第百二十幕 野外学習・初日
──“お昼”。
その後、全員が登頂を果たし、そこでお昼ご飯を食べる事になった。もちろんポイ捨てとかは禁止だよ!
魔力による身体能力の強化を使わなければもっと時間は掛かるんだけど、使わない人の方が居ないから山頂で昼食を食べられるんだ~。
でもお弁当とかじゃなくて現地調達の物や買ってきた物をその場で料理する感じ。毒の有無とかはちゃんと専門の先生が確認しているよ!
「それでは手筈通り、炎魔法や炎魔術を使える者は火起こし。他の者達も各自で作業に当たれよー」
「「「はーい!」」」
得意魔法や資材集めの班で行動を分け、それぞれで動き出す。
私は資材集め班。と言っても薪くらいだから簡単に集まっちゃうね。資材が集め終わったらみんなで料理開始!
「っしゃあ! 魚焼くぞー!」
「山菜もね!」
「木の実を採って来ましたわ!」
「その大半まだ青いわ」
魚を焼き、山菜で匂いを消したり味付けしたり。簡易的な調味料は学院側が用意してくれてるからボルカちゃんが居るならバッチリだね!
「ボルカさん達の手際が凄まじく良いですね……」
「尊敬していますが、同じ女として負けられない気がしますね……!」
「やりましょう!」
「「「おおー!」」」
ボルカちゃんの手際に感心するクラスメイトや他のクラスの人達。だけど触発されて奮起し、気合いを入れて調理を執り行った。
流石ボルカちゃん。周りのみんなが自然に付いて来る感じ。単純な魔法とかとは違う能力だよね!
それによってサクサク進み、昼食の完成。みんなで作った物を食べた。
「美味しいですわ!」
「自分の力でお料理をするのがこんなに良いなんて……」
「なんて素敵な初体験!」
「流石! 味付けもしっかりしていて組み合わせも良くてスゴく美味しいよボルカちゃん!」
「おー。我ながら上手く作れたな~」
「やはり手料理も悪くないですわね~」
「手間が掛かるけどね」
昼食は全部の班が上手く出来たみたい!
美味しい自然の食事を終え、下山。宿屋に付く頃には日も傾き始めており、ここからは野外活動が少し減るかな。
あ、でもキャンプファイアーとか色々やりそうだし、宿屋での過ごし方はちょっとした休憩くらいになるかも。
──“宿屋”。
「今のうちにそれぞれの部屋で荷物の整理とか済ませておけよー。あと内装の確認とかしておいても損は無いかもしれないな。では、夕飯まで自由時間だ。問題を起こさなければ何をしても良いぞ」
「「「はーい!」」」
「なにするー?」
「見て回りましょうか」
「部屋に行こー!」
「湯殿や御手洗いの場所を確認しておかなければ」
「食堂行こっか!」
「もう食べるの?」
「内見だよ内見!」
先生の話が終わると同時に他のみんなは各自仲の良い友達と宿屋内を見て回ったりしていた。
私もいつも通りボルカちゃん、ウラノちゃん、ルーチェちゃんと行くつもりだったけど、
「私は図書室に行ってくるわ。常に同時行動する必要も無いもの。自由にさせて頂くわ」
「そっかー。ビブリーは基本的に単独行動を好むしな~」
「仕方無いですわね」
「寂しくなるな~」
「所々に語弊を生じる言葉が混ざっている気がするけど……まあいいわ」
ウラノちゃんは宿屋の図書室に用事があってそこに行くみたい。
うーん、残念。だけどその代わりと言うか何というか、私達に同行する人も居た。
「ウラノさんは図書室なんだ。それは残念。でもみんなで行こーか」
「だな。行こうぜ。ティーナ、ルーチェ」
「うん。ボルカちゃん」
「心得ましたわ!」
同行者、カザミ・ミナモさん。
体育祭以降、仲良くなってたまに一緒に行動する事も増えたんだー。
クラスが違うからボルカちゃん達みたいにずっと一緒は無理だけど、こう言う一学年全員でって機会くらいには一緒に行きたいよね!
クラスで部屋は違うからカザミさんとは一緒じゃないけど、せっかくだからと各部屋を見て回る事にした。
「ここがアタシ達の部屋だな」
「四人部屋にしては広いね~」
「“魔専アステリア女学院”の貸し切りですものね。少々お高いお部屋なのですわ!」
「私の所と内部構造は変わらないかなー」
部屋は広々としており、樹の温もりを感じる。あるのは人数分のベッド。ソファーにテーブル本棚など。基本的な作りは寮とあまり変わらないかな。
荷物は置き……って、ウラノちゃんの荷物はもう置かれてる。分かれて私達がのんびり進んでいる時にはもう来ていたんだね。
「ま、特筆する点とかも別に無いな。寝心地の良さそうなベッドがあって部屋全体が過ごしやすいってくらいだ」
「一番大事な所は満たせてるから問題無いね~」
今は宿屋の探検が目的。なので部屋は後にして全体を見て回る。
──“食堂”。
「ここは基本的に使わないのかな?」
「夕飯とかも自分で作るっぽいからな~」
「朝食を摂るのには使いそうですわ」
「メニューは豊富だなー」
最初に来たのは食堂。だけど前述通り、朝食以外では使わなそうな雰囲気が漂っていた。
基本的に野外活動になるからね~。
次行こー!
──“大浴場”。
「おお、露天風呂か」
「広くて良いね~」
「サウナもありますわ!」
「気持ち良さそー」
次に来たのは大浴場。広々とした浴室であり、サウナまで完備している。
今の季節のお風呂は更に気持ちいいから楽しみ~。
その後、ウラノちゃんの居る図書館や大広間、多目的室等々。一通りの場所は見て回った。
時刻は夕飯。外の調理場に集まり、予め用意されていた材料を前に準備をしていた。
「野菜と肉を切って火に掛けて……ティーナ。そっちの準備はどうだ?」
「出来てるよ~」
「改めて流石の名門ね。ただの野菜やお肉じゃなくて全部の食材が一級品」
ボルカちゃんの手際の良さも超一流。トントントンと小気味良く食材を切り分け、一番美味しくなる順番で鍋に放り込んでいく。
私達はボルカちゃんの言葉に従って準備をしていき、次々と料理が完成していった。
「完成! 他の班の手伝いにでも行こうぜ」
「そうだね! みんなで作って食べた方が美味しいもん!」
「良いですわー! この私がお力添えして差し上げましょう!」
「早く終わらせたいものね」
私達が一番最初に作れたので他の人達のお手伝い。知っての通り全員が全員お嬢様やご令嬢だから料理をした事が無いもんね。夕飯はお昼の時より複雑な料理というのもあるかも。
そんな私もした事なかったし、ボルカちゃんのお陰でここまで上手になれたんだ。
「手伝うぜ!」
「ボルカさん!」
「ありがとうございます!」
「手伝うよー!」
「ティーナさん!」
「ありがとねー!」
「私が手伝って差し上げますわ!」
「ルーチェさん!」
「手伝わせて差し上げましょう!」
「手伝ったげる」
「ウラノさん!」
「ありがとう!」
私四人がそれぞれに分かれてお手伝い。そこが終わったら別の班。頼りっきりじゃなくてちゃんとみんなの力でやってるよ!
それもあって完成。みんなでご飯を食べる。
「美味しい……」
「食材だけじゃなくて、別の味を感じますわ……!」
「これが手作り……」
「お昼とは違った味わい……!」
「でもやっぱりシェフの方が美味しいですわね」
「「「それはそうですね」
「でもとても美味しい!」
「「「それも間違ってませんわ!」」」
「私達ってお料理も出来たのですね!」
みんなで作ったご飯はとても美味しかった!
純粋な味ならプロには当然劣っちゃうけど、心が満たされるって言うのかな。そんな感覚で本来の味よりも美味しく感じたみたい。
これで夕御飯も終わり、そのまま広場の方に行く。
「それじゃあ、風呂の前にキャンプファイアーだ。炎を囲って雑談したり更に親睦を深めるのが目的だな。儀式っぽいダンスも踊るぞ~」
「儀式っぽい……とにかく楽しむのが目的って事だよね」
「だろうなー。寝る前に丁度良いぜ」
囲いに薪をくべ、炎魔法で着火。小さな焔が次第に大きくなり、巨大な炎へと成長を遂げる。
周りには丸太からなる椅子が置かれており、それぞれのクラスの人達が全員集まれる広さがあった。
と言うか一年生全員の幅が確保されてるんだね。百人以上居るし、とても広い所を借りたって事なんだ。
そしてキャンプファイアーがスタート。
みんなで炎を囲い、雑談とかダンスをする。──ハズだったのに……。
「するとそこから……ガタガタガタッ!! と……まるで何かが居るような音が聞こえてきたの。女の子は恐る恐るその扉をギィ……と開き……」
「「「…………っ」」」
「バァンッ!! という音と共に扉の中から━━!!」
「「「イヤアアアア!!」」」
……何故か怖い話をする事になっちゃってた。
みんな話すのが上手だね。全員の話がとても怖いから私はママとティナをずっと抱き抱えちゃってるもん。
「た、たたた、大した事無いお話ですわね! 結局声と音で驚かせているだけじゃありませんの!!」
「声が震えてるぞー」
強がりを見せるルーチェちゃん。
でも確かに“音”が分かりやすい恐怖の象徴だから盛り上がる場面で大きな音を出すお話は多いよね~。
けどそれを差し引いても今の話は怖かった~。
そんな感じに色々なお話をしていく。怖い話が多めだけど、夢に溢れたおとぎ話をする人も居てとても楽しめたよ! 私もそっち側!
キャンプファイアーも終わり、火の後始末。人数が多いから何組みかに分けてお風呂へ入る。
──“大浴場”。
「はあ……良い気持ち……登山もなんだかんだ疲れるし、お風呂は良いね~」
「しかも澄んだ空気に満天の星空。最高の贅沢だな~」
「宝石みたいなお空ですわ!」
「宝石と材質が同じ星もあるから強ち間違ってないわね」
「キレー! スゴく落ち着くよ~」
お風呂は私とボルカちゃんにルーチェちゃん、ウラノちゃん。そしてカザミさんやそのクラスメイトの人達も一緒。
大きさ的には二クラス分が限界なんだって~。
綺麗な星空の下で入浴を終え、私達は就寝の為にお部屋へと行く。
──“宿泊部屋”。
「後は眠るだけかな?」
「オイオイ。まだまだ夜はこれからだろ。定番の話は色恋沙汰だけど、生憎女学院じゃ縁遠いな。枕投げでもしようぜ」
「恋バナの代わりに枕投げって落差が……」
「へへん。良いだろ。そら!」
「うわ!」
話の途中でボルカちゃんが投げた枕が顔に直撃。痛みはないし、キレイに洗われてるから良い匂い。
だけどここは乗るしかないね!
「やったなー!」
「ハッハッハ! 遅い遅い! そんな眠っちゃいそうなスローな動きでアタシに当たるかなー!」
「ばふ!? 私に当たりました事よー!?」
「わ、ごめーん!」
「それも当たらないぜ!」
「貴女達、少し静かに──」
ボフッ……とウラノちゃんにも当たる。
それが開戦の合図となった。
「物語──“筋肉の神”」
「フン!」
「わー!? 枕投げにそこまでするー!? “植物の守護”!」
「本気だなー。アタシの炎魔法や魔術じゃやれねーぜ!」
「身体能力だけでも十分ですわー! “光の壁”!」
ウラノちゃんが筋肉の神様で投擲。それを私が植物魔法でガードし、ボルカちゃんは純粋な身体能力強化で対処。ルーチェちゃんは光の壁を貼って攻撃から守っていた。
って、みんな本気過ぎー! 私も言えないけど!
「貴様らー! 静にしろー! これで五組目だぞ! “グラビティ”!」
「わあ!?」
「先生の重力魔法……!」
「重いですわー!」
「私とした事が……」
そして担任の先生によって喧嘩両成敗。先生って重力魔法の使い手だったんだ……。
流石は名門“魔専アステリア女学院”。教師の実力も上澄みだね。それに五組目って、みんな考える事は同じみたい。
そんな感じで枕投げは強制終了。だけど楽しかったー。
明日もあるし、それも楽しみだね!
“魔専アステリア女学院”野外学習。初日が終了した。




