第百十七幕 学院祭・二日目
──“学院祭・二日目”。
「店員さーん!」
「ただいまお持ちしまーす」
「お嬢様。こちらをお持ちしました」
「あら、よろしくてよ♡」
「今日はボクだけを見ていてくれ」
「はい……♡」
二日目に突入し、今日も男装喫茶は繁盛していた。
昨日と同じく色々なサービスにも応じ、順調に進めている。本当に忙しくて材料の買い出しにも行かなきゃならないし、スゴく疲れてヘトヘト。
でもそろそろ午前中も終わるし丁度良いね。ラストスパートがんばらなきゃ……!
また次のお客さんがやって来る。
「いらっしゃいま……──」
「此処が男装喫茶をしているところね。フフ、楽しみだわ」
「やれやれ。何故私が同行せねばならないのだ」
「──せ……?」
「「「…………っ」」」
入ってきたお客さんを前に、他のお客さんも店員であるクラスメイト達の手も息も止まる。
一瞬全ての時間が止まったかのような感覚に包まれ、その人達は言葉を続けた。
「サービスお願いね。カワイイ後輩達♪」
「ルミは相変わらずだな」
──ルミエル先輩とイェラ先輩。
今の言葉を切っ掛けに、店員もお客さんも関係無く、場が弾けるように湧き出した。
「ルミエル先輩よーっ!」
「「「きゃー♡」」」
「本物の……」
「ルミエル・セイブ・アステリア……様!」
「ウソ!? こんな事があって良いの!?」
「ステキー!」
「こっち向いてー!」
相変わらずスゴい人気。でも中等部の一年生からダイバースの世界大会に出ていたんだもんね。
知名度が世界規模なのは間違いない。と言うか、もしかしたら人間の国で一番有名まであるかも。色々な事業展開もしているもんね。
「店員さん。ご注文を受けて欲しいのだけれど」
「「「は、はい! ただいま!」」」
ルミエル先輩の接客には誰が行くかでギチギチ。でも他のクラスメイト達は惜しそうにしながらもちゃんとお客さん達の相手をしているね。
なるべくキャラを崩さないようにしているし、店員と言う役割を全うしている感じ。
なし崩しで流され、ルミエル先輩とイェラ先輩の前には私が押し出された。
「あ、先輩。注文は決まりましたか?」
「フフ、そうねぇ……。じゃあ紅茶とクッキーを下さるかしら」
「私は緑茶と饅頭を貰おうか」
「分かりま──」
「「「分かりましたわ!」」」
「ええ……」
私が答えるよりも前に手が空いている他のクラスメイト達が答え、サササッと素早く調理場へ向かった。
因みに調理場は教室を分断した先にある。土魔法でそれっぽい物を作り、炎魔法で焼いたり炒めたりしているの。冷蔵庫の代わりには水魔法を使ったり、色々と魔法で工夫してその環境を造っているんだー!
その場所で先輩達の注文を聞き入れたみんなはすぐに準備し、即座に持って行った。
「「ご注文の品です。マドモアゼル」」
「「「ごゆるりと」」」
「ありがとね。頂戴するわ♪」
「仕事が早いな」
憧れの先輩の前でも姿勢を崩さないのはプロっぽいね~。まあ私達はまだ何のジャンルのプロでもないんだけど。
ルミエル先輩はティーカップを持ち、紅茶を一口含む。ゆっくりと飲み込み、クッキーを口へ。食べたらサクサクと音が鳴るクッキーだけどその音はそんなに響かず、たまに聞こえる物も小気味良い感覚。
また紅茶を一口飲み、ホッと一息吐いた。
その一連の流れを他の人達は緊張の面持ちで眺め、恍惚の表情で見惚れてしまっていた。
ルミエル先輩は笑いかける。
「そんなに見られると恥ずかしいわ」
「「「あ、す、すみません!」」」
同時に謝罪するみんな。
私やボルカちゃんにルーチェちゃん、ウラノちゃんは部活動で先輩達とよくお茶をしていたから慣れてるけど、確かにただティータイムを楽しんでいるだけでとても絵になるね。そんな魅力がルミエル先輩にはあった。
そしてイェラ先輩はと言うと。
「では、いただこう」
「「「………」」」
お饅頭を手に取り、一口頬張る。落ち着いた動作で噛み締め、緑茶を手に取り両手で支えて飲み込む。
コトッと置き、こちらも一息吐いた。
「ルミの方は見れないからと私を見てどうする。何も出んぞ?」
「「「す、すみません!」」」
当然その一連の流れに他のみんなは見惚れ、また先輩達の気を散らしてしまった。
優雅なティータイムの一時と言った雰囲気のルミエル先輩とは裏腹に、イェラ先輩は精神統一しているかのような凛々しい姿。
まさに百戦錬磨の武人と言った雰囲気が漂っていた。
優雅で可憐なルミエル先輩に凛々しく美しいイェラ先輩。二人がお茶をしているという理由だけで学院中の人達が押し寄せてくる。
そう、それは“学院全体”の話。教室の外にまで行列が出来ており、みんながルミエル先輩達を見に来ていた。
この人気はスゴいけど、本人達もスゴく大変そうだね。こんなに目立っちゃゆっくりと出来なさそうだもん。
「すっかり目立ってしまってるわね」
「それもこれもルミが行きたがったからだろうに。この後にメリア、リタル、レヴィアの教室にも赴くのだろう?」
「当然よ。同じ部活動の先輩なんだもの。昨日は色々と忙しくて寄れなかったけれど、今日は行かなくちゃね!」
「やれやれ。相変わらずだな。今日も忙しいと言うに」
傍から見たら大変そうだけど、慣れてる二人は意に介していない。イェラ先輩は少し面倒臭そうにしているかなくらい。
私が心配する事も烏滸がましいくらいなんだろうね。二人は二人でのらりくらりと躱すんだもん。
「では、そろそろ別の場所に行くわ。」
そんな感じで嵐のような先輩達は私達の男装喫茶を後にした。うーん、嵐みたいなのは周りのギャラリー達かな。
大半のお客さんは去ったけど、お店自体はまだまだ大繁盛している。もしかしてルミエル先輩達は忙しそうな私達を気に掛けてくれたのかな? ふふ、考え過ぎかも。
今日の午前の部は昨日程の疲労は残らず、無事に終了した。
*****
「そんじゃ、今日は何処行こっか」
「昨日はお化け屋敷に的当てに飲食店で定番って感じの場所だったもんね。“魔専アステリア女学院”は一風変わったお店も多いし、そう言うところに行ってみよっか」
午前の部が終わり、私達は自由時間となる。
前述したように定番のお店は行ったから、今日はこの学院らしい場所に行く事にしてみた。
「そんじゃ、行こーぜ!」
「うん!」
「ですわ!」
「相変わらずはしゃいでるわね」
早速そちらへ向かって行く。
二日目の午後も楽しむぞー!
──“魔導実験所”。
「この魔法とこの魔法を組み合わせ、新たなる力としましょう!」
「センパイ! 魔力同士が不規則に混ざり合い、このままでは爆発します! しました!」
「なんと! 実験は失敗だが、小さな爆発魔法が作れたな!」
瞬間、ドカーン! と派手に爆発が巻き起こる。
名前からして気になっていた場所だけど、予想通りの所だったみたい。
そしてこの二人、初日の部活動探しの時に寄った“魔導研究会”の人達だね。先輩後輩って関係だけど、クラスだけじゃなくてもお店を出したり出来るんだ。……いや、ここはお店ではないね。
「しかし、この程度の威力では大した効果は得られないかと……」
「むむむ。失敗という訳か。しかし、失敗は成功の母! 今は何の評価も得られずとも、何れは世界に羽ばたくのだー!」
「センパイ! 一生付いて行くであります!」
こんな感じで、出来上がる物じゃなくてそれまでの過程や先輩と後輩のやり取りを見るのが主体になってるみたい。
仲が良いサークルだね~。
ここみたいな部活動やクラブ、サークルで出されているお店もある。今日はそこを中心的に見て行く感じかな。でもそれだけじゃなく、満遍なく楽しむよ!
──“ほうきレース”。
「ダイバースでやったほうきレースをここでもやれるんだー!」
「そうだなー! 私有地だから問題無いみたいだぜー!」
「髪が乱れてしまいますわ~!」
「メリア先輩も通ってるみたい」
「やっほー!」
ゲーム感覚で行われるほうきレース。ダイバースでやった事があるから結構良い順位でゴール出来たよ!
全体順位というのもあって、メリア先輩が中等部では一位だった。
──“リラックスアロマ”。
「はあ~落ち着くね~」
「まさかリタル先輩の魔法を利用した施設を出すとはな~」
「リラックス出来ますわ~」
「此処が今のところ一番かも」
「寛いで頂けて幸いですよぉ~」
中等部の三年生、リタル先輩のクラスが出している所。心地好い香りに包まれ、午前中の疲労が抜けていく感じがして気持ち良かった。
それに、
「まさかエメちゃんが居るなんてね~」
「はい~。来ちゃいました」
エメちゃんもお客さんとして“魔専アステリア女学院”に来ていたみたい。
他校や一般のお客さんは参加OKだからね。チームメイトと一緒に来ていて私達とは回れないけど、バッタリ出会すなんてラッキーだったね!
──“茶道”。
「この“抹茶”と呼ばれる“日の下”のお茶は二度回し、三回に分けて飲むんだ」
「は、はい……!」
「繊細だな~……」
「単純ですのに緊張しますわ……」
「わびさびを重んじて執り行うのよ」
高等部一年生のクラスではレヴィア先輩が茶道と呼ばれるヒノモト伝統の行事を行っていた。
ルーチェちゃんの言うように動き自体は単純だけど、この雰囲気から緊張しちゃう。その前にも泡立てたり細かい手順が色々あって大変なの。
そしてここにも。
「まさか他国に来て茶道を受ける事になるとはな」
「わあ。レモンさん手慣れてる……」
「フッ、出身国のものだからな。伝統文化は色々としているんだ」
ここではレモンさんが居た。
今回もエメちゃんみたいに“神妖百鬼学園”の人達と来ているから一緒には見て回れないけど、彼女のやり方は参考になるね~。
抹茶はとても美味しかったよ!
──“皇帝の喫茶店”。
「いや~。今日も楽しかったな~。毎日学院祭でも良いくらいだぜ~」
「それじゃ流石に身が持たないよ。楽しそうだけどね~」
「そうですわよ」
「学業が疎かになっちゃう」
一通り見て回り、今日の最後に寄ったのは高等部三年生が行う喫茶店。
ルミエル先輩達のお店って事だけど、先輩達は忙しいから顔も出せずに色々してるんだって。私達のお店や他の先輩達の所に来てくれたのも、本当に多忙な中で合間を見つけてくれたんだね。
でもこのお店ではルミエル先輩が直々に紅茶の淹れ方とかクッキーの作り方とか指導したらしいから本物のお店でも通用するレベルはあった。とても美味しいよ!
「んでもって明日はいよいよ演劇だぜ。大丈夫か? 主人公!」
「大丈夫! セリフも演出箇所もバッチリ覚えたから!」
「ティーナさんは物覚えが良いものね。私も侍女役だけならセリフが少なかったのにナレーションをやらないといけないなんて」
「でもウラノさんは適性ですわよ。私なんて意地悪する役ですもの。憂鬱ですわ」
「いやぁ、ルーチェちゃんに似合ってると思うよ~」
「それって褒めてますの?」
「あ、そういう意味じゃなくて純粋に……ゴメン……」
「ちょっと! これでは本当にいじめてるみたいじゃないですの! そんなつもりは毛頭ありませんわよ!?」
明日はいよいよ“蕾のお姫様”の劇。緊張はあるけど、緊張し過ぎでセリフが飛ぶなんて事も無いようにキッチリとリハーサルもした。恥ずかしくない演技を見せよう!
ボルカちゃん達も準備の方は出来てるみたいだね。思えばダイバースはそれ以上のお客さんが居る訳だし、ある意味それで鍛えられたのかも。
「取り敢えず、明日は明日の劇をする。頑張ろうぜ!」
「うん!」
「ですわ!」
「ま、恥ずかしい演技はしたくないわね」
改めて気合いを入れ直す。泣いても笑っても明日が本番。悔いの無いようにしなきゃね!
それまでの休憩と補給として美味しい紅茶とクッキーを楽しむ。
学院祭の二日目も無事に終え、明日はいよいよ“蕾のお姫様”!




