第百三十九幕 ダイバース新人戦・代表決定戦・終了
「悪ィ悪ィ。負けちまったぜ!」
「ボルカちゃん……」
二回戦が終わり、控え室から更に移動した病室にて私はボルカちゃんと一緒に居た。
傷の方は既に治療済み。肋骨が二、三本折れてて、少しズレてたら肺に刺さっていた程の重傷だったみたいだけど、なんとかなって良かった~。
「なんとか勝てたが、僅差の勝利。実質引き分けのようなものだな」
「レモンさん」
そしてこの病室にはレモンさんも居る。
レモンさんの方は全身大火傷の重症で皮膚も焼け爛れたり一刻を争う状態だったとか。
想像もしたくないね……そんな傷を負いながら彼女は素振りを全く見せずに病室まで自分の足でやって来たらしい。
衣服もほとんど着ていない状態だったから終了と同時に布を羽織っちゃって、傷も隠れてたしその立ち振舞いから関係者達は重症だった事に気付かなかったとの事。
その胆力は凄まじ過ぎるけどもうちょっと自分を大事にして欲しいな……。
代表決定戦では重傷者や重症者の数は決して少なくなく、病室もギリギリ。この二人をすぐに治せるような力を私が使えれば良いんだけどね……。
「オイオイ、ティーナはティーナで何をそんなに不安そうな表情をしてるんだ? まだ完治はしてないけど痛みは引いたし、問題無く動けるレベルにはなったんだぞ?」
「そうだな。私の方も少しヒリヒリする程度に抑えられている。三回戦は問題無く出場できるぞ」
「それは良かったけど……やっぱり友達として二人は心配だよ……」
「ハハ、そりゃ嬉しい事を言ってくれるなー」
「そうだな。ティーナ殿のように可憐な乙女に心配して頂けるなら怪我をする甲斐もあるというもの」
「もう! 二人とも!」
「悪い悪い」
「フッ、すまなかった」
軽快に笑う二人。私を揶揄うくらいには治って良かったよ。本当に。
そんな会話をしているとアナウンスが聞こえてきた。
《続きましてはCブロック・Dブロックの二回戦を開始します。選手の皆様は会場にお集まりください》
「呼ばれてるぜ。ティーナ」
「気を付けるのだぞ。私やボルカ殿程の強者はそうそう居らぬと思うが、皆が人間の国の代表になりうる実力を秘めた者達ぞ」
「うん。行ってくるね!」
私の出番が来てボルカちゃんとレモンさんに送り出される。
ボルカちゃんが負けちゃった以上、“魔専アステリア女学院”のメンバーは私だけ。気合いを入れて頑張るよ!
私も二回戦の会場へと向かった。
*****
──“二回戦・力比べ・腕相撲対決”。
「……なに……これ……」
「何って……腕相撲対決だが?」
二回戦の内容は、なんと会場での腕相撲。
それってダイバースなのかな……? 戦術とかあるの……?
《二回戦! “力比べ! 腕相撲対決”ゥゥゥ! ルールはその名の通り腕相撲! しかァし!! 勿論ただの腕相撲じゃありませんよォ!! 魔力も魔導も妨害も何でもあり!! そう言う腕相撲です!! 先に三回勝利した方が勝ちとなります!》
「そう言う腕相撲……」
「そう言う事だ」
司会者さんの言葉を聞いて一先ずは納得しておく。何でもありって時点で苦戦は避けられないよね。
因みに私の対戦相手はなんとあの“アテナロア学園”の人。バロンさんの後輩だね。
「しかし、あのバロン・ノヴェル先輩を、偶然とは言え打ち負かした実績のあるティーナ・ロスト・ルミナスが相手とはな。ある種のリベンジマッチとなる……!」
「お、お手柔らかにお願いします……」
当然目の敵にされちゃってる……バロンさんに勝ったのはそうだから仕方無いよね。
もう卒業するし起こる可能性は0なんだけど、仮にルミエル先輩が負けるような相手と戦う機会があったら私もスゴく気合い入れちゃうもん。
この腕相撲、本当にただの腕相撲じゃないね。
《それではレディ……》
「「「ドワアアアァァァァァッ!!!」」」
「「………!」」
会場の真ん中で用意された台に肘を置く。
合図前にお客さん達の声が直接来るから少し焦っちゃうね。ルールは単純。魔力を込めて身体能力を強化。これくらいしかやれる事は無い……!
《ファイトォォォッッ!!!》
「えい!」
「……この程度か?」
「え?」
魔力と力を込め、一気に倒す。けれど腕はビクとも動かない。
スゴい腕力……魔力の方かな? どちらにしても勝てるビジョンが見えない……!
「因みに、私はまだ魔力を込めていない。お前は魔力を込めてその程度か」
「ウソ!?」
「本当……だ!」
「……ッ!」
ビタン! と勢いよく腕が叩き付けられ、一瞬骨が折れたんじゃないかと錯覚する痛みに襲われた。
魔力も何も込めていない状態でこの力なんて……“アテナロア学園”の人達は全員がスゴい筋力を持っているのかな……。あ、でも名前の元ネタとバロンさんの育成方針を思えばそうなのかも。
残り二回……このままだと負けちゃう。
なんとか打開策を……確か魔導……つまり魔法全般は使ってOKだったよね……。
「どうした? 一回の勝負で心が折れたか? 棄権しても良いんだぞ」
「いいえ……まだまだです……!」
「ほう? 森を纏ったか」
「厳密に言えばフォレストゴーレムの腕です……!」
ママに魔力を込め、フォレストゴーレムの片腕を生成。
それを私の腕とし、この人を相手取る……!
「良かろう。少しは面白くなりそうだ……!」
「……!?」
凄まじい魔力の気配が片腕に集まっているのを感じた。
これは……全身を強化するんじゃなくて魔力の一点集中……? ルミエル先輩みたいに魔力の流れとかを上手く読めない私にも分かる程の力がそこにはあった。
「第二ラウンドだ」
「……はい……!」
《スタァァァトォォォッ!!!》
司会者さんの言葉と同時にフォレストゴーレムの巨腕で相手の腕を掴む。
質量的には私の方が高い。後は力を高めて一気に押し倒すだけ!
「はあ!」
「……っ。フッ……良い重さだ。……だが、お前の魔力にはまだまだ無駄が多い!!」
「……!?」
グンッと引っ張られ、私の体が舞い上がる。
そんな……ウソ……!? 本体ではないとは言え、フォレストゴーレムの巨腕は数トンは軽く超えている。なのにこの人は、その腕を私ごと……!?
そんな思考も束の間、スガァン!! と私は勢い良く倒され、台は粉砕。そのまま会場も割れてしまった。
「……ッ」
「折れてしまったか。その腕では三回目は出来ないだろう。元より結果も分かり切っている。棄権しろ。バロン先輩に勝てたのはやはり偶然だったようだ」
「………」
痛い……スゴく痛い……。フォレストゴーレムの巨腕を消し去って私の腕を見れば青紫色になり、逆方向に曲がっていた。
動かすだけじゃなく、呼吸だけでかなりの激痛が走る……。確かにこのままの状態だと出来ない……けど……!
「まだ……やります……!」
「……胆力だけはあるようだな」
植物を腕に覆いギプスのようにして固定。応急処置をする。
これならやれない事は無い。一連のやり取りを見て、魔力の正しい込め方も理解した。一点集中すれば余計な漏洩は無くなり、瞬間的に凄まじい力を繰り出せる。魔力ってそう言うものなんだ。
新しい台が用意され、私は腕を更に植物で覆う。痛みなんか感じない程にガチガチに固定。これでダメならもう終わり……!
「その腕が無くなってから後悔してももう遅いぞ」
「大丈夫です……そんな事にはなりませんから……!」
「……!」
魔力の一点集中。私の魔力もママの魔力も全てを自分に込める。そうする事で凄まじいパワーを生み出す事が出来る。
集中、集中、ゆっくりと息を吐き、やるべき事のみを考える。私がやるのはこの人を倒して三回戦に進む事……!
「なんだ……その魔力は……!?」
「……?」
「「「…………っ!?」」」
驚愕の表情を浮かべ、観客席からもざわめきが聞こえる。
でもそこに気を取られているようじゃまだまだ三流。私は勝利の事だけを考え続ける……!
《なんと……なんとなんとなんと……!! これは……私達が見ているのは夢か現か幻か!? 会場全体を覆い尽くす森羅万象です!!》
司会者さんの言葉が耳に入る。チラリと横を見、会場が巨大植物に覆われているのを確認した。
これくらいは普通だよね。だって今までもそうしていたもん。今やるのは、この余波を全て自分の中に収める事……!
《そして!! 現れた魔力の気配が全てティーナ選手の中へと吸い込まれて行きます!! 一体何がどうなっているのかー!? まさに彼女は今!! 自然と一体になっている状態!!》
「……さあ……始めましょう……!」
「フッ……面白い……!!」
互いに手を掴み、向き直る。司会者さんは開戦の合図を告げた。
《スタァァァトォォォッ!!!》
「はあ……!」
「……やあ!」
掴み、一気に押し倒す。だけど今回は吹き飛ばない。私はちゃんと自分の力で堪えられている!
「……!?(な、なんだこの重さは……!? 私の力を以てしてもビクともしない……!? まるで……巨大な山を押しているようだ……!)」
「……やあああ!!」
「……ッ!」
相手の腕を掴み、そのまま放り投げるように倒す。
その人は体勢が一気に崩れ、私はさっきのお返しと言わんばかりに吹き飛ばした。
ようやく一本目を取ったよ!
「バカな……有り得ん……! これ程の力を持つ者が、まだまだ未熟である中等部の一年生なんかに……!?」
「つまり、更に成長するという事ですね!」
「クソォ━━ッ!!!」
ズガン! ビターン! と、このままの勢いで二連勝。
それにより、私の勝利が確定した。
《勝者! “魔専アステリア女学院”! ティーナ・ロスト・ルミナスゥゥゥッ!!!》
「「「わあああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」」」
勝利を収め、大歓声が私を包み込む。
やった。これでまた一つ成長出来たかも!
「クッ……負けた。やられたよ。ティーナ・ロスト・ルミナス。バロン先輩が敗れたのは偶然ではなかったようだ」
「その時は私だけじゃありませんでしたから。ボルカちゃんのお陰です!」
「そうか。才能の塊である二人が相手だったなら……それも仕方無いか」
対戦後には握手を交わす。これも試合の醍醐味って感じ!
このままの勢いで三回戦も突破。レモンさん、ユピテルさんも当然突破したみたい。
それから二日目、三日目に掛けて決勝までを執り行い、私は無事、初めてダイバースの代表戦の切符を掴むのだった!
*****
「それでは! ティーナ、レモン、ユピテルのダイバース代表戦入りを祝して! カンパーイ!」
「「「イエーイ!」」」
「……なに……これ……」
「祝勝会のようだな」
「なぜあまり話してない我も呼んでくれたのだ……?」
「私に至っては一回戦でティーナさんに負けてるんですけど……なのに祝勝会に呼ばれて……」
三日目の終了後、私達はいつもみたいに祝勝会が開かれていた……けど、唐突過ぎて私自身も困惑している。
今回はレモンさん達やユピテルさん達、エメちゃん達も誘った大宴会だけど……なんだろうね。
「ほらほら! 飲め飲めティーナ! ティーナの出場を祝しての会だぞー!」
「何この絡み……ジュースは美味しいけど」
「飲み物のフルーツが発酵してアルコールにでもなったのかと思う程の変貌振りだな」
「いや、ボルカ・フレムは割とこんな感じだ」
「これでシラフですか……」
ボルカちゃんがこの会の……主催? 幹事? 的な感じで私達にフルーツジュースを注いでく。
確かにボルカちゃんはみんなに分け隔て無く接するけど、今日は更にテンションが高いね。祝福してくれてるのは嬉しいんだけどね。
「ふふん! 今回も私がお店の方を予約しておきましたわ! 人数も更に多くなったのでより広いお店ですの!!」
「広過ぎですよ……金貨何枚分のお値段なんですか……」
「ざっとこれくらいですわ!」
「~~!? !!? !!??」
そのお値段を見てエメちゃんはパニック状態に陥りひっくり返った。
アハハ……ボルカちゃんだけじゃなくてルーチェちゃんもスゴく張り切ってるね。
メリア先輩は他校の人達とすぐに仲良くなってるし、ウラノちゃんは淡々と飲食してる。そんな光景。でも、楽しいからいっか!
「ほら! ティーナ!」
「うん! ボルカちゃん!」
そしてまたジュースを受け取る。
素材が良いのは間違いないけど、みんなと食べるのは本当に美味しいね!
私達のダイバース、新人戦。代表決定戦。私とレモンさん、ユピテルさんの代表戦入りが決定した。
今日は門限まで目一杯の祝勝会を満喫するよ! すぐに授業も始まるからいつまでも浮かれていられないけどね!
ダイバースの代表戦は、二ヶ月後。卒業式の後に行われる。
そう、あと二ヶ月。それでルミエル先輩、イェラ先輩とはお別れ。寂しくなるけど、最後に代表戦入りを報せる事が出来て良かった。
代表決定戦は終わりを迎え、私達はみんなでこの短い一時を楽しむ。
今日と言う波乱の一日は、締めに相応しく賑やかに終わりを迎えるのだった。




