第百四十二幕 メモリアルダイバース
──“一時間後”。
ルミエル先輩とイェラ先輩に見つからないように行動してから少し経て寮へと戻る。まだまだ日は高い時間帯なので結構余裕はあるかな?
私達は早速ダイバースについて考える。
「よし。そんじゃ次はどんなダイバースをするかだ。何か案あるか~?」
「手っ取り早くチームバトルとか」
「謎解きゲームとか」
「迷宮脱出ゲームなど如何でしょう?」
「「「「…………。うーん……」」」」
考えてみた結果、在り来たりなものしか思い浮かばなかった。
それ以外にあるかと問われたら口を噤んじゃうけど、ルミエル先輩達を送り出すのにはもっと盛大にやりたい気分。
私だけじゃなくてボルカちゃん達も同じ気持ちみたいだね。
でもどうしよっか。
「そんじゃ、今までの思い出を乗せていく感じでどうだ?」
「今までの思い出?」
そこへボルカちゃんからの提案が。
今までの思い出を乗せたダイバース。それは一体どういう事なんだろう。
当然それについての説明がされる。
「ま、簡単に言えばアタシ達とルミエル先輩達が参加したダイバースの要素を散りばめて一つのゲームにする……って感じだな。名付けて、メモリアルダイバース!」
「メモリアルダイバース。かくれんぼから始まった今までのダイバースを一つに……!」
「かくれんぼについてはまだ入部してなかったので分かりませんけど、今までの物を組み合わせると言う案は良さそうですわね!」
「そうね。1同士を組み合わせて作るなら0から1を作るよりは遥かに簡単だわ」
その提案は今までの、ルミエル先輩達と行ったダイバースを全て合わせると言う事。あくまで先輩達との思い出だね。だから大会でのダイバースは置いておく。
それは思い出を巡るという意味でも良いかもしれない。ルールに上手く組み込んで一つにすればお馴染みのゲームでも十分に記念になるよね!
「これでゲームは決まりで良さそうだな。後は参加証を書いて……と、ルミエル先輩達に来てくれるかも聞かなきゃな。予定が無いとしてアタシ達の誘いに乗ってくれるかは分からないし」
「あ、それもそうだね。予定を入れる予定も無いって言っていたけど、だからこそ私達が誘ったとしても断られる可能性はあるんだ」
「そう言うこった。今日帰ってきたらそれとなく誘ってみようぜ。断られたら日を改めてまた別の方法を考える。なんとしても卒業までにサプライズダイバースは開きたいしな」
参加証とルミエル先輩達の言質を取らなきゃならない。
卒業式まであと二週間。結構あるように思えるけど、ルミエル先輩の忙しさを思えば全然足りない。
本命は再来週の空いてる日。それがダメなら他のやり方を考えるみたい。もちろん私も考えるよ。
取り敢えずルミエル先輩が来なきゃ始まらないので、決行する方向でサプライズとなるメモリアルダイバースの内容を考える事にした。
お菓子を食べたりジュースを飲んだりしながら話し合い、ある程度まとまってくる。
「──とまあ、こんなところか。なるべく多く組み込んだけど、ルールがややこしいから当日まで改良の余地ありだな」
「そうだね。そろそろルミエル先輩達も街から帰って来るかな?」
「あー、もうこんな時間か。三、四時間前に二人でカフェに行ってたから……そこからショッピングとか色々含めて今すぐから門限までの幅があるな」
「それってかなり広い幅だよ……」
ボルカちゃんの推測では今すぐ帰って来る可能性と門限まで帰って来ない可能性があるとの事。
今が日が暮れてきた頃合いだから門限までなら三、四時間はあるけど……どうだろう。
すると外を見ていたウラノちゃんが話した。
「あら、帰って来たわよ。二人とも。楽しそうにお話ししているわ」
「ホント!?」
「お、マジだ。ラッキー!」
「今日中に確認は出来ますわね!」
「ちょっと……ギュウっと詰めないで……貴女達は痩せてるけど三人集まると重い……」
私達も窓の近くに寄ってルミエル先輩とイェラ先輩の姿を確認した。
一先ず目的を遂行する為、部屋を出て見失わないうちに先輩達の元に駆け寄る。
「先輩! 単刀直入に聞きますけど再来週の卒業式前空いてますか!? 空いてるならアタシ達と一緒にえーと……なんかしませんか!?」
「あらあら。ふふ、一体何かしら。何をしようと言うんでしょう」
「さあ、いきなりなんだろうな」
サプライズだからメモリアルダイバースの事は秘密。なのでそれは言わないように気を付けつつ誘おうとするボルカちゃん。
違和感のある言い回しになっちゃってるけど、先輩達は受け流してくれてるみたい。性格的にもあまり気にしないでくれそうだもんね。
「とにかく、再来週一緒に過ごせませんかって事です!」
「ええ、別に構わないわよ。卒業も近いし、可愛い後輩達と最後の日を過ごすのは素敵ね♪」
「まあ、私も構わないが……一体なんなのか」
二人は快くOKしてくれた。
なんかもう何かしらのサプライズがある事がバレちゃってそうな気がするけど、とにかく了承を得られたなら問題無ぁし! 場所も取り決めたよ!
それから少しだけ雑談し、ボロが出ないうちにその場を去った。
「ふふ、何をしてくれるのかしらね♪」
「サプライズ的なものだとは思うが……まあ、その日を楽しみにしておくか」
決行は再来週。卒業式前!
最初で最後のメモリアルダイバース! 必ず成功……ううん、大成功させてみせるよ!
*****
──“当日”。
後輩ちゃん達に言われ、私とイェラは卒業式前の休日、部室のある森にまで来ていた。
此処に来るのも久々な感じがするわね。ふふ、たまに顔出したり遠目から見たりしてたんだけれど、なんだか特別な感じがするわ。
送別会の時に貰った花束の一本から押し花とした物を見つめて物思いに耽る。寄せ書きは部屋に飾ってあるから持って来れなかったけれど、思い出は此処にあるわ。
「ルミ。やけに辛気臭い表情をしているな」
「そんなんじゃないわよ。イェラ。此処に来る事も……本当に無くなってしまうのね……って少し考えてたの」
「そうか。気持ちは分かる」
いつまでも耽っている場合でもないわね。
ティーナさん達は何処に居るのかしら。すると目の前の木には風船と一枚の紙が。
ふふ、そう言う事。
『ゲーム:“思い出のゲーム”
・勝利条件:“思い出を集めて指定場所まで持ってくる”
・敗北条件:“制限時間以内に条件を満たせなかった場合(※3時間)”
勝利報酬
・???
敗北対価
・無し
主催者コメント
・先輩! 今までお世話になりました! それにつき、今回はお礼も兼ねて特別なダイバースを開きたいと思います! その名はボルカちゃん命名、メモリアルダイバース! ルールは上記通り! 私達との思い出を巡ってください! 今までは世話になるばかりでしたけど、今回はアタシ達がおもてなししてやりますよ! ワタクシ達のゲームは愉快なものとしておりますわ! 是非とも心行くまで楽しんでくださいまし! でも心行くまで楽しんだら制限時間でゲームオーバーですわね! 先輩達には及ばないかもしれませんけど、私達の成長を見ていてください。』
「あの時の私達もこんな風に何も言わず参加証だけ貼っていたわね」
「そうだな。それにしても個性の強い主催者コメント欄だ」
楽しんでゲームを考えたのだと分かる文書。仲良く作ったみたいで何よりだわ。
さて、此処までしてくれたんだもの。私達も楽しまなきゃ失礼に当たるわね♪
「それじゃあ早速入りましょうか。勝利条件については行きながら考えましょう」
「そうだな。おそらく森に入ってからスタート。此処で解くのは無粋だ」
私とイェラは森の中に入り、風船が割れてゲームスタートの合図が告げられる。
まずは勝利条件が何をすれば満たされるのかを考える。
「思い出を集めて指定場所まで持ってくる。その指定場所が書かれていない事からするに集める途中で分かるというものみたいね」
「だとするとその思い出とは何か。ゲーム名にも“思い出のゲーム”とあるように今までに行ってきたダイバースの中から何れかがあるのだろう。複数のゲームを制限時間内にクリアして思い出を集める。それが攻略法」
「次に残る疑問は何処でどの様なゲームが行われるのか。この“思い出”が示すのは主催者コメントにあるようにティーナさん達との“思い出”。今までやったゲームの種類を振り返れば一番最初の“かくれんぼ”。入部してからバロンさん達と行った“チーム戦”。“迷宮脱出ゲーム”は厳密に言えば私達は関わらない予定だったけど、不測の事態で参加したから一応入れましょう。そして英雄の軌跡を辿った“謎解きゲーム”に体育祭の“陣取りゲーム”。最後にあの子達としたのは“パーティー”かしらね。大会でのダイバースは学年的に関係無いと見なしましょう」
「そうだな。それらに関わりのある場所。此処で行ったゲームは場所もある程度予想が付くが、舞台がこの森じゃなかった物は近しい所でも探してみるか」
ゲームの意図はある程度汲み取ったわ。今までのダイバースを落とし込んでいるとして、
かくれんぼは“見つける”。
チーム戦は“協力”。
迷宮脱出は“逃げる”。
謎解きは“明かす”。
陣取りは“奪う”。
パーティーは……“楽しむ”。かしら。
それらを含めたゲーム。イェラとも思い付いた事を話し合いながら進める。
「──って考えたけど、イェラはどう思う?」
「ああ。同意見だ。それに加え、集めた思い出を指定場所に置かなければならないらしいしな。基本的に形のある物がその場所にあると考えて良いだろう」
「ええ、そうね」
考えている事はほぼ同じ。とは言え、思い出の個数……ううん。思い出の数は指定されていないからまだ一捻りありそうね。
それを踏まえて行動に移しましょうか。
「現在地から近い場所と言えば“かくれんぼ”をしたところね。私がティーナさんに見つかった場所か、イェラがボルカさんに捕まった場所かしら」
「そうだな。かくれんぼと謎解き以外の他のゲームは場所も違った。近い場所を推測で探すハメになりそうだからそこから行くとしようか」
「そこで思い出を見つけたら次は謎解きをした山に向かった方が良さそうね」
最初に行く場所を決め、次くらいに向かう所も考えておく。
時間制限があるゲームだから効率良く行かなくちゃね。その間にも候補となりそうな場所を探しておくわ。ステージの全容を思えば既にある程度の予測は出来ているけれどね。
「さて、改めて始めましょうか。可愛い後輩達とのラストダイバース♪」
「そうだな。何を考えて来たのか、この目で確かめてやろう」
暖かな気配感じる森を進み、少し速度を上げる。
制限時間は三時間。そんなに掛かるのかは分からないけれど、なるべく早めに行くとするわ。
私とイェラは後輩達のダイバースに誘われ、それが本格的にスタートした。




