第十幕 初めての学食
「ふぅ~。疲れた~」
『お疲れ様。ティーナ』
『お疲れ! ティーナ』
「うん、ありがと~。ママとティナ」
ボルカちゃんが出掛け、自室で三人となった私はベッドに寝転がり、ママとティナが話し掛けてくれる。
授業も部活動も楽しかったし、初めてのお友達も出来た。入学初日にしてはかなり良い成果を挙げられたんじゃないかな?
『そうね。ティーナにお友達が出来てママも嬉しいわ!』
『ティナも!』
「えへへ……」
ママとティナに褒められると照れちゃう。
今日の私は本当に頑張ったかも。だけどまだまだ初日。次の休日まで数日間あるし、明日からも気合いを入れなくちゃ!
むんっ! と力を入れたところで、急に意識が遠退いた。
あらら、慣れ親しんだ物に囲まれて緊張の糸が切れちゃったのかな?
「ふわぁ……すっかり疲れちゃった……ちょっと横になる……」
『ええ、おやすみなさい。ティーナ』
「うん……おやすみ、ママ」
『ゆっくりと体を──』
ママの声に誘われ、ウトウトと微睡みの中へと沈んでいく。
───
──
─
*****
─
──
───
「ティーナー! 起きてるか~? と言うか居るか~?」
「ムニャ……」
──私はボルカちゃんの扉の叩く音で目が覚めた。
寝ちゃってた。よっぽど疲れてたんだね。周りを見れば日が沈んで赤み掛かっていた。
窓の外から差し込む夕日に照らされ、ベッドの上に力無くママとティナが転がる。
「え!? 二人とも!?」
それを見て慌てて起き上がると、二人は言葉を発した。
『ふふ、私達も寝ちゃってたみたいね』
『そうそう。ティナ達もティーナと同じく疲れたから』
「あ、そっか。そうだよねぇ。二人も色んな魔法を使ったし、大変だったもんね」
ただ疲れていただけ。私と同じように。
植物魔法や感覚共有。それらを使ったから二人も疲れちゃったんだね。
扉の外からボルカちゃんの声が聞こえてくる。
「ティーナ? 居るみたいだけど、誰と話してるんだ?」
「ううん。ボルカちゃん! 独りご──」
そこまで言い、言葉に詰まった。
独り言……じゃないけど、そう言う体で話すだけ。なのになぜか何も言えなくなった。
あれ、おかしいな。噛んじゃったのかな?
「独り言? ハハ、相変わらずだな。入っていいか?」
「うん、いいよ!」
ガチャっと扉を開け、ボルカちゃんが部屋に入ってくる。
するとどうだろう。肩の力がスーッと抜け、なんだから心が軽くなった。よく分からないけど、私の調子が良くなるのを感じた。
「お邪魔しまー……って、アハハ! ティーナ! この短時間でスゴい寝癖!」
「え!? あ! すぐ寝ちゃったからメチャクチャに……制服もシワになっちゃう~!」
入るや否や、ビンッと立った私の髪を見て笑うボルカちゃん。
ベッドに転がったまますぐに寝ちゃったし、体勢も整ってなかったからこうなっちゃったんだ!
あ、そう言えばボルカちゃんは制服からジャージに着替えてる。じゃなくて! 慌てて髪を直し、制服のシワを伸ばし私服に着替える。今のボルカちゃんみたいに学院指定のジャージの方がいいけど、仕舞ったままだからそこまで手が回らない!
「ハハハ。まあそんなに慌てなくても大丈夫だ。案内書にも学院の食事について書いてあっただろ?」
「あっ、そうだよね」
ボルカちゃんは夕食の迎えに来てくれただけ。朝夕は全員で食べる方針だけど、嫌な人は自室や敷地内なら好きな場所で食べて良い事になってるの。
その為に一度食堂に寄る必要もあるけど、別に他の場所で買ってもOKらしい。更にはもう授業が終わってるから学院の外に出るのも問題無し。門限はあるけどね。
その場合は出費があるけど、この学院の子達基本的にご令嬢とかだから金銭問題はほとんど無いみたい。
そんなこんなで、食堂の席が全部埋まってる事なんてほぼ無いんだって。もし埋まってても大丈夫なの。それに加えて、夕食の時間は午後七時から午後十一時までやってるからあまりにもギリギリじゃなければセーフかな?
私は着替え終わり、ボルカちゃんと一緒に食堂へと向かった。
「わあ……思ったより人多い……」
「今がゴールデンタイムって感じだからな~。一部の部活やサークルは終わって、生徒達が集まりやすい時間帯だ」
そこは既に大勢の人が居た。
それぞれ数人から数十人の仲の良い友人同士でグループになっていたり、中には一人で過ごしてる子も居る。けど特に不満は無い様子。
とは言え私達も二人だけなんだけどね。
取り敢えず食事を受け取る為にカウンターの列へ並び、注文。受け皿を持って空いている席を探す。
「お、あそこ空いてるな」
「ホントだ。奥の端の方だね」
「やっぱり入り口付近は多くなるもんなぁ。けどま、のんびり食べたいアタシ達には丁度良いかもな」
「そうだね!」
空いていたのは出入口から離れた奥の方。カウンターから距離もあるし、角という事もあって付近に人は少ない。
けれど私達はそう言うのをあまり気にしないので奥側を陣取り席に着く。
私も狭い場所は好き。なんだかお人形さんのお家みたいだから。
「それじゃ」
「「いただきまーす!」」
食前の挨拶をして早速召し上がる。
食べ物に感謝するという所作。今では主流だけど、英雄達よりも遥か昔の時代はそんな事無かったんだって~。何千年も前にどこからか来た一人が布教したとか。英雄達パーティも挨拶は重要視してたらしいよ。
そんな豆知識を思いながら今日のメニューを見る。
パンにサラダ、お肉と野菜の炒め物。それにスープ。
私はパンにバターを塗って食べる。このバターも高級品で、厳選されたミルクから作られた物でスゴく美味しい。
サラダは採れたての新鮮仕立て。スープは鳥ガラを使った濃厚な味。流石は一流の学院。全部が全部良質な食材から作られてるよ。
ステーキにナイフを入れれば、サクッとお肉が切れる。
分厚いけど柔らかく、噛むとじゅわりと旨味が滲み出た。
私もボルカちゃんもお塩と胡椒で味付けされたお肉の美味しさに舌鼓を打つと、食堂の入り口から声が聞こえてきた。そして何やら全体が騒がしく。
気になり声のした方に視線を向けると、ダイバース部の部長さんと副部長さんが来ていた。
「見て……ルミエル様よ……!」
「嗚呼、今日も美しい……!」
「こっち見てー!」
「私は影ながら貴女を見ています……ナイト様……!」
「ミーハー共は分からないのよね。ナイト様の気高さと美しさが。ルミエル様も美しいけれど」
当然のように様付け……。ルミエルさんは部長として、影ながら見られているのは副部長さんの方みたい。そう言えば部長さん以外名前聞いてなかったもんね。
……けど、“ナイト”って本当に名前なのかな? 愛称みたいな感じかも。
それにしてもやっぱりあの二人はスゴい人気なんだね。周りの女の子達が距離を置きながら顔を赤くし、羨望の眼差しを向けていた。
食事をしていた子達もお話を止め、背筋を伸ばして上品に。それだけ良く見られたいって心境みたい。
食事を受け取った二人は優雅に歩を進めて私達の方へ来る。
「隣、良いかしら。ティーナさんにボルカさん」
「構わないか?」
「は、はい! いいですよ!」
「構いませんよー」
ニコやかに笑いかけ、ルミエルさん達は近くの席へ。
それぞれ私とボルカちゃんの隣に着いた。
「ルミエル様方と親しそうに……!」
「なんなのあの子達……! 羨ましい~!」
「片方はボルカさんで、もう片方は見たこと無いわね」
「中等部からの子かしら?」
「オッドアイ……フン、お人形さんみたいでまあまあ可愛いじゃない……」
周りの視線が痛い。
元々学院内で有名なボルカちゃんはともかく、私は完全に浮いちゃってるよ~。
気まずい雰囲気だけど、そんな事はお構い無しでルミエルさんが口を開く。
「それにしても、随分と端の方で召し上がっているのね。学院は隅々まで清掃が行き渡っているけれど、ちょっと薄暗いわよ?」
「既に食堂全体が狭い感じだったので。アタシとティーナは場所とかもあまりに悪辣な環境じゃなければ気にしないので此処にしたんです」
「成る程ね。今の時間帯は人も多い。友人との食事ならちょっとした場所の違いなんて関係無いわね」
「はい!」
屈託の無い笑みで返すボルカちゃん。
友達と一緒なら場所関係無く食べられるなんて……嬉しいなぁ。
雑談から入り、ルミエルさんは言葉を続ける。
「それで本題なのだけれど、どうだったかしら? 他の部やサークルは。ティーナさん」
「わ、私ですか!?」
「ふふ、ええ。ボルカさんはこの学院にずっと居るもの。ここは新入生の意見を聞きたいわね♪」
指名されたのは私。理由は以上の通り。
今まで寄った部活やサークルを思い出し、率直に意見をまとめる。
「どれも楽しかったです! みんな個性豊かで!」
「そう。それは良かったわ♪ 生徒会長として鼻高々ね!」
「はい! って、生徒会長でもあったんですか!?」
「そうよ。部長で理事長の娘で生徒会長。正直忙しいわ」
「大変そうですね……」
スゴく多忙みたい。この様子だと他の役職に就いててもおかしくないかも……。
ルミエルさんは私の言葉に対してニコやかに返答する。
「ふふ、大変ではあるけれど、とても楽しんでいるわ。貴女達もこの学院を是非とも楽しんで頂戴♪」
「はい!」
「初等部の頃からそれなりに楽しんでますよ~」
雑談混じりで食事を進めていく。みんなと一緒のご飯は楽しいね!
私の屋敷じゃ使用人さん達は周りに居るけどパパとの距離は遠かったし、食事中はママやティナと話しちゃダメって言われてたから新鮮さもある。
食器の食べ物がほとんど無くなったところでルミエルさんは切り出した。
「あ、そうそう。特に入る部が決まっていないのなら仮入部とかもあるわよ。私達の部でもやっているから、良かったら貴女達二人で試してみたらどうかしら?」
「へえ。仮入部だって、ボルカちゃん!」
「確かにやってるなぁ~。期間は大体一週間ちょいくらいで色んな部が募集を掛けてるよ。アタシもいくつか誘いが来てるんだ」
「流石ボルカちゃん! 人気者だね!」
「ハハハ、部員募集に誘われたくらいで大袈裟だよ」
ルミエルさん達だけじゃなく、他のクラブやサークルでも色々と取り組みがあるみたい。
私もどれかに入ってみようかな~。やっぱり少しやったダイバース部とか。……何となく男装ホスト部も色んな意味で気になってるかも。お客さん側として。
「ルミエルさん達のクラブは仮入部でどんな事をするんですか?」
「そうね。他の部は基礎トレーニングとかだけど、私達はぶっつけ本番で実践移行よ。というか、実践が=基礎練習なの。ある意味他の部よりスパルタかもしれないけど、すぐに感覚を掴めて慣れる子は多いわね」
ルミエルさん……いや、今更だけどルミエル先輩って呼んだ方が良いのかな? 上級生だし。
ルミエル先輩達の部は実技練習が基礎トレーニングになるみたい。大変そうだけど、慣れる人は結構居る……それって他のみんながスゴいだけな気もするけど……。
先輩はそのまま紙のような物を取り出して話す。
「明後日には新入生達だけの実技講習もあるわ。それぞれのチームには上級生が一人入って、実践形式でゲームを行うの。良かったら入らしてみて。……ご馳走様でした。それじゃ、私達は部屋に戻るわ」
「は、はい!」
「さいなら~」
ヒラヒラと手を振るルミエル先輩に私とボルカちゃんも返答して見送る。
立ち去る姿もなんて優雅なんだろう。
それにしても仮入部かぁ。何かの活動はした方が良さそうだし、積極的に行動してみようかな。
そんな事を考えながら私達は食事を終え、自室へと戻るのだった。
あー、ご飯美味しかった。




