第十三幕 仮入部手続き
──“ダイバース部”。
「結局ルーチェちゃんには断られちゃったね~」
「なんか用事があるって言ってたな。お嬢様やご令嬢が多いから忙しい人も沢山居るって訳だ」
荷物を寮の自室に置き、改めてやって来たダイバースの活動場所。
ルーチェちゃんも誘おうって思ったけど、「ごめんなさい。気持ちは嬉しいのですけど、少々用事が……」……って断られちゃった。
授業の後も課題やクラブ・サークルとか以外に用事がある子は多い。みんながみんな忙しいって事だね。
という訳で、昨日と同様私達だけで活動場所にやって来た。
「すみませーん! 誰か居ますかー?」
返事は無い……かな? シーンとした静寂が帰ってくる。
まあ入るだけなら問題無いし、私とボルカちゃんは顔を見合わせて森の中へ。ゲームは昨日やったから今日はないと思うけど、一応警戒もする。
すると何かしらの物音が。
「わー! どいてどいて! それか優しく受け止めてー!」
「「……!?」」
何かが高速で迫り、私とボルカちゃんは大きく反応。
咄嗟にママを出し、植物魔法で葉っぱを作った。
「葉~!?」
ソフトキャッチ。ほうきに乗って飛んできた子は葉っぱに包まれて勢いが無くなり、なんとか停止した。
あれ、と言うかこの人……。
「もしかして、昨日会った先輩の一人ですか?」
「ん? ああ、ティーナさんにボルカさん」
「はい」
「おーっす」
「奇遇だねぇ~」
やっぱりそうだ。昨日のかくれんぼで、ほうきに乗って逃げ回っていた人だった。
間違いなく部員の一人。会えて良かったけど、
「なんでほうきで暴走を……?」
「特訓中なの。より精密な動きで森を飛び回れば色々と役に立つからね!」
頭に付いた葉っぱとかを払いながら話す。
暴走理由は特訓中だからみたいだけど、結構無茶してたよね……。
一先ず大丈夫そうだからいいのかな? それじゃあ改めて聞いてみよう。
「私達、この活動の仮入部に来たんですけど……」
「なんと! それはそれは! スゴく良いニュースだ! ささ、こちらの方へ!」
「わ!」
仮入部と聞き、嬉々として私達の手を取る先輩。
そのままほうきに乗せられ、私達は森の奥地へと運ばれていった。
*****
「ルミエル部長ー! この部に入りたいって子達が来ましたー!」
「あの……まだ仮入部……」
興奮気味で事を進める先輩は話を聞いていない。
連れられてきた場所は森の奥で、そこにガーデンテーブルと椅子が置かれて部長さん達は優雅にお茶を嗜んでいた。
「来たわね。ティーナさんにボルカさん。ようこそ、ダイバース部へ」
飲んでいたお茶をコトッと置き、私達の方を見るルミエル先輩。
まるで来る事が分かっていたような立ち振舞いだけど、昨日一緒に夕御飯を食べた時から分かっていたのかもね。
席を立ち、先輩は口を開く。
「仮入部の件となると、明日の実技ゲームに出るという事ね。二人とも」
「はい! そのつもりです! 昨日のゲームが楽しかったし……別のルールでやってみたいと思いました!」
「アタシは主にティーナの付き添いですけど、面白そうって思ったのは事実です」
「ふふ、そう。好印象を抱いてくれて何よりだわ。それじゃ、明日への準備や仮入部の手続きをしましょうか」
「「はい!」」
テーブルと椅子は魔法か何かで消し去り、自分へ付いて行くように目配せをする。
私とボルカちゃんはお互いに見合い、他のメンバーと一緒に先輩達の後を追った。
───
──
─
「此処が私達の部室になる建物よ」
「ここが……!」
「相変わらず他のクラブやサークルより豪華ですね~」
部長さんの案内の元、私達は部室へとやって来た。
森の奥にこんな所があったんだね。ボルカちゃんは知ってたみたい。
景観は豪勢だけど落ち着きのあるシックな装飾が施されている。材質は木とレンガで、柱や壁にはツタが絡まってより重厚な雰囲気が醸し出されていた。
古い建物みたいだけど、ちゃんと手入れはされていてヒビ割れとかもないね。寧ろ古めかしさが味になってていい感じ。
「さ、いらっしゃい」
「はい……! お邪魔します!」
「邪魔しまーす!」
扉を開け、部室の中へ。
内観も外観のそれと同様に凄く豪華な造りで、広々とした空間は私達や先輩達全員が入っても窮屈さを感じさせない。それどころかまだまだ余裕がある感じ。部屋もいくつかあるみたい。ここを寮にしても問題無いくらいだよ。
内装はソファーやテーブルなどの家具が置いてあり、森の中だからか窓から見える景色もとても良い物だった。
部屋からも見える蔦には小鳥が止まって囀る。雰囲気も素晴らしいね!
「テキトーに腰掛けて楽にして頂戴。貴女達はお客様なんだから」
「は、はい。失礼します」
「あざーす」
応接室も兼ねてるのかな? やけに立派な家具も立ち並んでいる。
私とボルカちゃんは柔らかいソファーに座り、テーブルにはお茶とお菓子が出された。
「部活動前はティータイムから始めるのよ。精神を落ち着かせて冷静な判断を取れるようにする。それもまたゲームで勝ち残る秘訣ね。さあ、召し上がれ」
「そうなんですか。いただきます」
「いただきまーす!」
部長さんに言われ、お菓子を一摘まみ。
クッキーはサクサクとした食感で舌の上に甘味が広がり、口の中でほろっと崩れる。そして紅茶を一口。甘さ控えめのクッキーに合う仕立て。はぁ……美味しい。思わずため息が零れる。
温かいものがお腹に入るとホッとするよねぇ……。
美味しいお茶とお菓子を食べて一息吐き、穏やかな表情の部長は紙……羊皮紙みたいな物を取り出した。
「部活前といっても、本格的な活動は前述通り明日から。今日は仮入部の書類や明日行われるゲームの契約書にサインするだけね。契約と言っても怪しい商売とか重苦しい事じゃなくて……そうね。参加者登録って表現の方がマイルドになるかしら」
私達の参加は明日。なので今日は事前の登録だけ済ませる方向みたい。
手渡された書類に目を通してみる。
明日行われるゲームについて書かれていたり、参加人数とか相手校とか本当に裏表無い……って、
「相手の学校の記述があるって、私達だけじゃなくて他校と試合するんですか?」
「ええそうよ。今年は他校との試合になるわね。文字通りの本番。もし受けるのならば身を引き締めて掛かりなさい。中々手強いわよ♪」
「……っ」
ゴクリ……と生唾を飲む。隣ではボルカちゃんが紅茶を飲み干していた。
流石のボルカちゃん。緊張の欠片もない……。
強張る私へ部長は愛想良く笑って話す。
「少し脅し過ぎたかしら。ごめんなさいね。別に本番と言っても提示されたルールに従ってゲームをするだけよ。危険な事は少しあるけれど、命の危機とかそんなゲームは滅多にないわ」
「たまにはあるんですか……?」
「偶にはね。けどそう言うのはその手のプロとかゲームマスター的な立ち位置のレベルでようやく受けられるもの。一学生の部活動でそこまでのゲームは無いって考えた方が良いわ」
プロスポーツみたいな感じでダイバースだけで生活する人も居るみたい。そう言う人達には命の危険があるゲームが……。
けど部活動なら大丈夫らしいし、問題無いよね?
「こんなところね。他に気になる点はあるかしら?」
「いえ、特には。まだよく分かっていないので、明日終えてから考えてみます」
「それもまた一興ね。ボルカさんは?」
「じゃあこのクッキーのメーカー教えて下さい」
「それはダイバースと関係無いよボルカちゃん……」
「これは自家製よ。私の家はお菓子等の生産も行ってるの」
「あ、教えてくれるんだ。スゴい……ホントに手広くやってるんですね……」
「ふふ、けどこれは売り物じゃなくて私が趣味で作ってるクッキーね」
「ますますスゴいですよ!」
ルミエル先輩スゴい……。本当になんでも出来ちゃうんだ。居るんだねぇ、世の中には。
だけどママが作ってくれたクッキーも負けてないよ。今はまだ作れないけど、きっと……。あれ、なに考えてるんだろ。まあいいや。
「他に質問はあるかしら? 無くて同意するならサイン……魔力を少し流すだけでいいわね」
「あ、はい。それじゃあ流します」
「アタシも」
改めてゲーム参加と仮入部届け書類の全文に目を通し、不備がないのを確認してから少量の魔力を流す。
すると私達の魔力が記され、本人証明の手形となった。
「これで登録完了ね。お試し期間を楽しんで頂戴。それでお気に召したら入ってくれると嬉しいわ♪」
「はい!」
「はーい」
参加登録と仮入部の記述が終わった。
これで今日やる事は無いね。後は明日。楽しみだなぁ~。不安もあるけど。
そろそろ戻ろうかなと思い、ソファーから立ち上がった時、先輩が一つ提案する。
「そうそう。折角だから明日に備えた特訓してみない? 貴女達がしたのは“かくれんぼ”だけだし、要領を掴むのは悪くないと思うわ。もちろん二人が良ければだけど」
「特訓……! だってさ、ボルカちゃん!」
「特訓かぁ。いいかもな。今日は魔法実技の時間が一時間だけだったし、体を動かしたい気分だ」
提案はダイバースの特訓。
確かに私はまだ魔法の使い方もままならないし、感覚を掴むのは悪くない。
ボルカちゃんもボルカちゃんで今日の授業内容から物足りないらしく、私達に断る理由はなかった。
「やります! ルミエル先輩!」
「アタシもやりまーす!」
「そ、決まりね。それじゃ場所を変えましょうか。森の中は特訓場の宝庫よ♪」
紅茶を飲み干し、先輩もソファーを立つ。
ママの植物魔法も森の中の方が発揮出来ると思うし、感覚を掴むのにはもってこいだね!
私達は部室の外へ出てルミエル先輩に案内された。