第十四幕 特訓
──“外部、運動場”。
「この場所は部活動の鍛練でよく来ている所よ。程好い広さがあって体を動かすには最適なの♪」
先輩に案内された場所は、部室から数百メートルくらい離れた拓けた所。
実践の演習を行うに当たってここは重宝されてるみたい。
「さて、始めましょうか。明日行われるゲームのルールに合った練習が必要ね」
「はい!」
「はーい」
明日のルールはチーム戦。私とボルカちゃんと、あと何人かが参加してゲームを執り行うみたい。
チーム戦と言っても正面からの戦闘じゃなくて、森とか遺跡とか、運営から用意されたステージ的な場所にチームメンバーが送られるんだって。
そこを散策して出会ったらバトル。複数人で一人と戦ったり、逃げたりもOK。最終的に一番多く残ったチームの勝ちというシンプルなもの。
けど、シンプルだからこそ戦略の幅は広い。色々と工夫しなくちゃね。
「今回は私が貴女達の相手をするわ。そうね……メリア。貴女は何かとこの子達と縁があるから私とチームを組んで練習相手になって頂戴」
「え!? 私でいいんですか!? やったー! 部長と一緒のチームだー!」
ルミエル先輩に名指しされ、ピョンピョン跳ねて喜ぶ。やっぱりスゴく嬉しい事なんだねぇ。
メリアさんと呼ばれたほうき乗りの人は自己紹介をする。
「名乗り遅れたね。私は“メリア・ブリーズ”。得意魔法は見ての通りの箒操作! 派生源は風だね! よろしく! ティーナさんにボルカさん!」
「は、はい! よろしくお願いします!」
「よろしくお願いしまーす」
スゴく明るい先輩みたい。なんだかテンションもかなり高い。悪い人じゃなさそうだね。
自己紹介を終え、メリア先輩はルミエル先輩に訊ねる。
「それで部長。私は部長と何をすればいいんですか?」
「そうね。今回のルールはチーム戦。メリア。箒で森をひとっ飛びしてきてくれないかしら?」
「そんな事でいいんですかー? お安いご用でーす!」
ルミエル先輩に言われ、ほうきに跨がって浮遊。一気に加速し、指定された場所に向かう。
続いて私達にも指示を出した。
「そして貴女達は、あのメリアを捕まえてご覧なさい」
「捕まえるんですか? 鬼ごっこじゃなくてチーム戦ですけど……」
「ふふ、実はかなり重要な事よ。本番になれば分かるわ」
「えーと、はい。やってみます」
理由はまだ分からないけど、熟知している先輩の言うことなら正しいと思う。
なので私はママに魔力を込め、そこから地面へと流し込んだ。
「見てますかー!? 部長ーっ!! 私の華麗な箒捌──うぎゃあ!?」
メキメキと植物が生え、森を行くメリア先輩の後を追い掛ける。
波のような植物は大量に迫り、先輩は涙目ながら必死に逃げていた。……な、なんか悪い事しちゃったかな……?
「メリアを指名した時から薄々感付いていたが……やはりそういうことか」
「ふふ。ええ、そうね。あの子の箒操作は随一。チーム戦なら戦闘よりもこっち方面を鍛えた方が確実だわ」
「という事は他のメニューは……」
「流石、察しが良いわね。メリアだけじゃなく、あの子達も少し苦労する事になるわ♪」
「やれやれ。小悪魔的と言うか、魔王と言うか。相変わらずだな」
「魔王……私に限って言えば強ち間違ってないわね」
「それを含めて言った。ダブルミーニングというやつだ」
「今となっては眉唾だけれどね」
私がメリア先輩を追ってる最中、部長と副部長が何か話してる。
そして私達も苦労するという言葉が……。
ゴクリと今一度生唾を飲む。メリア先輩を捕まえた後、私達はどうなっちゃうんだろう……。
覚悟は決めておいた方が良さそうだね。
私達の明日へ備えた特訓は夕方まで続いた。
*****
──“アステリア女学院・大浴場”。
「ぷは~……疲れたー」
「私も~……」
鍛練が終わり、夕食等も終わらせた私達はお風呂に入っていた。
ボルカちゃんは天井を見上げてぷか~っと浮かび、私も確かな疲労を実感して一息吐く。
「疲れたけど楽しかったねー」
「そうだな……ルミエル先輩は結構スパルタだったけど、かなり鍛えられたって感じはする」
本番は明日なのに筋肉痛になるかもしれない。一応先輩に言われたストレッチはしたから和らいでいると思うけど。
お湯の中に疲れが流れ落ちていくのを実感する。疲労が取れるってこんな感じなんだ。
ザパァと起き上がり、濡れた赤髪が垂れるボルカちゃんは私の方を見た。
「明日はどんな人達と戦うんだろうな。ティーナ。先輩が言うに結構強いらしいけど」
「うん。でも私達と同年代だろうし、そんなに差は無いんじゃないかな?」
「かもな~。何にしても明日の本番で分かるか~」
「だねぇ~」
のんびりとした会話。お風呂の中なのに眠くなっちゃう。これって結構危険だよね……。
どんな人達とどんな感じの戦いになるんだろう。そんな事を考えながら湯気で白く染まる天井を見上げていた。
*****
──“翌日、放課後”。
今日も授業などを終え、私とボルカちゃんは一先ず先輩達の居る部室の前に来ていた。
既にみんな集まっていて、ルミエル先輩の姿も映る。
「こんにちは。ルミエル先輩」
「チーッス」
「来たわね。二人とも……」
「……? どうかしたんですか?」
挨拶をし、それに返してくれる先輩。だけどなんか様子が変。
訊ねてみると苦笑を浮かべて返答された。
「あら、気付いちゃったかしら? 実は少し困った事になってしまってね……」
「困った事?」
「ええ。貴女達以外にも二人の仮入部希望者が居たんだけど、二人とも家の用事で来れなくなってしまったの。その二人は仮じゃなくて本入部希望っぽかったから明日以降は来てくれると思うけれど」
どうやら私とボルカちゃん以外にも参加希望者が居たみたい。だけど来れなくなっちゃったんだって。
一体どうしたんだろう……。
するとそこに、力強い女性の声が届いた。
「それァ、どう言う事だ? ルミエル! 一年生だけでオレ達と戦おうとしたって訳か!? しかもそのうちの二人が来ねェだとォ!?」
「ひっ……!?」
「あら、こちらも到着ね。紹介するわ。この方“バロン・ノヴェル”さんよ。男勝りな話し方だけどちゃんと女の子。実は乙女チックでロマンチスト。夢はいつか絵物語みたいな王子様と──」
「よ、余計な事は言うな!?」
少し乱暴な口調で話す怖そうなお姉さん。だけどルミエル先輩の説明を聞くと気が合いそう……かな?
無造作にセットされたボサボサな黒い長髪に褐色の肌。鋭い目付き威圧感のある表情。制服の上からでも分かる程に筋肉質でグラマーな体型。野性味溢れる先輩だけど、あの肉体美にはちょっと憧れるかも……。
「とにかく! 一年生だけというのも問題だが! その人数が足りねェってのはどういう了見だ!?」
「困ったわねぇ~」
「流すな! せめて高等部の誰か一人でも加えろ!! なんなら此方の四人と数を合わせろ!」
怒鳴って抗議するバロンさん。
と言うかあの様子を見る限り仮入部生だけでゲームするって訳じゃなかったんだ……。それは私達だけ……。しかも上級生の同行云々は関係無く、結構自由にチームは決められるみたい。
怒りを露にする彼女に向け、ルミエル先輩は口を開いた。
「分かったわ。じゃあ──私が参加するわね」
「……!」
「「「………!」」」
「……?」
そんな先輩の言葉に反応したのはバロンさんだけじゃなく、相手のチームメイト達全員。
一体なんだろう? ルミエル先輩は部長なんだし、何も変なところは無いと思うけど……。
バロンさんは驚きつつも八重歯を見せる笑みを浮かべて言葉を返す。
「クク……そうか。お前が参加するのか。ルミエル……! ならばもう何も言わねェ……! 思う存分やってやろう……!」
「「「…………」」」
バロンさんを始め、他の人達の目付きも変わった気がする。
ルミエル先輩の参加ってそんなに大きく影響するものなんだ……。
「私が参加する代わり、人数は私達三人だけでいいかしら?」
「舐められたものだな。だが、お前が参加するなら飲んでやる。後悔するなよ!」
「後悔ね……フフ、人生全て経験。私の人生に後悔なんてないわ」
な、なんか話が纏まってるけど……もしかして本当に私達三人だけでやるの……!?
人数差は一人だけど、なんか強そうな人達だし私とボルカちゃんは初めてだし、不安要素しか無いんだけど……。
「それじゃあ始めましょうか。それぞれ魔道具で控え室に行った後、更に転移の魔道具でステージに移動よ」
「は、はい!」
「おーっす」
不安はあるけど、いよいよ始まるんだ……初めての対人戦……!
厳密に言えば一度先輩達としたけど、あくまでそれは練習や体験みたいなもの。本番はこれから! 私とボルカちゃんのダイバースがついに開催されるんだね!
私達は今回の会場へと魔道具で飛び去った。




