第百十五幕 学院祭の準備
──“数日後”。
「……それでは、今度行われる学院祭の出し物を決めようと思います」
ダイバースの新人戦、都市大会から少し経ったある日。“魔専アステリア女学院”では後日に開かれる学院祭の準備が着々と進められていた。
それに伴い、私達のクラスではどんな事をするのかの話し合いが行われる。
「アイデアがあるのなら挙手して出してください。マジックボードに書き記して行きますので」
「はーい! お化け屋敷!」
「はいはーい! 展示会!」
「飲食店ですわ!」
「魔導的当て!」
「手作りで何かしたいね~」
「他のクラスや高等部も見て回りたいから自由時間は多く確保出来るのが良いな~」
委員長さんに言われ、みんなは一気に名乗り出す。彼女はその言葉と同時に書き記していく。
スゴい手際の良さ……。流石クラス委員長に選ばれるだけあるね~。
「“魔専アステリア女学院”では学院祭も文化祭も混合です。なので出し物を決めた後で如何様な演劇を執り行うかも話し合う必要があるので迅速に行きましょう」
「「「はーい!」」」
「お前ら……私の授業より委員長の話の方が聞き覚え良いな……」
そう、やる事は沢山ある。全寮制だから屋台とかの作成は十分に時間が取れるとして、各クラスごとに演劇もあるから出し物の方は早く決めて演劇の練習もしなくちゃならないの。
出し物と言っても中等部でやれる事は限られちゃうから、サクッと決まるかな。私は初めての行事だからどれも楽しみだけど!
「では、各種候補に主張し、それに投票していきましょう」
「お化け屋敷は他のみんなを驚かせるイタズラ心と遊び心が良いと思うぜ! アタシは他人を驚かせたい! しかもお化けや幽霊のコスプレもまた楽しいだろ!」
「展示会は何より自由! 自分達は何もしなくて学院祭を見て回れるようになります! しかも、飾る物を集めたり作ったりという開催までの楽しみも充実しているよ!」
「作るという点なら飲食店は王道ですわ! 食材を集め、みんなで楽しくお料理しますの! 自信の料理スキルも上がり、何より他校や一般からいらっしゃるお客様。主に殿方に自分の料理スキルをアピール出来ますの! 出会いのない女学院。唯一とも言える機会ですわ!」
「「「…………!」」」
ルーチェちゃんの言葉にクラスメイト達は息を飲む……って、そんなにかな……?
私は別にあまり気にならないけど……みんなは気になるみたい。しかしそれに異議する声も上がる。
「お待ちになって! まだ私達は中等部の一年生ですわよ! 殿方へのアピールは高等部からで十分! まだその様な機会ではありませんわ!」
「そうだそうだー! 品がないぞ皆の者ー! うちの担任を見てみろー! 美人でスタイルも良くてモテない要素が見当たらないのに男の噂は全く無いんだぞ~!」
「「「……!」」」
「ハッとするな貴様ら! その主張で私を出す必要は無かっただろ!」
「魔導的当てなら魔力操作の練習にもなるし、お客様達と交流も深められて良いよー!」
「貴様に至っては私を無視して主張するでない!」
「チャンスって思いました~!」
「なんのだ!?」
「アハハ……」
自分の出し物へのアピール。時折先生も交えながら話し合いは進んで行き、最終的に決まった物は──
「では、私達Ⅰ-Ⅱの出し物は“男装喫茶”になりました」
「「「イエーイ!」」」
「……え?」
男装喫茶。
いや、別にそれはいいんだけど……今まで全く音沙汰無かったのにこんな急に決まっちゃうの……?
以下、クラスのみんなの意見。
「考えてみたら男物の服を着るってなんかワクワクするしな! 制服もスカートとかだし、私服を着る機会は少ないから楽しみだぜ! お化け屋敷でやりたかったイタズラもコスプレも叶うしな!」
「交代制なら自由は確保出来るもんね~。それに、喫茶に展示物を飾れば展示会の云々も確保出来るよ!」
「喫茶店なら飲食店と然して変わりませんもの! それに、他者と近くで触れ合う機会もあって私の望みは大凡叶いますわ!」
「魔導的当てもお楽しみコーナーみたいなのに設置して貰えるようになったんだ~。これなら私のやりたかった事も出っ来る~」
以上、現場からでした。
何はともあれ、それぞれの主張ややりたい事が男装喫茶なら両立出来るからこれ以上に無い選択肢だったって訳だね。
確かに男の子の服を着るなんてした事無いし、未知へのワクワクもある!
これで私達のクラスでの出し物は決定。次は演劇の方で、何の劇をやるかだね!
「それでは先程と同様、やりたい劇があれば挙手して案を出してください」
「そりゃもちろん、この世界では知らないやつが居ない“英雄冒険譚”だろ!」
「ここはやっぱり“夢幻の恋路”ですわ!」
「“眠れる記憶の流星群”にしない?」
「“神様旅館”! “神様旅館”!」
「“幻王と現姫”がいいよー!」
案は一気に集まった。本当に早いね……みんなやりたい演劇が多くあるからさっきよりも断然早く集まったみたい。
そして常例としてアピールタイム。みんなのプレゼンが始まる。
「それでは皆さん。自分達の主張をお願いします」
「“英雄冒険譚”はかつての英雄達の旅路を描いた作品だ! 物語はシンプルで争いに溢れる世界を、その世界に大切な者を消されてしまった主人公が変えて行く話だぜ! 知らない人は居ないし、お客さんの中に小さい子が居ても分かりやすい構成になっている!」
「“夢幻の恋路”は夢の中で出会った人が忘れられない主人公が幻の恋を掴む為に奮闘する話ですわ! その物語には様々な教訓が隠されており、きっとお客様からも大好評間違いなしですの!」
「“眠れる記憶の流星群”は幼い頃に結婚する約束をした主人公が約束を守る為に流星群の日の夜、その相手と愛の契りを交わすハートフルなボーイミーツガールの物語だよ! 大切な思い出とかは他の人にもあると思うし、きっとみんな共感するよ!」
「“神様旅館”は神様達の世界で疲れきった神様を別の神様がお世話して心労とか様々な疲れを癒していくお話だよ! 心温まる優しい話で、物騒な戦いとかドロドロした恋愛模様とか無いの!」
「“神様”って単語が多い……! コホン。“幻王と現姫”は別の世界に居る王子様とお姫様がふとした切っ掛けで出会い、幻と現の世界を行き来する美しい物語なの! 夢に溢れた素敵なお話だからみんなが楽しめると思う!」
物語のあらすじとそれを演じる事で、どの様な印象を受けられるかなどアピール。
どれも素敵な物語だねぇ~。どれでも良い……って言うと印象が悪くなっちゃうけど、どのお話も楽しそう!
そんな感じのアピールタイムも終わり、選ばれた演目はこれ。
「それでは投票の結果、Ⅰ-Ⅱが行う演劇は“蕾のお姫様”となりました」
「「「イエーイ!」」」
そして、決まったお話は“蕾のお姫様”という物語。
ざっくりとしたあらすじは、花の蕾の中に生まれた小さな女の子が外の世界に憧れて、ある日蕾の外に飛び出すの。
初めて見る外の世界は蕾くらいの大きさしかない女の子にとってはとても大きくて広くてキラキラしていた。
白いネズミさんと外の世界を走り回ったり、鳥さんに空へ運んで貰ったり、お魚さんと水の中を冒険したりとその目で広い世界を見て行くの。
だけど、旅は楽しいけど蕾のお家が恋しくなり、そろそろ帰ろうとした女の子は帰り道が分からなくて途方に暮れてしまう。
そんな女の子の前に家出した樹の王子様が現れる。話を聞き、蕾のお家が気になった王子様は女の子のお家まで送り届けるというお話。
その先に待ち受ける波乱万丈な旅路。果たして女の子は蕾のお家に帰れるのか。蕾は花開く時が来るのか……。
ってな感じ。私もママと絵本で読んだ事があるよ。知っているお話なの!
それにつき、配役を決める。やっぱり王子様と女の子の役が人気だね~。
私的にも女の子の役をやりたいからそっちに立候補。王子様役は人数が多かったけど、すぐに決まったみたい。
「それじゃあ、王子様はボルカさんね。個人票から演技力で決定です」
「くっ……私も王子様の役をしたかったですのに……!」
「貴女はお姫様に意地悪するお姉様役の方が似合ってると思うわ」
「なんて事をおっしゃるんですの!? ウラノさんこそその役がお似合いですわ!」
「私はもう侍女役で決まってるから。というよりは仕立て上げられた」
「あら、そう言えば立候補も何もなく一瞬で決まってましたわね。くぅ~。私も早く別の役を見つけなくては!」
「頑張って」
そんな感じで、決まったのはボルカちゃん。ウラノちゃんは侍女役に抜擢されたんだって。
そして女の子役も決まった。
「では、主人公の女の子役。兼、演出担当にはティーナさんで良いですね」
「「「はーい!」」」
「やった! けど、演出担当も……仕方無いけどね……」
「頑張れよー。ティーナ!」
兼任で私に。
抜擢された理由は女の子の性格に似ていて、植物魔法を使えるからだって。
タイトル通り蕾が話の核心。なので植物魔法が使えるのは大きなアドバンテージになったみたい。その代わり物語上の演出として出番以外のシーンでも魔法を使わなきゃだね。
場合によってはセリフの途中で使ったりしなきゃならないから労力も倍。でもママ達にはママ達の意思があるから関係無いよね。
何はともあれ、他のみんなの配役も決まったので開催日まで練習しなきゃね。そして男装喫茶の準備もしなきゃ! よーし、頑張るぞーっ!
──“演劇練習”。
「キミはどこから来たんだい?」
「わたしはツボミの中から。あなたはどこから来たの?」
「ボクはこの樹で生まれたのさ!」
セリフの間隔や波長。呼吸を合わせたり結構大変。特に主人公の私はセリフの量も多いもんね。
でも数日で覚えなくちゃ! それにただ言うだけじゃなくて動きを付けてミュージカルみたいにする感じ!
──“学院祭準備”。
「ここの装飾はどうする?」
「やっぱりクールな感じだな。男装喫茶だし!」
「限られた費用でより高級感も出したいわね」
「いらっしゃいませ。ご主人様……じゃないよね~」
「それは男らしく無いものね~。男装ホスト部を参考にして……いらっしゃいませ。マドモアゼル……とか!」
「今日はよくぞお越しくださいました。マダム」
「殿方のお客様が来た時はご友人と接するみたいに……よお。お前も来たのか。へへ、楽しんでいってくれよ!」
「いらっしゃい。空いてる席にテキトーに座っててくれ」
「ちょっと投げやりな感じですわね」
「どうコレ~? 買って来たんだ~」
「お、いいねー。それじゃこれは此処に置いて……これは彼処!」
「それじゃあ此処には──」
自分達で材料を集め、オシャレな感じに彩る。
男装喫茶だけあってイメージはキュートよりクール。黒とか白を散りばめたシックな雰囲気としたり、ちょっとした遊び心を入れてみたり、夕飯の時には食堂に行ったり人によってはここに残って飾り付けしたり、それぞれの夜を過ごす。暇があるなら放課後とか休み時間にも準備をしたよ!
そんなルーティンの日々が数日間。順調に進み、当日までには完成した。
そしていよいよその日、“魔専アステリア女学院・学院祭”が始まるのだった。




