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哀れなのはどちらか

「今日という今日こそ、その馬鹿猫を処分させてやるんだから!」

「お父様と約束しているの。決して逆らわない代わりに、猫ちゃんだけはおいてくださると」

「なんて忌々しいの!いつも私に意地悪をするくせに、反省の言葉もないなんて!」

 先ほどから、よくもまぁべらべらと嘘ばかり並べられるものだ。猫の仕業とするには、そのドレスは少々引き裂かれ過ぎている。被害の大きさを主張したいのだろうが、工作が雑過ぎて腹も立たない。

 それでも両親は、ヘレナを庇いオフィーリアをなじる。私が拾われるずっと前から、この家族はそうだったのだろうことは容易に想像がついた。

「猫ちゃんは、そんなことを絶対にしないわ」

「嘘ばっかり!見てもいないくせに」

「この子を信じているから」

 ぴょんと優雅に飛び上がれば、示し合わせたようにオフィーリアは私を抱く。なーんと間抜けな声で鳴いて、ヘレナなど意にも介さないというように視線すら向けはしない。

 アレクサンドラとして生きていた頃は、誰からも信用を向けられることなどなかった。そんなものは無意味だと思っていたし、弱者の言い訳だろうと鼻で笑っていた。

「にゃあ」

 それが今は心地良いなんて、なんとも摩訶不思議な気分だ。

「こいつめ、私を馬鹿にして……っ!」

「猫ちゃんに乱暴は止めて!」

「私に指図しないでよ!」

 一層の金切り声を上げながら、ヘレナがこちらへ手を伸ばす。私を庇った拍子に、彼女の長い爪がオフィーリアの白い頬を傷付けた。

 この女、人が下手に出ていれば図に乗って。もしも私がアレクサンドラのままならば、今すぐに突き飛ばして床に這いつくばらせるものを。

 自分以外の誰かの進退を気にかけるということは、非常に窮屈で面倒なのだと、猫になって初めて知った。

 私の行動は全て、オフィーリアの弱味となる。誰がヘレナに、美味い餌などやるものか。大体ドレスを破るくらいなら、とっくにヘレナ本人の喉元を思いきり引っかき噛みついている。それをしない私に、泣いて感謝しろと言いたい。

「とにかく、これは弁償してもらうわ。お姉様本人ではなく、婚約者であるヴィンセント様にね」

 その名前が出た途端、オフィーリアの肩がぴくりと反応を示す。ヘレナは鬼の首を取ったかのごとく、いやらしい笑みを浮かべた。

「まぁ、あの方は何もなくても贈り物をくださるけれど。お姉様に虐められる可哀想な私に、特別な感情を抱いているようだから。世界で一番可愛いと言われて、困ってしまうわ」

 私なら、顔面に一発といわず四、五発は拳を叩き込んでいる。オフィーリアはただ哀しげに微笑むだけで、どうやら余計にヘレナの神経を逆撫でしたようだ。こういう輩は、薄い反応をされることが一番癪に触るのだと、そろそろ学習した方がいい。

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