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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第百四十四幕 迷宮脱出・謎解き

「さて、順番では次は迷宮脱出ゲームだけれど……」

「ま、こう言う事だろうな」


 私の目の前にあるのはティーナさんの植物魔法から作り出された樹の迷宮。無数に連なる木々が壁の役割を担っていた。

 単純にこの迷宮をゴールすれば良いのよね。壁を破壊して突き抜けても良いけど、それは無粋。何度も言うように後輩が用意してくれたゲームはちゃんと正攻法でクリアするわ。


『ブモオォォォッ!!』

「フッ、そしてミノタウロスもちゃんと付けたようだな」

「ウラノさんの本魔法ね。ふふ、しっかりしてるじゃない」


 あの時を完全に再現した様子の迷宮空間。流石にティーナさんの暴走までは再現しないでしょうけれど、楽しめそうね。


『ブモオォ!!』

「この戦斧は本物みたいね」

「本魔法からなる物は本物と遜色無いからな。召喚物の耐久性などが本人の実力に直結しているから成長したウラノのミノタウロスは中々に強靭となっている筈だ」

「ええ、そうね。成長を感じられて嬉しいわ♪」


 戦斧が振り下ろされ、大地が割れて振動する。

 流石にまだミノタウロス自体は本物より防御力……即ち維持力が落ちるでしょうけれど、攻撃力と戦斧は本物と変わらないわ。

 避けた先に更なる斧が振り下ろされ、イェラが木刀で弾くように防いだ。

 蹌踉よろめくミノタウロスへ向け、私は魔力を放出。しかしそれは周りの植物がガードに回る。逸らされて半身を消し去る程度に留まってしまったわ。


『ブモオォォォッ!』

「あら、再生したわね」

「魔力で補っているか。本来の耐久力に及ばない分、工夫して再現しているな」

「それに加えて植物によるサポート。ふふ、確かにあの子達も最初のうちは逃げ回っていたものね。まともに相手をせず、逃げながらゴールを目指す。迷宮脱出の推定テーマである“逃げる”に着目しましょうか」

「敵に背を向けるのは私の性に合わないな」

「言うと思った。実際、私以外の全ての相手には正面から勝ってるものね~。初日にボルカさんに捕まっちゃったりしたけど♪」

揶揄からかうな。……やれやれ。仕方無い。逃げるか」


 ちょっと不服そうだけれど、ルールに則って了承してくれた。結構素直なのよね。イェラは♪

 そうと決まれば先は急ぎましょう。森の迷宮を駆け抜けていく。後ろからはミノタウロスが追ってきてスリリングで楽しいわね!


『ブモォォォッ!!』

「やれやれ。さっさと迎撃したいんだがな」

「この鬼ごっこを楽しみましょうよ♪」


 戦斧が振り下ろされて大地が割れ、大樹の壁にヒビが入る。そのまま粉砕した。

 けれどその壁は直ぐ様別の植物が覆って再生する。成る程ね。なるべく不正は出来ないように工夫してあるみたい。

 端からそんな無粋な真似をするつもりないけれど、主催者っぽくなってるじゃない。


「それで、鬼ごっこを楽しむとしてどうするんだ? 何かしらの案はあるのか? 本来の目的は思い出を集める事だぞ」


「そう畳み掛けないで♡ 基本的に今までのゲームはあの子達がおこなった流れを踏襲している感じだから、多分出口付近でミノタウロスを倒す事も可能になる筈よ」


「成る程な。確かにそうだ。では出口に当てはあるか?」


「無いわね~。だからこその迷宮だもの。本来なら壁を伝ったり痕跡を見つけたりして出口への手掛かりを探すのだけれど、その時間は現在足りないわ」


「じゃあどうする?」

「闇雲に探すのも問題。けれど前述したように流れはあの子達の追体験。そしてもう既に出入口付近で相対したミノタウロスが私達の後を追い掛けている……」

「回りくどいな。単刀直入に言ってくれ」

「んもう、せっかちね。こう言うのはギリギリまで引き伸ばして緊張感を与えるのが醍醐味なのに」

「フィクションならともかく、テンポが悪くなるだけだ。私達は時間が惜しいのだから」

「分かったわよ~。ミノタウロスが居たのは出入口付近。つまり案外近くにあるって事よ」

「で、その場所は?」

「このまま真っ直ぐね。私は次の謎解きゲームに備えて山の方へ向かっている。次の舞台が用意されている場所がゴールと考えるのが必然だわ」

「そうか。分かりやすくて良い」


 そんな事を話していたらより強い光が前方に入り込む。

 あれが出口。そして大広間があった。


『ブモォォォッ!!』

「これで存分に戦って良いんだな?」

「存分に……は出来ないでしょう。だってもう終わったんだもの」


 到達と同時に振り向き、イェラが木刀にて薙ぎ払う。

 ミノタウロスは樹の壁に激突して動かなくなり、その衝撃で天井が崩れてきた。

 そんなミノタウロスから光が。あれが今回の思い出ね。


「これで三つ目。全ての思い出を組み込んだゲームとは言っていたけれど、今のところ順番に追体験をしてるくらいね」


「ま、種別の違うゲームを合わせるのも大変だろう。組み合わせれば片方がないがしろにされる可能性もあるんだ。全てをしっかりと感じたい後輩達はそれも微妙な気分になるのだろう」


「ふふ、思い出を大切にしている良い子達なのだけれどね」


 迷宮は突破して思い出を回収した。

 そして目の前には謎解きゲームの時に重要な場所だった山が。

 次はどんなゲームが行われるのかしら♪



 ──“山岳地帯”。


「これがあの子達なりに考えた謎解きね……」

「フム……」


 その山には一つの立て看板が。

 私とイェラはその内容を読んでみる。


『英雄よりも前の時代、総髪の青年が異界からやって来た。青年は姫君に気に入られ、王国騎士として様々な英雄伝説を立ち上げる。最も知られている魔神・邪神・悪魔討伐の伝承。魔神が倒され、世界に草木が芽吹く。邪神が倒され、魔族は世界を知る。悪魔が生まれ、世界は四つに分断された。真の悪を討ち、世界の真実を祭壇に掲げよ』


「なんだ……この伝承は。私の知らない物だが……聞き覚えはあるような……」

「これは“日の下(ヒノモト)”に伝えられている物ね。ヒノモト誕生の切っ掛けになった出来事とか。私くらい知的好奇心が高いなら触れる機会もあると思うけれど、普通は知らない事よ。貴女は定期的に遊びに行っているから聞き覚えがあるんじゃないかしら」

「成る程。それでか。しかし何処でこの様な知識を……ウラノくらいしか思い当たる節は無いが……」

「あの子達にヒノモトのお友達が居たじゃない。その子から聞いたんだわきっと」

「そうか。そう言うことか」


 これはヒノモトの方に伝えられている伝承。かつて存在した数多の英雄伝説や神話は、世界に永遠の平和をもたらした数千年前の英雄達によって上書きされた現状、その知名度の低さから単純な難易度だけなら代表決定戦から代表戦レベルはあるわね。とても中等部一年生の子達が出す問題じゃない。

 取り敢えず私は全く問題無いから謎解きを遂行しましょうか。


「今回の攻略は“世界の真実”を祭壇に掲げる事。おそらく魔神・邪神・悪魔の三つに関連する場所をこの森に再現してある筈だから、そこから本物を見つけ出すのが肝ね」

「そうか。とは言え“真の悪を討ち”……か。名前の響き的にも悪とされる邪神か悪魔の二択になりそうなものだがな」

「ふふ、そうね。それに本文には既に答えも書かれているわ」

「なにっ? いや、確かにヒントはあるが……もう分かったのか」

「ええ。そちらに向かいながら話しましょう」


 掲げる祭壇はこの立て看板がある場所。此処に“世界の真実”を持ってくればクリア。

 私はもう答えが分かったので説明しながら進む。イェラにも考えさせた方が良いかもしれないけれど、多分彼女もすぐに分かっちゃうわ。だって文章の違和感が大きいもの。

 ふふ、その辺はまだ中等部の一年生らしくて可愛いけれどね♪


「それで、答えはなんだ?」

「答えの前に答え合わせの説明をして行きましょうか。辿り着くまで暇だもの」

「フム、まあそれは別に構わないが」


「じゃあ話すわ。説明自体は単純よ。魔神・邪神・悪魔。この子達の次の文には“魔神が倒され、世界に草木が芽吹く。邪神が倒され、魔族は世界を知る。悪魔が生まれ、世界は四つに分断された。”……とある。まず除外する部分として、イェラが言った名前の響きと言うのもあながち間違っていない。魔神は一番最初に弾き出されるわ」


「そうか。やはり名前の響きからか?」


「ふふ、違うわよ。倒された後に草木が芽吹く……つまり新たな命が生まれているの。受け取り手次第なところもあるけれど、命を生み出す行為は“真の悪”にならない。生き物は本能で命を生み出す事を目的として存在しているんだもの」


 生命を生み出すという行為。それは草木に動物、様々な存在の第一目標。それを悪としたら全世界が悪に染まり切っている事になってしまう。

 元々善も悪も知能のある生き物が定めた概念だもの。生き物が居なくなれば善も悪も無い。生き物が居るからこそ善悪があり、その概念を永遠に繋いで行ける。

 善悪を定める為には知能のある生き物が不可欠だから、それを生み出す行為は悪にならないという事。

 とは言え、生き物が居なくなれば“悪”が消え去るという事だけれど、“善”も消えちゃうから“真の悪”にも当てはまらないのよね。

 私は説明を続ける。


「そして次に除外されるのは……邪神ね」

「フム……続く文は魔族が外の世界を知る。それが何故除外の理由になる?」

「これは私達のよく知る方の英雄伝説に関わりが出てくるわ。単純に言えばかつて世界に平和をもたらした英雄は魔族とされている。まあ私のご先祖様ね。外と世界を知る事で数千年後の平和に続いたんだもの。“真の悪”にはなり得ないでしょう」

「そんな感情論みたいな答えなのか?」

「あら、ちゃんと理にかなっているわよ? “世界の真実”にはならないから掲げる必要が無いじゃない」

「それは理由なのか?」

「ふふ、次の言葉がその訳にも繋がるのよ」


 魔神、邪神が除外された今、残る存在は一つ。私達はそれがあるであろう、四つの世界が交わる場所、スタート地点に戻ってきた。

 イェラももう分かっているけれど、敢えて訊ねてきた。


「そうなると答えは……」

「“世界の真実”は“悪魔”という事になるわね」

「さっきの理屈じゃ、名前に“悪”が入ってるから討つべきとかそう言う答えになり兼ねないように思えるがな」


「そうじゃないわよ。もう説明しちゃいましょう。悪魔の後に続く文、“悪魔が生まれ、世界は四つに分断された。”単刀直入に言えば“悪魔”は生まれてから倒されていない。ただ世界を四つに分断しただけだからよ」


「それが“世界の真実”に繋がるのか?」


「そうね。此処での魔神・邪神・悪魔は全て悪として書かれている。その中で唯一倒されていないのが悪魔になるの。そして私達の世界を改めて考えてみましょうか。私達の世界は沢山の国があるけれど、大多数の種族が居る国は大きく分けて四つ。“人間の国”・“魔族の国”・“幻獣の国”・“魔物の国”。あら偶然。悪魔さんが分断した数と同じじゃない!」


「成る程な。分断しただけで四つの国として形作られていない。だから真実は今居る私達の世界という事か。文章で過去の出来事と思わされていたが、実は最初から現在の事だけを説明していたのだな」


「大正解よ♪ 今の世界の形は大きく分けた四つの国。悪魔を討ってまだ完成していない四つの世界を組み合わせるという事。それが“世界の真実”♪」


 指定場所で手作りの国を手に入れ、さっきの場所に掲げる。次の瞬間には“思い出”が現れ、四つ目を手に入れた。

 これで残りは二つ。あの子達とのゲームも佳境に差し掛かったわね♪

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