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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第百二十六幕 パーティーゲーム

 ──“お菓子のパーティー会場”。


 スタート地点は巨大ケーキの上。生クリームの地面に砂糖菓子のお家。ブラックとホワイトのチョコレートからなる木々が立ち並ぶ。

 フルーツの塀が周りに置いてあり、私達はその中心部に立っていた。


「それじゃ、合図と同時に開始よ。さっきも言ったようにゴールは頂上の星。一人でも到達すれば貴女達の勝ち。全員を止めれば私の勝ち。シンプルなルールね」


「私達は開始から三十秒後に行く。無論、その三十秒のうちにゴールをしてしまえば君達の勝利だ。……では、カウントしていくぞ」


「「「………っ」」」


 二人の言葉を境に辺りには緊張が走る。三十秒の猶予があるとして、それまでにあの頂上へ行けるのか。

 メリア先輩や何人かはほうきや絨毯に乗る。ここも私有地だから年齢は問題無し。その速度次第なら三十秒でもゴール出来るかもしれないよね。

 ルミエル先輩は口を開いた。


「よーい、スタート!」

「1…2…3…」


 同時に始まるカウント。みんなは一斉にスタート。爆発的な衝撃波がケーキの生クリームを揺らす。でも飛び散らせないのが上品な所。


「ルミエル先輩達に勝っちゃうよー!」


 今のところメリア先輩が一番乗り。流石のほうき裁きだね!

 三十秒もしないうちにゴールしちゃうんじゃないかな。

 ほうきでの先行部隊が数十人で、もみノ木を登っていく人達が半数。流石に斜面に馬車は使わないね。おもちゃのお馬さんが引く馬車だけど。

 順調なスタートダッシュを見せた私達。周りに上手く分散しているし、何よりメリア先輩がスゴく速いから余裕を持って勝利出来るかも!


「──29…30」

「“魔王の手”」


「「「………!?」」」


 カウントが終わった次の刹那、ルミエル先輩の魔力からなる巨大なてのひらがほうき部隊、樅ノ木部隊の行く手をはばんだ。

 既に数百メートルは離れているのに、一瞬にして魔力を届かせるなんて。流石の腕前。

 動きを止めた瞬間にはイェラ先輩が駆け出していた。


「まずは……数人」

「「「──!」」」


 そして近場に居た何人かが即座に打ち倒される。

 捕まったら自動的にケーキの上へ送還。砂糖菓子の牢屋に閉じ込められちゃうんだね。

 再びイェラ先輩は踏み出し、更なる数を倒していく。


「も、もうそこまで来てる……!」

「やっぱ早ェな。イェラ先輩!」

「どどど、どうしますの!?」

「数秒でも時間を稼いで足止めするしかないじゃない」


 迅速にやって来るイェラ先輩。空中部隊はルミエル先輩に足止めされてるし、地上部隊は早くも壊滅の危機に瀕していた。


「次──」

「一手、ご教授願いたい。イェラ・ミール殿」

「ほう? 私の剣を止める者が居たか」


「……! レモンさん!」


 そんな進撃を続けるイェラ先輩の前に立ちはだかったのはヒノモトの侍、レモンさん。

 二人は自分達の木刀をぶつけ、それによって衝撃波が飛び散った。オーナメントやモビールが揺れる。

 レモンさんもスゴい。あのイェラ先輩の攻撃を正面から受け止めるなんて……!

 そのまま押し合い、互いに弾かれるよう飛び退く。レモンさんとイェラ先輩は向き直った。


「確か君はルーナ=アマラール・麗衛門。うちの後輩達が世話になった者か」

「イェラ・ミール殿に名を知られているとは欣快きんかいの至り。手合わせ願おう」

「難しい言葉を使うな。ヒノモトの方言か。しかし、今回は多人数ゲーム。君相手にして時間を割く訳にはいかないんだ」

「問題無い。どの道私もゴールへおもむく訳だからな。遅かれ早かれよ」

「それはそうだな」


 踏み込み、また二つの木刀は正面衝突を起こす。

 樅ノ木は揺れ、両者の体が微動だにせず留まった。瞬間的に弾き、木片が散る。しかし魔力強化で頑丈になっているので折れるまではいかず、互いにせめぎ合いが執り行われた。

 正直なところ、流石のレモンさんでもイェラ先輩に勝つのは難しいと思う。だけどこの隙に乗じて私達はゴールに向かわせて貰う事にした。

 ルミエル先輩達に勝ちたいから!


「イェラ先輩はレモンさんが抑えているから今のうちに!」

「その方が良さそうだ!」

「ですわね……!」

「先輩達を足止め出来るのが一番だもの。正攻法よ」


 二人が戦っているうちに魔力で身体能力を強化して駆け出す。

 上空の人達よりは遅いけど、着実に進められているよ。先にほうき乗り達が終わらせちゃう可能性もあるけど──


「“ウィンド”♪」

「「「キャアアアァァァァッ!!」」」


 ──どうやらそれも難しいみたい。

 当たり前だよね。ルミエル先輩が居るんだもん。

 初級魔術で空中の人達を一掃。まだ初期位置から移動もしていない。見晴らしの良い空中は格好の的になっちゃうんだ。

 そしたらレモンさんが足止めしている地上部隊に一番のチャンスがあるのかも。


「“貫通風”!」

「あら、流石ね。メリア。大量の風に一点突破の風をぶつけて飛び出したわ」


 私達が進む中、メリア先輩も風から飛び出した。

 ルミエル先輩の風を受けても自身の風で何とかするなんて、やっぱり先輩はスゴいや。

 距離で言えば一番近いのはメリア先輩。ちなみに私は樅ノ木とオーナメントの間に隠れ、ティナを通して感覚共有で見ているよ。

 この調子なら勝てるかも!


「このままゴールまで一直線!」


 更に魔力を込め、風を放出して加速。空気を突き抜け、一気に頂上の星まで向かい行く。

 ルミエル先輩は口を開いた。


「それじゃ、試したい魔術をしましょうか」

「……え?」


「……!?」


 ──瞬間、ルミエル先輩の前にメリア先輩が来ていた。

 何が起こったかは分からない。気付いたらそこに居た。

 勝負をフェアにする為、ルミエル先輩は説明する。


「この魔術はね、マーキングして空間を跳躍する転移の魔道具の応用よ。自分が向こうに行くのではなく、向こうから此方に引き寄せているの。その吸い付きは見ての通り。ほうき術に長けた貴女を成す術無く寄せる程」


「私、ルミエル先輩にマーキングされてたんですか……?」


「そうね。原理は簡単よ。自分の魔力を周囲に散らして相手に付与。私の魔力と同じ物を遠隔で誇大化させて引っ張ったの」


「体から離れた魔力を操れるルミエル先輩だから出来る技……」


 何をしたのか、それはルミエル先輩自身の魔力でメリア先輩を引き寄せたとの事。

 周囲に霧散させた魔力の欠片に触れるだけでマーキングされる。それってつまり、既に私達もされてるんじゃ……。


「引き寄せたら後は倒すだけよ。“ショックスパーク”」

「……!」


 バリッ……と火花が散ってメリア先輩の意識が失われた。

 これじゃどこにも逃げられないよ……。先輩がその気になれば全員を一気に寄せて倒せちゃうよね。

 空中部隊も気付いたらほぼ壊滅。地上部隊はレモンさんがイェラ先輩を足止めしてくれてるからまだ人数は居るけど、ルミエル先輩がその気になったらそれも時間の問題だよね。

 そしてそのお膳立てはもう終えているのかも。


「では、そろそろ私も出陣しましょうか。このまま此処に居るだけでも何とか出来るけれど、それじゃあ折角のゲームが面白くないものね♪」


 近くのフルーツをもぎ、一口頬張る。美味しそうに食べ、足に魔力を込めて歩くように空中浮遊した。

 ルミエル先輩の領域だと既にほうきや絨毯を使わなくても飛べちゃうんだもんね。逃げる側からしたらスゴい恐怖だよ……。


「“魔弾”!」

「ルミエル様の魔力……!」

「退きなさい! 私が受けますわよ!」


「……ええ……」

「ハハ、変わった人達も居るな~」


 ルミエル先輩から放出された魔力。それを受けたいという人達も結構な数居た。

 痛いのは分かりきっているのに、それでもなお受けたい。私には分からない感情だよ……。


「取り敢えず、足止めくらいはしなきゃね!」

「そうだな。っても、アタシの炎じゃ周りも巻き込んじまうぞ」

「大丈夫! 私が何とかして見せるから! ボルカちゃんは多分レモンさんと双璧を成すレベルでトップクラスの速度。私が足止めするからゴールに向かって!」

「あのレベルは流石に無いけど、ま、確かにこの中じゃトップクラスのスピードだな。分かったぜ。足止め頼んだ!」

「うん!」


 レモンさんがイェラ先輩を止めてくれているなら、私がルミエル先輩を止めなきゃね。

 なので私はティナを戻し、ママに魔力を込めて今現在立っている樅ノ木。及びお菓子の街にあるフルーツ類に干渉した。


「“ツリーフェスティバル”!」

「あら、特殊使用の植物魔法ね」


 無数の枝や茎を伸ばし、ルミエル先輩の方へ。

 ボルカちゃんを先行させた今、そちらに行かせないように全力を尽くすのが私達の在り方。そう、私達の……!


「“樹結び”!」

「“スロースメル”~」


「フフ、リタルとレヴィアも……いえ、全員で足止めね♪」


 先輩達やクラスメイト達。

 ママやティナだけじゃなく、今はみんなでボルカちゃんのサポートを執り行う。

 同行者としてウラノちゃんにカザミさんと何人かはボルカちゃんに付いて行ったし、即席でも体制を整える事は出来たよ!


「けれど、匂いも樹も私の前では無意味ね」


 魔力を放出し、拘束は解き匂いを吹き飛ばす。

 これも想定内。ただひたすらに仕掛けてボルカちゃんが頂上に辿り着いたらOK!


「お手合わせ……お願いします! ルミエルさん!」

「貴女はエルフとのハーフの子ね。フフ、エルフ族とは代表戦でも戦った事があるわ。そんな私から判断するに……」

「“サンダー”!」

「筋は良いけど、まだ不足しているって感じかしら」

「……!」


 エメちゃんがレイピアに魔力を込めて雷魔法を放ち、それをルミエル先輩は片手に込めた魔力で軽くあしらった。

 派生からなる雷魔法だけど、純粋な実力の差でダメージも与えられない。でも大丈夫。今回はみんなで戦うんだから!


「やあ!」

「あら、樹による守護。この子を守ったわね。ティーナさん」

「はい!」

「あ、ありがとうございます! ティーナさん!」


 ルミエル先輩の周りを植物で囲む。即座に突破されるけどそれは想定内。周囲から様々な魔法や魔術で一点狙いをおこなった。

 けど、前みたいに魔力でオートガードしてるね。まずはあの防御を突破しないと!


「“強化香”~」

「“樹突”!」


「バフの役割を担うリタルに植物魔法を扱うレヴィア。でもこれもカモフラージュ。本命は……こっちね」


「……!」


 既に目の前に居る現在。囮や陽動が通じないのは分かっている事。

 バレても気にせず魔力を込めて仕掛けるだけ!


「“樹海生成”!」

「更に樹を……成る程ね。先行したボルカさんの居場所を掴ませない為。魔力で引き寄せようものなら……」

「はあ!」

「ハーフの子が雷魔法からなる速度強化で射線上に入って阻止。周りにもマーキング済みの子達が居るし、妨害が成り立つ。多人数だからやれる事ね」

「それだけじゃありませんよ!」

「そうみたいね。全員が樹に乗って来てるわ♪」


 植物魔法で生み出した木々。それをもちいて縦横無尽にルミエル先輩を翻弄。

 こっちには圧倒的数の有利があるもんね! それを存分に利用するだけ!


「ふふ、やっぱりパーティーは楽しいわ。色んな子達のドリームチームと戦えるんだもの。さあ、思う存分満喫して頂戴」


「楽しませて貰ってます!」


 オーナメントを魔力で浮かせ、イルミネーションが輝く。ルミエル先輩も楽しそうにしているね。先輩からのプレゼントであるダイバース。それは更に白熱していく。

 もう既に夜更けだけど、眠気も飛んじゃうね。

 私達vsルミエル先輩、イェラ先輩のゲームは佳境へと差し掛かった。

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