第百三十幕 年始と新学期
──“年始”。
新しい年になったけど、私達の生活はあまり変わらなかった。
ヒノモトの方では年始めは大きなイベントらしいね。こっちの方でもお祭りみたいな事をしたり、特別な日として普段は食べないような物が出てきたり色々あるよ。
だけど特筆する事は特に無く、一年の健康を祈ったりとかそんな感じが大半。あ、でもレモンさんから年賀状って言うお手紙が届いたりしたよ!
ともかく既に出された課題も終わったし、私はお家でのんびりと過ごしていた。
「おはようございます。ティーナお嬢様」
「おはよー。朝から忙しいね。パパが年始くらいは休んでも良いって言ってたのに」
「はい。今日は私の実家の方に顔を見せに行く予定ですけど、それまでの時間、何かをしていなくては落ち着かない性分でして。好きでやっているのです」
「そうなんだー」
こんな日なのにちゃんとお仕事をする使用人さん達。
普段から休みたがらないから定期的な休暇期間を作ってるんだけど、それでも働く真面目っぷり。素直にスゴいなぁって思うよ。
でも使用人さん曰く「掃除や家事などを終わらせたら昼食や夕食まで暇なので、実は結構寛いでいるのですよ」……との事。
確かにそんなに散らかっていないし、パパもお家に居る事は少ないから基本的には自由時間みたいなものだけど、それでも来客とか色々としなきゃならない対応もあるんね。
これで良いのかなぁ。
「今日は何しよっかな~」
一先ずリビングの方へ向かい、映像伝達の魔道具を点ける。
やっている番組は年始の特番系がほとんどで、私の興味が引かれる物はなく消して空を見上げる。
窓ガラスは白く染まってるね~。お家内外の温度差でこうなってるのは外がスゴく寒い証拠だね。
すると使用人さんが私へ話し掛けてきた。
「お嬢様。ボルカ様がお見えになりましたよ」
「ボルカちゃんが?」
ボルカちゃんがやって来たとの事。
事前に会う約束とかはしていなかったけど、遊びに来てくれたのかな?
ママとティナを連れ、門の方へと行く。
「オーッスー。ティーナ、遊ぼーぜ!」
「うん。いいよ。けど、どこに行くの?」
「年始だから街の色んな所で色々やってるぜ!」
「色んな所で色々……何の情報も分からないよ……」
「ま、とにかく行ってみりゃ分かるって事だ!」
街の方で何かやってる事だけは分かった。
なので私はコートを羽織り、金銭とか簡単な準備をしてボルカちゃんと共に街へ繰り出す。
「「「行ってらっしゃいませ。ティーナお嬢様」」」
「行ってきまーす!」
「使用人さんの見送りか~。憧れるぜ~」
「そうでもないよー」
使用人さん達に見送られた後で街の方へ。
辺りは賑わいを見せており、新年のセールとかお祭りっぽい屋台とか出ていてとても盛り上がっていた。
「うわー、スゴい盛り上がり」
「毎年新年はこんな感じだぜ」
「この時期に街の方に行く事は無かったから新鮮だよ~」
「ハハ、箱入りお嬢様だったもんな。ティーナは!」
「そうそう!」
楽しそうな雰囲気は伝わっている。なので私達は早速色んな屋台に入ってみる事にした。……はっ! 確かに色んな所で色々やってるとしか形容できない……!
取り敢えずのんびりし過ぎて朝ごはんもまだだったから食べ物の屋台に入った。
「らっしゃい。お、今年も来たね。ボルカちゃん。お友達も一緒か! 君達、今月のダイバース代表決定戦、楽しみにしてるよ!」
「任せてくださいよ! そんなんで、応援も兼ねてまけてくださーい!」
「ハッハァ! そう言われちゃしない訳にはいかねえ! ほらよ、お隣のお友達も含めておまけでーい!」
「あ、ありがとうございます!」
「よっ! 大将太っ腹ー!」
「見た通り腹が出てるってな! って、やかましいぜ!」
ボルカちゃんはすっかり常連って感じ。ハイテンションなこのノリ、私はちょっと付いて行けないかも……。
スゴいなぁ。色んな意味で。何はともあれ私達はそこで手持ちのお肉を購入。熱々で噛んだ瞬間に肉汁が飛び出して美味しい!
「ドンドン行こーぜ!」
「わ! 咥えたまま走ったら危ないよ!」
ボルカちゃんに手を引かれ、次の場所へと向かい行く。
まだ食べ切っていないのに次から次に夢中になるのは彼女の特徴だけど、それに付いて行くのは結構大変。本人も理解していたもんね。だから人気の割には一緒に行動する友達が少ない。
私はどこまでも付いて行くよ!
「しょっぱい物の次は甘い物だよなー。言ー事で、わたあめだー!」
「フワフワで美味しいー」
「次ー!」
「わあ!?」
砂糖から作られるフワフワの飴を食べ、またボルカちゃんに引っ張られる。
一つの行動間隔が短くて動きが速い。これがボルカちゃんの在り方……!
「魔力増加の効能があるというコーン。“魔与コーン”だ!」
「魔力で育てているんだよね」
「っしゃあ! 次!」
「むぐー!」
魔力を増やせるコーンを食べ……切る前にまた引かれる。
でも付いて行くって考えた手前、続かない理由はないよ!
「食ってばかりじゃ喉も渇くしな~。てな訳でホットティー!」
「温かくて美味しいー」
カップではないけど温かい紅茶を飲み、ようやくゆっくりと歩き出した。
結構食べたから少し落ち着いたのかな。でも主食って感じの物じゃないよね。主食になりうるお肉とコーンも量はそんなに摂ってないからね~。
「飲み食いはさておき、そろそろ屋台のゲームとかで遊ぼうぜ!」
「そうだね。でもどんなゲームがあるかな?」
「縁日の屋台は季節あんまし関係無いしなー。温かい物と冷たい物の量が変わったりするくらいだ。んな訳で、あるゲームも射的や輪投げ、釣り、ビンゴ。それと多分小規模なダイバースはちょくちょく開催されてると思うぜ」
「じゃあ沢山あるね!」
ゲームは色々ありそう。なので手頃な屋台を見つけ、そちらで遊んでみる事にした。
入った屋台は射的。銃モチーフの物に魔力の弾を込める仕様。的当てとかなら前にもやった事があるね。
それの応用みたいなものだから感覚は掴めている。そこで狙いを定めて、
「えい!」
「よっと!」
タタンタンと軽快なリズムで当て、商品をゲット!
ダイバースでも狙いを定める機会は多いし、馴染み深いのかも。
取り過ぎはよくないね。そもそもあまりに沢山だと持てなくなるから程々で終了。お菓子とか色々手に入れちゃった!
──“的当て”。
「それ!」
「ほい!」
続くように的当てもクリア。これは授業でもよくやるから簡単な気がする。
射的と同様、あまり取るのは悪いから一通りだけ。
──“輪投げ”。
「うっ、意外と難しい……」
「他と違って自分の魔力で操ったりしないからな~」
輪投げはちょっと難しかった。放って投げるだけなのは単純だけど、あらぬ方向へ飛んで行っちゃう。
けど何とかそれなりの成果に収められたよ! 多分。
──“魔魚釣り”。
「これは得意分野!」
「アタシは苦手だ~」
魔力からなるお魚さんを釣り上げるというもの。
植物魔法で蔦を伸ばせば簡単に捕れるね。ボルカちゃんは炎魔法や炎魔術の使い手だから火は使わず単純な魔力操作のロープでやっているけど、大変そうな雰囲気だった。
結果を言えば私はそれなりの大物を。ボルカちゃんもサイズこそ小さいけど数を捕っていた。
その後にもビンゴとかしたりクジを引いたり、他の屋台に寄って色々と満喫した私達は一通り見終え、スイーツを片手に街の様子を眺める。
「いや~、楽しんだな~。良い思い出になったぜ」
「そうだね~。年末年始も基本的にお家で過ごしてたから新鮮な体験だったよ~」
「そりゃ良かった。祭りはしばらくやってるし、明日辺りはルーチェ達も誘ってみよーぜ!」
「うん! ボルカちゃんと過ごすのも楽しいけど、みんなが居れば更に楽しくなるもんね!」
「だな! 増えれば増えるだけ楽しさも倍増だ!」
縁日はしばらく続く。なので今度はルーチェちゃんやウラノちゃん、またレモンさんやエメちゃんを誘って来てみるのも良いよね。
長期休みも後半に差し掛かった頃合い、残りの日数を満喫する私達。これが終わったらすぐにでもダイバースの代表決定戦が始まっちゃうもんね。
今回の休みで仲良くなれたレモンさんにエメちゃんとも大会では敵同士。個人戦で言えばボルカちゃんとも敵対する可能性がある。気を引き締めていかなきゃね!
後日、私達は他の人達を誘って祭りに繰り出す。そして数日後、休みが明けて新学期となるのだった。
*****
──“始業式”。
「──で、あるからして、今回の休みでも大きな事件は起こらず、怪我や病気にも掛からず過ごせた我が校の生徒諸君は──」
新学期が始まり、また校長先生の長い話が行われる。
今日から三学期。ダイバースの事もあって失礼ながら校長先生の話はあまり耳に入らなかった。
もう今月……どころか数日後に差し掛かっているんだもんね。気が気じゃないよぉ……。
でも、弱気になっちゃダメ! 勝ち残って代表決定戦まで進めたんだもん。気合いを入れ直さなきゃね! ……でもなぁ。
「──であるように。皆様も励みましょう」
そんな事を考えていたらお話は終わっちゃっていた。
いつもは長く感じる話だけど、今回は短い気がする。やっぱり物事に集中すると時間は早く過ぎちゃうんだね。
「ティーナ! 帰ろーぜ!」
「うん、ボルカちゃん」
今日は部活はお休み。大会も近いからあまり激しい鍛練は控えつつあるし、最近は自分自身の調整に入ったかな。
健康に気を付けて、力も付けて代表決定戦も勝ち抜かなきゃ!
「いよいよだね。大会……!」
「ああ。……やーっぱ気になってるかティーナ。フフ、アタシもだ!」
「お互い様だね……!」
三学期スタート後すぐに行われるダイバースの代表決定戦。集まる相手は強敵ばかり。一筋縄どころかとても険しい道になると思う。
三学期が始まり、私達は大会に備えて最終調整へと取り組むのだった。




