第百四十五幕 陣取り・パーティー
後輩達が用意してくれたダイバースにて四つのゲームを攻略した私とイェラ。残るは陣取りとパーティー。まだティーナさん達は来ていないものね。そろそろ本人が参加したりするかしら。
そんな事を考えながら陣取りゲームの場所を探してみる。あれは体育祭。つまり此処、“魔専アステリア女学院”で行われた行事だけれど、どういう感じにしてあるかしら。
そもそもステージは無いけれど、陣取りゲームなら森全体がそうなるのかもしれないわね。
「……そうみたい」
「また一人で考えて納得しているな。“そうみたい ”……という事は、これがそう言う事か?」
「ええ、そうね」
森の一部で植物の急激な成長が確認された。
あれがテリトリー。陣取りゲームという事は彼処を奪い取れば良いという事。数は……ふぅん。もしも私の推測通り、あと二つのゲームなら制圧可能ね。
すぐにそちらに向かい、まずは近場の陣地に降り立った。毎回走って移動も大変だから今回は魔術で空を飛んでみたわ。陣取りゲームのゲーム性は崩さない在り方よ。
『『『………』』』
「ふうん。此処に居るのは三体のゴーレムね。あの子、ゴーレムが好き過ぎないかしら。バリエーションが少ないわ。それだけ操りやすくて初対面の時の印象が強かったという事だけれど、卒業前に別の存在を作れるように指導しようかしら。動物さん達はいくつか作ってたから……うん。アレとかそれとか」
因みにイェラはイェラで別の場所を制圧中。陣取りゲームは分担して行動を起こした方が効率的だものね。
勿論、当人が相応の実力を持っている場合に限っての事だけれど。私やイェラみたいにね♪
『『『………』』』
「あら。ちゃんと相手をしてあげなきゃね」
三体のゴーレムが巨腕を振り下ろし、私は避ける。その先に植物が伸び迫り、魔力によるオートガードで処理した。
でもオートガードに頼りっぱなしだと、守りを破れる存在が相手の時に怠ったりして普通なら受けないダメージを受け兼ねないから気を付けないとならないわね。
「この子達はすぐに倒すけれどね♪」
『『『………!』』』
魔力を放出して三体を一気に倒す。
今回は再生能力を付与していなかったみたいで何よりだわ。
さて、どうやって陣地を塗り替えるのかしら。
「あら、小さな木」
すると崩れたゴーレムから苗木のような物が出てきた。それに伴い、急成長した植物が縮まる。
成る程ね。これが陣地制圧の証と言ったところかしらね。此処は私達の陣地に出来たみたい。
「ふふ、向こうでも頑張ってるわね」
少し後に向こうの植物も縮小。イェラも上手く陣を取ったみたい。
このままの調子で残りの陣地も奪取しましょうか。
『……』
「これで最後ね」
最後の一体はそれなりの魔力も込められており、周りの植物類を操って攻撃を仕掛けたりしてきてた。
パワーはお墨付きで、この子だけは倒すのに一分くらい掛かっちゃったわ。
その子から苗木が現れ、私は手に取る。イェラと合わせた苗木は一つの木となり、実を結んだ。
その実が陣取りゲームの思い出ね。
「これで完了♪ やっぱり複数箇所あると時間が掛かるわね」
「そうだな。しかしまあ、私達の目測なら次のゲームが最後の一つ。長期休暇の時に行ったパーティーだが、如何様な舞台を用意しているのか」
「ふふ、それはこれから分かるわよ。きっとね♪」
そう告げた次の瞬間、周りの景色が変化し、私達は楽しげな雰囲気の場所に居た。
具体的に言えば風船にぬいぐるみにドールハウスや色々なお菓子、本に服にお人形……みたいな感じであの子達らしい楽しげな場所。
そこへ向け、声が掛かる。
「ルミエル先輩! イェラ先輩! 最後のパーティーは私達との勝負です!」
「先輩達にゃ負けねーッスよ!」
「その為にこのステージだけは購入しましたの!」
「今回は負けません」
「ふふ、そう。ルーチェさんが買ったステージへ転移したのね。おそらく陣取りゲーム後、何処であっても陣の中に居れば自動的に転移するよう込められていたんだわ」
「はい! 陣取りゲームとステージの転移を合わせてみました!」
何気に今日初めての顔合わせ。あの子達が作った子達と戦ったりしていたものね。
楽しみ……そして勿論、手加減はしないわ。
「それでは! サプライズダイバース!」
「最後にこのパーティーで締め括らせて貰いまァす!」
「ええ。構わないわ。さあ、思う存分満喫しましょうか♪」
「フッ、更に面白くなってきたな」
私は魔力を込め、イェラが木刀を抜く。
この気配からするにティーナさん達も魔力を込めたわね。
後輩達の用意してくれたダイバース。最終局面がスタートした。
*****
「仕掛けます!」
「来なさい」
ママに魔力を込め、無数の植物をルミエル先輩達に放出する。
初手は基本的にこれ。一番手っ取り早くて威力も速度もある攻撃だから重宝しているよ!
その植物はルミエル先輩が魔力で破壊し、イェラ先輩が木刀で切り裂いて防ぐ。
こうなるのは承知している。これだけで倒せるのは地区予選まで!
あくまで囮と陽動、目眩ましが目的の技!
「物語──“大蛇”+“本の鳥”」
『『『シャー!』』』
「“光球連弾”!」
「行きますよォ!」
全方位を本魔法から生み出した蛇と本の鳥で攻め立て、光魔法の弾幕が更に覆い尽くす。
その隙間を縫い、ボルカちゃんが直接嗾けた。
「パーティーはパーティーでも戦闘という事ね。実際のパーティーでもそうだったからおかしくはないけれどね♪」
「パーティーがゲシュタルト崩壊を起こしそうだな」
蛇と本を消し去り、光球に魔力をぶつけて相■。ボルカちゃんはイェラ先輩が受け止めた。
二人は押し合い、互いに弾く。その背後から私が植物魔法でサポート。
「近接メインのボルカが攻め、他は遠中距離で援護。なるべく安全圏から攻めているようだが……」
「……!」
「私相手にそれは中距離にも遠距離にもならない」
植物魔法を使っていた私の眼前に迫り、木刀が振り下ろされる。
だけど大丈夫。ちゃんと防御は張っているから!
「……! これは……目に見えぬ程細い繊維……トラップか」
「はい! 植物を加工すれば糸になったりもするので!」
イェラ先輩の体に細い糸が絡み付き、その猛攻を止める。
すぐに脱出はされちゃうと思うけど、一時的にでも動きを止められれば隙になる!
「“超光球”!」
「至近距離からなる巨大な光魔法……!」
0距離で通常より大きな光魔法を使用。イェラ先輩に直撃し、植物の繊維ごと焼き尽くした。
私は勿論離れていたよ!
「今までは正面からで何とかなったが、トラップを張るようになったか。前も少しは使っていたがな」
「傷は負ってるけど、大したダメージにはなってない……!」
「悔しいですけど、そうですわね。魔力による防御が硬いんですわ……!」
「私は魔力を纏うのが苦手だ。基本的に折れぬよう木刀にしか使っていない。今は素で受けてしまった」
「という事は単純にイェラ先輩の体が強靭って事ですわね!? 逆にショックですわー!」
イェラ先輩は戦闘中、割けるリソースが少ないから身体能力の強化に魔力は使っていない。使う時もあるけど、それは本当に少量。
つまりあの一撃を正面から受けても尚、持ち前の肉体で防ぎ切ったという事。
ユピテルさんにも確かなダメージになったのと同等の光球だったんだけど、イェラ先輩に効果は薄いみたい。
「そら!」
「はっ!」
「ふふ、ボルカさんだけじゃなく、ウラノさんまで近接戦を仕掛けるように。後輩の成長は嬉しいわね♪」
一方でボルカちゃんとウラノちゃん。
二人は残った本の鳥と自分達の武器でルミエル先輩に仕掛けていたけど、魔力の壁で防がれちゃっている。
前も中々破れなかったもんね。あれを貼り続けているだけで私達に成す術が少なくなっちゃう……!
「折角購入したパーティー会場。パーティーらしく楽しもうじゃない♪」
「……! 周りにある物が……!」
「ルミエル先輩の魔力で操られているわね……」
周りの物が私とは違う、念力とかサイコキネシスに近い形で操られて一斉に迫り来る。
ただでさえ一人ずつ相手に二人掛かりで押されているのに相手の数が増えたんじゃキリが無い。数には数で対抗しなくちゃ……!
「“フォレストゴーレム”!」
『『『………』』』
なのでサッと出せるゴーレム達で対抗。
ぬいぐるみさんとゴーレムが張り合い、風船が割れた風圧で暴風が吹き抜ける。
巧みに会場にある物を操っているね……!
「またゴーレム。ティーナさん。この子が便利なのは分かるけれど、もう少しレパートリーを増やした方が戦略の幅が広がるわよ? それに加え、折角のお人形魔法なのだから私がしたみたいに周りの物を操って見るのも良さそうよ。貴女の魔力総量を思えば、魔力の糸はいっぱい出せるもの」
「そんな“いっぱい”だなんて曖昧な……」
「だって検討も付かないわ~」
「でもレパートリーを増やしたり周りの……植物以外の物を操ったりかぁ……」
確かに今まで、やろうともしなかった。そもそもの発想が無かった。
動物達は作ったりしてるけど、もっとレパートリーは増やせるんだ。風を起こしたり水を出したり、自然発火する植物もあるんだもんね。私ならそれを応用して更なる存在を作れるのかも。
周りの物を操るのは……ちょっと大変だから今はまだ保留で良いかな。
「……分かりました。ルミエル先輩。最後のご指導として受け取り、思い付く限りの攻撃をしてみます……!」
「それが良いわ。使いこなす器量も必要だけれど、手札が多いに越した事は無いものね」
「はい……!」
解釈の幅を広げる。それは既に遂行済み。だから今度は単純に手札を増やしてみる……!
ルミエル先輩最後の指導。サプライズダイバースで心行くまで楽しんで貰う予定だったけど、更なる成長の切っ掛けが掴めるならやってみたい……!
私達と先輩達のダイバース。それはラストゲームへと差し掛かる。




