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【第12回 ネット小説大賞受賞】稀代の悪女は、猫となり愛を知る。  作者: 清澄 セイ


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82/117

実に愚かな利己主義者

♢♢♢

「クリストフ、お前はとうとう頭がおかしくなったのか?」

「ああ、そうかもしれませんね。私は常に国の為心臓を差し出しておりますので、螺子がニ、三本外れていても不思議ではありません」

 爽やかな笑顔で実の兄に喧嘩を売る彼を、私はただ静かに見上げていた。互いにぴたりと寄り添うその距離は、どう見ても何らかの関係性を示唆している。

「俺を蹴落とす為、まさか他国の女を利用するとは」

 クリストフの実兄マシューは、居丈高にこちらを睨みつけながら今にも殴りかからんばかりに息巻いている。噂通り知性の欠片もなさそうな愚王子にしか見えず、危険な役回りは弟に押し付け自身は豪遊三昧。

 以前私とクリストフがスラム街を視察した時にも、民達は口を開く度に王族や領主の不平不満ばかり。クリストフはその事実に煩悶していたが、この男は明らかにそんな思考を持ち合わせてはいないだろう。

 やけに既視感を感じるのは、おそらくこのマシューが我が妹ヘレナと同列であるから。低脳で傲慢で品がなく、どこまでも自分本位。一国の主としての器を備えているとは、到底思えない。


――クリストフとの差は歴然なのだから、さっさと真っ二つにしてしまえばいいものを。


 彼の隣でただ微笑みながら、私の頭の中はマシューを避難する台詞がぎゅうぎゅうと詰め込まれていた。

「何か反論があるならば、発言を許可する。その下品な口を開いて、俺を誘惑してみせるか?」

 鼻で笑いながら蔑んだ瞳で私を見下すくせに、その濁った瞳は薄汚い情欲の色に満ちている。美しいオフィーリアに見惚れるのは当然のことであるが、私はそれを許可しない。朝露に濡れた赤薔薇のごとく魅惑的なこの唇を、下品などとは許せない。

「お心遣いに感謝いたします、殿下」

 ふわりとドレスの裾を持ち上げ、恭しく視線を下げる。くいっと顎を上げると、見せつけるように金のツインテールを揺らした。

「私のような者が気高きクリストフ殿下のお側にいられる幸運を、毎日神に感謝しております。国や民を第一に思うその綺麗な御心は、どんな高価な宝石にも代えられない価値があると」

「勘違いも甚だしいな。なぜ王族が心を砕く必要がある?この国に生まれたことを誇りに思い、その繁栄の為誠を尽くすのが、民としての義務であり喜びだ」

 己の実力でもないくせに、まるで名君のように胸を突き出し威張るこの男は、我が妹ヘレナに瓜二つ。ああ、そういえばもう姉妹の縁は切ったのだから、妹だった女とでも言い換えるべきか。

「今さら、兄上と王族のなんたるかについて意見を交わすつもりはありません。硬い床に寝転がり、ただ虚に天を見つめている方が、よほど有意義に時間を使える」

「その減らず口は、どれだけ酷烈な戦禍に身を置こうと改善する兆しはないな」

「ご安心ください、わざとですから」

 交戦的なクリストフは、何となく新鮮だった。こと最近は私に対して無駄に甘い空気感を振り撒いてくるせいで、この男が歴戦の猛者ではなくただの()()()だと勘違いしそうになっていたから。

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