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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第百四十三幕 かくれんぼ・チーム戦

 春の暖かな気配が漂う深緑の森の中、自然に浄化された澄んだ空気を味わいながら歩み行く。

 すっかり春めいた場所に衣替えする慣れ親しんだ森。地表の木々は生命力に満ち溢れており、生い茂った枝葉が空を覆い隠す。けれど不気味な雰囲気を醸し出す訳でもなく、葉から覗く陽光が幻想的な気配を演出していた。


 現在、可愛い後輩達が用意してくれたゲームの真っ最中。全体的な進め方や狙いは理解したので後はそれに従って進めるだけ。

 その為私とイェラは最初のゲームでティーナさんに見つかった“かくれんぼ”の場所に来た。


「ふぅん。成る程ね。あくまでかくれんぼのていは崩さないって事ね」

「その様だな」


 イェラが見つかった場所と迷ったけれど、私の所で合ってたみたい。ゲーム終了の切っ掛けになったのが此処だものね。

 そんな私とイェラの前には沢山のお人形さんが置いてあった。……これってティーナさんの私物かしら?


「やる事は単純。この中から“思い出”を見つければ良いのか」

「私達の思うかくれんぼのテーマは“見つける”。その通りね。戦闘とか謎解きとかそんな要素はまだ無い。あくまで思い出のお人形さんを見つける事ね」


 女の子のお人形に男の子のお人形。ワンちゃん猫ちゃん、幻獣・魔物にetc.

 ほとんどはティーナさんのでしょうけれど、全てが彼女の私物という訳でも無さそうね。


「……ふふ、お転婆。これはボルカさんのお人形かしら。こっちはルーチェさんでこれがウラノさんの」

「相変わらずの観察眼だな。ルミ」

「一目見れば分かるわ。特徴的だもの♪」


 一つ一つを確かめるのなら一目見たり少し匂いを感じるだけで分かる。

 基本的には丁寧に扱われているけど、お人形遊びが怪獣ごっこだったであろうボルカさんと思われる物はほつれてたり、香水の香りが漂う物はルーチェさんの。本の香りがする物はウラノさんかしら。視覚というよりは嗅覚の方をよく使っちゃってるわね、私。

 ふふ、あの子達、去年まで初等部だったのもあっていくつかはお人形さんを所持してるのね。ますます可愛い♡


「さて、思い出を見つけましょうか」

「しかしこの数ではな……」

「大丈夫よ♪」


 そして今回見つけ出す物は“思い出”のお人形。ティーナさんの物を選ぶのは確定として、どれが思い出に該当するか。

 普通に考えればあの子が良く使っ……一緒に居る子だけれど、感覚共有の子は私達の動向を何処かで監視している筈。なのでその子は此処にいない。植物魔法の子もボルカさんっぽい子も常に共に過ごしている筈だから、似た子を見つけるのが良さそうね。


「それじゃあこれかしら。金髪にオッドアイのお人形さん。植物魔法の子に近い見た目のものもあったけれど、私を見つけたのはこの子にそっくりのティナさんだものね」

「……どうやら正解だったようだな」


 選んだ瞬間、周りのお人形さんは植物に包まれて消え去る。

 イェラが言うように正解……って考えて良さそうね。植物魔法を上手く演出に使っているじゃない。エンターテイナーの素質があるかもしれないわ。


「次は何処に行こうかしら。場所が分かっているのは学院所有の山。けれどおこなったゲームの順番で言えばバロンさんとのチーム戦なのよね」


「どちらにせよ向かってみれば分かるだろう。チーム戦が行われるなら……そうだな。ティーナとボルカが来る事だろうさ」


「ふふ、そうね。前のパーティーから三ヶ月。代表決定戦を経て更に強くなったかもしれないわ♪ あの子達の成長速度は私に迫る勢いだもの」


「ルミに迫るか。本来なら過大評価と言いたくなるが、後輩と言うのもあって贔屓目に見てしまうな。そう思うとしよう」


 あの子達が着実に強くなっているのは事実。中等部の一年生で代表決定戦。一人は代表戦にまで勝ち上がったもの。

 団体戦の成績も好調。もう一月くらいで新入生が入ってくるとして、“魔専アステリア女学院”のダイバース部は将来に期待ね♪

 けど、私は中等部一年生で優勝までしたからまだまだ遠く及ばないわ!


「さて、では山の方に行きましょうか。あの子達が何処かで待ち受けていてもそうでなくても行く予定なのは変わらないものね」

「フッ、その気になれば魔力で探知出来るだろうに。わざわざそれをしないのか」

「貴女もじゃない。イェラ。気配を読めば居場所の特定は容易いでしょうに」

「今回はそう言うゲームだからな。様々なサプライズを前情報無しで楽しむとするさ」

「そうね♪」


 私もイェラも魔力や気配でティーナさん達の居場所は探さない。そこにサプライズがあるのなら知らないで受けて上げるのが大人の対応よ。

 時間もまだある。なので私達は山の方へ向けて進む。


『…………!』

「あら」

「急に動き出したな」


 そうした瞬間、近くの樹が動いた。

 ゴーレムの一種ね。一つだけという事はこれがバロンさんのつもりかしら?

 私達は二人。チーム戦ならこのゴーレムを倒したら勝利という事だけれど、私達ならどちらか一人だけでも簡単に倒せてしまう。何かしらのギミックがあるのかしら?

 物は試しね。


「“魔弾”」

『……』


 魔力を込め、それからなる弾を射出。樹木ゴーレムの体を貫いて粉砕させた。

 さて、此処まではいつもの植物魔法からなるゴーレムと一緒。此処からどうなるかが肝ね。


『『…………』』

「あら、二つに増えたわ。バロンさんではなくティーナさんとボルカさんって事かしら」

「更に言えばコアのような物が見えたな。今までのゴーレムにあの様な物はなかった」

「それじゃあ、コアが思い出という事ね。あれを取り出すのが今回の在り方みたい」


 撃ち抜いたゴーレムは二つに増えた。

 そう言う生き物は居るものね。元々が植物。不思議ではないわ。

 お陰で何をすれば良いか分かったから実行に移しましょうか。


「“魔弾”」

『……』


 また撃ち込み、粉砕。即座にコアへと手を伸ばしてみる。

 瞬間的に植物が覆い尽くし、コアは隠された。成る程ね。破壊と同時に再生してるわ。何かしらの条件を満たさないと取れないようにしてあるみたい。

 その気になれば破壊と同時に取り出す事も出来るけれど、それじゃあの子達が用意してくれたゲームに申し訳ないものね。

 さっきも似たような事を思ったわね。ギミックを明かして正攻法で攻略する。それが礼儀よ。


『……』

「もう一つのゴーレムは……」

「……。やれやれ」


 チラリと見やり、イェラが相手取ってくれる。流石ね、イェラ。

 木刀にて弾き、巨腕が下ろされ回避。着弾と同時に大きな爆発が起こったみたいに衝撃波が散る。

 ゴーレムの魔力出力が上がっているわね。あの子もかなり鍛えたみたい。


『……』

「私の方にも迫ってくるけど……片方と違って植物による遠距離攻撃が主体みたいね」


 イェラが相手にしている子はボルカさんイメージで私が相手にしている子はティーナさんかしら。

 私が相手取るゴーレムは植物の腕を伸ばして仕掛け、辺りの木々を操って更に質量で攻めてくる。本当にティーナさんを相手にしているみたいね。……成長前の、だけれど。


「えい」

『……』


 連続して魔力を撃ち込み、周りの植物ごとゴーレムの体を粉砕。そして即座に再生する。

 コアを取れないだけじゃなく、ギミックを解かなければ消し去る事も叶わないみたいね。


「……」

「はあ!」

『……』


 イェラの方を一瞥してみる。彼女は木刀を縦に振り下ろして切り裂き、横に薙いで分断。衝撃波混じりの刺突で吹き飛ばして粉々にした。次の瞬間にはその破片から芽を出すように再生する。

 やっぱりただ破壊するだけじゃダメみたいね。そして改めてテーマを考えてみる。

 チーム戦のテーマは“協力”。二体から増える様子の無いゴーレムに再生する体。取り出せないコア。

 把握したわ。


「イェラ。これは二体を同時に倒さなくてはならない相手よ」

「なにっ? ティーナはそんな高度な魔法を使えるようになっていたのか」

「ふふ、違うわ。あの子が使っているのは今まで通り一つの魔法に分類される。簡単に言えば沢山操る事の応用よ。考えてもみなさい。あのゴーレムは元々一つだった。体は一つしかなかったのよ。その体が二つに分かれて今に至る……両方にあるように見えるコアの数は変わらず一つ。同時攻撃で同時破壊。その後にコアを取り出す方が自然な攻略法だわ」

「そうか。生まれた種が一つならそれを破壊すれば済む話……という事だな」

「補足ありがとう。更に厳密に言えば二つあるように見えるゴーレムのコアを同時に取る……かしら」

「入れるのは二体同時に倒すという情報だけで構わん。余計な言葉を挟むとかえって混乱してしまうからな」

「ふふ、そうね」


 そう、やる事は二体に思えるゴーレムを同時に倒すだけ。理屈とか原理を説明するよりもそっちの方が優先ね。

 何より今は制限時間の中で行動しているんだもの。理屈をねる無駄な時間が勿体ないわ。


「合わせられる?」

「誰に言っている。おそらく全人類でルミと完璧に合わせられるのは私だけだぞ」

「ふふ、そうね。幼馴染で大親友。そして私の恋人だもの♪」

「最後の一つは余計だな。私もルミもノーマルだろ」

「あら、多様性の時代にタイプを分別するのは失礼よ」

「残念ながら、その手の者達に気を使う余裕なんざ持ち合わせていない」

「冷たいわね~」


『『…………』』


 ちょっとした雑談をしているうちに二体のゴーレムはそれぞれ巨腕と大樹をもちいて仕掛けてくる。

 好都合ね。このまま相手も交代しましょうか。


「それじゃ、私が戦っていた子を頼むわ」

「樹の処理が面倒になったな……」


 イェラは踏み込み、伸び迫る樹を木刀で砕いて散らしていく。一瞬にしてゴーレムの眼前へと到達した。

 彼女が木刀を振り上げた瞬間に私も魔力を込め、下ろすと同時に撃ち出す。


『『………!』』


 それによって二体のゴーレムはコンマ一秒の差も無く同時に崩壊。コアがあらわになる。

 イェラは片方に手を伸ばし、私も放った魔弾の形を変化。そのままコアをキャッチ。

 念の為にこれも同時に執り行い、二つのコアは私とイェラの真ん中で一つになる。


「二つ目の思い出も手に入れたわね」

「やれやれ。知らないうちに高度な魔法を使うようになって。後輩の成長は嬉しいが、中々大変だ」

「楽しいじゃない♪」

「フッ、それを否定した訳ではないぞ」


 二体のゴーレムから思い出のコアを奪取完了。これでまた一つ攻略に近付いたわね。

 残りは迷宮脱出。謎解き。陣取り。パーティーの四つかしら。忘れてるゲームがあればそれも含めるとして、結構順調に進んでいる気がするわ。

 私達と後輩ちゃん達のダイバース。あの子達の成長も感じられて楽しく進められているわね!

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