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正反対の姉妹

 なぜか猫としての特性が染み付いているこの体は、非常に利便性が高いが難もある。人間の五感はほどほどが良く、鋭過ぎると己まで蝕む。この私でなければきっと、とっくに精神が崩壊しているだろう。

 とはいえ、オフィーリアの膝で微睡んでいたあの頃の人生が一番好きだったので、その名残を感じられるのはなかなか悪くない。

 いよいよクリストフとの面会当日、デコルテが出ない上品な深緑のドレスを身に纏い、そこに貴重な緑水晶のネックレスを合わせた。笑顔という名の脅迫をしたおかげで、普段は渋るホーネットが私に僅かな資金を渡した。あんな子どもの小遣い程度の金で、満足な買い物など出来るはずもない。

 そこで私は、それを元手に化粧品を買い、肌に悩みを抱えている令嬢に言葉巧みに売り捌こうと閃いた。協力者は、以前化粧品店で話したヘレナの取り巻きであるクラリス・ソストリア伯爵令嬢。彼女は顔が広く、すぐに私の提示した条件通りの令嬢達を集めたお茶会を催した。

 その場で上代を下代の四掛けほどで販売し、比較的安価なハンカチやリボンなども併せて薦める。最初はオフィーリアを見下していた令嬢達だが、様変わりした雰囲気に興味津々で食いついてきた。一度そうなれば後は簡単で、面白いほどに荒稼ぎした私はそれで此度のドレスと装飾品を新調したというわけだ。

 ちなみに、クラリスに見返りとして提示したのは「ヘレナの鼻を明かした暁には、貴女を私の一番の親友にする」というもの。と言ってもそこには友情など欠片もなく、あるのはただヘレナの悔しがる顔が見たいというだけの下らない見栄だけ。

 私がそれを成し得なかった場合は、彼女に傅いている演技をする。とにかくヘレナに一矢報いることが出来れば、手段に拘りはないらしい。姉の私を利用するより勝てる策はないと踏んだのは、賢明だったと褒めてやろう。

 そんなわけでしっかりと臨戦態勢を整えた私は、同じく身綺麗にしたユリと共に悠々とした立ち姿でベッセルの宮殿へと足を踏み入れたのだった。

「ふん、みっともない。どれだけ着飾ったって、しみったれた中身は隠せやしないんだから」

「あら、ヘレナ。元気になったようで何よりだわ」

「この……っ!」

 猫の件で大した痛手を与えられなかった彼女は、それ以降どこか怯えた瞳で私を見るようになり、とんと歯応えがなくなってしまった。まぁ、もとより私の敵ではないが少しは退屈凌ぎになっていたのに。

 小物のくせにプライドだけは一人前で、オフィーリアのような善人相手にしか強く出られない。厚い面の皮を剥がしたその中身は羽化したての昆虫のようにふにゃふにゃとして柔らかく、指だけで簡単に潰せる。

 オフィーリアをただの地味で面白みのない臆病者だと侮っていただけに、今の状況が死ぬほど面白くないと同時に段々と薄気味悪くなってきた、というところだろう。

「まったく情けない子ね。自分より強い敵をひれ伏せさせるのが楽しいでしょうに」

「何よ、ぶつぶつと」

「あら、聞こえなかった?可愛らしい格好ねと褒めたのよ」

 前髪を直してやろうと指を伸ばすと、あからさまにびくりと肩を震わせる。にこりと柔和な笑みを浮かべながら、親切で差し出した手をそのまま引っ込めた。

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