第百二十一幕 野外学習・二日目
──“野外学習・二日目”。
「起きろー。朝だぞー!」
「ううーん……」
「ふわぁ……」
「むにゃ……」
「一人は起きる気配が無いわね」
翌日、先生が私達の部屋へ起こしに来た。
私は眠気眼ながらも起き、ルーチェちゃんもあくびはしているけど目覚めた。
ボルカちゃんは相変わらず朝に弱く、起きる気配は無さそうだった。
毎朝こんな感じだったんだねぇ~。どうりで教室に中々来ないんだ。
だけどそこは流石の先生の手腕。上手く扱い、ボルカちゃんの起床を成功させる。
起きた学生達は食堂に赴き、食事前に今日についての話が行われる。
「二日目の今日は創造や制作がメインになる。作る物は骨董品や芸術作品だ。品性やを感性を重んじる“魔専アステリア女学院”らしいな。そこの生徒足るもの、生半可な作品は作るなよ」
「「「はーい」」」
このお嬢様学校で求められるのは品性や立ち振舞い。それは創作物にも適用されるみたい。
とは言え中等部にやれる事には限界がある。上質な物にするとしてもその範囲での完成を目指さなきゃね。
「ま、基本的には事細かく指摘したりもしないつもりだ。歪な作品でも上手く上には誤魔化しておくから気楽にやれ。だからと言って全部がメチャクチャとかはやめろよー」
「「「はーい」」」
「先生って基本的に生徒の味方だと思うけど、かなり大雑把だよね~」
「良い教師だけどな~。ま、お陰でアタシ達が自由にさせて貰ってるから良いけど」
「貴女は日頃の行いでそんなに自由じゃないように思えるけれど」
「それでも実力でカバーしておりますし、ある意味では自由なのかもしれませんわね」
「オイオイ、手厳しいな~」
作品の完成度についてはある程度の誤魔化しが効くとの事。
大雑把なところがあるけどフォローをしてくれる良い先生だよ!
話は終わり、朝食へ。朝のメニューはパンに卵にベーコンに……って、その言い方だと調理もされていないように思えちゃうね。取り敢えずちゃんと料理はされてるし、一流の人が作っている物だからとても美味しかった。
朝食を終え、支度をした後で私達は外に集合する。そして今回の目的地へ。
「よし、では作業に取り掛かれ。刃物や魔法・魔術を使って加工する際には気を付けろよ。慣れていても危ない時はあるからな」
「「「はーい」」」
創作物のテーマは特になく、既に準備された資材から作る事になってるみたい。
一先ず私は一本の丸太の前に立つ。
「これくらいから始めようかな~」
「これくらいって……とても大きな丸太ですわよ」
「大丈夫! 植物の扱いには慣れてるから!」
「魔法と本物ではまた勝手が違うでしょうに……あー、けれどティーナさんなら他の植物に干渉して操る事も可能なのでしたわね」
「そ! だから像でも作ろっかなって。ルーチェちゃんは何を作るの?」
「私は勿論、金を散りばめたゴージャスな何かですわ!」
「まだ決めてはいないんだ……」
「そうとも言いますわね!」
私は植物魔法で扱いの慣れている木を使って作ってみる事にした。
ルーチェちゃんはまだ決めていないらしいけど、ゴージャスな物を作るんだって。
ボルカちゃんとウラノちゃんも作業に取り掛かっていた。
「ボルカちゃんは何作るのー?」
「うおっ、ティーナ。デッカイ丸太だな~。アタシは普通にナイフとか彫刻刀で木彫りの何かだな」
「ボルカちゃん器用だもんね~」
「ウラノさんは何にしますの?」
「陶芸品かしら。焼き入れも出来るらしいから陶器を作るわ」
「お皿とかですわね! 私も金の皿とかにしましょうか」
「好きにすれば良いんじゃないかしら? 陶器より手間が掛かりそうだけど」
「むぅ……確かに言われてみれば現実的ではない……ガラス細工にしましょうか」
「それもまた貴女の好きにすれば良いじゃない」
「ですわね! ゴージャスなガラス細工を作りますわよー!」
ボルカちゃんは木彫りの物。ウラノちゃんは陶器。ルーチェちゃんはガラスだって~。
大きさで言えば私が一番大変だけど、木の形はしょっちゅう変えてるから大丈夫!
「そーれ!」
木に魔力を込め、その形を変化させる。
でも今回はそこから更に手を加えるよ! 全部を魔法に頼りっぱなしだと授業の一環にならないもんね! 魔力操作も授業ではあるけど!
「当たりを付けて……全容をイメージ。よし、ここから仕上げに取り掛かる!」
「早いなー。けど、アタシもサクサクやってくぜ!」
「すごーい! 魔法を使ってないのにこの早さ!」
植物魔法の応用で全体的な形を作り、そこからバランスを整える。
そんな私の近くではボルカちゃんが小さな刃物で器用に木を削っており、見る見るうちにその形が見えてきた。ホントに器用だね。ボルカちゃん。
ルーチェちゃんやウラノちゃんも着々と進めていた。
「熱の加減が難しいですわ……」
「少し力むだけで形が崩れるわね……けど……」
ドロドロの飴みたいなガラスをゆっくり膨らませるルーチェちゃんに土を捏ね、形を変化させていくウラノちゃん。
他のクラスメイト達も各々の創作を生み出していく。この学院に居るだけあってみんなも器用だ!
それから数時間後、魔法も駆使してみんなの作品が並べられた。
「まだ時間を置いておく必要のある物は明日見るとして、ある程度は出揃ったな。こんな感じだ。各自で眺めたりするも良しだぞ」
完成した作品の展覧会が行われる。並べられたアートや彫刻などの造形物。
私達も自分の作品を含め、色んな作品を見て回る事にした。
「これがボルカちゃんが作った木彫りの物だね!」
「ああ。木彫りの仲間だ!」
「私のメガネまで再現してる……」
「私の髪型は少々手抜きではないかしら?」
まずはボルカちゃんの作品。小さな木を人の形にしており、それらは私達をイメージしているみたい。
よく見れば細かい所まで手が込んでいてボルカちゃんのスゴさを再認識したよ!
「これが私の。簡易的な陶器ね」
「あの粘土がここまで変わるんだ……」
「初めてでヒビ一つ無いのはすげえなー!」
「綺麗なお皿になりましたね!」
次に見たのはウラノちゃんの陶器のお皿。
他のクラスメイトのはちょっと失敗しちゃってたり小さなヒビが入ったりもしているけど、彼女のはそんな様子もなかった。
元々本好きで沢山の知識を持ってるし、本人も難解な本魔法を巧みに操っているから得意なんだね。
「次は私の作品ですわ! 見よ! このガラス細工を!」
「わあ、ちゃんとキレイな感じになってるね~」
「形は曲がってるけどな~」
「初めてにしては上出来じゃないかしら。まだ中等部の一年生だもの」
「あれ!? なんか皆さんさっきより辛辣ではなくて!? 確かに私も“あら、ちょっと歪んでる……”って思いましたけれど!」
ルーチェちゃんが作ったガラス細工は、全体的にちょっとだけ歪んじゃっているけどそれが逆に味になっている見事な一品だった。
力の加減がスゴく大変らしいし、十分だと思うけどね~。本人も納得はしていないみたい。
「次はティーナの作品だな」
「作品……だけど」
「もはやなんでしょう。工作とかの領域は超越しておりますわね」
「そ、そうかな……」
私が造ったのは丸太のドールハウス。
昔からお人形遊びはしていたし、形は自在に変えられるから結構良い作品にはずだけど、そんなに驚かれるレベルだったのかな。
取り敢えず説明しよっ!
「内装はね。ここが出入口でここが食堂に寝室、書庫、お風呂! ロビーとかリビングとか……とにかく、その他諸々様々多種多様! お風呂にはお湯を入れれば実際に使えるようにしたよー!」
「小動物なら棲めそうですわね」
「と言うか小人族なら普通に暮らせるな」
「もはや建築ね……」
造ってる最中に楽しくなってついつい気合い入れちゃった!
確かに改めて見てみると驚かれるのも納得の出来映え。我ながら良い作品になったね~。
他のみんなも魔法を使ったり使わなかったりで色んな作品を作り上げた。
そしてすぐにお昼となる。作品は持ち帰り自由みたいなんだけど、ここの管理者さんが……。
「おお、この丸太の家。小鳥や小動物の為に此処に置いて良いですか!?」
……って聞いてきたから了承したよ!
張り切って造ったは良いけど置く場所も無くて大変だもんね~。
小鳥さんや他の動物さん達の遊び場になるならその方が良いよね!
その後、私達はお昼の時間。今日のお昼は手作りじゃなくて食堂で。毎日手作りだったら大変だもんね。将来的にはそうなるのかもしれないけどー。
そして午後の野外学習はこの山に住んでいる動物や植物の観察。レポートを取って資料にまとめるんだって。
「お! あそこに野鳥が居るぞ!」
「遠方にはユニコーンが集まっておりますわ!」
「湖の近くにはモンスターが居たから気を付けてね」
「ビックリした~。温厚な子なんだけど……襲ってきたから拘束しちゃったよ……」
『ガ……ギィ……』
「急に人間が入ってきて驚いたのかしら。ティーナさんに警告は要らなかったわね」
そんな感じで主に会得したのはモンスターとか動物の情報。薬草とかも色々あったけれど、それは昨日のお昼の時に集めたりしたから今回は動物の観察中心って感じかな!
それによって日も暮れ、今回もキャンプファイアー。夕飯も食べ、お風呂に入って就寝の時間。
「でさ~」
「そう……ZZ……なんだ……」
「それは…Z……傑作……ZZ……ですわねー……」
「ありゃ、もう眠いのか」
「健康的なのよ。二人はね」
「ビブリーはよくこんな遅くまで居るのに朝も起きれるな~」
「お陰で色々と成長はしていないけれどね。ついつい本のページを捲ってしまうのよ」
寝る前にボルカちゃんやみんなとお話していたけど、私とルーチェちゃんは眠気に限界が来て寝ちゃった。
あの後二人は結構遅くまで起きていたんだって~。
何はともあれ、二日目も無事に終了した。
後は明日だけか~。名残惜しいね~。




