第百十幕 いつもの日常
──“数日後”。
体育祭から少し経ち、残暑もすっかり落ち着き、肌寒くなってきた頃合い。学院の制服も冬服となった。
厚い生地に上着、少し長めのスカートで冬らしい装い。相変わらずデザインも可愛いよね。
鏡の前で身嗜みを整え、左右に頭を振って前髪とかの確認。つまりいつものルーティン。
ママ達を持ち、自室の扉を開けて教室へ。
「おはよう。ティーナさん」
「おはようございまーす!」
「あ、おはよー!」
今朝はボルカちゃん達と会わなかったけど、前の体育祭を通じて中等部一年生の人達とは通りすがりに挨拶を交わすくらいには進展したんだー。
今ではすっかり馴染んだと思うよ!
そのまま教室に入り、クラスメイトと軽く挨拶を交わしたり数言話したりして席に着く。
既にウラノちゃんは来ているね。ルーチェちゃんはそろそろ来るとして、ボルカちゃんはまた寝坊。
そんないつも通りの朝を過ごし、朝のホームルームを迎える。
それも終わって少しの休憩の後、授業が始まった。
──“語学”。
「それについてこの作者は──」
一時間目の語学。音読が中心だからボルカちゃんはぐっすりだね~。
──“数学”。
「ここの公式を──」
二時間目の数学。計算が中心だからボルカちゃんはぐっすりだね~。
──“魔導科学”。
「ではその液体の中に魔力を込め、性質を変化させてみよ」
三時間目の科学。実験が中心だからボルカちゃんはちゃんと起きてる。
──“体育”。
「それではササッと運動しておくぞー!」
四時間目、お昼前の体育。ボルカちゃんは張り切っており、いつも通り大活躍だった。
──“お昼休憩”。
「お昼だ~! お腹空いた~!」
「メシだーっ!」
「お下品ですわ。ボルカさん」
「ティーナさんも子供みたいよ。年齢的にはそうだけど」
授業が終わり、お昼の時間になった。
今日はお弁当を持参。学食とか売店で買った物でも良かったけど、たまにはこう言う日も良いよねって事でそうなったの。
色鮮やかなお弁当を見せ合い、みんなで美味しく食べる。
おかず交換とかもし、お昼休憩が過ぎていった。
──“歴史”。
「──そして英雄達は世界を去り、聖域やら天界とやらに行ったと伝えられている。授業とは思えぬこんなお伽噺みたいな内容だが、ちゃんとテストには出るから覚えておけよー。まあ、今を生きている私達には確認のしようがない世界だがな」
つまり英雄達は今も聖域や天界って言われる場所に居るって事なのかな。
長寿のヴァンパイア族とかとも関わりがあったみたいだし、記憶がもたないとしても誰一人英雄達の存在を話さないのはそれこそ変だもんね。
でも、聖域でも天界でも私達に確認する方法は無い。ママなら──何を思ったんだろう。変なの。そんな訳無いのに。
眠気に包まれる歴史の時間も過ぎていった……なんで一、二を争うくらい眠くなる歴史を五時間目に持って来るんだろう……。
文句言っても仕方無いんだけどさ。
──“魔導実技”。
「それでは二人から三人くらいでペアになって魔法や魔術を撃ち合えー」
「先生ー。大雑把過ぎでーす」
「気にするな。やるのはいつも通りだ」
六時間目は体育とはまた別の魔導実技。
私はボルカちゃんとペアになり、魔法と魔術の練習。そろそろ新人戦の都市大会もあるし、授業も含めて練習しなきゃね。
魔力の調子は日によって変わるし、落ち着かせる時と激しく発散する時とか分けていこっか。
──“魔導薬学”。
「この薬草とこの薬草を調合すれば簡易的な傷薬が作られます。まあ、今の時代余程の事が無ければ必要になる機会なんてそうそうありませんよ。前にも言ったように遭難してどうしようもない時くらいです。しかし、配分を間違えれば体へ不調を起こす毒にもなり兼ねないので気を付けましょう」
七時間目の魔導薬学。薬の調合とか薬草の扱い方とかそう言った事柄を中心的に。
植物魔法の解釈を広げるとして、ダイバース中の回復とかルーチェちゃんと合流出来ない時には重宝出来そうかな。
これで全ての授業は終わりを迎えた。
「よーし、部活動だー! 本番に備えて頑張るぞー!」
「私も個人戦には出られませんが、団体戦では今度こそ活躍して見せますわ!」
「おーおー、気合い入ってんなー。アタシも負けてらんねーぜ!」
「お熱いのね。貴女達」
「私もやるぞー!」
「頑張りますぅ~」
「私も新部長として恥ずかしくない戦いをしなければな」
放課後、いつも通り部活動を開始した。
だけど大会前だから仕上げくらいで、あまり疲れを残さないような鍛練を中心的に行っている感じかな。
個人的なパワーアップから団体戦用の連携など色々。来年から高等部に上がるリタル先輩は主にレヴィア先輩と特訓しているよ。
私達、中等部組はその全員で!
「これが私の! “リーフカッター”!」
「おお、スゴいな。ティーナ。切断力が高い葉っぱか!」
「そう言いながら簡単に燃やしてるー! やっぱり水分を少し多めにした方が良いのかな……でもそうしたら柔らかくなっちゃって切れ味が落ちちゃうんだよね……」
「まだ時間はあるんだ。焦らず行こうぜ!」
「“聖なる天幕”!」
「聖魔法と光魔法を組み合わせてバリアを創ったのね。前から試そうとしていた事かしら」
「そうですわ! しかも入っているだけで回復出来るスポットの追加効果付与!」
「でもこれじゃ移動が出来ないわね。まあ通常の防御魔法でも移動はあまり必要としないけど。それにバリアとは言ったものの結構脆い」
「まだ完全ではありませんからね……。強度がしばらくの課題ですの」
「メリア先輩。動いている標的を狙いたいので役割を担ってくれますか?」
「メリア先輩。私の方には攻撃を仕掛けて強度アップの手伝いを頼みますわ!」
「逃走の的に攻撃に……君達ぃ、私を便利屋とか何かって思ってない? 逃げながらの攻撃は私の練習にもなるから良いけど、もうちょっと敬意をだね」
「す、すみません。ルミエル先輩の指導でよく標的にしていたのでつい……」
「速度もあって攻守にも有用な先輩の箒技術と風魔法は重宝出来るんですの!」
「ホントにただの便利屋……というか的……ええい! 後輩達の要望に応えるのは先輩の役目! やってやるぞー!」
半ばヤケだけど、ちゃんと相手をしてくれるみたい。メリア先輩って親しみやすさがあって接しやすいよね~。
そんな感じで部活動も過ぎていく。前述した通りだからあまり疲れてないよ。なるべく早めに切り上げたからね! 帰ってすぐに課題をする気力も残ってるくらい!
──“学院寮”。
「っし、宿題終わり~。夕飯までお菓子食べたり話したりして過ごそうぜ~」
「夕飯までなのにお菓子食べるんだ……」
「食い意地が張ってるわね」
「私は良いと思いますわよ」
一、二時間後、私達はボルカちゃんの部屋で課題を終わらせた。
最近は四人で過ごす事も多くなってきたね~。やっぱりこの間の長期休暇での親交が私達の親睦を深めたのかな。前にも似たような事思ったかも。
何はともあれ、夕飯まではあと三十分くらい。今からお菓子を食べたら食べられなくなっちゃう。
なので軽く雑談だけをし、少し経って食堂へ向かう。
「っし、ガッツリ食うぞー!」
「ボルカちゃん。なるべくお淑やかにした方が良いんじゃ……」
「確かにお腹ペコペコですけれど、テンション高いですわ」
「夕飯は少量の方が健康的なのよ」
寒くなってきたので夕飯は温かい物を中心的に。シチューやスープは基本的なメニューにずっと入ってるけどね~。
そんなご飯も食べ終え、またボルカちゃんの部屋で数十分間の雑談を。休憩の後、お風呂へと向かった。
「はあ、やっぱり一日の締めは風呂だな~」
「そうだねぇ。いつも入ってるけど、やっぱり落ち着く~」
「でも髪を洗うのは毎度大変ですわ~」
「それは貴女の金髪縦ロールが原因よ」
体を洗ってお風呂に入り、ホッと一息。
髪を洗うのが大変というルーチェちゃんは髪を下ろしており、綺麗な金髪が湯船に浸かっていた。
みんな体を洗ってから入るしお風呂には浄化の魔道具も使われているけど、衛生面的には大丈夫なのかな。
いつもこうだから本人は気にしていないんだけどね~。
このゆったりとした雰囲気も好き。授業に部活動に毎日が忙しないもんね。
お風呂でものんびりと過ごし、上がった後でおやすみを言い、みんなと別れた。
「はあ……今日はいつも通りって感じの日常だねぇ~。今までもこんな感じだったけど、随分と久々な感じがする~」
お風呂上がり。テーブルの椅子に座る。湯冷めしちゃうかもしれないけど、この涼しさが癖になるんだ~。
ライトを点けたドールハウスの前でママとティナへ話、静かな夜の環境を楽しむ。
「最近はなんだかママ達とあまり話せていない気がするな~」
『フフ、お友達が居るから仕方無いじゃない。寧ろ、他の子達が居て貴女が元気ならそれで嬉しいわ』
『そうそう! それにちゃんと試合では戦えるからねー!』
『アタシとは普通に話してるんだから良いだろ?』
「そうだよね……うん。きっとそう」
静かな夜。私を含めて四人居るのに、聞こえる声は何故か一つだけ。あ、ティナは私だから実質三人か。それでも声の数は合わない。
ボンヤリとドールハウスを眺める。橙色の小さな照明に小さなテーブルと椅子にベッドやキッチン。今は寮だけど、将来的には寮も屋敷も出てこんな感じのお家に住むのかな。
ボンヤリしてたら眠くなってきちゃった。もう寝よっか。明日も授業で部活動。そしてすぐに始まる新人戦の都市大会。体力は残しておかなきゃね。
「おやすみなさい。みんな」
『ええ、おやすみ。ティーナ』
『おやすみー』
『アタシとはさっきしたからしなくていいな~』
みんなとの会話を終わらせ、ベッドの中へ。夜の冷え込みも強くなってきた頃合い、ひんやりとした温もりのない毛布が身に染みる。
目を閉じながら今日あった事を思い返す。何の変哲もない、いつもの平和な日常。明日も明後日も、ずっとこんな日になると良いな。
そんな事を考え、深い意識の底へと沈んで行くのだった。




