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優雅なダンスに思惑を添えて

「おや、随分と可愛らしいダンスだ」

 煩い、馬鹿。とは言わないでやる。私の思惑を読んでいてわざと挑発しているこの男に、ペースを狂わされてなるものか。

「貴方のリードが素晴らしいものですから、安心してお任せ出来ますわ。心地が良過ぎて、思わず目を瞑って寝入ってしまいそうなほどに」

「ははは、それは初めての経験になりそうですね」

 私の嫌味に対して声をあげて笑うクリストフは、余計に周囲の視線を集めた。そのタイミングを見計らい、大仰に足をふらつかせる。彼は当然のように、私の体を抱き留めた。

「ありがとうございます、殿下」

「まさか、本当に眠ってしまわれましたか?」

「面白い冗談ですわ」

 金のツインテールを揺らしながら、可憐に慎ましやかに微笑む。オーケストラが次曲の演奏を始めた瞬間、優雅なステップでくるりと回ってみせた。

 さすがこの男は、私の突然の変貌にもきっちりとついてくる。外国の地味な令嬢だと馬鹿にしていた野次馬達も、たちまちこの私に釘付け。

 ロイヤルヘルムいちの宝飾店にてあつらえたネックレスと髪飾りが、しなやかな体の動きに合わせて揺れる。ホーネットからのしょぼくれた支度金を、誰が素直に使うものか。

 すべては、オフィーリアの美しさを見せつける今この時の為。クリストフさえ私の装飾品に過ぎないのだから、せいぜいその端正な顔立ちを存分に活用していただこう。

 そしてこの国の社交界を牛耳るご婦人方は、自身が身に付けているアクセサリーがいかに重苦しく流行遅れであるかに気付かされることだろう。

「どうやら僕は、貴女を怒らせてしまったらしい」

「あら、逆に感謝しているくらいですわ」

「こうしていると、今後の結婚生活が想像出来て楽しいですね」

 私が振り回しているとでも言いたいのか、嫌味な男だ。楽しそうな顔をして私の腰に手を回し、まるで純粋にダンスを楽しんでいるかのような表情を浮かべる。

 わざと体をのけぞらせればそれを受け止め、ターンを増やせばきちんと手を添えて答える。こちらのペースについてこられることが腹立たしく、気付けば本気でクリストフの相手をしていた。

「久しぶりに、清々しい気分です」

 曲が終わり足を止めた私に合わせた彼は、それは爽やかな笑顔を浮かべる。

「もう眠くはありませんか?」

「ええ、おかげさまで」

 ツインテールを手で払いながら、ほとんど乱れていない呼吸を軽く整える。昔の私なら女の手段を使い惑わせていたところだが、オフィーリアのような初心な令嬢が公の場で色気を出すのは逆効果というものだ。

 ふわりと色付いた頬と、見事なダンスの余韻、そして恥じらうように微笑むだけで、印象はがらりと変わる。

 剣を交えることしか頭にない脳が筋肉で作られた男、内心では外国の令嬢に興味津々な男、閉鎖的な風潮に飽き飽きしている男、どいつもこいつもくだらない。が、キングを手中に収めたいのならばまずはポーンを引き込まねば。

 身に付けた宝飾品も十分にアピール出来たろうし、成果はまずまずといったところだろう。

「貴女は本当に、知れば知るほど興味深い女性ですね」

「嬉しいですわ、ありがとうございます」

「はは、それに意外と分かりやすい」

 ……この、いけしゃあしゃあとしたいけ好かない男を除けば、だが。

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