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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第十一幕 初日の終わり

「部活動かぁ……」


 自室の机で出された課題をしながら呟くように考える。

 夕食の時に話したクラブやサークル加入の検討。それは確かに魅力的。友達も更に増えるかもしれないし、先輩や今後に入ってくる後輩とも繋がって自身のコミュニティの輪も広がる。

 自分で言うのもなんだけど内気な方だし、何らかの形で広げていかなきゃならない気もする。


『いいじゃない。ティーナ。お友達が増えるなら歓迎よ!』

『そうだよ! ティナも応援する!』


「ママ。ティナ。うん……やってみるのもいいかも」


 二人に言われて少し揺らぐ。

 今日見て回った部の中で、興味が出たのはダイバースくらい。男装ホストはある意味気になったけど、私がするという方向じゃないもんね。

 ……また行ってみるのは悪くないかもしれないけど……。


「ティーナ! 風呂行こうぜー!」

「ひゃ! ボルカちゃん!?」

「ん? どしたー?」

「な、なんでもなーい! 今行くー!」


 考え事している時にやって来たボルカちゃんのノック。

 それに変な声で返しちゃったけど、誤魔化せたかな?

 私は終わらせた課題を閉じてバックに入れ、ママとティナを抱えて部屋の外に出た。


「それ、浴場にも持っていくのか?」

「うん。私のぞ……大切なものだから」

「……? へえ。まあ、凶器とかじゃなきゃ私物の持ち込み禁止はされてないけど、濡れるかもしれないぞ?」

「大丈夫! 魔力でコーティングされてるから!」

「成る程……だから通して魔法を使えるのか」

「まあねー」


 魔法が使えるのはママとティナで、今は仮初かりそめの姿だからこうなってるけど、いつかきっと戻ってくる。ママも治るって言ってたもん!

 だけどこの学院で、私達だけで居る時以外はお人形さんのフリをしているから話さない。二人とはずっと一緒!


「ま、それを使って浴場で暴れまわるとかじゃなきゃ禁止じゃないな」

「そんな事しないよ~」


 冗談混じりに言い、広い渡り廊下を進んでお風呂場へ。

 入り口を通り、タオルバスケットを持って衣服を……って、他の子達の前で裸になるんだ私……!

 女性の使用人さん達には何度も見せてるけど、全員が初対面なのは恥ずかしいかも……。


「……や、やっぱり私は後ででいいかなぁ……なんて……」

「オイオイ、何を今更恥ずかしがっているんだ? 女同士だし、別に気にする事でもないだろ?」

「それでも気になっちゃって……恥ずかしい……」

「おぉ……こんなに初々しいのを見ると何かに目覚めそうだ」

「冗談はやめてよボルカちゃーん!」

「ハハ、悪い悪い。ま、さっさと入っちまおーぜ。とんでもないスタイルとか凄まじい美人とかじゃなけりゃ、そんなジロジロ見られる事も無いって」

「わわ……!」


 ボルカちゃんに引っ張られ、なし崩しで浴場へ。

 この学院のお風呂は白亜の大理石造りの大浴場で、何十人も入る事が出来る。けど今は十人居るかなくらい。

 他の人達は入ってきた私達を一瞬見たけどすぐに友人達との会話に戻る。うん、誰もこっちを見てないね。ママとティナは洗面器の中に入れてるから見つかってないし。

 それについては安堵し、椅子に座ってシャワーを浴びる。

 この学院では排水口が浴場からそのまま直結しているから浴槽以外でも浴びられる構造。すみに溝があって流れていく感じだね。


「ティーナ肌白いなぁ。羨ましい」

「そ、そうかな? けどボルカちゃんも健康的な色合いだよ」

「アタシはアウトドア派だからなぁ。スキンケアもしてないし、ずっとこんな感じだ」

「けどスベスベしてるよ」

「いつの間に……けど指先から分かるけどティーナの手も柔らかくて滑らかだな」

「アハハ……手先は器用だから……」

「確かに。人形魔法だもんな。間接が重要だし自然とそうなるか」


 気付けば周りの事など気にせず話し合えていた。

 今まではママやティナと一緒にお風呂に入っていたけど、友達と入るのも楽しいね。メイドさん達の目も無いから寛げる。

 泡にまみれた体を流し、私とボルカちゃんは湯船に浸かった。


「はあ……気持ちいい……。今日は初日で疲れちゃったから身に染みる~」

「年寄りみたいな事を言うな~」

「そんなんじゃないよ~」


 ザパァ……と人数が二人分増えたのでお湯が溢れて流れ出る。

 湯気が立ち込めているけど丁度良い温度でとても心地好い。


「落ち着くねぇ……気持ちいい……」

「溶けてるぞ~。ま、ここのお風呂は確かに良いけどなぁ~」


 腕を伸ばし、浴槽の縁へ寄り掛かるように寛ぐボルカちゃん。

 動きによって透き通った水滴が赤毛から垂れる。ポチャン……とお湯に落ちる一瞬、周りが静かになった気がした。


「……? どしたー。アタシを見つめて」

「え? あ、いや……同年代の女の子と一緒にお風呂入った事無いから……なんだか新鮮で……」

「そっかー。アタシは初等部からだから慣れてるけど、普通はそうだもんな。ここに入ってから新鮮な事だらけだろ」

「うん。まだ初日だもんね。一日が本当に濃く感じるよ。スゴく楽しいけど!」


 互いに笑い合う。

 学校が楽しいのは本当。周りの子達とはあまり話してないけど、積極的に話し掛けてくれるからね。

 そうだ。せっかくだしボルカちゃんに相談してみよっかな。


「ボルカちゃん。折り入って相談があるんだけど、いいかな?」


「ん? 構わないさ。アタシ達の仲だろ。で、相談ってなに?」


「部活動の事。入部するかは決めてないけど、仮入部ならルミエル先輩達の所に行ってみようかなって思ってて……良かったらボルカちゃんもどうかなって……あくまで仮入部としてだけど」


「ハハーン。興味はあるけど一人じゃ不安だからアタシもって魂胆か~」


「アハハ……ピンポーン、大正解。どうかな?」


 わざわざ相談しているんだもんね。全てお見通しかぁ。

 不敵に笑うボルカちゃんの真偽は不明。どうだろう……。断られても行くけど、やっぱり寂しい。

 その返答は、


「いいぜー!」

「いいの!?」


 軽く返された。

 それはもう、本当に軽いノリ。ちょっと魔道具屋寄ろ~みたいなテンション。

 驚きを見せる私に彼女は「ああ」と頷いて続ける。


「アタシも興味あったし、楽しかったからな! かくれんぼ!」


「やったー! それじゃ明日行こっ! 本番は明後日にあるみたいだし!」


「OK。入部するかどうかは改めて雰囲気を見てからだけど、それはそれとして仮入部くらいなら軽い気持ちでやれるしな!」


「わーい!」

「っとと、抱き付くなよティーナ。ここ、お風呂だぞ?」

「あ、そうだ……!」


 思わず裸でボルカちゃんに抱きついちゃった。

 お風呂のお湯も揺れて溢れちゃったし、周りの子達から変な風に見られてないかな……。


「あら、あの子達……」

「もしかして……」

「多様性の時代よ。それもまた人生」

「金髪のオッドアイに赤毛赤目。絵になるわね……」


「うへぇ……」

「ハハハ……周りの目が生暖かいな……」


 思いっきり勘違いされちゃったかも……。

 うぅ、気まずい雰囲気。十分暖まったし、そろそろ出ようかな。


「顔が紅潮してるなぁ。そろそろ出るか」

「うん、ボルカちゃん……」


 ボルカちゃんは全然気にしてないみたいだけど、気を遣ってくれたのかな。

 でも誘えたし、明日は授業の後に行けるんだね! それはちょっと楽しみ!

 私達はお風呂から上がった。



*****



「──それでね、ママ。ティナ。聞いてたと思うけど明日ダイバースの部活に行くんだ~。楽しみ~♪」


『ふふ、それは良かったわね♪』

『きっと楽しいよ! 先輩達も優しそうな人だったもんね!』


 お風呂から上がり、パジャマに着替えた私はベッドに寝転がってママとティナに話していた。

 思わず浮き足立ち、左右の足をパタパタ上下させながら胸を踊らせる。

 部活自体が楽しみだけど、何よりボルカちゃんと一緒にやれるのが嬉しい。

 けどいきなり実践になるから、もう少し魔法の幅を広げておきたいかも。


「魔法の練習もう少ししたいねぇ。ママの植物魔法にティナの感覚共有。これをもうちょっと上手くすれば色々出来そう」


『そうね。植物はその成長力や個々に秘められた能力が数多くあるわ。明日辺り、図書室で魔法植物の本を借りたら勉強になるかもしれないわね』


「うん。じゃあ借りる。本は好きで色々読んでるけど、“物語”が主体で“図鑑”はあまり読んでなかったから良い機会かも!」


『ティナはティナの射程範囲を伸ばすと良いと思うよ! より遠くを見ればその分有利に運ぶし、音や気配での探知が出来れば絶対自陣の役に立てる!』


「そうだね。まだ正式加入するかは分からないけど、ダイバース以外にも色々使い方はあるし、今後の活用も捗りそう!」


 多様性がある植物魔法に利便性の高い感覚共有。今まで魔法の練習なんてした事無かったけど、やれる幅が広がるって楽しい!

 学校での楽しみがまた一つ増えたね!


「ふわぁ……なんだか眠くなってきちゃった……結構話したもんね……」

『ふふ……それならゆっくりお休みなさい。よく眠り、よく……』

『おやすみ、ティーナ……』

「うん……二人とも……」


 微睡みに沈み、ママとティナの声が遠退く。ああ、柔らかいベッド……私のお家も気持ちいいけど……ここも負けてない。

 ……そう言えば、眠る前はまだ私の意識があるのにママ達は話さなくなっちゃうね。何でだろう……。

 そんなどうでもいい疑問を思い浮かべながら、私の意識は夢の世界へと落ちていく。


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