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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第百十六幕 初めての学院祭

 ──“魔専アステリア女学院・学院祭・初日”。


 辺りは既に大きな賑わいを見せていた。

 空にはいくつもの紙製バルーンが浮かんでおり、校舎では出し物や展示、様々な模擬店が客を呼び込む大音響で繁盛している。

 全体の装飾も気合が入っていて学院内はお祭りムードで全体的に活気に満ちていた。

 呼び掛ける声を横に私達は男装喫茶の看板を持ってお客さん達を誘い込む……って言い方だと語弊を生んじゃうかもね。とにかく呼び込んでいるの。何にしてもお客さんを入れない事には始まらないもんね!


「ちゃんと設定した通りのキャラで呼び込むんだぞ~」

「この段階でもうその役をしなきゃならないのかな……」

「男装喫茶ですもの。呼び込みの時点でしっかりとその役を演じなくてはなりませんわ!」

「はあ……憂鬱」


 お客さんを呼ぶ為に、私達は今の段階で役に入り込む予定。既に男装もしていた。普通に着る服とあまり変わらないね~。

 男装喫茶ってだけあってメイン層は女性なのかな。でも男にも需要はあるぜ! ってボルカちゃんが豪語してたし……。

 取り敢えず来る人達に精一杯のアピールをしよう!


「ねえあの子達」

「“男装喫茶”ですって~」

「あの子達は可愛いけど……」

「私達の趣味ではないかもね~」


 そして早速こちらを見るお客さんの気配。

 会話の内容は分からないけど、そんなに乗り気じゃないのは雰囲気で分かる。だからこそ手腕の見せ所なんだけど……。


「おや、君達……今アタ……ボク達の事を見なかったかい? 何か用があるって感じかな?」

「え……あ……」「ごめんなさい」「ちょっと気になっちゃって……」

「待ちな。ボル。この子達が困っているじゃないか。わざわざこの学院に足を運んでくれたと言うのに。……大変失礼しました。ウチの子がつい。初日というだけあってお客さんが来るかどうか不安なのです」

「オイ。余計な事言うなよ。ビブ」

「あ、いえ……」「大丈夫です……」


 呼び込みってこれェ!?

 確かに男装ホスト部を参考にしたけど、ウチはあくまで喫茶店。こんな感じの客引きじゃないような……。

 と言うかウラノちゃんまでちゃんと乗ってるし……。


「不快にさせたならごめんなさい。これ、サービスしておくので良ければボク達に会いに来て欲しいな……って……」

「チッ、これだからビブは。悪いね。お客さん。でも、来て欲しい気持ちは本当さ。こんなボク達で良ければ相手をして欲しいんだ……」


「は、はい……」「考えておきます……」


 ボルカちゃんとウラノちゃんの劇場による効果は薄そうな雰囲気。ドン引きがまさっちゃってる状態。

 そこで第二陣として私とルーチェちゃんが投入される。


「ハハッ。何をそんなにウジウジと呼び込んでいるのでしょう。甚だしく嘆かわしく哀れですわ。これだから貴女達はいつまで経っても二流ですの! またお店の床掃除からやり直しなさいませ!」


「……っ。ルー……!」

「何を……!」


 悪役令嬢!?

 男装喫茶なのに素のルーチェちゃんで来ちゃってる!?

 因みにボルカちゃんからウラノちゃん、ルーチェも何の打ち合わせもしていない。その場のアドリブでこの呼び込みをおこなっていた。

 ボルカちゃんが最初に話、様々な本を読んで場の流れを理解しやすいウラノちゃんがそれに便乗。そしてルーチェちゃんが今に至る。

 上手く行くのかな……。


「客なんて無理矢理誘い、無理矢理すれば良いんですわ! 何故ならこの世界はお金持ちである私の思い通りなのですから!」

「待て! お客さんには手を出させないぞ!」

「下がっていてくれ。君達」

「え、あ、はい……」「なにコレ……」「なんだろう……」


 うん。本当になんだろう。私にも分からないや。

 ルーチェちゃんは杖を取り出し、魔力を込めてピカッと光る。ホントに光るだけ。それだけでボルカちゃんとウラノちゃんを退け、お客さん達にけしかける……って、流石にやり過ぎ!


「ちょっとルーちゃん!」

「なっ……!」

「「「…………!」」」


 取り敢えず名前は“ルー”を採用して、ママに魔力を込めてルーチェちゃんを拘束。

 縛り付け、私がお客さん達の前に出る。


「えーと、色々ごめんなさい。こんなんですけど、とても楽しい喫茶店となっていますので……良ければ来て下さい……」

「あ、ありがとう……助けてくれて」「人形魔法に植物魔法……」「あら貴女、ティーナ・ロスト・ルミナスさん?」

「はい。みんなで頑張って装飾も料理もしたので……貴女達さえ良ければ是非ぜひ私達のお店へ……!」

「ふふ、健気で可愛い……」「ちょっと濃い人達が多いかもだけど、楽しそうね」「ええ。じゃあ折角だから寄ってみるわ」

「あ、ありがとうございます!」

「……!」「可愛い……」「何かしらこの感覚は……」


 謝罪を交え、誘ってみたら快く受け入れてくれた。

 その人達を見送り、ボルカちゃん達も立ち上がる。


「ふっ、作戦成功だ」

「とにかく私達がメチャクチャにして、最後にティーナさんで善性と愛らしさを押し出す」

「それにより、ギャップを感じ心に表れた好感に付け入る……という作戦ですわね」

「そうだったの!?」


 私もまんまと嵌められちゃったみたい……。ウラノちゃんの全面協力があって本当にそうなってるって信じちゃった……。

 なんかモヤモヤするけど、取り敢えずお客さんを呼べたから良いかな……。

 何はともあれそんな感じで疲れる呼び込みを終え、男装喫茶の方に着手する。



*****



 ──“Ⅰ-Ⅱ・男装喫茶”。


「こちら、注文入ったぜ!」

「おう、任せとけ!」

お客様(子猫ちゃん)から次の指示が!」

「この役回りは……俺様系男子(※役)!」

「チッ、メンドーだな(※演技)」


 お店は思ったよりも大繁盛だった。

 客足は良く、午前中の部を担う私達も忙しなく奔走する。

 ホスト部の人達みたいに直接的な接客はしないんだけど、お客さんが求めているのはそれっぽいものだからサービスもしなきゃで結構大変。

 ここまで繁盛している理由を述べるなら、私やボルカちゃん。ダイバースで結果を残した事が関係しているみたい。

 世界的に有名なダイバース。それによって生じる影響は予想よりも遥かに大きくなっちゃうんだね。

 元々ここがルミエル先輩の出身校と言うのも大きな要因の一つかな。


「店員さん。こちらのメニューをください」

「はい。すぐに!」

「健気な感じで可愛いわね」

「あ、ありがとうございます」


「店員さん! こっち向いてー!」

「やれやれ。そんなにボクに気があるのかい?」

「キャー!」


「メガネの店員さ~ん!」

「あまり話し掛けないでくれる? 本当はやりたくないんだ」

「クールな所がステキ~!」


「店員さーん。これして~」

「……この程度の事も出来ませんの? やはり貴女はダメですわね。仕方ありません。私がして差し上げましょう。ほら、お貸しなさい」

「これですこれ!」


 お客様の楽しみ方も多種多様。無視されたり高圧的な対応をされる事を喜んでいる人も居た。

 私には分からない世界だな~。悪口とか言われたり、無視されたら悲しくてシュンってなっちゃう。だけど世の中にはそれを望む人も居るんだね。

 そんな感じでたまに写真撮影とか何故かサイン会とかも入り、午前中の部は終了。午後は店員を入れ替えるから私達が自由に見て回れるの。

 さて、学院祭を満喫するよ!



 ──“学院祭、午後”。


「っしゃあ。アタシ達の自由時間。楽しもうぜ!」

「うん!」

「ですわ!」

「午前中あんなに働いたのに元気ね」


 午後に入り、お昼休憩を挟んだ後に私達は学院祭を見て回る事にした。

 帰りたい人はこのまま帰る事も出来るけど、まだまだ堪能してないもんね。本番はこれからだよ!


「じゃあまずどこから入る?」

「そりゃ当然お化け屋敷っしょ!」

「当然なのですの……?」

「暗くて落ち着くかもね」

「驚かされるから落ち着かないよ……」


 まず赴く場所はボルカちゃんの希望でお化け屋敷となった。

 ずっと行きたがってたもんね~。私としては怖いのは苦手だけど、みんなが居るから大丈夫。きっと!



 ──“お化け屋敷”。


「うらめしい……!」

「キャー!」

「イヤー!」

「何か未練がある設定なのかしら」

「だったらそれはアタシが何とかしてやんぜー!」


 幽霊役の人がヌッと現れ、


「……」

「足が掴まれた~!?」

「ヒィィィ!?」

「お、結構力あんな~!」

「ちゃんと白く塗ってそれっぽく見せてるわね」


 歩いていたらガシッ! と足を掴まれ、


「ァ゛ア゛……!」

「わあ!?」

「キャッ!?」

「おっゾンビ!」

「シンプルね」


 単純に驚かされ、


「なにコレ~!?」

「ゾクゾクゾクって感じますわ……!」

「ヌメヌメしてるな~」

「スライムの一種かしら」


 謎の滑った固形物が首筋に当たり、暗いのもあって色んな方法で怖がらされちゃった。

 私とルーチェちゃんは結構驚いていたけど、ボルカちゃんは終始楽しんでたしウラノちゃんは冷静だった。怖がるのと怖がらないので見事に二つに分かれたね。

 怖いけど楽しかったお化け屋敷を終え、更にどんどん学院祭を満喫していく。



 ──“魔導的当て”。


「そら!」

「やあ!」

「はいですわ!」

「こうかしら」


「大当たり~!」


 男装喫茶でも出されている的当て。更に本格的なそれをして景品を受け取った。



 ──“魔魚釣り”。


「っしゃ“魔弾”!」

「えい!」

「“魔弾”」

「それですわ!」


『ギギャア!』

「お、釣れたね~」


 魔力を当てては魔力の糸で行う釣り。って、本物の魔魚なんだ。



 ──“クレープ屋”。


「これくださーい!」

「あ、美味しい!」

「美味ですわ!」

「学生が作った割には良いわね」


 カラフルで甘くて美味しいクレープを食べ、


 ──“チョコバナナ”。


「これもくださーい!」

「これも美味しい!」

「美味ですわ!」

「バナナにチョコを塗ってるだけなのにこんなに美味しいのね」


 またまた甘くて美味しいチョコバナナを食べ、


 ──“焼き魔鳥”。


「これも貰いまーす!」

「甘い後にしょっぱいのは良いね~」

「美味ですわー!」

「飲食店率高いわね……そりゃ他に比べたら一風変わった男装喫茶も人気が出る訳よ」


 魔力仕立ての焼き鳥をタレで食べた。

 確かに飲食店は多いかもしれないね。一番手っ取り早く作れるのがそれだからなのかも。

 その後に飲み物も購入し、飲みながら学院内を進む。気付けば午後も良い時間帯に差し掛かっていた。


「もうこんな時間か~。くぅ~。まだ全然足りないぜ!」

「明日以降もしばらく続くから、全部は分からないけど……そのうち行けると思うな~」

「そうですわね。後日は演劇の方もありますし、今日はこれくらいにしておきましょうか」

「最終的には食べてる方が多かったわね」


 まだまだ全部のお店は回り切れていないけど、学院祭は数日に渡って執り行われる。なので今日は切り上げ、男装喫茶の後片付けの手伝いをする事にした。

 あ、でも装飾はそのままだよ。学院祭は続くからね!

 初めての学院祭、初日。それは一先ず成功を収めるのだった!

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