第百三十四幕 勝利と勝者
「“雷神虞”!」
「寧ろ落ちてる!」
雷が天から雨のように降り注ぎ、着弾と同時に衝撃を散らす。
確かに雷って落ちたらドドーン! とか、ゴロゴロガッシャアアアン! とか怖い音出て揺れるもんね。落ちる瞬間に数万度の熱を発して空気が膨張するからとか聞いた事ある。
そりゃ触れたら意識を失うよ。下手したら■んじゃうかも……!
「熱なら負けないぞ! “フレイムスピア”!」
「受けて立つ! “サンダーランス”!」
降り注ぐ雷を掻い潜り、ボルカちゃんが魔力を込めて炎の槍を射出。それに対してユピテルさんも雷の槍を打ち出し、二つの槍は衝突。周りの空気が熱と圧力によって一気に膨張し、凄まじい轟音を鳴り響かせた。
さっきの雷以上……! 二人ともとてつもないね。
「同じ嵐なら負けないよ! “トルネード”!」
「風なんぞ雷の派生よ!」
「風があるから雷が生まれるんだよ!」
炎と雷が消え去り、次は雷と風が衝突する。このまま巻き込まれたら本当にただの嵐だよ……。
防御と攻撃を兼ねた技。まだまだ決定的な物にはならないかな……!
「仕掛けますわよ! “シャイニングボール”!」
「相変わらず厄介だ。光魔法による技もな……!」
そんなユピテルさんの横からルーチェちゃんが光魔法で攻撃。直撃はしたけど、今度は防御も間に合ったみたい。
大したダメージは受けておらず、更なる霆が落とされる。
「“樹海防壁”!」
「森の加護か」
降り注ぐ雷に対し、植物達で守護。魔力で操る植物によってユピテルさんの足止めも兼ねる。
今のうちに改めて考えてみよっか。向こうの基本的な攻撃方法は雷の一点張り。効かない時は身体能力で攻めて来るけど、雷を流動する術が今のところ私達にはないから多分大丈夫。
彼女の言動からして雷に絶対の自信を持っている感じ。手加減とかじゃなく、本気で雷だけを用いた戦いをしてるんだと思う。
実際それで私達四人を相手にしてるもんね。何とかして避雷針的な物を立てられたら一気に戦況が有利になるんだけど、バレバレな設置ならすぐに壊されちゃうのがオチ。そもそも必ず避雷針に落ちてくるって訳でもないからそれはあまり現実的じゃないのかも。
つまり結論、今まで通り戦闘の中で作戦を組み立てて仕掛けて行くしかない。
なんの成果も得られなかったけど、応用次第では避雷針の案は使えそうかな。
「“避雷樹”!」
「……? 我に当てぬ無数の木々が其処ら中に立ったな」
雷は高いところに落ちてくる。雲の中で生成される電気はマイナスで、高所にプラスの電気が集まるからとか。
自然物とは違う魔術による雷にその理論が当てはまるのかは分からないけど、少なくとも闇雲に放っている方の雷は多少緩和出来るかもしれない。
そしてこの樹の役割はそれだけじゃない!
「“千樹木”!」
「……!」
生やした樹が無数に方向を転換し、ユピテルさんを狙う。
雷の軌道操作。及び木々による攻撃。これが狙い。ボルカちゃんも飛び込み、無尽蔵の樹と彼女が嗾ける。
「そらよっと!」
「手数では負けぬぞ」
ボルカちゃんが炎剣を携えて踏み入り、植物が周りを取り囲む。
ユピテルさんは大量の雷を放出して迎撃。植物は雷に焼き切られ、その隙間を縫ったボルカちゃんが炎剣を突き刺した。
剣は紙一重で避けられ、強化された身体能力で回し蹴りを打ち付ける。
「物理的に攻めて来たか……!」
「体術くらい心得ている」
蹴り飛ばされたボルカちゃんは柔らかい草で受け止める。
そっか。自分から体術で攻めて来る事は少ないけど、ギリギリまで迫ったらカウンターもしてくるんだ。確かに雷も魔法や魔術だもんね。あまりに近過ぎると込める時間が無いから単純に弾くしかないんだね。
「受け止めたが、追撃は止めぬぞ」
「させないよ!」
草に落ちたボルカちゃんへ雷が落とされ、更なる植物で覆って守る。
そんなユピテルさんの元には光球が撃ち出され、風からなる刃で切り裂いた。
「……っ。やはりどうしても仕掛けてきた方を狙ってしまう。反省しなければ」
「自分への脅威を防ぐのは別に変じゃないぜ。ちゃんとアタシ達をそう認識している訳だしな!」
「確かに一筋縄ではいかないな」
光球と刃によってまたダメージを負った様子のユピテルさんへボルカちゃんが炎剣を振り抜いて仕掛ける。
炎剣は雷の槍で防がれ、上から大木を落としてその体も落とす。
「単純に重い!」
「流石に割られちゃったか」
小さな丸太でも数百キロはある樹木。軽く数トンは超えているから雷で割るように焼き裂いて抜け出した。
流石にこの重さはどうしようもないみたいだね。壊されちゃうけど、植物は何度でも地上に芽生える。戦場すら長い月日を掛ければ森になるもんね。
効果的ならドンドン仕掛けるのみ!
「“雨森”!」
「この雨漏りでは屋敷が倒壊してしまうな」
森を天から落とし、山岳地帯を大きく揺らす。
半分は闇雲に放っているけど、ユピテルさんは自分に当たる物だけを防いでいる。ちゃんとしてるなぁ。
でも、私達の植物魔法はそんなに単純じゃないよ。
「はあ!」
「落ちた別の樹が……! 成る程な。確かに始めから張り巡らされた木々を操っていた……!」
落ちた樹からまた枝が伸び、ユピテルさんを拘束する。
そこ目掛け、ボルカちゃんとメリア先輩が同時に仕掛けていた。
「メリア先輩!」
「オッケー!」
「……!」
魔力を込めてユピテルさんの眼前に迫り、彼女は雷で拘束を焼き解いて脱出。
しかし既に二人の準備と行動は終わっていた。
「“フレイムバーン”!」
「“トルネードクラッシュ”!」
「巨大な炎に……竜巻をぶつけ……更に巨大に……!」
大火が暴風に晒されて更に大きく燃え広がる。
私も植物魔法にて燃えやすい種類を打ち込んで更に大きく炎上。近付くだけで熱気が凄まじく、この中に居たら流石に意識を失うと思う。
だけどまだ転移の光は見えない。炎に溶け込んで見えないだけかもしれないけど、多分違うよね。微かに人影が火炎の中にあるもん。
その大火目掛け、ルーチェちゃんは魔力を込めた。
「これで終わらせますわ!!」
巨大な光球を頭上に作り出し、そのエネルギーが大火に直下。一際大きな爆発を見せ、周りの全てを消し飛ばした。
「私に限り、現状最大の攻撃ですわ!」
「どうだ!」
立ち込める煙。色々燃えたり消滅したりしたもんね。
下手したら気絶じゃ済まないかもしれないけど、果たしてその顛末は……。
「──“エレキショック”!」
「……!?」
「ルーチェちゃん!?」
刹那、何かが超速で通り抜け、ルーチェちゃんの体に当たる。瞬時に痙攣を起こし、ルーチェちゃんの意識が消え去った。
それと同時に転移の光でこの場から居なくなる。
雷撃の先には、全身が更にボロボロになり、衣服が破れてあられもない姿を晒したユピテルさんが呼吸を乱して立っていた。
「はぁ……はぁ……や、やっと一人……本命ではあったけど……代償が大き過ぎるな……」
「あれを受けて意識を失わないなんて……!」
「いや……最初の段階で既に飛び掛けたのを自身に電気ショックを与えて引き止めてたんだ……」
「そんな荒業……!」
確かな大ダメージは与えられた様子。しかし決定打にはならなかった。と言うより、そうならないように堪えていたって事かな。
だけどもうフラフラ。つまり、あと一押しあれば勝てるかもしれない。
だったらその一押しをここで遂行して見せる!
「……悪いけど、決着を付けさせて貰うよ。ユピテルさん!」
「構わぬ。一人で君達全員に挑んだ以上、それは当然の事だからな……!」
消え去った植物を更に補充。無数のそれを彼女へ差し向ける。
ボルカちゃんとメリア先輩も魔力を込め、私達は一気に嗾けた。
「はあ!」
「……っ!」
無数の植物が迫り、それらを雷で打ち消す。そこへボルカちゃんが切り込み、ユピテルさんの体を蹴り飛ばした。
「蹴りだと……!?」
「高めた身体能力からなる蹴りは強力っしょ!」
空中で体勢を立て直して足場に着地。目掛けてメリア先輩が暴風を叩き付けた。
「さっきは防がれたけど、“ダウンバースト”!」
「……ッ。今の状態には堪えるな……!」
風がユピテルさんを押さえ付け、身動きを取れなくする。
しかし放電し、風に雷をぶつけ、空気の膨張による爆風を利用して脱出。自身の能力を高め、目にも止まらぬ速度でメリア先輩の眼前に迫った。
「速っ……!」
「“ショック”!」
「……!」
バリッ! と脳天に電流が走り、メリア先輩も意識を失う。
今まではあまり攻撃を食らわなかったのに、ユピテルさんの動きが急に良くなった気がする……多分追い詰められたからこそ脳が身体のリミッターを外しているのかも。
こんなにボロボロの状態でも、時間を掛けたら私達がまとめてやられちゃう。
「ティーナ!」
「うん! ボルカちゃん!」
「さあ、決着の時だ!」
能力の変化はお互いに把握している。私達は阻止する為、ユピテルさんは利用する為に互いに距離を詰め寄った。
「遅い!」
「けど、アンタも近付けない!」
「……! 火の鎧か……!」
バリッと移動し、ボルカちゃんの背後へ。彼女は炎の鎧を纏っており、近付け難い状態としていた。
しかしユピテルさんは構わず仕掛け、今一度炎と雷の衝突が巻き起こる。そこ目掛け、私は植物を展開。
「“フォレストゴーレム”!」
『ブオオオォォォォッ!!』
「巨大な森のゴーレム。だが、その動きは疾うに見切れる!」
ゴーレムを作り出し、その巨腕でユピテルさんを狙う。当然彼女は容易く避けられると思うけど、今は近くにボルカちゃんが居る! きっとどうにかしてくれるかもしれない!
「言っとくけど、アタシはこれが鎧なんて一言も言ってないからな?」
「な……!?」
「え?」
刹那、ボルカちゃんの周りを覆う炎が縄のように細くなり、ユピテルさんの体を縛り付けた。
私もてっきり鎧とばかり思ってたけど、これが本命だったんだ。でも、本当にどうにかしてくれた!
「ぐっ……!」
既に衣服はボロボロで素肌に熱の縄が縛り付いている状態。それだけでもジワジワとダメージを負っちゃうよね。
つまり、今度は気を失わないように集中するのが至難の技という事!
「これで終わらせる!」
『オオオォォォォッ!』
「……! これは……!」
巨腕が振り下ろされ、空気の通る音で雄叫びのようになる。
次の瞬間にはユピテルさんの体に拳が打ち付けられ、ボルカちゃんは炎の縄をそのまま場を離れる。
巨腕はそのまま地面と接触するように沈み、轟音と共に大きなクレーターを造り出した。
「……!」
──そして、大きな放電が巻き起こる。
バリバリバリ! と周囲に激しく電流が散り、辺りを縦横無尽に破壊。私達は植物魔法で壁を造って凌ぎ、少し経て放電は収まった。
「まだ……だ……」
「まさか……!?」
そこから現れる、更に大きな傷を負ったユピテルさん。
なんてタフネス。耐久力が常軌を逸してるよ……!
このまま第二ラウンドへと差し掛かるのかと思った直後、
「──」
「……!」
ユピテルさんの体が光となり、控え室へと転移した。
ほぼ意識は失い掛けていたんだ……。その上であの気力を見せた。とてつもない相手だったよ……。
「ボルカちゃん」
「ああ、かなりの強敵だったな」
これにてユピテルさんとの戦闘は終了。私は勝利を収めた。
けれどダイバースは継続中。このまま私達もゴールへ──
「──あれ?」
《勝者! “ゼウサロス学院”ンンン!!!》
向かおうとした瞬間、ステージの上空からアナウンスが。
これってもしかして……!
私はウラノちゃんの方へ送り出したティナと感覚を共有する。
───
──
─
「……間に合わなかったわね」
「「………」」
そこに居たのは、凍り付いた大地に敵と思われる二人を倒した姿のウラノちゃん。
私達に挑んできた相手は確実に倒した。だけど……。
更にティナを飛ばし、頂上へと登頂。一人がその上に立っていた。
「はぁ……はぁ……ぜぇ……ぜぇ……ゲホッ……オエェ……ま……まさか……植物魔法の森があれ程の実力を有していたなん……て……しかも……何故か……途中で……森が……落ちて……きたり……」
満身創痍の状態でフラッグを手に取り、そのまま倒れた人の姿。
見ればその道中にも人が倒れており、即座に控え室へ転移した。
成る程ね。残っていたのはこの一人。だけどこの一人が登頂した事で私達は負けてしまったという事なんだ。
─
──
───
「──ワアアアァァァァッ!!」
気付けば私達は会場におり、“ゼウサロス学院”に向けられた歓声を敗者の私達だけが受けるという不思議な光景が広がっていた。
戦闘では全面的に勝利。けれどゲームでは敗北を喫する。
ルール次第では私達が勝てたのかもしれないけど、今回のルールで私達は負けた。ただそれだけだよね。言い訳はしないよ。
ダイバースの団体戦“魔専アステリア女学院”は惜しくも負けちゃった。




