。先輩達にサプライズ……みせちゃおっか……!」
「ダイバース以外にサプライズなんて用意していませんが……いいえ。ふふ、そう言う事ですわね。今この場でルミエル先輩の想像を越えれば、それは立派なサプライズですわね!」
「そう言う事! ウラノちゃんもプレゼントだけがサプライズじゃないって言ってたし、私達の数分後の存在がサプライズ!」
「盛り上がっているわね。良いわ、その心意気……もし私にそう思わせる事が出来たなら、より安心して貴女達に“魔専アステリア女学院”の今後を任せられる。勿論、レヴィア達にも同様の信頼と期待を置いているけれどね」
私達がやる事は、ただ先輩達を楽しませるだけじゃない。それは当然第一優先事項だけど、更なる到達点を見せて初めて成功って言える。
私達と先輩達によるダイバース。ラストスパート!




