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愛する妹と優雅なティータイムを

♢♢♢

 ベッセルでの生活も、早十日が過ぎた。後四日ほどで帰国しなければならないが、ほとんどは私の思う方向に進んでいるだろう。ロイヤルヘルムとは違いここでの私の評価は高く、ヘレナのそれは低い。

 再び地下部屋に軟禁されることを恐れているのか、表立っては行動に移さない。私の隣にはクリストフか、でなければレオニルが常に張り付いている為、隠れて悪さも出来ずやきもきしているようだ。

「ああ、もうすぐ帰らなくちゃいけないなんて寂しいと思わない?ヘレナ」

「お姉様はそうでしょうね。まんまとクリストフ殿下を騙して、お姫様扱いされているんですもの」

 ゆったりと午後のティータイムを嗜むこの第二温室には、細く美しい光が差し込んでいる。それは決して交わることのない境界線の如く、はっきりと私達二人を分かつ。

「もうすぐ魔法も解けるわ。お父様もお母様も、そしてヴィンセント様も、私の帰りを今か今かと待ち侘びているはずだもの」

「そうね、ヴィンセント様はいずれ貴女の義兄になるのだから、仲が良いのは喜ばしいわ」

 白々しい台詞を投げかけてみると、案の定彼女の薄い眉が吊り上がる。ふっと吹けば簡単に飛ぶ薄紙のようで、私の妹はなんて可愛らしいのかしらと思わず口元が緩んだ。

「本当はいつ捨てられるのかと怯えているくせに!ヴィンセント様はこれっぽっちも、お姉様を愛していないのよ!」

 口を開けば似た台詞ばかりで、聞く方も飽き飽きしてくる。凡庸な悪役ほどつまらないものはなく、もっともっと激しく私の感情を揺さぶってくれないかと、欠伸をしてしまいそうになる。

 その点あの男は、私の神経を逆撫でするのがすこぶる上手い。街で私が逃げ出してからというもの、あの男は意地の悪さを隠さなくなった。

 嫌がると分かっていて名を呼び、腰を抱き、艶やかな金髪に無骨な指を絡める。しかめ面で睨んでも舌打ちをしても、間違えましたと嘯いて足を踏んでみても、腹を立てるどころか嬉しそうに笑っているではないか。

 クリストフはどうやら、女から虐げられて喜ぶ特殊性癖持ちの変態だったというわけだ。加虐趣味のヴィンセントと、ある意味で馬が合いそうな気がする。


――さっさと戦地にでも行けば良いのよ、あの変態!


 アレクサンドラだった頃は色情狂などと散々揶揄されたこの私が、あんな小僧に振り回されてたまるものかと、思い返しただけで腹立たしい。この怒りが熱となり、手にしたカップの紅茶がぐつぐつと煮えでもすれば、今すぐにでも走ってクリストフの顔面にぶちまけてやるものを。

「な、何よそんなに目を見開いて。脅そうとしたってそうはいかないんですからね!」

 とうやら私の瞳孔が少々過剰反応してしまったようだ。にこりと笑みを浮かべた私は、心を落ち着かせる為チョコレートに手を伸ばす。こちらもユリにより手配された、甘さ控えめの私好み。砂糖がたっぷり使われた方は、可愛い妹へプレゼントしてあげた。

「大体そんなドレスを着て、恥ずかしいと思わないの!?」

「そう?とっても素敵だと思うけれど。ベルベットの生地が肌にしっくりくるし、何よりこの色が私によく似合うわ」

 金切り声を上げるヘレナに見せつけるように、立ち上がりくるりと回ってみせる。まぁ確かに、彼女の言う通り今の私はクリストフの恋人か愛人にしか見えないだろう。あの男の髪の色と同じエメラルドグリーンに身を包み、腰元のリボンには橄欖色が使われている。私自身も非常に不本意ではあるが、今日ばかりは仕方がない。

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