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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第百八幕 押し出しゲーム

「惜しかったですね。ティーナさん。ボルカさん、ウラノさんにルーチェさんにミナモさん」

「でも、ルミエル先輩相手にあの大健闘!」

「ウラノさんとルーチェさんも高等部の三年生達をあんなに足止めしてスゴかったです」


「アハハ……ありがと~」

「へへ、期待には応えられなかったけどなー」


 ──私達が試合に敗れ、クラスメイトのみんなが励ましてくれた。

 三試合目で負けちゃったのは残念。試合数で言えば次とその次がまだあったのにね。

 だけど切り替えて行かなきゃ。これはあくまで体育祭のちょっとした催し物。本番のダイバースではもっと頑張ろっと。最強の存在を体感出来たから次に繋がると思う!

 そんな感じで次の試合も終了。勝ち上がったのは誰もが予想したチームだった。


《学院対抗ダイバース。最終種目。高等部三年生vs高等部三年生。種目は“押し出しゲーム”となります》


「押し出しゲーム……?」


「魔力をもちいた……日の下(ヒノモト)にある相撲って競技の多人数バージョンだな。とは言え、魔力を使わない人も居るから、ネーミングなんて飾りみたいな物だ。ルールも単純でチームごとにコートに入って、先に全滅した方が負けって感じ。コートの外に出る事は出来ないけど、中なら自由。バトルロワイアルの方が馴染み深い名前かもな。そっちだと殺伐として体育祭って雰囲気じゃ無くなっちゃうけど」


「外に出たら負けだから押し出しゲーム。確かにバトルロワイアルゲームよりはチャーミングな名前だね」


 ルールも全て名前通りの簡単な物。私達もダイバースで似たような事はやってる。丸い名前にする事で和やかな雰囲気にしているのかな。

 より多くの相手を外に出したら勝ちならルミエル先輩有利に思えるけど……まあ全部のゲームに置いてもルミエル先輩が有利なのは大前提として、今回は先輩の一強って事にはならないかもしれない。

 何故なら決勝戦の相手は──


「ふふ、久し振りに貴女とやれるわね。イェラ。高等部二年生の時の個人戦以来かしら?」


「もうそれくらいになるな。約一年前だ」


 イェラ・ミール先輩。

 新人戦の個人戦では戦った事があるらしいけど、それ以来は手合わせとかもしてなかったみたい。

 “魔専アステリア女学院”のみならず、世界的に最上位の存在二人。言わば最強vs最強の試合。チームメイトには他の高等部の三年生達も居るけど、主体は完全にこの二人。何者も邪魔はさせない。そう言った雰囲気をかもし出していた。


「楽しい戦いにしましょうね。イェラ」

「ああ。既に楽しみだ。一年振りの君は」


 種目は発表されたので先輩達は転移の魔道具で今回のステージに移行する。

 ルミエル先輩vsイェラ先輩。この戦いは見逃せない……!



*****



 ──辺りには静寂の世界が広がっていた。

 色で言えば灰色。光の少ない仄暗い世界に一迅の風が吹き抜ける。

 仮に世界にいつか終末が訪れるとしたらこんな感じの世界なのかしら……と柄にもなく悲壮的な思考に陥る。

 フフ、決勝戦の舞台が華やかでは無くこんなに暗い雰囲気なんてね。魔族の血筋上、嫌いではないけれど陰鬱としちゃうわ。

 敢えてステージ名を付けるなら、終演の舞台……って感じね。終焉と終演を掛けたのよ。


「また何か変な事でも考えているのか。ルミ」

「変だなんて失礼ね。詩的な事を考えていたのよ」

「そうか。そう言えば中等部二年生の時、自作のポエムを私に嬉々として聞かせてきた事があるな」

「若気の至りよ。でもそれを発表したらベストセラーになって大流行したわ。それはそれで恥ずかしさもあったけれどね」

「ホント、本来なら黒歴史と言える事柄すら自身の利得とするなんてな。大したものだ」

「運が良かっただけよ。そして今も、貴女と戦えるのが嬉しいわ♪ さあ、掛かってきなさい」

「そう言うキャラだったか? ルミ」


 挑発的に笑ってみる。創作物ではかつての味方が敵になると高確率でバチバチするものね。それの再現かしら。

 対するイェラはそう言った存在達みたいな反応は示さず、相変わらずの態度で接する。そこも良いところなんだけれどね。


「まあいい。もう戦いは始まっている。わざわざ他の者達が私達の会話を待ってくれているからな。さっさと始めるとしよう」


「そうね。あの子達もお客さんも待たせっぱなしは悪いわ。それじゃ貴女の言葉を復唱して……始めましょうか」


 私とイェラの言葉を聞き、他の子達はみんなが一斉に魔力を込めて私達を狙った。


「“ファイアクラッシュ”!」

「“ウォーターベール”!」

「“トルネード”!」

「“ランドスマッシュ”!」


「“フレイムブレイカー”!」

「“アクアミサイル”!」

「“タイフーン”!」

「“アースドリル”!」


 私とイェラが両陣営の主力なのは間違いない。だからこそ私達の手助けを兼ねて私達を狙ったみたい。

 だったらその期待に応えましょうか。


「──これで終わりかしら?」

「ふむ、やはり高等部の三年生。有象無象よりかはとてつもなく強かった」


 私のチームの子達とイェラのチームの子達。みんなは中級から上級の魔法・魔術。魔導をもちいて仕掛けてきたけど、私達には敵わなかったみたい。

 それにより、コート内の残り人数──私とイェラの二人のみ。

 つまりどちらかがリングアウトしたら試合終了ね。


「結局、私達同士の一対一サシの戦闘になる訳だ」

「そうね。他の子達も強かったけれど、私達にはそう簡単に届かせないわ」

「同年代に“子達”は無いだろう。しかしまあ、丁度良い。決着を付けるとしようか」

「ええ。最初からそのつもり」


 イェラが踏み込み、木刀をもちいて私の眼前へ。私は今日の試合で試しているオートガードで応戦してみるけど、


「ダメみたいね」


 木刀が貫き、私の張った魔力のバリアを容易く貫通した。

 ティーナさん達の魔法や魔術は防げたけど、イェラには通じないみたい。

 その根拠を彼女は話す。


「後輩達との試合を見ていたが、一定以上の攻撃は防げないみたいだな。特に私の刀は一点突破にけている。薄い魔力の膜など容易く突き抜ける」


「見ての通りね」


 刺突に力を込めたイェラの突きは私の魔力をも貫く。

 力が一点に加えられるものね。似たような攻撃はティーナさん達もしていたけれど、彼女の場合はその威力が段違い。即席のバリアは簡単に壊れちゃうわね。


 これも全て魔力の賜物? フフ、違うわ。元々イェラは魔力量が極端に少ない。だから昔は人や他の生物から微量に漏れ出す魔力に当てられて体が弱かったんだもの。

 彼女が使っている力で言えば、強すぎる自身の身体能力でも折れにくくするよう、木刀を強化しているくらい。大半は素の身体能力で担っているの。


 じゃあ何故その様な力を彼女は有しているのか。

 英雄のパーティに居た先祖の血筋? 隔世遺伝や先祖返り? いいえ。ミール家はこの数百年でイェラ以外に特筆した実績のある人は居ない。流石にこの間隔で存在しないのは血筋も何も関係無いわ。


 とどのつまり、イェラ自身の努力の結晶ね。この世界では魔力が少なく生まれてきても差別とかは無いけれど、周りと違っていて疎外感があった筈。そもそも初等部で最初に出会った時は大人しい子だったもの。

 病弱でよく休んでいたから私以外のお友達も出来ず、魔力も少ないという現実に嫌気が差していた事でしょう。


【ねぇキミ、みんなとお外で遊ばないの?】

【ぇ……私は体が弱くて……遊べないの……】

【そんなの変だよ! いっしょに遊ぼ!】

【でも体が弱くて魔力も少ないからおにごっことかかくれんぼも難しいよ……】

【だったらキミにできる遊びを見つけよ! 私はルミエル・セイブ・アステリア。アナタの名前は?】

【……。イェラ・ミール……】


 だからこれは、全てがイェラ自身の頑張りによって生まれた結果。だから私が唯一弱音を吐ける存在。

 フフ、あの時からとても強くなったわね。イェラ。私も。


「お互いに楽しみましょう」

「最初からそのつもりだ」


 魔力を込め、無の弾丸を無数に撃ち込む。イェラはそのうち自分に降り掛かる物を全て木刀で弾き、一呼吸の間も無く私の眼前へと迫っていた。

 それを見切ってかわし、彼女の居場所を魔力の波で覆い尽くす。瞬時にそれを切り裂き、私は咄嗟に魔力でガード。弾き飛ばされてラインのギリギリまで押し出されちゃった。

 危ないわね。一定のラインが決まっている現状、有利なのはイェラ……という訳でもないわね。私の魔力でコート内を埋め尽くす事も可能なんだもの。お互いに有利も不利もないわ。


「ハッ!」

「透かさず追撃……流石ね」

「当たり前の事を褒められても嬉しくないな」

「そんな事言っちゃって。少しは嬉しいでしょう? ふぅ~」

「うひゃあ!? み、耳に息を吹き掛けるな!」

「焦っちゃって。カワイイ♡」

「私相手でも容赦しないな……あらゆる方面で……!」

「そうね♪」


 イェラは五感が鋭い。だから弱いところの感度も高いの。

 でも普通、こんなに近付かれたらやられるのを待つしかないのが彼女を相手にした場合の状況。私だからイェラの耳に息を吹く事も出来るのよ。ある意味強い私の特権ね。


「ね、イェラ♪」

「~っ!? 何をする!? 真面目に戦え!」


 木刀を振られ、それを避けて背中にツーっと指を引く。

 ビクビクビクッ! と微かな痙攣を起こしたイェラは赤面してまた振り抜き、正面に剣筋からなる谷が形成された。


「そんなに怒らないで。楽しむのでしょう?」

「そちら方面で楽しむつもりはないぞ!」


 今一度木刀が振られ、仰け反ってかわす。瞬時に突き刺し、跳躍して回避。

 空中で複数の魔力球を作り出し、イェラ目掛けて連続で射出。でもそれらは簡単に防がれちゃった。


「やっぱり属性くらいは付与しなきゃならないわよね。“ファイア”」

「火は個体ではないからな。突き進むだけで突破出来るからやり易い」

「普通は燃焼とかでそうもいかない筈なんだけれどね~」


 炎魔術で覆ったけれど、意図も容易く突破されちゃった。

 それも分かっていた事。鉄くらいなら蒸発する温度だったのに、イェラには効かないわね。イェラ相手だからこの威力にしたと言えるけれど。


「“ウォーターボール”」

「さながら大津波。先の熱気によって水蒸気となり、中々に相手にし辛いな」

「そう言いながら壊してるわね~」


 コート内だけではなく、ステージを覆う水球を放ったけれど、液体の筈の水を断ち斬って抜けられちゃった。

 大昔の海を割った人の事を素でやってるわね。


「“ウィンド”」

「風なんかなんの意味もない!」

「山くらいなら吹き飛ぶ風なのに」


 前述した暴風も抜け、木刀が振り下ろされる。それを避け、木刀の通った先が真空となって風が霧散した。

 相変わらず規格外ね。イェラは。


「ちょっとは加減してよね。“アースウォール”」

「君こそな!」


 分厚く山のように巨大な壁を形成し、イェラの進行を止める。でも数秒を稼ぐ事も叶わず、紙を突き破るみたいに踏み込んできた。

 その一撃を魔力で受け止めたけれど、またラインギリギリを背にする。本当にヒヤヒヤするわ。


「今のところ、私が幾分有利みたいだな」

「そうかもしれないわね。ちょっと自信喪失……でも、やっぱり私に匹敵する人はまだこの世界に居る事が知れて嬉しいわ♪」

「その意見にはおおむね同意だな。やはり対等な存在を相手にするのは面白い」

「あら、ティーナさん達を相手にした時も楽しかったわよ。どんどん成長する様を見届けられたんですもの!」

「君のブロックが羨ましいな。私も後輩達をしごいてみたかった」

「そっち方面の面白さとは違うけれど……ま、いいわ。まだ楽しみましょう?」


 最強を謳われているけれど、同格の存在はまだ居る。イェラもその一人で、後々はティーナさん達もこのレベルには達するかもしれないわね。

 それに、かつて存在した英雄達。神話でしか知らないけれど、流石に私に多元宇宙崩壊規模の力は出せないもの。過去に居たら私なんて一般兵レベルだったのかもしれないわ。


 何はともあれ、イェラとの楽しい戦い。あーあ、もう少しこの時間が続かないかしら。

 ……フフ、それはワガママね。ティーナさん達とも時間制限が無ければもうちょっと戦いたかったけれど、泣く泣く切り上げたんだもの。お客さん達も飽きちゃうでしょうし、決着はなるべく早めに付けるわ。

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