第百一幕 魔専アステリア女学院・学院対抗体育祭
──“体育祭・当日”。
《それでは、“魔専アステリア女学院”。学院対抗体育祭を開始します》
数週間後、ついに“魔専アステリア女学院”・学院対抗体育祭が始まった。
ダイバースの司会を聞いていたからか、なんだか随分と静かだなぁと感じてしまった。完全に麻痺しちゃってるね、私。
軽い挨拶を経て準備体操。魔力の精神統一を終え、まずは学年順に並んだ。
「今日はボルカさん、ティーナさん、ルーチェさん、ウラノさんには大いに期待していますわ!」
「みんなで頑張って勝ちましょう!」
「おう! アタシ達に任せときな!」
「や、やれるだけ頑張るよ!」
「ふふん、私の実力をお見せして差し上げますわ!」
「……まあ、それなりに」
クラスメイトのみんなにスゴく期待されちゃってるけど、ボルカちゃんとルーチェちゃんは自信満々な様子。
みんなを引っ張って行ける二人だからクラスリーダーはこの二人に任せよう。私は多分無理だから。ウラノちゃんも詰め寄られて複雑な表情をしているね~。
何はともあれ、体育祭が開催される。
《第一種目、“徒競走”。選手の皆様は指定場所へお入りください》
「うーっし。まずはアタシからだ。一勝して勢い付けてやんぜーっ!」
「頑張れー! ボルカちゃーん!」
「「「頑張ってくださーい! ボルカ様ー!」」」
「様!?」
一つ目の競技はほうきを使わない“徒競走”。相変わらずボルカちゃんの人気も凄まじいね。
ほうきは使わなくても魔力は使うから、身体能力を高めてかけっこをする感じになるかな。
レーンにはボルカちゃんを始め、他のクラスの人達が並んだ。魔力で身体能力を強化するから距離はざっと500mくらい。長いようでそんなんじゃないんだって。
《それでは位置について……よーい……スタート!》
「「「…………!」」」
合図と同時に一斉にスタート。地面が蹴られて土埃が舞い上がる。
追って追われて抜いて抜かれての鬩ぎ合い。けれどボルカちゃんはその群衆から抜け出し、トップスピードで駆け抜ける。
「っしゃあゴール!」
そして誰に抜かされる事もなく、ボルカちゃんは見事に一位でゴールを決めた。
流石! 身体能力も何もかもが上位だよ!
「イエーイ!」
「やったね! ボルカちゃん!」
「ふふん、流石の速度」
「相変わらずスゴいね」
「流石ですわ!」
「素晴らしいです!」
「ボルカ様~♡」
私達の元に戻り、ハイタッチ。クラスメイト達が周りを囲み、黄色い歓声が響き渡る。
クラスメイトだけじゃなくてお客さん達からも声が上がってるみたい。流石の人気者!
「よーし! このままの勢いでやって行こうぜ!」
「「「おー!」」」
体育祭。今回の演目は個人技よりチーム戦の方が多い。なので殆どはみんなと協力する必要があるけど、ボルカちゃんがまとめ役なら心配は要らないね!
さて、次の競技だー!
──“魔導玉入れ”。
「何が魔導なんだろー」
「投げてみ」
「うん」
次の競技が始まり、競技名を疑問に思いつつボルカちゃんに言われて玉を放る。
玉は籠目掛けて進み、急に軌道を変えて外れちゃった……なるほど。
「ボール自体に魔法が掛かってて、自分で魔力を操作しないと入りにくいんだ……」
「ああ。それか飛び抜けた身体能力で無理矢理入れるとかな。結構奥が深いだろ?」
「うん……でも、やってみるよ!」
「その意気だ!」
既に競技は始まっている。なので今言った事を実践に移さなきゃね!
魔力を込め、玉を投入。ううん、もっと効率よくするなら!
「これ!」
「お! そりゃ良い!」
周りの玉をママの植物魔法で掴み、まとめて籠の中へ。
これなら実質私の手足でやっているようなものだからね! とても効率的だよ!
こんな感じの魔法使用はOK。だからその分玉の数は千個と多め。私のやり方でも制限時間内に全部入れるのは大変だね。
だけど他のみんなもスゴいよ! 見事に多くの玉を入れ、私達はまた学年一位になった!
──“騎馬戦”。
次の種目は騎馬戦とやら。数人が馬の役割を果たし、一人が上に乗って相手チームのハチマキを取る競技らしいね。
日の下の方でよく行われているものなんだって。“魔専アステリア女学院”は各国から参考にして競技を集めているらしく、世界的に見れば基本的に体育祭とかは無いから珍しいとか。だからお客さんも多いんだ。
とにかく、今はその騎馬戦だね!
「おっしゃ。馬役は任せろ!」
「頑張ってね! ウラノちゃん!」
「なんで乗者は私なの……」
「悔しいですが、私達の中で一番軽いのが貴女なのですの!」
騎馬戦は馬役と乗り手に分かれる。私達がウラノちゃんを支え、ウラノちゃんが相手からハチマキを奪う係、馬役もちゃんと活躍するよ!
魔法や魔術による妨害もなんでもあり。取り敢えず取れば良いだけ。そんな騎馬戦が始まった。
「狙うはあの方達ですわ!」
「一番の強敵ですものね!」
「お覚悟なされよ!」
「わわ! 来たよ!」
「ま、同じ学年じゃアタシ達が一番強い可能性もあるし、全員で来るのは間違いないな」
「受けて立ちますわよ!」
「はあ……大変」
他の組みが示し合わせたように私達の方へと襲い掛かってきた。
理由はボルカちゃんが言った通り。私達が結構強いかもしれないから。
でも構わず戦って行くよ!
「まずは守りを固めるか!」
「任せて!」
全員が一斉に来るならと私は植物で壁を貼って弾くように防ぐ。
全方位を囲んでいるから魔法によるダメージも無い。
「物語──“盗人”」
「へいへーい!」
「わ!? 私のハチマキが!?」
「盗られちゃった!?」
植物で囲めば後はウラノちゃんの本魔法で安全地帯からの一方的な奪取が可能。
ボルカちゃんの炎とルーチェちゃんの光で更なる強靭な守りになっているから完璧な布陣だね!
そして見事騎馬戦でも勝利を掴み取った。
──“綱引き”。
次なる競技は綱引き。魔力によって強化され、千切れない綱を引いて自分の陣地にマークのある部分を入れた方が勝ちのルール。
これも勿論魔法の使用はOK。だから遠慮無くやらせて貰うよ!
「そーれ!」
「緑の巨人~!?」
「ムリィィィ!!」
植物魔法で巨人を生み出し、その力で引いて貰う。
相手も魔法で攻撃を仕掛けてくるけど、それについてはみんなが護ってくれるから大丈夫!
「私達はティーナさんのサポートをすれば良いだけ!」
「綱引きと言うルール上、ティーナさんの植物魔法が有利過ぎでしたわね!」
みんなが貼ってくれた魔力の守護壁。お陰で私はママの植物魔法に集中出来る。
綱引きも学年一位で突破した!
──“棒倒し”。
次は棒倒し。相手チームの棒を倒すだけの簡単なルールだけど、前衛と後衛。攻撃陣と守護陣に分かれて行う戦略的な競技。
後衛は植物魔法による樹だけど鉄壁の護り。前衛ではボルカちゃんが大暴れしてくれる!
「行くぜー!」
「ボルカ・フレムさん!」
「相手にとって不足はないよ!」
炎で加速し、辺りを吹き飛ばして相手の防御を崩していく。
ちゃんと怪我人は出ないように配慮してね! そして前衛は、私以外の全クラスメイト!
「ティーナさんの守りがあれば!」
「全員攻撃を可能としますわよ!」
「御覚悟なさい! 貴女様方!!」
相手の後衛に畳み掛ける魔法・魔術の応酬。ダイバースで鍛えられた植物魔法による防御。ちょっとやそっとじゃ崩れないんだから! ……ちょっと寂しいけど。
何はともあれ、流石のみんなも全員攻撃には及ばず、私達はまた学年一位!
次は午前の部、最終決戦! ほうきリレー!
──“ほうきリレー”。
「大トリは任せろ! ちゃんと繋げよー!」
「分かりましたわ!」
「頑張るよー!」
「やるだけやるわ」
リレーは代表選手が何人か選ばれて行われる。私達は実績を買われて全員参加だけど、箒にはあまり乗らないし少し不安かな。
でも頑張るよ!
《それでは、よーいスタート!》
炎魔法による爆発が起こり、一斉に選手達はスタートする。
最初はウラノちゃん。流石の魔力コントロールで六人中三位。私にバトンが手渡された。
「そーれ!」
「箒はまだそんなに慣れてないみたいね!」
「だったら私達にもやれるわ!」
「くぅ……!」
「負けるかー!」
「えーい!」
そう、あまり乗らない私と他のみんなはあまり速度が変わらない。でもボルカちゃんやルミエル先輩達と魔力の特訓は結構したもん! 負けられないよ!
「次!」
「私に任せなさいませ!」
私からルーチェちゃんにバトンを渡し、彼女もトップスピードで突き抜ける。
次の子にも渡されて順位は三位と四位を行ったり来たり。頑張れ、頑張れ!
「すまない!」
「ハッ、任せとけ!」
そしてアンカーのボルカちゃんに命運は授けられる。
順位は大分下がっちゃって五位に近い四位。既に一位の人は中盤まで行ってるけど、ボルカちゃんなら大丈夫な気がする!
「そらぁ!」
「……!?」
「速っ……!?」
「まさか此処まで……!?」
炎で一気に加速して三位と二位を抜き去り、一位の人がコーナーに差し掛かったところで精密な魔力調整にて見事なカーブ。
最後の直線勝負となり、一位の人は風魔法でブーストしてラストスパートに入る。
「負けるかー!」
「私だってー!」
追って追われての繰り返し。スゴい魔法の使い方。同年代だけど、こんなに風魔法を使える人が居たんだ……。
そこから更に魔力を込め、火力を上げたボルカちゃんはもう一段階上の速度で抜き去った。
「まだ上があったの……!?」
「へへん。先輩の風魔法は君よりもっとスゴいからな!」
「理由になってないよ!」
そのまま最高速でゴール。ボルカちゃんは見事に勝利を収め、私達は中等部一年生の部にて見事優勝したのだった!
そう、午前の部は。
*****
──“お昼休憩”。
「いや~。見事に勝ちを取れたな!」
「うん! スゴい速さだったよ! ボルカちゃん!」
「私の力あってこそですわ!」
「貴女で四位くらいに下がったんだけどね」
「何をおっしゃってますの? オホホホホ~!」
お昼休憩になり、私達はお弁当を食べていた。
学院の屋台も出ているんだけど、せっかくだからってみんなで作ったんだ~。
個性のあるお弁当。ボルカちゃんは肉類中心のワイルドな物で、私はなるべく可愛くしてみたかったからそれっぽいもの。ルーチェちゃんは自分でも少し手伝いながら豪華なお弁当。ウラノちゃんは理想的なお弁当って感じ。
時折他の子達ともお話しながら、楽しく過ごせているよ!
でもついに午後の部が来るんだね……。
「それにしても午後の部……午前中の学年対抗じゃない、学院対抗の全員ダイバース。ここにルミエル先輩達も出てくるんだよね……!」
「ああ、そうだな。人数が多くなるから各学年から代表者を選んでの複数チームになるけど、ルミエル先輩やイェラ先輩。レヴィア先輩。リタル先輩。メリア先輩は絶対選ばれてるだろうな」
「全員が全員、名門“魔専アステリア女学院”の主力ですものね! 頑張らなくては!」
「そうね。相手としてはラスボス飛び越えて裏ボス・真ボス相当よ」
午後の部で行われる学院対抗ダイバース。それの参加者は先輩達になるけど、当然主力のみんなは選ばれるからかなり苦戦すると思う。
でもだからこそ頑張らなきゃ! 不安は多いけどね!
「トーナメント方式だからまず一回戦で誰と当たるかって問題もあるし、気を引き締めて行かなきゃな!」
「うん!」
気合いを入れ直し、験担ぎのつもりでお弁当を食べる。
あ、我ながら美味しいね! 私って意外とお料理出来るのかも!
楽しくも妙な緊張感に包まれたお昼休憩。一時間程でそれが終わり、午後の部、学院対抗ダイバースの時間がやって来た。