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【第12回 ネット小説大賞受賞】稀代の悪女は、猫となり愛を知る。  作者: 清澄 セイ


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糸の切れたマリオネット

「貴女に惹かれていると伝えたところで、喜んではもらえないでしょう」

「それは勘違いですわ。計画を遂行する同志ですから、多少の友情が湧くのは当然かと」

「あいにく、僕は友情と情愛を勘違いするほど純情ではない」

「情愛……ですって?」

 まったく、頭が痛い。ヘレナにやられた傷のせいか、ヴィンセントへ僅かながら報復出来た高揚感からか、それとも別の何か。この男はいつだって、私の思い通りには動かない。


――出来損ないのお人形は要らないわ。


 アレクサンドラはその美しい唇で、簡単に他者を切り捨てる台詞を吐き捨てる。栄華を極めた私の人生は、錆びた斧と共に幕を閉じた。公爵令嬢が斬首刑など、おそらく私以外に受けた者はいないだろう。島流し、娼館送り、奴隷落ち、最悪が絞首。どれも私の胸を焦がすようなものではなく、仕方がないから民衆の面前で首を斬られてやった。

 今思えば、生きたまま血肉に飢えた獅子にでも食らわせた方がより残忍で派手に死ねたかもしれないという、ただその後悔だけ。アレクサンドラという人間の生涯は、死に際に過ぎる走馬灯さえないような空虚な時間だった。

「どうかされましたか?」

「いいえ、ただ少し昔を懐かしんでいただけ」

 あの頃に悔いなどない。ただ今は、オフィーリアのことだけを考えて生きていきたい。私が死ねば、この体も死ぬ。その後ヴィンセントの手に渡るような事態にでもなれば、あの子の魂は永遠に浮かばれない。

 必ず、生きて争う。その為ならば手段は厭わない……と言いたいところだが、お人好しのオフィーリアはそれを嘆き悲しむだろうから、いたずらに誰かを傷付けたりはしない。実に面倒で仕方ないが、こんなにも心が躍ったのは初めてだったのだ。

「もう止めましょう、殿下。私達が言い争っても仕方ありません」

 ようやくクリストフから顔を逸らした私は、にこりと微笑む。

「私は何があっても貴方の味方です。関係性に名前を付けずとも、その事実さえあれば上手くやっていけるはずですわ」

「……ええ、貴女の言う通りです。僕が性急過ぎました、謝罪を」

 彼は一瞬目を丸くしたかと思えば、諦めたように溜息を吐いてみせる。その態度が鼻につき、私はさっと作り笑顔を消した。そして二度三度、これ見よがしに溜息を吐き返してやる。

「はは、分かりました。僕の負けです」

 こんなことで張り合うのも馬鹿げているが、この男はいつも妙に私の癇に触るのだ。ともあれ、どうやら気は済んだらしい。まるで手の掛かる甥子、間違っても我が子などとは表現したくない。

「ヘレナはともかくいつまでもヴィンセント殿下を放っておくわけにもいきませんし、そろそろ行きましょう」

 煩わしい額の止血布も、より悲壮感を出す為と思えば悪くない。

「最後に、もうひとつだけ」

 強く掴まれた左手首が、やけに窮屈に思える。

「貴女の愛する人とは、やはりあの方ですか?」

「……は?」

 真剣な翠眼が、余計に腹立たしい。私の手を掴んでいるクリストフの手を、思いきり握り締めてやった。

「私が何の為に契約結婚を選んだのか、お忘れになったわけではないでしょう?」

「それは……、そうですが」

「でしたら二度と、くだらない質問は控えてください」

「……また瞳孔が開いています」

 そんなものは、自らが蒔いた種ではないか。私の愛は生涯、オフィーリアだけのもの。特に他の誰でもないヴィンセントの名を出されると怒りで顔に思いきり毛玉を吐き飛ばしたくなる。

「すみません、謝罪しますから許してください」

「そう言う割には、表情に締まりがないようにお見受けいたしますが?」

「はは、気のせいですよ。さぁ行きましょうか」

 掴まれていた手首が離される一瞬、クリストフはそこを指ですり、と撫でた。まるで許しを乞うている子ども……もとい甥子のようで、寛容な私はそれを黙って受け入れてやったのだった。

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