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【第12回 ネット小説大賞受賞】稀代の悪女は、猫となり愛を知る。  作者: 清澄 セイ


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本能で繋がる、主従関係にて

♢♢♢

「オフィーリア様の為なら、この命も体も全然惜しくないよ」

「私達の身も心もすべて、オフィーリア様のものだもん」

 ベッセルの退廃地区にて見つけたのは、私と同い年ほどの男女の双子・ルカとスピナ。ルカは目が見えず、スピナは声が聞こえない。当然のように身寄りはなく、二人で身を寄せ合いながら暮らしていた。

 それぞれ五感に不自由がありながらもあの地で生きてこれたのは、その他の感覚が非常に優れていたから。初めて対面した時も、一瞬で私を他の人間とは違うと見抜いたのだ。

「オフィーリア様は美しいけど、すごく怖くて」

「上手く説明できないけど、魂が惹かれるの」

 痩せ細った小さな体には健康的に肉が付き、潤いのない乾いた肌はどこへやら、灯に照らされたように艶々と光り輝いている。すっかり本来の端正な顔立ちを取り戻した二人は、両側から細く滑らかな白髪を揺らしながら私の頬に擦り寄せてきた。

 伸びっぱなしだった髪も今や肩口で綺麗に切り揃えられており、見た目だけではルカとスピナを見分けることは非常に困難だ。男女の双子だがどちらも中性的な雰囲気で、薄墨の瞳から感情を読み取ることは出来ない。

 まぁ、猫としての感覚が残されている私には、この二人を懐柔するなど実に容易なことだったが。

 侍女であるユリは、当初「もっと屈強な男を選んだ方が良いのでは」と双子を拾おうとする私に難色を示していたが、そんなものはクリストフに任せておけば良い。

 私は、私を特別だと認める人間を選んだまで。ただの護衛が欲しいのではない、あのヴィンセントを出し抜く為の特殊な駒を求めていたのだから。

「勘違いしてはいけないわ。ルカ、スピナ。貴方達の心も体も全て、私のものなの。許可なく勝手に死ぬことも、怪我を負うことも決して許さないわ」

 両側から抱きついて離れない双子の喉元を指で撫でてやると、まるで猫のようにごろごろと鳴いて喜んでいる。

「私が命じたこと以外の行動は、決してしないと誓うのよ」

 初対面からすでに私を受け入れてはいたが、今ではユリ同様すっかり心酔しきっている。オフィーリアの扱いは本来、こうでなければ。生まれがあんな家でなかったなら、彼女は万物から愛されて然るべき。家族から不当な扱いを受け、婚約者からはぞんざいにあしらわれ、自己肯定感を失った結果、些末な部屋に籠りただ時が過ぎるのを待つだけの日々となってしまった。

「デズモンド家にも、ヴィンセントにも、手を出してはいけないわ。いい?私の言うことをきちんと聞けたら、ご褒美をあげるから」

「はぁい、オフィーリア様ぁ」

「本当はぐちゃぐちゃにしてやりたいけど、我慢しまぁす」

 おおよその年齢よりも随分と幼い振る舞いで、二人はこくこくと頷いた。艶やかな頬にそれぞれキスを落とすと、どこからか深い溜息が耳に響いてげんなりと気が滅入る。

「ご不満でしたら、散々聞いて差し上げたはずですが?」

「……キスまでする仲とは、知らなかった」

 私の単独行動がよほど気に食わなかったのか、それとも単なる幼稚な嫉妬か。クリストフはまるで、隣の家族を羨むような視線で私達三人を見つめていた。

 ルナとスピナについての素性を一応は調べたらしいが、退廃地区で生まれ育った人間相手にそんなことをしてもさほど意味はない。彼もそれを分かっているはずだが、粗を探さずにはいられなかったのだろう。

「親愛の証としてキスをすることは、ベッセルでは禁じられているのですか?」

「そういうわけでは、ない」

「でしたら、なんの問題もありません」

 勝ち誇ったように鼻を鳴らす双子は、実に愛らしい。年は私と変わらないはずだが、仕草が幼く感情に素直で、子猫のような扱いをしたくなる。そしてその感情は、この男に対しても。

「全てが成功した暁には、ぜひ殿下にも親愛のキスを」

「……この二人よりもかなり先延ばしというのが、どうもいただけないが」

 台詞と表情を一致させないのは、果たして策略なのだろうか。初対面の紳士的な態度はどこへやら、私よりも年上のくせにいちいち幼稚な反応を見せる。

 おふざけはこのくらいにして、私は再度ルカとスピナの喉を撫でてやり、くるりと背を向けた。ヴィンセントはおそらく私が直接出向いて手を下すつもりだと考えているだろうが、もう二度とオフィーリアにあの国の土を踏ませたたりするものか。

「本当に私は、貴方とは正反対ですわね」

 母国の為に全てを投げ出す覚悟を宿すクリストフと、あっさり捨てようとする私。きっとこの男も、オフィーリア同様に美しい思い出よりも悲惨なそれの方が多いだろうに。

「それは違うな」

「あら、どうして?」

「自分自身以外の何かを守ろうという意志の強さを、互いに持っているから」

 柔らかな笑みを浮かべる彼を見て、私は衝動的に視線を逸らす。

「……少し、お話よろしいかしら?二人きりで」

 騒がしい双子が姿を消し、曇天の空下に静寂の風が吹く。クリストフの鼓動が微かに跳ねたのを感じ、思わず溜息を吐きそうになった。

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