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【第12回 ネット小説大賞受賞】稀代の悪女は、猫となり愛を知る。  作者: 清澄 セイ


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狂愛の男

「早く、私だけのものにしたい。誰の目にも触れさせず、私の為だけに存在する愛おしい人形として、二人きりの世界で君を愛し尽すと誓おう」

 ロケットの中身は、オフィーリアの髪。気持ちの悪いこの男は、狂気的な笑みを浮かべながらそれにキスを落とした。

 いくら顔が良かろうが、こんな特殊性癖の持ち主はお断りだ。先ほど一度くらいは抱かれてやっても構わないかと考えたが、やはり無理だ。

「にゃあ」

 僅かに開いている窓の隙間から器用に体を滑り込ませ、ととっと優雅に姿を現す。ヴィンセントは驚きもせず、忌々しいものを見るような目付きで一度舌打ちをした。

「害獣の分際でオフィーリアに近付いて、忌々しい」

 私の餌に何度も毒を盛ったのは、きっとこの男だ。いや、ヘレナも同じようなことをする。結局、似た者同士お似合いの二人なのだ。オフィーリア手ずから与えられる食事以外には、絶対に手を付けない。体を休める時も必ず狙われない場所を選び、所在を掴まれないようふらふらと出歩く。

 アレクサンドラだった頃も常に命を狙われていたけれど、猫に生まれ変わってまで同じような境遇とは、一体何の因果だろう。それでも私は、オフィーリアの元を去る気などさらさらない。


 ――抱きしめてもいい?月のような瞳をした、綺麗な猫さん。


 彼女はそう言って、ぼろ雑巾のように汚れていた私を拾った。家族から非難されてもなお絶対に離そうとせず、自身が傷付くことと引き換えに私を助けた。

 ただの野良猫に恩を売ったところで、なんの利点にもならない。それでもオフィーリアが、本当に愛おしそうな瞳で私を見つめるから。

 いつしか私は、この愚かな令嬢に情を移してしまったらしい。未練などなかったアレクサンドラに戻って、彼女の不幸の元凶を根絶やしにしてしまいたいと思うくらいには。

「気味の悪い猫め。まるで全てを見透かしたような目で私を見て、まさか飼い主を救おうとでもいうのか?」

「にゃあん」

 今ここで、ヴィンセントに手出しはしない。ただ、オフィーリアへ抱いている感情を誰にも知られていないと鷹を括っているこの男へ、僅かばかりの牽制となればそれでいい。猫の瞳は意外と、真実を映す鏡になると。

 助走要らずで高く跳べるのは、猫の利点。ヴィンセントが反応するよりも前に、ヴィンセントが握り締めているロケット目掛けて体をぶつけた。

 微かな音を立てて床に落ちたそれを、滑らかな尻尾でさらりと撫でる。優雅にひと鳴きしてみせれば、奴は忌々しげにこちらを睨めつけた。

「その内、お前も殺してやるから楽しみにしていろ」

 上等だ、この変態。斬首となった私にそんな脅しは通用しないと言いたいところだが、今はこのくらいで許してやろう。

 私が死ぬ時はお前も道連れだと、まっすぐにヴィンセントを見つめながらぺろりと舌なめずりをした。

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