第百四幕 超大玉転がし・その2
「一気に畳み掛けます!」
「どうぞぉ~」
無数の植物を押し付け、植物の壁からなる質量で圧倒する。
香料魔法でこれに対応するのは難しい筈。倒さなくても動きさえ止めて私が先にゴールすれば良いだけだからね。
「おっと! 危ないぜ! ティーナ!」
「ボルカちゃん……それ私じゃない……」
「ふふふ、助かりましたぁ~」
フォレストスネークを貫通し、リタル先輩へ放った植物をボルカちゃんが焼き消す。
そしてリタル先輩を私って思い込んでいるみたい……なんだろう。この感覚……。胸が痛いような、ムズムズするような変な感覚。ボルカちゃんは私の親友なのに取られた気分……。
「ボルカちゃんを返してください!」
「……おやおやぁ。これは……」
「凄まじい障壁だ!」
ボルカちゃんを取られたくない! たった一人の親友だもん! それが例え先輩であってもこれだけは譲れない。譲らない!
無数の植物を一気に流し込み、通り道を全て埋め尽くして嗾ける。
取られるくらいなら、少しくらいのケガは仕方無いよね!
「返して!」
「何だこの障壁は……!」
「凄まじい迫力ですねぇ~」
植物はボルカちゃんの炎で消されていく。燃え尽きて灰が地に着く。
その横でリタル先輩は杖に魔力を込めていた。
「“強化香”」
「お、なんだか体が軽くなったぜ! これならやれる!」
「成る程。リタル先輩はバフ要因ですか……!」
ボルカちゃんの動きが更に鋭くなった。
リタル先輩の香料魔法で強化されたんだね。でもだからと言って関係無い。
更に大量の植物を嗾けるのみ。
「“ファイア”!」
「ボルカちゃん……」
強化された炎魔術によって押し寄せる植物類を焼き払う。けどまだまだ。
強くなったとしても、私の想いの方が上だもん! 絶対!
「私は……勝つ!」
みんなが操られているならリタル先輩を倒すか先にゴールするか。その為にも容赦はしない。
文字通りの樹海が大波となって迫り、炎で防がれながらも直進をやめない。質量ではこちらが圧倒的に上だもんね。
次第に植物は周りを埋め尽くし、覆い尽くした辺りで魔力を加えて変化させる。
「“樹龍”!」
『ガギャア!』
「植物なのに鳴き声を上げましたね……」
「なんだこの壁は!」
大口を開けた樹の龍。光線のように植物を吐き付け、大木が大地を抉って辺りへと突き刺さる。
これは攻撃だけど、攻撃はあくまでおまけ。最初から目的は戦闘じゃない。既にティナを遠方に飛ばして場所は把握したから!
「先にゴールはさせません!」
「な、なんだ!?」
「辺りに樹が生えたと思ったら……」
「今度は細長い……龍……!?」
「あら、あちらは私のチームメイト。成る程ぉ~。龍さんに変えた時点で移動はしていたのですかぁ~。今までの同じような植物の攻撃は全てカモフラージュって事ですねぇ~」
植物魔法にて派手に周りを荒らしたのはリタル先輩の言うようにカモフラージュ。ボルカちゃんが取られて悔しいから八つ当たりしたのが二割くらい。
本命は大玉を転がしながら進んでいるリタル先輩の仲間達。追い付いたなら即座に倒す!
「やあ!」
「大量の樹が降って来るぞーっ!」
「くっ! “ファイアショット”!」
「“ウィンドカッター”!」
樹の龍を降ろし、先輩達は燃やしたり斬ったりする方面で対処する。
けれど炎が当たっても焦げ目だけ付き、風で斬っても幹の薄皮くらい。
種類にも寄るけど、私達の植物魔法はそう簡単には燃えないし斬れないよ! ボルカちゃんの炎とリタル先輩のバフは例外!
「「「ぐっはあああぁぁぁぁ!!!」」」
「あらあらぁ。やられちゃいましたねぇ。“回復香”」
リタル先輩が回復させたけど、大きな樹の下敷きになった先輩達は身動きが取れなくなる。
リタル先輩は他の先輩達と合流して私から離れる。まだボルカちゃんは残っているけど、ボルカちゃんだけならまだ逃げ切れる!
「使うよ……!」
『ああ、任せとけ!』
大量の木々に包まれて視界は不良。ボルカちゃんや先輩達の炎が辺りに広がっているからまだ気付かれないかな。
私は私のボルカちゃんに魔力を込め、一気に炎で加速。自分で作り出した森の迷宮を抜け、レーンへと戻る。既に超大玉は持っているから、あとはゴールするだけ!
「これは大変ですねぇ。“強化香(※増量中)”。皆さんで止めましょうかぁ~」
「う、おおお! リタルの魔法で力が溢れてくる!」
「これなら私も動ける!」
「ゴールはさせるかぁ!」
リタル先輩が仲間達の全能力を強化させた。
それによって一時的に魔力と身体能力が高まり、押し潰していた樹を破壊して突破。手も足も出なかった樹を壊すまで強くなるなんて……リタル先輩の魔法もホントにスゴい。
でもそれが私の負ける理由にはならない!!
「“分裂樹海”!」
「樹海が分裂するのってもはやよく分かりませんねぇ~」
全員を相手にするならその分数を増やせば良い。リタル先輩の強化された仲間達に操られているボルカちゃん達。
手強いけど、私がやらなきゃ!
「更に強く……更に硬く、更に柔軟に……! この世界を掌握するような気概で……! 実際には出来ないけど!」
「……これは……凄まじいですねぇ……」
「山が……」
「降ってくる……?」
魔力を込め、樹でこのステージの山を持ち上げて一斉に振り下ろす。
山を作ったり持ち上げたりはダイバースの代表決定戦とか代表戦で見た。つまり人間にもやれる事。
私は何故か他の人より魔力が多いみたいだから、それならやれない道理はない。それに、ステージの山は本物とは違うもんね。
複数の山々を隕石のように落とし、大きな振動と共にステージ全体が揺れる。
先輩の仲間達も対応してるけど、流石にまだ山を破壊出来るレベルじゃないよね。リタル先輩のバフがあっても大岩とかそれくらいが関の山!
「これで終わり!」
「……! ……。……? ……あれぇ~?」
最後に一つの山を落とし、ズズーン! と一際大きな振動が。
でもそれは誰にも当たっていない。当てる訳がないよね。ルミエル先輩とか対処可能な人が相手ならまだしも、先輩達に落としたらケガじゃ済まないから。
最初からずっとそう。私が植物魔法で派手に広範囲を狙ったのも、ムダに威力を上げていたのも。全ては目眩まし及びカモフラージュ。
「先輩! お先に失礼します!」
「あ、あ~……」
ずっと私は自分で生み出した植物魔法に乗っていたもんね! 植物の先端で大玉を転がしつつリタル先輩達の足止め。私は少し前方に近い中間辺りに居て、たった今ゴールしたよ!
その瞬間、私達はステージから転移し、ボルカちゃん達も正気に戻った。
《勝者、中等部一年生》
「あれ、アタシ達……」
「何かやっちゃいましたの……?」
「……。よく分からない」
「うーん……なんだろー」
「うえーん! みんな戻って良かったよ~!」
「わわ! どうしたティーナ!?」
「負けちゃいましたねぇ~」
「そう言えばこれ大玉転がしだもんね……」
「ゴールを優先すべきだった……」
「作戦負け……かな。一人で全部済ませちゃったよ。リタルの後輩ちゃん」
「スゴいね」
「ふふふ~。私も褒められてるみたいで嬉しいですぅ~」
「「「「いやいやいやいや」」」」
ボルカちゃん達が敵になっちゃったり大変だったけど、ちゃんと勝利を掴めたよ!
……あれ? でも大玉転がし要素はそんなに無かったような……。別に大玉転がしだから勝てたって訳でもないよね。普通の徒競走でも成立するし……。ま、いっか。
何はともあれ、今回の試合は私達の勝ち!
「お見事でしたよぉ~。ティーナさん~。負けちゃいましたから応援しますぅ~」
「良い後輩だね。リタルから話は聞いていたけど。それに可愛い!」
「あ、ありがとうございます! リタル先輩! それと少し恥ずかしいです……先輩」
勝負が終わり、お互いに健闘を称える。
これで二回戦も順調に進んだね。今で中等部の三年生が相手だったから、そろそろ勝ち上がった高等部かメリア先輩が居る中等部の二年生が勝ち上がるかな?
何にしても残っているのは強敵ばかり。他の試合も終わったらしく、私達は次の試合へ向かった。
*****
「……え? 嘘……」
「マジかよ……」
「いくらなんでも……」
「早いですわ……」
「あちゃー。これは中々……」
「──フフ、次の相手は貴女達なのね♪ お互いに頑張りましょう。最初で最後の、貴女達とのダイバースだもの♪」
三回戦の相手──ルミエル・セイブ・アステリア先輩。彼女率いる高等部の三年生チームが私達の相手だった。
せめて次か、勝ち上がれたら決勝戦で当たるかもって思ってたけど……まさかもうここで当たるなんて……。
少し前に言ったように試合は同時進行でサクサク進む。だから次の相手が誰になるのかは余程早くに突破しなくちゃ分からない。
その結果、当たった相手がルミエル先輩達。そしてこれが、正真正銘、先輩との最初で最後のダイバース。
「此処まで残った者同士、悔いの無いゲームをしましょう♪」
「は、はい。お手柔らかにお願いします……」
「ハハ、ラスボスすっ飛ばして裏ボスの降臨か……!」
「や、やってやりますわ!」
「大丈夫かしら……」
「どこまでやれるかな……私達が」
意気消沈……まではいかないにせよ、気合いと不安で半々くらい。でもルミエル先輩を相手に恥ずかしい試合は出来ないよね。頑張ろう。そして勝つ事を考えよう!
二回戦突破。そして次なる相手はルミエル先輩率いる高等部三年生のチームになった。




